ストリップ童話『ちんぽ三兄弟』

 

□第56章 コロナ禍における熱中症対策の巻

                          

                                         

 コロナが一向に収まらない。この状態で暑い夏に突入したらどうなるんだろうと不安に思っていた。なによりも、常にマスクをする生活がうんざりする。なにせ汗っかきだから。

 今年は梅雨明けが例年より遅くなり、少しホッとしていた。

 ところが、8月に入り漸く梅雨が明けたと思ったら、例年以上の猛暑が襲ってきた。

 コロナ禍のマスク着用と猛暑で、今年の熱中症は大変なことになりそうだ。ちなみに、8月21日時点でコロナによる死亡者は1168名(世界だと80万人にのぼる)に対し、熱中症での死亡者は直近2019年の統計値では1581名となっているので、コロナより熱中症の方が多い。今年はダブル・パンチなので熱中症に重点を置いた対策が求められる。学校では、マスクを外すことも指導しているようだ。

 

 そんな中、ストリップ劇場の対応を見てみよう。

 どこの劇場でもコロナ対策は徹底している。入場時には必ず検温している。37℃を越えると入場を断るケースも多い。早くから並んでいたのに検温で引っかかって入場できない可哀そうな人を何人も見ている。自分がいつそうならないと限らないので、検温の度にハラハラさせられる。今は駅から劇場まで歩いただけで汗だくだくだからね。でも、汗をかいている方がいいようだ。汗をかかない人ほど熱が身体に籠ってしまい体温を上げてしまうからだ。また、マスク着用は徹底している。マスクを付けてない人は入場させないし、観劇中も鼻や顎までしっかりマスクを着用していないと注意されるほどだ。

 劇場の換気はまめに行われる。この点の保健所の指導がかなり厳しいようだ。ときたま保健所の職員が様子を見に来るらしいので、劇場スタッフも神経質にならざるを得ない。そのためポラ撮影の度に換気を行う。場内の扉を開け、窓まで開ける。すると、せっかく冷えた場内が外気に触れ上昇し、ひどいときには蒸し風呂のように熱くなる。

 要は、コロナ対策をしっかりやるために熱中症対策がおざなりになる。これでは逆効果になる。観客としては快適に観劇できない。例年なら、劇場こそが最高の避暑地だったのが様変わりになり、本当にコロナが恨めしくなる。

 こんな状態だから、観客の足がどんどん遠のいていく。

 

 コロナ第二波の真っ最中、交通機関もかなり制限を強め始めた。便が減り不便になる。遠征客も減り、どこの劇場もかなり観客数が減っている。場内は一見満席に見えてもコロナ対応で客数を減らしているのが実情だから、満席でも従前より観客数は間違いなく減っている。劇場も経営的にかなり苦しいことだろう。そんな中、ストリップのお盆興行はどこの劇場もいいメンバーを揃えてきているが、無事行えるのか正直かなり不安だった。

 

 さて、コロナ禍でのお盆興行が始まった。どこの劇場もぼちぼちの客入りがあった。しかし例年に比べればかなり客数が減っている。

 そんな中一人勝ちのように大盛況だったのが、渋谷道頓堀劇場だった。デビューしたての人気若手をそろえ、ロックの人気嬢も加わり、最高のメンバーだった。熱心なストリップ・ファンは何度も足を運んだ。私のスト仲間も、かぶり席で観劇したくて、朝早くから並んだ。ふつうは劇場扉前に順番待ちの荷物を置いておき、開場直前に行く。この暑さでは暑すぎて長く並べない。それこそ熱中症になってしまう。

 ところが、早朝9時過ぎに劇場スタッフが来て、整理券を配った。早めに荷物を置いていた人は無視された。というか荷物を捨てられた。10時半頃に、その整理券に基づいて入場の順番が決められる。その情報が仲間うちからメールで入った。渋谷に行くんだったら朝9時から9時半頃までに整理券をもらわないと、かぶり席では観劇できないと分かる。

 そこで、早朝8時半から劇場前に並んだ。熱心な客が既に何人か来ている。ところが劇場スタッフは現れない。結局いつもの開場時間11時近くまで長い間待たせられた。この炎天下、かなりきつかった。

 楽日には、早朝7時頃から特別の掃除があったらしく、それまでに置いていた荷物を全て捨てられたらしい。私のスト仲間が何人も早くから1番と2番を抑えていたのに捨てられたと悔しがっていた。

 ようは、劇場スタッフの都合や気まぐれで順番とりが変わる。我々ストリップ客には暗黙のルールがあり、早く荷物を置いた順番に入れる。ずっと劇場前で待っていなくてもいい。開場時間の直前に戻ってくればいい。中にはそれで文句を言うやつもいるが、基本的に常連がそのルールを守っている。そうでもしなければ、炎天下にずっと待ってなければならないからね。

 ところが、今回の渋谷のやり方はそれを無視している。いいメンバーを揃えているわけだから強気なわけだ。「それが嫌なら来るな」という態度である。

 しかし、本当にそれでいいのだろうか。コロナ禍で客が激減している中、こんなに暑くても劇場に足を運んでくれる客は神客ではないのか。劇場は、コロナ対策もしっかりやらなければならないが、熱中症対策だってしっかりやらなければならない。要は、お金を落としてくれる客を守る義務があるべき。「暑いので早めに涼しい場内に入れる」というなら話はわかるが、平気で炎天下に客を待たせようとするのは如何なものだろうか。客を馬鹿にしていないか、そう思えてしまう。

 

 先ほど、観客が激減して、劇場の経営が立ちいかなくなるのではないかと心配した。

 そうしたら、その心配が的中してきた。小倉A級の8月結の興行に「閉館興行第1弾」と出た。他にも広島や道後など西日本の劇場が危ないという噂が出ている。

 非常にやばい状況になってきた。単に一劇場の問題ではなく、ストリップ界全体の大きな危機だ。踊り子も乗る劇場がなくなり仕事がなくなる。ストリップの危機がこのコロナのせいで加速してきた。以前は東京オリンピックとパラリンピックの開催による危機を懸念していた(「親父ギャグ」五輪でご臨終となったら大変!)が、コロナの方がダメージははるかに大きい。

 実際、踊り子も大変な状況とよく聞く。どうにかコロナ明けで再開できたものの、出演人数を減らしたり、営業時間短縮で四回公演を三回に余儀なくされているところが多い。当然、それに見合ってギャラがカットされる。そういえば、コロナ明けでいなくなった踊り子も多い。ストリップの先行きに不安を感じて消えていったものと思われる。

 ストリップファンとしては悲しいことこのうえない。

 

 このコロナ禍、なんとか乗り越えることができないものだろうか。

 今こそ、劇場も踊り子もストリップファンもみんなが一致団結してストリップを守るべきときに来ている。

 

                                   おしまい