いきなりベートーヴェンがプリントされた書籍っぽいものが登場しましたが、これは1960年代後半に出版された「世界大音楽全集」という全28冊のセット(全30冊という説もあるようです)の1冊です。50年以上前のものなので引っ越し等で散逸し手元にあるのはこの1冊だけです。

 

昨夜、レコードを探していたら、ひょっこり出てきました。朱色のカバーの背表紙は日に焼けて白くなっていて、最初は「なんだこれ?」でした。

それが、私が小学生低学年の頃に家にあった「世界大音楽全集」でした。

数冊あるはずだ・・と探しましたが写真の1冊だけでした。

このセットは、LP盤が2枚とカラー写真ページ(ベートーヴェンの生家の写真とか・・)と曲目解説という構成で、当然のことながら小学校低学年の私はレコードを聴くだけで解説なんか漢字が多すぎて読んだこともありません。

 

比較的若く没した父は、ジャズにどっぷりはまっていたのでクラシックを聴くことはほとんどありませんでした。

子供の頃は「お父さんは、どうして聴きもしないレコード買ってるんだろう??」なんて思いません。

お父さんの気持ちなど考えることなく「ベートーヴェンってかっこいいなあ」と思って、ただただレコードを聴いていました。

 

私自身が大人になって少し察するところがありました。

「お父さんは機会を提供したかったんだろうなあ・・」と。

3人兄弟でしたが、この全集に興味を持ったのは私だけでした。5人家族でレコードに傷がつかないように小さな子供の手で緊張してターンテーブルにレコードをセットしていたのは私だけでした。

父は「誰も聴かないとしてもそれでもいいや。誰かが気に入って少し楽しい気持ちになればそれで十分」という気持ちだったのかもしれません。

実際に、私は一度として父に「ベートーヴェン聴いてみるか?」と聞かれたことはありません。

 

今、手元に残っているのは写真の1冊だけなので、その巻末に全集のリストが載っていないか調べたらありませんでした。ネットで調べたら全28冊で(30冊という説あり)、しかも作曲家のセレクトも50年前にこれだけのラインアップかというくらい豪華絢爛でした(ネットでは指揮者やオケまで載っていなかったのが残念)。

家に28冊あったかどうかは怪しく私の記憶では20冊を割っていたと思うし、うち10冊くらいは一度も手にとったことはないと思います。

どうしてかって小学生は作曲家を10人も知らないから。ベートーヴェン・シューベルト・モーッアルト・ドヴォルザーク・チャイコフスキーがせいぜいで、数冊のみ愛聴して、後は見向きもされないまま引っ越しの際に処分されてしまったものと思われます。

全28冊のうちほとんどはゴミななりましたが、それでも父の目論見は大成功だったのではないでしょうか。

子供のうちの1人が「大好きなもの」に出会うことができたから。

そして、私は出会った「大好きなもの」を今でも宝物と感じて生きているから。

 

もちろん、若い頃の私は、父が機会提供をきちんと考えてくれていたんだなあ・・などということには気付きませんでした。「どうして世界大音楽全集を買おうと思ったの」と聞くこともできないまま父は逝ってしまいましたが「親って、本当にいろんなことを考えてくれてたんだなあ」と思います。

 

気がついたら、私が意識することもなく、子供に同じことをしています。

ジャンル問わず、機会提供して気に入らなければそのまま、気に入ればよかったね・・・。

 

それにしても「世界音楽大全集」ではなく、どうして「世界大音楽全集」になったのでしょうねえ。

気合いですかね。