ストリップ童話『ちんぽ三兄弟』

 

□第88章 ストリップと椅子 ~江戸川乱歩『人間椅子』を読んで~ の巻

                          

                                    

 ストリップと椅子の関係を考えてみる。

 すぐに浮かぶのはステージを取り囲む座席である。映画館のように、正面のステージに向かって整然と1列目、2列目・・と並べてある劇場もあれば、盆回りや花道に向かって並べられることもある。後者がストリップ劇場独特なタイプといえよう。その座席も、ベンチシートのように安普請ものもあれば、肘掛けの付いた立派な作りのもある。背もたれがある方が断然いいが、蕨ミニや横浜ロックのように狭い劇場では単に盆を取り囲んだだけのものもある。また、せっかく立派な座席なのに、お金がないのか全く補修をせず椅子のバネが飛び出ていて座布団を敷いてごまかしている劇場もある。やはり接客業としては椅子くらいしっかりしてほしいと思う。このように座席ひとつ見ても、劇場それぞれの独自の雰囲気を形づくっているんだなぁと思える。

 

 さて、以上はストリップに限らず、映画館や他の娯楽施設に共通な話題であったが、ここでストリップ独特に椅子が使われるケースを紹介する。

 真っ先に思い浮かぶのは、ポラ撮影における「椅子ポーズ」である。わざわざ椅子を取り出してポラ撮影するため、進行が押している場合は敬遠される。劇場によっては一回目のポラ撮影だけに限るとしているところもある。

 この「椅子ポーズ」というのは、踊り子を椅子に座らせ、Mポーズなどに足を広げさせる、いわゆるエロポラ撮影に用いられる。椅子に座らせると、踊り子さんのお股がちょうど目の高さにくる。近い距離で水平に撮れるので、被写体がバッチリと写る。エロポラファンが好んで椅子を使いたがる。衣装ポラであれば、踊り子さんの顔がカメラマンの目の高さにくるが、エロポラだとどうしても下を向く形になりポラの収まり具合が悪いのだ。一度、椅子ポーズを始めると延々にポラ撮影が続き時間が押すことがままある。だから椅子ポーズは進行時間の状況次第となる。

 

 もうひとつ、ストリップと椅子で思い浮かぶのが、椅子を使った踊り子さんのステージである。

 演目の中には、ステージに椅子を置き、その椅子に絡んでダンス・パフォーマンスをかっこよく魅せる方もいる。

 私が一番お気に入りなのは、椅子を使ったベッドショーである。先のポラ撮影の椅子ポーズと同じく、ベッドショーは下向きに観るが椅子を使うと秘部が目の高さがくるため刺激度が強い。とにかく近くてよく見えるので興奮する。ときに、椅子の背に手をつき、後ろ向きに半屈みになると、そのヒップラインの美しさは生唾ものである。おしり好きにはたまらない。椅子ポーズの魅せ方も踊り子さん独自であるが、総じてかっこいい。

 

 以上、「ストリップと椅子」というテーマでつらつら書いてきた。まさか、椅子をネタにこんなストリップ・エッセイを書こうなんてそもそも思っていなかった。

 これを書くきっかけの方が面白い。

 文豪のひとり、江戸川乱歩の『人間椅子』を読んだのがきっかけなのである。

 江戸川乱歩といえば、私は小学生時代に名探偵・明智小五郎の登場する「少年探偵団」シリーズに夢中になった。図書館にある本は全て読破した。寝食を忘れて読んだほど。男の子ならみんな同じ体験をしたことだろう。振り返れば、私の人生の中で、これほど純粋に楽しく本に夢中になった時期もない。それ以降は知識・教養が主な目的になってしまったように思える。この時期にシャーロック・ホームズや怪盗ルパンなど推理・探偵ものにも興味を示したものの、少学校を卒業してからは探偵ものも卒業してしまった。

 

 改めて、江戸川乱歩を紹介する。

 

 

 

 文豪シリーズを読み漁った中に、江戸川乱歩の『人間椅子』を発見した。ネットの紹介で、この変態チックなネーミングが私の気を引いた。

乱歩がこれを書き上げた当初は『椅子になった男の話』という仮題を付けていたが、最終的には『人間椅子』というタイトルにし雑誌に掲載されることになった。やはりこの『人間椅子』というネーミングのインパクトが凄い。

 余談ではあるが、ノーベル賞作家の大江健三郎に『性的人間』という本があり、この題名から性的な描写を期待して読んだものの、全く性的描写がなく期待を裏切られたというネットの声があったが、気持ちがわかる。笑

 この『人間椅子』は期待を裏切らない。以下、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』により、内容を紹介する。

<『人間椅子』(にんげんいす)は、1925年(大正14年)に発表された江戸川乱歩の短編小説、スリラー小説(エログロナンセンス)。プラトン社の大衆娯楽誌『苦楽』の1925年9月号に掲載された。とある女流作家宛の手紙に書かれた、椅子の中に住み、そこに座る女の温もりを味わう男の体験談という形式の物語。(中略) 乱歩による初期のエログロナンセンス小説の代表作であり、映画やテレビドラマとしても数多く映像化もされている。>

――やはりこの作中で最も注目を浴びているのは、この男の変態性でしょう。大人の男が椅子になり、その椅子の中で興奮しているのかと思うと、なかなかゾっとするものを感じる。

 

 思わず、その映画やテレビドラマを観てみたくなる。と同時に、最近観たところの2019 映画『アンダー・ユア・ベッド』を思い出した。『アンダー・ユア・ベッド』は、作家である大石圭のホラー小説で、彼は他にも『甘い鞭』『殺人鬼を飼う女』など、男の狂気を描く衝撃作を出している。タブーなどにとらわれない先鋭的な作品である。『殺人鬼を飼う女』も映画化されて、私も観ている。

この映画『アンダー・ユア・ベッド』であるが、主役の高良健吾が、恋した女性を監視するためベッドの下に潜り込む主人公を演じている。高良健吾さんと言えば。1987年11月12日生まれ、熊本県出身で、いまや若手俳優の中のトップスターである。そんな彼が、こういう変態チックな役を演じたことに私はショックを受け、またこんな青春スターが私と同じ変態の血が流れていると思えると、なんか共感というか感動さえおぼえる。

高良健吾さんは映画『蛇にピアス』にも出演している。これも機会があったら話題にしたい。

 

それにしても、椅子の中に隠れたり、ベッドの下に潜ったり、好きな女性を感じたい気持ち。覗き願望かな。犯罪になっちゃうからマズイけど、このなんか変態チックな妖しい雰囲気にはぞくぞくする。これは暴漢のように直接触れるわけではない。どこか可愛げなところがある。この感覚、こそこそストリップを観に行くのとどこか通じるなあ~。

だから、私の気を引いたことは確か。

 

 ちなみに、この『人間椅子』の後、江戸川乱歩の『芋虫』も引き続き読んだ。戦争で手足をなくし芋虫のようになった旦那を妻がなぶり殺す話である。まさに不気味なスリラー小説(エログロナンセンス)。しかし『芋虫』もそうだが、一定層の性癖にささってしまうような乱歩の小説には多くのファンがいることは確か。

私は一旦ここで江戸川乱歩を読むのを中断しております。笑

 

                                     つづく

 

 

 

 

 

【おまけ】

この人間椅子というタイトルから、ふと思い出したのが、江戸川乱歩と同時代の作家・夢野久作の探偵短編小説『人間レコード』『人間腸詰(ソーセージ)』。こちらもグロイ内容。

人間椅子とか人間腸詰とか人間レコードとか、「人間〇〇」と名のつくものにはグロテスクな興味を引かれてしまいますなぁ~。

 

この人間椅子とシチュエーションが似ている作品として、安部公房の『箱男』もオススメ。