中学生のときの夏休みの音楽の宿題は、山本直純さんが司会をなさっていたテレビ番組「オーケストラがやってきた」を最低2回視るか、クラシック音楽を最低2曲聴いてその感想を書くというものでした。

私はオーケストラがやってきたは毎回視ていたし、音楽も2回どころか日々聴いていたのでそれなりにヴォリュームのある感想を提出していました。

感想を記したノートはとうの昔に散逸してしまいましたが、まだ生家があった頃は、帰省したときにごくたまに読み返すこともありました。掃除のときに見つけて読み耽ってしまうというよくあるパターンです。

読み返すと、レコード芸術の影響は絶大で、当時論評を担当されていた先生方の文章のコピペの嵐で微笑ましいものでした。

中学生が「フルトヴェングラーの高い精神性を感じさせる名演」とか書いているわけですから笑えました。

面白いなぁと思ったのは、多くの曲で、出だしが気に入ったかどうかで全体を判断している傾向が顕著だったことです。

例えば「1楽章の冒頭の和音2連打。カラヤンはこの演奏の倍のテンポなんじゃないかと思えるほどで速すぎる。翻ってこの演奏は、一音一音に気合いを込めた強烈な音。いきなりひきこまれてしまった」などと書き始めた感想文は、全体としても好意的な感想が書いてあり(ちなみに音源はフルベンの英雄です)、逆に「あまりに淡々とした導入にがっかりしてしまった。ブラームスの4番はもっと後ろ髪を引かれるような演奏であってほしい」などという始まりだと、あまり感動できなかったといった結びになっていました。

この傾向は今でも続いており、最初にグッとこない演奏は聴き終えたときの感動は今ひとつ・・といったことがディスクでも実演でもままあります。

 

ところで、バッティストーニ。

私の初バッティストーニは10年ほどまえに東フィルを振ったマーラー巨人でした。

この日のコンサートは私の記憶に間違いがなければ、当初予定されていた女性指揮者がご懐妊で急遽代振りとなったものと記憶しています。プログラムも当初予定されていたもので、プログラム変更なしで短期間で代振りをやってのける若者に期待半分といったところで会場に向かいました。

結果、期待をはるかに超えた素晴らしいマーラーを聴かせてもらいました。

その後、バッティストーニは東フィルの首席となり、私も相当数のコンサートに行きました。

 

というわけで、私は結構バッティストーニに思い入れがあります。

演奏が始まる前から良い方のバイアスがかかっています。

そのような思い入れがあるバッティストーニですが、今日の演奏は乗り切れませんでした。

これはおそらく私に本日のメインディッシュであるオルフ作曲のカルミナ・ブラーナについての基準が一つしかないことが原因です。

私にとってカルミナ・ブラーナの基準は、小澤征爾&ベルリンフィル&晋友会、これにつきます。他の曲であれば音源も多く、50年間の鑑賞歴を通じた複数の基準(好み)が形成されますが、カルミナ・ブラーナは小澤さん一択です。

バッティストーニも熱量の高い音楽を創り上げる指揮者ですが、カルミナの冒頭からして小澤さんのカルミナの熱量・集中力がインプットされている私にはもの足りませんでした。続く合唱がひたひたと迫ってくるところも、小澤さんの緊迫感(本当にひたひた迫ってきます)を知っている私にはやはりもの足りませんでした。あの頃は、小澤さんをはじめファーストクラスのオーケストラのステージの常連だった晋友会も圧巻です。

バッティストーニのカルミナは、歌手も合唱も児童合唱も東フィルも皆さん全力投球で素晴らしかったし、エンディングもしっかり決めてくれましたが、先の中学生の頃からしみついた「出だしで決めてしまう」という悪癖?で今日はどうにも乗り切れませんでした。

正直、今日は出だしの「おお、運命よ」で「えー・・・こんなもんじゃないでしょー・・・」と私は感じてしまいました。

逆に言えば30年以上経過しているにもかかわらず、小澤さんのカルミナはそれほど強烈だったということになります。

 

一夜明けた翌日土曜日、小澤さんのCDを久しぶりに聴きましたが(このコンサートのために特に予習しなかったのでおそらく10年以上未聴だったCD)、30年以上前に発売された当時のインパクトそのままでした(LDもあったと思いますが発掘作業必要。余談ながら登場したときは画期的と感じたLDですが、高画質に馴れた今はなぜこんな画質に歓喜していたのか・・と不思議です。バイロイトのオペラも随分購入しましたが、私のように「さて、この大量のLDどうしたものか」という方が多いのでは)。

小澤さんのカルミナやマーラー復活の終楽章のエンディングなどで聴かれる、荘厳な熱狂は、小澤さん固有のものなのかもしれません。

本当に、本当に、凄い指揮者だったなあ・・・・・・・小澤征爾さん。

同時代に生き、たくさんの実演に接することができたこと、本当に幸せに思います。

バッティストーニのカルミナをきっかけに、私自身がどれほど小澤さんの音楽に惹きつけられていたのかを気付くことになりました。

バッティストーニをダシにしてしまったような結びで申し訳ありませんが「実演に接することによって、自身の愛聴盤の素晴らしさを改めて知る」ということも「コンサートあるある」の一つとしてどうかお赦しください。

11月のバッティストーニのマーラー7番。楽しみにしております。

5楽章の熱狂と満場の拍手喝采が今から聞こえるようです。