映画『エリザ』
これを観た方、いや、憶えている方も
ほとんどいらっしゃらないでしょう。
ずっとずっと忘れられなかった映画でございます。
廃盤になって随分になる。
もはや中古を買うより他にない。
きっと買ってやる、手に入れてやる、そんな決心をしたのは
いつのことだったか。
先日、家族から、郵便受けを調べてきてちょうだい、そう言われた。
だから調べた。何か入っていた。
それを渡すと、何故かしら、こちらに返された。袋を破る。中身を見る。
「エリザじゃないか!」と自分は喚いた。
内緒の贈り物でございます。
こうして自分は甘やかされているというのに、
あれが気に入らない、これが気に入らない、
もう破滅だ、こんちくしょう!
なんて日頃から愚痴ばかり、暗澹の振る舞いばかりなのですから、
とんだ馬鹿野郎でございます。
さて映画『エリザ』、
フランス映画であります。
ヴァネッサ・パラディさんが主演、
大好きなジェラール・ドパルデューさんも出演されている。
監督はジャン・ベッケル、映画『殺意の夏』を撮った監督さん。
『殺意の夏』も大好きなのですがね、まあそんなことは……
DVDのパッケージ、その裏には
幼い頃、母を亡くし、孤児院に引き取られたマリー、
母と自分を捨てた父親を憎み、復讐を忘れる日はなかった。
父を探す手掛かりは、一枚の絵葉書だ。
灯台の写真、そして手書きの音符がそこに書かれていた。
それは、かつて母が聞かせてくれた「エリザ」という曲であった。
こんな筋書が書いてあります。つまりはこんな筋書でございます。
筋書だけを窺うと、ちっとも面白そうではありません。
いいえ、面白いのです。
80年代の半ば、その前後に制作されたフランス映画は、
所謂、隠れた名作が多く、(本当にたくさん!)
『ベティ・ブルー』からフランス映画を観始めた、
適当に、そして片っ端から観るようになった自分には、
その辺りの映画には特別の思い入れがありましてね。
まあ、そんなことはどうでも構いません。
さてさて十年ぶりに観ました。
こんなに暗くて哀しい映画だったのか……
加えて、主人公マリー、ヴァネッサ・パラディさんが
何度も何度も、若さと自由を見せびらかし、それを以て
復讐を進めていくのですが、
それが辛いのです。そうです。十年前、青年だった自分には
平気だったことが、中年の現在においては何だか辛い……
余談になりますが、クロティルド・クローさんも出演されていますが、
バネッサ・バラディさんより可愛らしいです。そんなことはね……
まあ暗くて哀しい映画には違いありませんが、
やはりそこはフランス映画といいますか、否、
当時のフランス映画の気配でしょうか。
何だか、ひどく、ひどく、ロマンチックでございます。
薄暗いのにロマンチックだ、泥臭いのに詩的だ、嗚呼……
「こんな映画は滅多にないぜ! この台詞ときたら、くぅ~!」などと
観ながら家族に話したところ、昂ぶって話したところ、
「フランス映画特有の感じだね、苦手」と返された。
ジェラール・ドパルデューさん、
映画『美しすぎて』(これも廃盤であります)に次いで
この『エリザ』 本当に良い役であり、また名演技でございます。
これでもかと傷ついて苦しみ抜いた男の哀愁を見せてくれます。
もはや二枚目のように映るのだから、やはりこの映画は名作だ。
と言ってみる。
すべての役が、すべての俳優さんに適っている、そんな感想が
ございます。
忘れてはならないのは
この映画、セルジュ・ゲンズブールさんの「エリザ」
という曲から制作されました。(ちょっと大袈裟にはなりますが)
劇中、幾度もこの「エリザ」という曲が流れます。
そしてラストシーンだ。
(本気でDVDを買って観てみようという方は
読まずに済ませて下さいませ)
「エリザ」の歌詞の一部が台詞として読まれます。
俺は40、お前は20、そんなことが俺を苦しめるとでも?
いいや、そんなことはない。エリザ、エリザ……
キザでしょう。なのに、ひどく、迫りました。
自分の思い出や狭い趣味などが、
映画『エリザ』を名作にしてしまっているやもしれませんが、
いいや、そんなことはない。名作でございます。