「マルク・ミンコフスキ  ある指揮者の告解」という書籍を購入したのは、ミンコフスキ&アンサンブル金沢のコンサート会場(サントリーホール)なので、もう一月前のことになります。

既に一読していましたが、今朝、出勤しようとしたときに、読みかけの本を週末にセカンドハウスに忘れてしまったことに気付き「ある指揮者の告解」を再読することにしました。

私は、電車に乗っている時間が小1時間なので、本を読んだり、ブログを書いたり、寝たり・・結構いろいろなことができます。

 

この本を最初に読んだときに流してしまった箇所が今朝は気になりました。

 

アーノンクールのヨハネ受難曲について、ミンコフスキは次のように記しています。

「ヨハネ受難曲の冒頭の前奏部分では、八分音符を奏でるチェロに、コントラバスとコントラファゴットが四分音符でアクセントの楔を打ち込んでいく。十字架にかけられるイエスを彷彿させるように。激しいアタックは、イエスの手足に釘を打ち込む金槌の音なのだろうか。それは誰にも分からない。ただわかるのは、自分が、ここで、できるだけ強く激しい『アタック』が欲しくなるということだけだ。」

 

四分音符のアクセントの楔について「イエスの手足に釘を打ち込む金槌の音なのだろうか」とクエスチョンを投げてから、ミンコフスキは「それは誰にもわからない」としたうえで、ただ自分はここで強く激しい「アタック」が欲しくなると告解しています。

 

ヨハネ受難曲の前奏の四分音符のアクセントについて「この四分音符はイエスが磔にされるときの金槌の音なんですよ」と観光ガイド風に説明すれば、多くの人が「なるほど。そうなんだ」と頷くのかもしれません。

とてもわかりやすい「説明」です。

でも、それは「誰にもわからない」とすべきものなのだと思います。

ストラヴィンスキーの指摘するとおり「音楽は音楽以外の何物も表現しない」から、そこに安易に物語を纏わせるのは心の中で無限に飛翔する音楽に枠をはめることになりかねません。

 

さらにミンコフスキは「金槌の音かどうか、それは誰にもわからないけど、私は(私の音楽的本能は)ここで強く激しいアタックを必要とするのだ」としています。

私は、ここも好きです。

一人の表現者として、その音の意味付けは様々あり得るのかもしれないが、私は、ヨハネの前奏の四分音符を奏するにあたっては、強く激しいアタックを欲すると告白する姿はとても真摯であり誠実なものと私は感じました。

 

ここで思い出すのは、仕事が多忙であるにもかかわらず年間200本ほどの映画を劇場で観る友人が「映画に説明を求めるような人たちには全く理解できない映画」と評したビクトリ・エリセ監督の「瞳をとじて」です。

いったんは169分という上映時間の長さに鑑賞を断念しかけた映画ですが、彼の「まだ4月だけど今年のベスト」という推しもあって昨日私が劇場で観た映画です。

 

ミンコフスキの書籍を初読の際にスルーしたのに、今朝再読した際にミンコフスキの「誰にもわからない。でも私は、このアタックが欲しいんだ」という告解が私の心に響いたのは、確実に昨日観た映画があるからだと思います。

 

ヨハネの前奏の四分音符について「これはイエスが磔にされるときの金槌の音」という説明は不要です。

でも表現者も、その表現を受け取る側も、こういった説明に馴れ過ぎてしまっているのかもしれません。

 

「音楽は音楽以外の何物も表現しない」けれど、映画にはセリフもあるし、映像もあるし、効果音もあるし、映画音楽もあるし、そもそもストーリーがあり、説明材料には事欠きません。

そのような表現媒体である映画で、慎重に説明を回避しつつ、ミンコフスキが「とにかく私はここで強く激しいアタックが欲しいんだ」としたように、エリセが「とにかく私はこの画を撮りたいんだ」と真っ直ぐに創りあげた映画「瞳をとじて」・・・エンドロールが終わり、劇場内に灯りがついたとき「3時間経ったんだ・・嘘だろ」と思いました。自分で作った「169分の壁」なるものは幻でした。

 

劇場を出てから真っ直ぐ家に帰る気にならず、かといって酒を飲む気にも全くならず、小川町を少しふらつきました。

 

エリセ監督の「ミツバチのささやき」

Blu-rayで買い直したはずなのにBlu-rayはエル・スーレしか見つかりませんでした。

DVDは発掘しました。

むしろこちらは忘れてました・・・欲しいほうが出てこない・・・ああ・・・

 

余談

昨日「瞳をとじて」の残席を調べたら予約されたのは1席のみでした。

急な仕事が入るといけないので「この埋まり具合なら劇場窓口でも大丈夫だな」

と判断して、直前に急な仕事が入ったら映画は諦めようと思いつつ劇場に向かいました。

開場15分前に劇場前でオフィスのスタッフに電話して仕事の状況を確認したら、これなら劇場に飛び込んでも大丈夫という状況だったので無事鑑賞することができました。

49席のうち私含め10席が埋まっていました。

 

昨日の夜から「もう一度観たいなぁ」と思い始め(なにしろ21日で終映です)、予約状況をチェックしているのですが、どうしたことか結構埋まっています。

あせる・・・

 

※友人から貴重な指摘入りました。

来週月曜から「瞳をとじて」夜上映となるそうです。

21日終映は誤りです。

大変失礼いたしました。