クラシック、というより音楽は振動がなくなれば無になるし、バラも1週間かそこらで花は終わってしまう。

その意味で、両者ともに儚い存在といえるかもしれません。

このともに儚い存在であるクラシック音楽もバラも世上「難しい」と言われることが多いようです。

私の場合、幸運なことに50年前に聴いたベートーヴェンの皇帝があっさりとクラシックの世界に私を招きいれてくれたので、あまり「難しい」という感覚はありませんが、それでもマーラーの2番を中二の時に聴いたときは全く理解できませんでした。

バーンスタイン&NYのマーラー全集(もちろんアナログセット)がどかんと父の部屋に鎮座していました。

おそらくジャズが好きな父がスイングジャーナルにバーンスタインがマーラーの全集を録音したといった記事でも載っていたので購入したものと思われます。

「さっぱりわからん。聴くか?」と父に言われて「復活」という日本語タイトルがカッコイイなと思って2番に針を落としてみました。

当時は「ふざけてるのか」と思いました。あの仰々しい1楽章のテーマ。カッコワルっと思ったことをよく覚えています。それ以来、マーラーは忌避すべき存在でした。

それが180度転換して「これがなければ生きていけない」くらいの存在になりました。

転機は初回のブログに記したスラトキンの巨人です。

かくもロマンチックな音楽があるのか・・と驚嘆しました。

素晴しい実演に接し、それがきっかけてその作曲家や曲を好きになるということはよくある話で、その後幾度となく経験したことです。

かようにクラシックとは早い段階から友好関係を結んでいたものの、マーラーのような難物もあったわけです。

妻はウィーン楽派や武満さんは難しくて分からないと言います。

バルトークですら難しいと言います。

私も中学生の時分には理解不能な音楽でした。

やはりクラシック音楽は「難しい」部類に入るのかもしれません。

 

バラも「難しい」とよく言われます。園芸全般を、クラシックと同様半世紀にわたり愛好してきた私も3年前までバラは敬遠していました。「剪定」なんてどこを切ればいいか分からないし、バラは肥料食いといわれるそうで施肥も頻繁にやらなければならないらしい、病害虫にも弱く株数が多くなれば噴霧器を使って殺菌殺虫作業をやるらしい、

こんな面倒なものとても付き合えないと思っていました。

3年前にバラ売場でラブストラックというバラを見て「こんな綺麗な花を家で咲かせることができたらどんなにいいだろう」と思いバラ栽培を始めてみました。

たしかに、難しくて非常に手がかかる植物であることは間違いありません。

でも、実際にバラ栽培を始めてみて気付いたのは「手がかかる」から楽しいということです。

 

 

クラシックも先のマーラーではありませんが、あの音楽世界が自分のマインドにフィットするには時間がかかることもあります。

Jポップを10回聴くには40分もあればいいでしょう。同じ楽曲に40分で10回触れることができます。

交響曲ならほとんどの交響曲は聴けて1回でしょう。

10回聴いて慣れ親しむには400分、6時間40分を要します。

クラシック音楽が自分のマインドにフィットするためには時間という観点から見ただけでもそれなりの時間が必要になります。

でも時間をかけて消化したものは、しっかりと私の中に根を張ったように思います。

もう一つ重要なことは、クラシック音楽は気合を入れて真剣に向き合わないかぎりその楽曲のよさを理解することはできないという点です。

私は新たに購入したCDを仕事をしながらエンドレスで流していることがありますが、実は何も残っていません。

きちんと向き合わない限り、そのアーティストが心血を注いで創りあげた音楽の大切なものは心に入ってきません。

ビギナーにとって40分間、一つの曲に向き合うことは苦行になってしまうかもしれません。

バレンボイムが「スマホをつつきながら音楽を聴くなんてあり得ない」と語っていましたが、クラシック音楽は「ながら」でその本当の良さを理解することはできないということです。

クラシックは実は簡単ですよとか、バラ栽培は実は簡単ですよなどと言うつもりは毛頭ありません。

難しいんです。でも難しいから喜びも大きいのだと思います。

 

ところで、先に「マーラーの音楽なしに生きていけない」と記しましたが、ここ3,4年なぜかマーラーなしで生きています。

若杉さんの全曲演奏会全て聴きました。インバルはフランクフルトも都響もほとんど聴きました。シノーポリの芸劇の杮落しの全曲演奏会も全て聴きました。最近では山田和樹さんのそれも全て聴いています。

でも、コロナで閉塞的な空気になってからマーラーを聴くことはほとんどありません。

理由はさっぱりわかりませんが、ここ数年、シューベルトばかり聴いてます。

交響曲、ピアノソナタ、室内楽、シューベルトのあらゆる音楽がとてもフィットします。

これもクラシックの奥の深さなのかもしれません。