2021.2

ストリップ童話『ちんぽ三兄弟』

 

□第69章 男鹿のなまはげの巻

               

                                  

 ちん吉くんの説明が終わると、彼の後ろから、ひょっこりと一人の男が顔を出した。

「初めまして。私は秋田の観光協会の者です。今度、ちん吉くんを秋田観光協会の親善大使に任命させて頂きました。つきましては、私の方から‘男鹿のなまはげ’について、詳しくご説明させて頂きたいと思います。」

 秋田の人らしく色白で、優しい顔つきの男前だった。腰が低く、丁寧に話し出した。

 

 男鹿のなまはげは、大晦日の夜に行われます。なまはげは一般の民家に入っていくので観光客向きではありません。そこで、これをお祭りとして体験できるものがあるのです。それが「なまはげ柴灯まつり(Namahage Sedo Festival)」です。ユネスコの無形文化遺産に登録されているんですよ。まずは、このお祭りの宣伝をさせてもらいます。

(以下は、ブログ記事を参照・転記させてもらいました。オマツリジャパン編集部の「なまはげを正しく知って楽しもう!なまはげ完全ガイド!」、男鹿市観光商工課(文化スポーツ課 文化ジオパーク推進班)の「なまはげ柴灯まつり」など)

 

なまはげ柴灯(せど)まつりは、秋田県男鹿市北浦にある真山(しんざん)神社で開催される男鹿の冬を代表するお祭りです。ちなみに、「横手かまくら」、「弘前城雪燈籠まつり」、「八戸えんぶり」、「いわて雪まつり」とともに東北の冬を彩る「みちのく五大雪まつり」のひとつです。

なまはげ柴灯まつりは、神事「柴灯祭(さいとうさい)」と民俗行事である「なまはげ」を組み合わせたお祭りです。柴灯祭りは900年以上前から1月3日に男鹿市北浦にある真山(しんざん)神社で開催されています。それぞれは歴史が古いですが、その二つを組み合わせたのは最近の話です。この観光行事は昭和39年に始まり、毎年2月第2金・土・日曜日に真山神社で行われます。

内容をざっと説明します。

真山神社境内の広場に焚かれる柴灯火の明りのもと、男鹿地方独特の祓い神楽を奉納する「湯の舞」と、古い伝統的な湯立て神事である「鎮釜祭」でまつりは始まり、ナマハゲに扮する若者が神職にお祓いを受けた面を授かりナマハゲへと化し山へ戻る「なまはげ入魂」が行われます。

神楽殿では男鹿市各地で大晦日に行われる伝統行事「男鹿のナマハゲ」の再現やお面や衣装が異なる男鹿各地のナマハゲの登場する「里のなまはげ」、また郷土芸能として定着した勇壮な「なまはげ太鼓」の演奏が繰り広げられます。

柴灯火の前では秋田出身の現代舞踏家・故石井漠氏の振り付けと子息の作曲家・石井歓氏の曲による「なまはげ踊り」も迫力満点です。

まつりの終盤、松明をかざしたナマハゲが雪山から降りてくる姿は幻想的です。下山したナマハゲが観客であふれる境内を練り歩き、まつりはクライマックスを迎えます。

柴灯火で焼かれた護摩餅を神官からナマハゲに捧げられ、ナマハゲは山深くの神のもとへと帰っていきます。

 以上が、なまはげ柴灯まつりのご紹介です。是非一度お越し下さい。

 あ、一応おことわりしておきますが、昭和53年の「重要無形民俗文化財」指定のときは、「男鹿のナマハゲ」とカタカナ表記が採用されましたが、地元では、「なまはげ」と平仮名で表記されることも多くあります。カタカナでも平仮名でも正解なんです。

 

 

 さて、次に、本題の「男鹿のなまはげ」について詳しく説明します。

□. なまはげの意味と起源

まずは「なまはげ」ってなに?

「なまはげ」という名前は、「生身剥ぎ」という言葉が語源だと言われています。手にしている包丁は「火斑(ひだこ)を剥ぐ」ためのもの。火斑とは、炉端にかじりついていると手足にできる赤いまだら模様のことを言い、火斑を方言でナモミと言います。そのナモミを剥ぎ取り、怠け者を戒めるための「ナモミ剥ぎ」が訛り「なまはげ」になったそうです。

 

次に、「なまはげ」はいつ頃からどうやって伝わってきたか?

実はなまはげの伝説は諸説あり、古くからある伝説などを受け継ぐ民間伝承であるため、正確な起源は分かっていません。ここでは、言い伝えられているいくつかの伝説をご紹介します。

 

<漢の武帝説>

漢の武帝説とは、昔話である「九百九十九段の石段」の鬼が五社堂に祀られており、それがなまはげの起源となったという説です。「九百九十九段の石段」は以下のような話として伝わっています。

中国の漢の時代に、武帝が不老不死の薬草を求めて従え男鹿に行きました。五匹のコウモリは、鬼に姿を変え武帝のために働きました。ある日、鬼たちは「一日だけ休みをください」と武帝に頼み、正月十五日だけの休みをもらい、村里に降りて作物・家畜・娘たちをさらって暴れまわったそうです。困り果てた村人は、「毎年一人ずつ娘を差し出す代わりに、一番鶏が鳴く前の一晩で、鬼たちに海辺から山頂の五社堂まで千段の石段を築かせてくれ。できなければ、再び鬼を降ろさないで欲しい」と武帝に願い出ました。村人は「さすがの鬼も不可能だろう」と考えてこの案を提示しましたが、鬼たちはどんどん石段を積み上げていきます。焦った村人は、鬼が九九九段まで石段を積み上げたところで、アマノジャクに一番どりの鳴き真似をさせました。鬼たちは驚き怒りましたが、山に帰り二度と村には降りてこなかったそうです。

 

<修験者説>

男鹿の本山である真山(しんざん)は、昔から信仰の対象となっていた場所だと言われています。時々、修験者は山状の修行姿で村里に降り家々を回って祈祷を行っていたのですが、その凄まじい修験者のお姿を「なまはげ」と考えた説が修験者説です。

 

<山の神説>

遠くの海上から男鹿を望むと、日本海に浮かぶ山のように見えます。その山には、村人の生活を守る山の神が鎮座するとして畏れ敬われ、その山神の使者が「なまはげ」であるとする説が山の神説です。

 

<漂流異邦人説>

男鹿の海岸に漂流する異国の人たちは、その姿や言語から村人には鬼のように見えたと言われています。大きな身体に赤い肌、その漂流した異邦人が「なまはげ」であるとする説が漂流異邦人説です。

 

 ここで、ちん吉くんが口をはさむ。

「先に、鬼の起源として白人説、鬼=ロシア人という俗説があることを話したよね。なまはげもその一例なんだ。」

「余談になるけど、秋田の女性のことを秋田美人と言う。ぼくも以前、秋田にはなんで美人が多いかを真剣に考えたことがあるんだ。昔からいろんな説がある。

 秋田はその位置する土地柄から、昔のアイヌ人と日本人、そしてロシア人がうまく混血された所だ、という血の遺伝説。

 秋田は雪国なので、肌の湿り気、寒さによる肌の引き締め効果で肌がきめ細かくなる、という雪の気候説。

 秋田の中央を流れる雄物川はアルカリ分が強いらしい。その水を飲んでいる人の肌はきれいになる、という川の水質説。

 以上、昔からよく言われるこの三つの説に、ぼくはもうひとつ新しい説に気づいたんだ。

 女の子は男親によく似る。そして男親に似た娘は幸せになると言われる。そこで、秋田は美男子が多いから美人が多いんだ、という秋田美男子説を考えたんだ。ところが、みんな、ぼくの顔を見ながら、ぼくの提言にはなかなか納得しないようだ。(笑)

 まぁ、なまはげの起源と同じく、それぞれが最もな説だと思うよ。

 

□. なまはげの容姿

次に、なまはげの恰好について、着ているノミや持っている包丁や桶など、それぞれのアイテムが示す意味を簡単に説明します。

まず、なまはげと言えば真っ先に思いつくアイテムが出刃包丁です。なまはげの語源は「ナモミ剥ぎ」だというご説明をしました。この出刃包丁は、そのナモミを剥ぎ取るための道具です。なまはげ必須のアイテムと言っていいでしょう。なまはげが持つ桶は、剥ぎ取ったナモミを入れるためのアイテムです。

また、なまはげは時に神社の宮司が使う御幣(ごへい)を持っています。これは、なまはげが神である印です。なまはげは、この御幣を手に持ち家々を巡ります。なお、なまはげが御幣を持っているか否かは地域により異なるようです。

説明が前後しましたが、なまはげは、ワラでできたミノ状の衣装をまとっています。この衣装をゲテと呼びます。ゲテから落ちたワラは神聖なものと考えられており、魔除けになる・縁起が良い・病気をしない・健康になるなどのご利益があるため、村の人は落ちたワラを拾い戸口に止めておきます。なまはげから無理に抜いたワラにはご利益がないため、自然に落ちたものを拾います。

 

□. なまはげの役目

なまはげが子供を驚かす光景が有名であることや、なまはげの「悪い子はいねがー、泣く子はいねがー」というフレーズがあまりにキャッチーなせいで、なまはげは子供を驚かせる行事と思っている人は少なくありません。

これまでの解説で、なまはげは神様あるいは神の使いであり、決して鬼ではないことをご説明しました。しかし、ここで、神様がなぜ子供を驚かして怖がらせるのかという疑問が残ります。

 

どこにでも、泣き虫の子や親の言いつけを守らない子、宿題をやらない子、喧嘩っ早い子など、親によく叱られるような子供がいますよね。そんな子供を驚かすことで「なまはげ」は子供にとって最も怖い存在になり、親の言うことを聞かないと怖い目に合うという良い教訓になります。秋田では、「悪いことをするとなまはげにくれてやってしまうぞ」と両親が子供に言い聞かせてしつけをする家庭もあるそうです。

地元の人に幼少期のナマハゲの思い出を聞くと「本気で怖かった」と口々に語ります。例えばナマハゲが子供を捕まえて「悪いことはしてねぇか!?」といった具合に問い詰めます。子供が「していません!」などと嘘をつくと、ナマハゲは「ウォー!嘘をつくな!○○をしただろう!」と、なぜか子供の悪事を暴いてしまうのです!どこに隠れようがナマハゲは必ず見つけ出します。そう、ナマハゲは神様(もしくはその使い)なので、全部お見通しなのです!

この仕掛けは単純で、事前に親御さんはナマハゲと口裏を合わせ、子供のイタズラなどを報告しておきます。隠れ場所をこっそり教えたり、いろいろな連携プレーでナマハゲを演出することで、子供たちはナマハゲの存在を信じ込むのです。

なまはげは、本来は子供を驚かすためではなく、悪事に訓戒を与えるとともに、無明息災や家内安全、豊作・豊漁・吉事を願う伝統行事なんです。

 

 またまた、ちん吉くんが口をはさむ。

「ぼくは前からこんな疑問を持っていた。秋田には最強の三吉鬼がいるんだけど、なまはげの方がもっと有名だ。全国的には、なまはげを知っているが三吉鬼のことは知らないという人がたくさんいる。そこで、どうして三吉鬼としては、なまはげと優劣をつけるための鬼合戦しないのかなと不思議に思っていた。しかし、秋田観光協会の人の説明を聞いてその理由が分かったよ。

なまはげは鬼ではなく、神様なんだね。鬼と神様は争わず、別々に共存できるんだ。仏教と神道の違いみたいなもんかな。日本にはお寺も神社もあるもんね。」

 

□. なまはげの種類

 そう、ちん吉くん言う通りなんだ。

 なまはげは民家で大きな音を立てて暴れまわることで災いを祓ってくれる神、あるいは神の使いです。鬼は邪悪な怨霊であり、なまはげは鬼には該当しません。また、ナマハゲの面は鬼に似た怒り顔のものだけでなく、丸顔のものや可愛らしいものなど、さまざまな面があります。男鹿では地域ごとにナマハゲが存在しますが、よくテレビなどで見る鬼に似た面は一部のナマハゲだけなのです。

 

そこで、赤いなまはげと青いなまはげの意味は?

様々な色や顔のなまはげの面がある中、主立って赤と青の面が存在します。赤いなまはげを「爺さんなまはげ」青いなまはげを「婆さんなまはげ」と呼び、2対1組で「夫婦なまはげ」と呼ぶそうです。ちなみに、色がないなまはげも顔の形でも見分けることができ、角張った面のなまはげは「爺さんなまはげ」、丸みを帯びた面のなまはげは「婆さんなまはげ」を指します。

 

ちん吉くんが言う。

「先に、仏教から鬼の色について『赤鬼』『青鬼』の話をしたよね。なまはげは鬼じゃないこともあり、赤いなまはげを『爺さんなまはげ』、青いなまはげを『婆さんなまはげ』と呼ぶわけだ。こちらのネーミングは最高だね。より親近感をおぼえる。」

 

「ぼくは秋田出身だけど、正直言って、<なまはげ柴灯まつり>のことを知らなかった。柴灯を‘せど’と読むことすら知らなかったもんな。恥ずかしい限りです。」

「でも、秋田観光協会の人から説明を受けて、なまはげがとても身近な存在に感じます。喜んで秋田観光協会の親善大使になろうと思っています!」

 

                                    おしまい