. 黒井ひとみさん(栗橋) 「私、絵が下手だけど無性に描きたくなったわ」

 

 黒井ひとみさんとは、平成24(2012)年11月の今はなき若松劇場デビューからの長いお付き合い。ずっと私の童話のファンになってくれている貴重な方である。

 ここ数年、私がお絵描きブームになってから、何度かお絵描きもしてくれた。しかし「私、基本的に絵が下手だから勘弁してね」と言われ、私としても無理強いはできないので、お絵描きなしで私の童話だけを読んでもらっていた。童話をしっかり読んで感想を書いてくれるのですごく励みになっている。まさしく私の童話の貴重な愛読者の一人である。

 

 この7月から私は精力的に童話『ちから姫』を書いている。

 令和2(2020)年8月13日、ライブシアター栗橋にて「いま、この童話が大ブレイクしているんだよ」と言って、第1章を渡した。すると、楽屋で大変な状況になっているのを他の踊り子さんに聞いた。一緒に乗っていたロックの安田志穂さんが「ひとみさんが太郎さんの童話に感激して、楽屋で大きな声で朗読していたのよ。すごく面白い話ね。私もそれを聞いて喜んでいた。ちょっと気になったけど、天羽夏月さんがモデルなのね。私は天羽さんのことを知らないけど、天羽さん本人は怒ってないわよね。」とポラのときに話してくれた。

 私は、ひとみさんが私の童話を喜んでいるのを知って、一編ずつ渡すのを止めて、三回目に「よかったら全9話を渡すね。読んでみて!」となった。ちから姫のファンになってくれたひとみさんに、その後も書く度に次々と続編を渡すことになる。

 その前に、こんなことがあった。あの8月結の週に一緒に出演していた同じ栗橋所属の後輩・蟹江りんさんが9月頭の渋谷道劇に出演していたときに「太郎さんから頂いた『ちから姫』の新作をすぐにひとみ姐さんにメールしたいの。お姐さん、続編をすごく楽しみにしているの。安田志穂姐さんもそう。」と話してくれた。私はこの言葉にすごく元気づけられた。私の童話をこんなに楽しみにしてくれる踊り子さんがいるー!!

私は黒井ひとみさんの出演している劇場を探して、出来上がったばかりの原稿を持参し渡した。冒険編を渡しているとき、私は「ワンピースに負けないつもりで書いているよー」と手紙に書いたら「太郎さんの『ちから姫』の方がワンピースより、私にはずっと面白いわよ!」というコメントが返ってきた。これには感激した。

 

そして、今回の10月結のライブシアター栗橋公演を迎える。実は、この週はTS所属の南美光さん(元きよ葉さん)のミカドでの引退週にあたる。ちから姫のイラストを最も多く描いてくれた人。私は引退記念にSF編を書き上げて彼女にプレゼントしたい!と考えていた。初日からの三日間10/21-23をミカドで過ごし、それまで書き上げていたところを渡した。残すはあと3話。これを書き上げて楽日までに渡したかった。ライブシアター栗橋で書き上げようと思っていた。栗橋には三日間いた。その間、SF編を毎回2話ずつ、ひとみさんに渡し続けた。ひとみさんの反応がすごく良く、私は元気をいっぱいもらった。それをエネルギーにして残りの話を近くのマンガ喫茶で書き続けた。

 

 SF編の話が最高潮に達したとき、ひとみさんにある変化が起きた。

 前からひとみさんがお絵描きしないことは分かっていた。ところが「私もお絵描きしてみようかしら。太郎さんのこの童話『ちから姫』の記念に、私、絵が下手だけど描いてみようかなと思うの。」とポラのときに話し出した。私は驚きながらも「是非お願いしたい。ひとみちゃんの絵はとても味があるよ。けっして下手なんかじゃないからね。私の童話にとって最高の記念になるよ。」と話した。すると次の回から立て続けに絵が届けられた。話はこの『ちから姫』全体の中で最も大事なキーワードである‘時間の花’の話になっていた。難しい内容だけど、ひとみさんは気に入ったようだった。「この‘時間の花’というワードは童話モモに出てくるものなんだよ」と説明したら、ひとみさんが瞳をきらりとさせて「私、それ知ってる! 浅葱アゲハ姐さんのステージに出ていたので調べたことがあるの。」と言って、時の妖精のイラストを描いてくれた。これには感激した。ふつうには‘時間の花’や‘時の妖精’の絵はなかなか描けない。「びっくりしたよ。ひとみちゃんって賢いんだね。感心したよ。」と褒めたら喜んでいた。こうして、ちから姫、花のような時の妖精、インド舞踊、ペガサスと四枚の絵が立て続けに届けられた。

 私はこれらの絵を見ていたら涙が出てきた。ひとみさんの気持ちがその絵を通してストレートに伝わってきた。絵は上手い・下手なんて関係ない。一番大切なのは気持ちなんだな。改めてそう感じた。絵の味わい方をひとみさんに教えてもらった。

 最後に、ひとみさんにSF編のラスト章を渡したら「これでSF編が終わってしまうのね、すんごく淋しい!」と言ってくれた。

 

 ひとみさんのお陰で、SF編は書き上げられた。満足できる内容に仕上げられた。

 私はその原稿コピーを持参して、楽日前日にミカドの南美光さんに届けることができた。

 光さんは連投続きで疲労困憊の状況。「疲れ過ぎて頭がボーッとする」と言っていた。とても私の原稿を読む気力はないようだ。私はそれでもかまわない。渡すことができただけで十分に満足した。

 ミカドに一緒に乗っていた六花ましろさんにもSF編の最後の話を渡す。ましろさんのポラに「光姐さんに太郎さんの熱い作家魂が届けばいいね。」とコメントしてくれた。これまで光さんが私のちから姫のために描いてくれたイラスト20枚が心から嬉しい。宝物である。たくさん励まされて、ここまで書き続けられた。特に、南美光さんや六花ましろさんなどはいつも真っ白な原稿から先頭切ってお絵描きしてくれたのだから、これだけ沢山のお絵描きが貯まったのだと感謝している。お陰で私の長編童話は絵本小説として輝いている。

こうした私の童話を応援してくれる踊り子さんたちに只々感謝感謝である。

 

                

2020年10月                       ライブシアター栗橋にて