本日のオペラシティのガジェブのプログラムは次のとおりです。

・コリリアーノ:オスティナートによる幻想曲
・ベートーヴェン(リスト編):交響曲第7番より第2楽章アレグレット
・リスト:「詩的で宗教的な調べ」より「葬送曲」
・スクリャービン:練習曲集 op.8、op.42より/ピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」
・ショパン:24の前奏曲 op.28より
・ベートーヴェン:エロイカの主題による変奏曲とフーガ op.35

 

ガジェブは、ショパンコンクールの協奏曲を弾いているときから「なんだ!この人!」と大注目してました。

これって、コンクールですよね??

なんか自分の看板のコンサートのソリストであるかのような、ありあまる余裕に驚かされました。

未聴の方は、YouTubeで「ショパンコンクール ガジェヴ」で検索してファイナルラウンドの演奏を視聴いただくと、私の言いたいことを分かっていただけるかもしれません。

 

そんなきっかけでガジェブは私の中で大注目のピアニストとなり、ハイドンからメシアンまで幅広いレパートリーが収録されたライブ盤がリリースされていたので当時結構ヘヴィロテしました。

 

今回の来日では、N響との協奏曲と今日のリサイタルの2回、ガジェブを聴くこととなりましたが、協奏曲については既に投稿したとおりで、ガジェブの魅力に圧倒された・・・というところまでには至らなかったので、今日のコンサートはさらなる期待をもって迎えました。

 

以前ならショパンコンクールの入賞者はこんな「俺はこれを弾きたいから弾きます」的なプログラムは組めなかったのではないかと思いますが「あなたが弾きたいものが私が聴きたいもの」なので私としてはこういうプログラムは大歓迎です。

 

以上、ここまで朝の通勤電車にて書きました。

 

ここからコンサートアフターの電車で書いてます。

 

結論。

小林愛実さんに引き続き凄い音楽を聴かせていただきました。

素晴らしかったです。

 

開演前にガジェブからメッセージが伝えられました。

超骨子は「音楽という言語は特殊で、言葉よりずっと前から音はあった。

私たちはとても忙しく、たくさの言葉を読んだり、書いたり、話したりして過ごしている。これから音楽の旅を始めるにあたっていったん静寂を味わおう。2分間目を閉じて静寂を過ごしましょう」といった感じ。

これ、毎回やっていただきたいですね。

言葉にどっぶり浸かった日常から音楽にどっぷり浸かる世界の分かれめを作るための沈黙・・・わずか2分でも私はとてもいい時間に感じられました。

 

1曲目のコリリアーノはベートーヴェン交響曲7番2楽章の音型をベースにしたミニマルミュージックのような肌触りの音楽。この曲に続いてリスト編曲の同じく2楽章。

静寂の時間をとるなどしたので開演は少し押しましたが、この2曲で時計は既に19時40分強。テンションがとても高い演奏だったので体感時間は半分もなかったです。

 

ここまで書いて、今日のプログラムの内容を紹介するには、私の駄文などよりもっと優れた文章があることを思い出しました。このコンサートのチラシ(パンフには掲載されていませんでした・・・とてももったいない)にガジェブ自身が記した文章です。

長文になりますが、とても価値ある文章なのでそのまま引用します。

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このプログラムの幕開けは異例かもしれません。コリリアーノのオスティナートによる幻想曲は「流動的」な探求を始め、やがて前半のメインテーマの到来を告げます・・・ベートーヴェンのアレグレットが抱く悲嘆のテーマです。幻想曲は自由な形式で簡単なモティーフを探求し、安定した解決を求めてベートーヴェンの必然の音楽とともに、私たちが抽象的な言葉で探し求めていたものを顕在化させるのです。

 

続くリストの葬送はショパンの死へのオマージュ。管弦楽的な表現は先のアレグレットをしのぎます。ベートーヴェンが残した偉大な系譜は幾つにも枝分かれし、そのうちのドラマティックな特性はリストに影響を与えました。さらにスクリャービンがそこから大きな影響を受けていることは間違いありません。プログラム前半は、スクリャービンの練習曲集からの数曲で閉じられます。私たちはより極端な親密、官能、ドラマを目の当りにして感情の振幅を広げていきます。

 

後半ではまず、ショパンの遊び心に富んだヘ長調の前奏曲が私たちを前半の空気から引き離し・・・いやそれは希望的錯覚。牧歌的な光景を挟みつつも、4つの前奏曲がすぐに陰気なムードを回帰させます。この曲番の逆行は、前奏曲集の中でも最も実験的な第2番とともに締めくくられ、その後私たちは、調性から解放された世界への旅へ。スクリャービンのソナタ黒ミサでは、悪の力が神秘主義的に顕在化します。和声と旋律と律動がマグマのように一体となり、聴き手を当惑と法悦に誘いますが、さて、これほど変化に富んだ旅をどうやって終えるのか?そこに生の多彩と豊かさを余すとことなく肯定するベートーヴェンのエロイカ変奏曲が現れます。この上なくシンプルな作曲手段による音楽で。私たちは冒頭のわずか4音から全てが生じるような印象を抱きつつも、その無限の創意と組み合わせに導かれ、あたかも管弦楽版を超えた手応えを感じるのです。

 

そして、このプログラムの終止符を打つのは歓喜に満ちたフーガ!

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素晴らしい文章ですが、これは「言葉」です。

ガジェブは、2分間の静寂を経て「言葉」ではなく「音楽」で、ここに書き記したものを表現したのです。

 

ベートーヴェンの変奏曲は、200年以上前の音楽ですが、今、聴いても「ぶっ飛んだ音楽」です。ガジェブの言う「無限の創意と組み合わせ」がまさにベートーヴェンの変奏です。

「歓喜に満ちたフーガ!」

ベートーヴェンはフーガもぶっ飛んでいます。

ハンマークラヴィアの終楽章に代表されますが、ベートーヴェンのフーガは太陽にまっしぐらに駆け上がるような音楽です。ガジェブの演奏は歓喜に満ち溢れたものでした。

 

アンコールはマズルカ2曲と英雄ポロネーズ、その後にマズルカ1曲。

小林愛実さんの演奏の後の英雄ポロネーズは明らかに場違いで当然演奏されませんでしたが、今日の英雄ポロネーズは歓喜のフーガの後にピッタリでした。

(私の英雄ポロネーズのフェイバリットはランランがムジークフェラインザールで弾いたそれなので、なかなかそれを超えるのは難しかったですが・・・)

 

ショパンコンクール2位のガジェブと4位の小林さんを連続で聴きました。

個性は全然違うし、でも二人のピアノはいずれもとても魅力的でかけがえのない音楽的体験ができました。

最近、当りが続いてます!!

オペラシティ3階通路から2階をのぞむ。

誰一人いない偶然の瞬間。