ビル・エバンスの最後のトリオのドラマーだったジョー・ラ・バーベラの著作「ビル・エヴァンス・トリオ 最後の2年間」(草思社)を引き続き読んでいます。

3分の2くらい読み進みました。

 

この著作は、何ヶ所も鳥肌が立つところがありますが、妻に薦めるつもりはありません。

この著作を楽しむには、著作の中にたくさん出てくるアーティストの名前や作品について、その名前を見たとき、自分のリスニング体験を通じたそのアーティストや作品についての経験値がないとビルの発言の重みを理解することが困難だからです。

 

例えば、マイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」について著者のジョーとビルが会話する場面があります。

「(ジョーとビルの会話の中で)マイルス・デイヴィスの代表作『カインド・オブ・ブルー』のレコーディングが話題になったことがある。ビルがそれをいつものレコーディングの一つだよと言うものだから私は唖然としてしまった。彼は、その日ついに成し遂げられた偉業を軽く扱ったのではない。ただ、偉大なジャズ・ミュージシャンたちが毎回いかに高いレベルでセッションに身を投じているのかを語っただけなのだ。」

 

私は、カインド・オブ・ブルーがどれほどの偉業かを知っているから、このビルの発言に、ジョーと同じく唖然としてしまうのです。

セッションであれ、ライブであれ、どれだけ高いレベルで「ピアノを弾く」ということを行っていたのかを窺い知るとともに、その高いレベルが息をするように普通のことになっていることに感嘆するほかありませんでした。

「ビル・エバンスってどんだけ凄いんだよ・・・」と。

 

ただ「カインド・オブ・ブルー」それ何??

マイルス・デイヴィス??名前は聞いたことあるかもしれないけど音楽は知らん・・・という人にとって、ビルとジョーの会話の中でサラッと述べたビルの一言の凄さを理解するのは難しいと思います。

 

もちろん、このビルの発言を通じて「カインド・オブ・ブルー」というものを聴いてみようか・・・と思う人もいるでしょう。

そのように、この人の演奏を聴いてみたいな・・とか、このアルバムを聴いてみたいな・・と思える人には「きっかけ(出逢い)の宝庫」ともいえる素晴らしい著作だと思います。

音楽に打ち込んでいる人、あるいは打ち込んでいた人には、これほど刺さるエピソード満載の著作はそうはないと思います。

 

私はこのラストトリオが1980年8月31日から9月7日まで行った8枚組ライブディスクを持っています。ビルは最後のステージの1週間後の9月15日に亡くなっています。

以前も記したとおり、私にとってビル・エバンストリオは原則としてラファロとモチアンのトリオ以外になかったので、ジョーとベースのマーク・ジョンソンと組んだラストトリオのCDは他に持っていませんでした。

Amazonの口コミに、このアルバムを8月31日から9月7日まで毎日一枚聴くという方がいましたが、私もやってみようかな・・・と思いました。

料理上手の妻につまみを作ってもらっていいワインを用意して日が暮れたらビルのトリオを毎日一枚・・・とても楽しそうです!

手帳を見たら9月5日と6日はサントリーが入っていたので、この日は深夜開演とするほかなさそうです・・・でもやりたいなぁ・・・なにより気持ちが入りそうなので。

 

ジョーが著作の中で1979年11月26日に行われたパリでのライブについてジョー自身が大絶賛していたので「演奏者自身が素晴らしいというのだから素晴らしいに決まってる」のでラストトリオのパリの2枚とその他気になったアルバム3枚の計5枚をオーダーして、それらが今朝届きました。

Amazonのオーダー画面を貼った方が早いので・・・

 

口コミの中に「エバンストリオはラファロとモチアンとのトリオだけではない」と記されており、実際にラストトリオのパリコンサートを聴いて、まさにファーストトリオだけではなくラストトリオも素晴らしいトリオだったんだと思い知らされました。

 

当初、ジョーの著作の鳥肌が立った箇所をいろいろ紹介しようと思っていたのですが、ページを折った箇所(鳥肌ものの箇所)が多すぎるので、最後に、私が「この人、本当に音楽に対して誠実な人だなあ・・・」と感じ入った箇所を紹介させていただきます。

 

以下、ジョーの著作より・・・

 

ある時一人の学生がビルに、レコーディングのとき、このコードのヴォイシングでどの音を使っているのかという突っ込んだ質問をした。それは論理的な質問で、私たちの多くは、レコーディングのときにやったかもしれないことについて同じような質問をされ、その場でうまく答えてきた。

しかし、ビルの回答は、私たちの誰もが予想しないものだった。ビルがその学生に言ったのはこういうことだ。自分がどう弾いたかをそっくりそのまま君に教えることはできるが、それは君にとって何の意味もないし、君はおそらくすぐにそれを忘れてしまうだろう。君が本当にやらなければならないことは、私が演奏した曲に取り組み、私がやったように自力で最後までやってみることだ。それから、これまでの君の音楽の理解をもとに、自分独自のものを見つけるんだ。ただ君の質問に答えるだけでは、君から発見の喜びを奪ってしまうことになるから。

 

若い頃、楽器演奏を極めようとしていたことがある私は、このビルの回答を読んでとても敬虔な想いに包まれました。楽器演奏の壁を乗り越えようと本当に努力したことのある人なら、このビルの回答ほど心に響く回答はないと思います。

 

※さきほどビルのアルバムをAmazonで探していたらファーストトリオの奇跡の4枚を含む1956年から1962年の12枚組が3,052円で出てました。

持っていないものが5枚あったのでバラで買うよりいいか・・とクリックしました。安いのはいいことではありますがダブる盤がどんどん増えていってしまう・・・

私が今朝、車中で聴いていたムーンビームスは2つの家それぞれにあるので、これでCD3枚目です。それにしても当時のジャケットってどうしてこんなにカッコいいんでしょうね。父の遺品のムーンビームスのアナログ盤はインテリアとして飾っています。