ストリップ童話『ちんぽ三兄弟』

 

□第54章 コロナ明けの新世界へ!の巻

                           ~浅葱アゲハさんに捧げる~

                                         

 

  このシリーズにおいて、コロナ・ネタは今回でもう七つ目(妖怪アマビエを入れると八つ目)になる。54章までで8つということは全体の15%にもなる。それだけコロナ禍はストリップの歴史においてもショッキングな事件といえるので、できるだけ詳細に記録しておきたいと思ってこれまで書き綴ってきたところである。

 当然、踊り子さんにとってもインパクトが大きく、コロナ・ネタを使った演目まで登場している。これまで、浅葱アゲハさんの「しんせかい」、京はるなさんの「COVID(新型コロナウイルス感染症)」、黒井ひとみさんの「黒井軒」などの作品が印象に残っている。

 今回は、その中で浅葱アゲハさんの新作「しんせかい」を紹介しながら、私がその作品で観劇レポートしたことを復唱してみたい。

 

 ひとつ、本題に入る前に話しておきたいことがある。

 コロナ・ネタと同じく、最近このシリーズで大きくとりあげているのが妖怪ネタである。童話「ちんぽ三兄弟」シリーズもそろそろネタ切れたかと思われていたところに、突然のごとく妖怪に興味を持ち始めた。きっかけはある踊り子さんのステージなのだが、きっかけはともあれ、妖怪の話はネタに困らないほどたくさんある。一気に話が盛り返してきて、とどまるところを知らない勢いになっている。

 くしくも、これを書いている今日7月27日は幽霊の日らしい。お岩さんで有名な『東海道四谷怪談』の初演の日にちなむそうだ。

 この「ちんぽ三兄弟」シリーズでは、最近、コロナ・ネタと妖怪ネタが微妙に絡んで進行している。たまたま妖怪アマビエのようにどちらにもマッチした内容もあったぐらいだ。

 例年、夏場になると、遊園地にあるお化け屋敷が人気になる。ところが、このコロナ禍のご時世だと、お化け屋敷はさっぱりダメらしい。遊園地などの感染防止ガイドラインによれば、オバケも人間とはなるべく離れ、大きな声も要注意となる。これでは誰も怖がらない。オバケもこれでは困ってしまうだろう。

 一方、私の妖怪ネタは踊り子さんに大好評。これだけ暑いと雪女には是非とも一緒に過ごしてほしいと思っちゃうだろうね。今年の夏は怪談もので冷ややかに過ごしたいと考えている次第だ。

 妖怪人気が夏に好評なのは分かるが、コロナもまた妖怪人気を誘うようだ。社会不安が高まればホラーがはやるとはよく聞く話だ。

 ちなみに、お盆に墓参りするが、それはご先祖さまの幽霊にご挨拶に行くこと。つまり、お墓参りは恒例行事として‘死’を意識する。今回のコロナ禍でも沢山の死亡者が出た。隣の国の武漢で最初にコロナが発生したときは他所の国の出来事と思っていたが、日本に飛び火し、馴染みのタレント・志村けんさんの訃報に接したとき誰もが身近なものとして死を意識したと思う。

 妖怪もコロナも、人に死を意識させる。死を意識すると人間は厳かな気分になる。いま生きている現実とは違う世界を意識する。死後の世界、妖怪の棲む異界、コロナなどの細菌が棲む未知の世界、そういうものがあることを無意識にも感ずる。

そのことがとっても大切な事だと思う。死ぬとは何か。オバケとは何か。答えのない難題を考えていくと、お前はいま、いかに生きているのか、との問いをオバケから突き付けられている気にもなる。

 

 

 さて、長い前置きになったが、浅葱アゲハさんの新作「しんせかい」の話をしよう。

この演目について、アゲハさんから「今回の新作『しんせかい』は、コロナ明けの気持ちの出し物」というコメントを頂いた。その言葉の意味を考えたい。

 最初に、アゲハさんが妖精のような恰好で登場する。

 一曲目は、RADWIMPSの「新世界」。作詞作曲:野田洋次郎。

(歌い出し)♪「僕と君なら きっと越えて行けるさ そう言った君の声が 細く震えていたんだ あといくつの『夜』と 『空っぽ』噛み締めたら辿りつけるのかも 知る人さえ皆無 『当たり前』が戻って来たとして」

まさしく、今回の新作のタイトル名にもなっている、本作の核となる曲だね。ネットで調べた。・・・同曲は、2020年5月8日に放送されたテレビ朝日系『ミュージックステーション』出演のために書き下ろし、初披露された新曲。「番組にぜひメッセージを届けてほしい」という出演オファーに賛同した野田洋次郎(Vo・G・Piano)は、「最初にお話をいただいたとき、みんなが前を向けるような曲を作ろうと思い制作を始めました。ですが、段々とそれだけでいいのかと違和感が生まれていきました。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は僕たちからたくさんのものを奪っていったと同時に、たくさんの気づきも与えてくれています。日常がいつか戻って来たとして、それは今までとは違う新しい世界なんだと思います。企業や社会の仕組み、教育現場、政治のあり方。これからを生きる僕たちが、どんな世界にしていくのか。みんなが想像し、創造できるようにと願って作りました」と楽曲制作について明かしている。

この記事に触れ、さすが野田さんだ!と感心させられた。映画『君の名は。』収録の曲「前前前世」を書いた野田さんらしい。最近よく叫ばれている「Withコロナ時代」の思想に通じます。

 

私は何度もアゲハさんの作品「しんせかい」を観るうちに、こんな感想を抱くようになりました。

このコロナ禍で、私はストリップ通いし出してから20年間で初めての経験をした。一か月以上もストリップ無しの生活を余儀なくされたのだ。これは私のストリップ人生最大の危機だった。一体このことは何を意味しているのかとずっと自問自答していた。

 アゲハさんの云う「コロナ明けの気持ち」とラップするかどうか分からないが、この新作「しんせかい」を観ながら感じたことを述べてみたい。

 

後半の水色の着物を着たアゲハさんを眺めていたら、ビーナスの妖精のようにも見えた。また別の見方をすると、私が最近凝っている妖怪シリーズの雪女にも見える(笑)。ここでは、神様や妖精と、人間と、妖怪などの異世界のものまで全てが共生しているような気になった。

更に、アゲハさんが空中ショーを始める。それを観ていると、アゲハさんや白いティシューは天上の世界と地上の世界の架橋のようにも感ずる。天国も地上も地獄もみんな繋がっている錯覚をおぼえる。

 アゲハさんの美しいヌードを眺める。男性にとって、現実の世界で女性のヌードをたっぷり観れるところなんて無い。劇場はその夢が叶う非現実空間である。そういう意味では、ストリップというのは、現実の世界と夢の世界を繋ぐところでもある。女に縁のない男に、女を感じさせてくれるところがストリップ劇場なのである。

 ストリップというのは、すべてのものを混沌とさせてくれる時空間なのである。

いまさら言うまでもないが、この世には男も女も、いやLGBTも含めて、一緒に生きている。いや人間に限らず、さまざまな生き物が一緒に生きている。コロナのような菌類も例外でない。我々と同じ生き物なんだ。それらが皆この地球号に乗っている。この世は、みんなが仲良く生きていかなければならない箱舟なんだ。

 

人間というのは、神様も妖精も妖怪もコロナウイルスのような菌まで全てのものを含めて、共に生きていかなければならない。我々人間は万物の長として、みんなが共生できるよう知恵を使わなくてはいけない。そういう使命を負っているのである。

昔の人はそのことが分かっていた。人間には生きる上で決められたテリトリーが存する。人間は明るい昼の世界で生きればよく、夜の世界を侵してはいけないと考えていた。人間は夜には寝ていればいいのだ。夜には夜を生き場とした生き物たちの世界がある。だから、子供たちに夜遊びをさせないように、夜には怖いお化けがいる話を作った。これが昔の人の、大人の知恵だったのだ。ところが人間は電気を発明して、夜の世界を侵してしまった。共存共栄を人間がぶち壊したのである。ましてや、科学技術で自然を破壊したり操作しようとまでしている。そうしたことは他の生き物が生きていくうえで邪魔以外の何物でもない。もっとお互いが生きていくうえでのテリトリーを尊重しなければならない。つまり同じひとつの地球号に乗っている乗組員として、人間以外の生き物とのお付き合いの仕方を学んでいかなければならない。コロナ禍はそのことを我々に警告しているのだと私は感じてならない。

コロナ明けの新世界をそんなイメージで捉えたいと心から思う。

 

                                    おしまい

 

 

 

 

 

 

【参考】

 

■2020年7月27日付け「天声人語」より

 

 化け物の話を一つ、出来るだけきまじめに又(また)存分にしてみたいーー。日本の民俗学を開拓した柳田国男の『妖怪談議』はそんな魅力的な一文で始まる。小欄も今日は似たような気分だ。

 

 聞くところによると最近、オバケたちは困っているらしい。新型コロナとの共生を迫られる時代。お化け屋敷も例外ではないからだ。遊園地などの感染防止ガイドラインによれば、人間とはなるべく離れ、大きな声も要注意。

 

 これでは誰も怖がらない。何とかならないか。お化け屋敷プロデューサーの岩名謙太さん(25)が思いついたのは3密回避のドライブイン方式。車内で窓越しにオバケに襲われるとの演出だった。今月初めに都内で始めると、恐怖映画に入り込んだような感覚だと話題になり、予約が殺到した。

 

 コロナ禍にお化け人気。少し不思議な気がするが、社会不安が高まればホラーがはやるとの説もあるらしい。「恐怖を感じながら、みんな死に関心がある。だから怖いものが気になるのでは」と言わなさん。

 

 確かにお化け屋敷とは死の世界に触れる疑似体験。死ぬとは何か。オバケとは何か。答えのない難題を考えていくと、お前はいま、いかに生きているのか、との問いをオバケから突き付けられている気にもなる。

 

 きょうは幽霊の日。お岩さんで有名な『東海道四谷怪談』の初演の日にちなむそうだ。あなたは霊の存在を信じますか。4年前の毎日新聞のアンケートで「はい」は49%。理由のトップは「否定する理由がない」だった。

 

                                    おしまい