出演
指揮:アンドレアス・オッテンザマー
ピアノ:反田恭平
バーゼル室内管弦楽団
曲目
ワーグナー:『ローエングリン』ファンファーレ
オネゲル:交響詩『夏の牧歌』
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op. 58
ウィンケルマン:ジンメリバーグ組曲
メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 Op. 90 「イタリア」
 
今日の私の聴き物は反田さんのピアノとバーゼル室内管。
バーゼルはアントニーニのベートーヴェン全集、ホリガーのシューベルト全集でキレとウネリのある演奏で魅了してくれた室内オケ。
さらに最近ではアントニーニの指揮でハイドンも何枚かリリースしています。
 
一曲目のワーグナーは、思いっきりズッコケました。
これほどグタグタの演奏をサントリーで聴いたことはないかもしれません。
まあごく短い演奏なので・・・まっいいか・・・そのまま入ったオネゲル・・・まあ繊細な入り。
よほどオネゲルから入ったほうがつかめたと思うのですが・・・
オネゲルの段階で、この室内管のグレードの高さは一聴瞭然でした。
 
そして、楽しみにしていた反田さんのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。
弦の奏者が20名ほどのバーゼルを意識したとても繊細なピアノの入り。
1楽章はオケとの穏やかなダイアローグが常に変化しながら織物を織るように繰り返され、息を抜くまもありませんでした。
カデンツァからエンディングへの呼吸がどんどん深くなっていくような盛り上げも見事で「これはこの楽章が終わったら拍手くるな」と予想したとおり半分くらいのお客さんが拍手したようです。
もちろん今日のお客さんの層は、クラシックが好きというよりも反田さんが好きといったお客さんが多いので「訳もわからず」の雰囲気に流されての拍手も相当数あったと思います。
そうは言っても、例えばチャイコ悲愴の3楽章のように時に拍手がわく楽章でも誰が演奏しても拍手が沸き起こるというものではありません。小澤さんの演奏ではよく3楽章で拍手がわきました。凝縮力が桁違いの演奏ならではのことなのではないでしょうか。
今日の反田さんの1楽章のエンディングは強烈な凝縮力がありました。
 
凝縮力といえばこの曲の2楽章は、それが最も必要とされる楽章だと思います。
今日の演奏はオケとピアノのダイアローグ(会話)は1楽章ではありました。
2楽章はダイアローグではなくモノローグが交代で続いていくようでした。
潮が少しずつ満ちてきて、ピアノがこれ以上ないという高潮に達し瓦解して静かに終わる、この楽章。今日の演奏はピアノのモノローグが凄すぎて一瞬で終わってしまったように感じられました。
 
そして3楽章はオケとピアノが再びダイアローグに戻り大団円。
とにかく反田さんのピアノは隅々まで気が張っていて雑になることが皆無でした。
久々に4番の優れた演奏に接することができました。見事でした!
 
アンコールはシューマンのトロイメライ。
ここで私の脳裏をよぎったのはつい先日聴いたチョ・ソンジンのリストのダンテを読んでの後のアンコールでチョが弾いたトロイメライ。
チョの演奏は端正の極みでしたが、反田さんのトロイメライはそれに較べるとクリームとシュガーがたっぷり入ったトロイメライに私には聴こえました。
好き好きですが、私には断然チョのトロイメライがよかったです。
ベルリンフィルのメンバーにチョ・ソンジンは「詩人」と言われているそうですが分かる気がします。
 
後半1曲目はメンバーのお一人が書いた佳作。
まあベートーヴェンや次に奏されるメンデルスゾーンと比較してあれこれ言うのは野暮というもので・・・
 
メンデルスゾーンの4番は、とにかく曲そのものが好きですが、好きになったきっかけはシノーポリの指揮のそれですから、もさもさした演奏はもはや受け入れられません。
おそらく今日はとてもよい演奏になるだろうなぁと予想していましたが、バーゼルの皆様、総勢30名強のオケだったと思いますが皆がノリをしっかり合わせて疾走しきってくれました。
 
今日はよいコンサートになると予想はしていましたが予想以上によかったです。
特に反田さんのピアノにはノックアウトされました。
前半の反田さんのピアノを聴いて妻に電話したら、最初私の声がとても暗かったそうで妻は「反田さんやらかした??」と一瞬思ったそうです。
そうではなくて感動に浸りきっており言葉も絶え絶えだったのです。
今でも、あの粒立ちの揃った音がキラキラ転がっていた瞬間瞬間を思い出すだけで幸せな気持ちになります。
ちなみに今日の反田さんの使用楽器はカワイでした。
とーってもいい音でした。
まあ弾き手がいいからですが・・・