ストリップ童話『ちんぽ三兄弟』

 

□第50章 みんなで怪談ストリップを競演する!の巻

                                         

 

さて、この後、ちんぽ三兄弟とペニス三兄弟はホラー話のネタが尽きなかった。この話をし出すと長いので、順番を変えて先に、みんなでストリップ劇場での寸劇「怪談ストリップ」を企画したことを紹介しますね。

 

ちんぽ三兄弟は演劇『雪女』に挑戦です。どうしても、映画『雪女』での岸恵子さんの美しさと演技が脳裏から離れないようです。

「おれが女形をやる!」と三男のふにゃちんくんが言い出しました。ちんぽ頭に鬘(かつら)をかぶると、彼の撫で肩は女性そのものです。こりゃ、なかなかのものですぞ。彼は「歌舞伎界の坂東玉三郎にも負けないぞー!」とやる気満々。

まんこ三姉妹は、ちんぽ三兄弟に雪女を先にとられたので、演劇「貞子」にしました。ストリップの盆はまさしくリングです。盆を井戸に見立て、井戸から這い出てくる貞子を熱演しました。

これに対して、ペニス三兄弟は、『13日の金曜日』のジェイソンと『エルム街の悪夢』のフレディ。チェーンソーを持って激しく血しぶきを上げました。

やはり、どうしてもお国柄が出ますね。

 

 実は、この怪談ストリップに至るまでに、ちんぽ三兄弟とペニス三兄弟は、お互いに、日本のホラー映画と海外のホラー映画を紹介しあい、その違いについて論じ合いました。

 かなり長いですが、次のような内容です。

 まず最初にちんぽ三兄弟が紹介した日本の映画は、1965年に公開された映画「怪談」。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)原作/小林正樹監督。「和解(黒髪)」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」という四話の異なるストーリーで構成されたオムニバス形式となっている。特に「雪女」「耳無法一」は誰もが知っているね。

「映画『怪談』はまさしく時代を超えた名作だよ。幻想的な世界観がとても好きな作品。美術やセット、カメラワークなど何処をとっても美しくて素晴らしい演出。底知れぬ恐怖を映像美で表現している!」

「小泉八雲原作の小説『怪談』から選ばれた四話がオムニバス形式で収録されているのだが、どの話も面白く、根っこに人生の教訓を感じる。昔ながらの懐かしき怪談話で、古き良きノスタルジックな気持ちに駆られた。」

「個人的には全四話の中でも『耳無法一の話』が一番印象に残る。体中にお経を書くシーンは凄まじく、脳裏に焼き付く。豪華俳優陣の演技合戦も見所のひとつ。『茶碗の中』の中村翫右衛門が最後に魅せた狂気的な笑顔が頭にこびりついて離れない。」

 ちんぽ三兄弟は、この映画の魅力を力説する。

この映画が公開された1965年といえば、前年1964年に東京オリンピックが開催されて、それを機にテレビ受像機が普及していた。それに反して日本映画は徐々に衰退に向っていくという端境期にあった。

この映画「怪談」は、第18回カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞している。映画を観てみると分かるが、日本映画の良質性はこの頃がいわば頂点にあったのではないか。そんな風に思ってしまうほどに映画の技量が見事であり、欧米の模倣を超えた日本の独自性を遺憾なく発揮した作品となっている。

小林正樹監督は、黒澤明監督と同じく海外で高い評価を受けた監督である。その評価は、オリジナリティー(要するに欧米にないもの)にあったと思われる。この映画でも監督は、独自の美術、アングル、色彩などに並々ならぬこだわりを見せている。

 

ちんぽ三兄弟が、この映画のエピソードを話し出した。

「小林正樹監督はすごい人なんだぜ。60年代、市川崑・木下恵介・黒澤明と並んで『日本映画の巨匠』と目されたんだ。小林正樹の‘格調高い美’への拘りは、彼の映画作品『切腹』や『人間の條件』の絵作りがそうであるように、黒澤明と同等か、それ以上。(反面、お客を喜ばせる・楽しませる心が乏しいのは否めない。)」

「この映画は、1966年の第38回アカデミー賞 外国語映画賞にノミネートされているんだ。残念ながら受賞は逃した。今では忘れられた悲運の傑作、というべきだろう。(なお、同年のカンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリを受賞している。)

 この当時、日本映画は他にもアカデミー賞にノミネートされた作品はいくつもあったんだ。日本映画の黄金期ともいえる。」

「なにせ、この映画『怪談』はめちゃくちゃ時間と金を使っている。構想に10年を要し、9ヶ月の撮影期間と製作費約3億円という多額の予算をかけて製作されたんだ。今これだけのことができる日本の映画監督は宮崎駿監督くらいしかいないんじゃないかな。」

「こんなエピソードがある。この映画は、文芸プロダクションにんじんくらぶ製作、東宝配給なんだ。にんじんくらぶ代表取締役の若槻繁が学生時代に着想していたもので、にんじんくらぶが映画製作業務を開始する際に若槻が映画監督の小林正樹にこの企画を語ったことで製作実現に動き出した。当初は松竹に企画が持ち込まれたが製作中止となり、その後配給権が東宝へ移り製作開始に至った。しかし、興行収入は3億円には及ばず(製作費約3億円に対し配給収入2億2500万円)、これが原因でにんじんくらぶは倒産したらしい。」

「豪華な俳優陣のギャラだけでも大変だ。そのうえ撮影のほとんどはセット内で行われた。スタジオには日産車体工機所有の格納庫が使用され、高さ9メートル・総延長220メートルの巨大なホリゾント、約600坪の大広間セット、和船10隻が浮かべられるプールなど大規模なセットが用意された。こりゃ、お金がかかるわ。」

「その分、内容は素晴らしい。本作は、彼の芸術肌が存分に活かされている。つまりこれは、原作を完全再現させるために、スタジオ内で、徹底的に管理された空間内で撮影した、完全主義者のアートフィルム。カラー、東宝スコープ、183分。3時間ぶっ通しで見るのは流石に肩が凝るが。(苦笑)」

 

こりゃ、映画「怪談」だけでも話が尽きない感じだ。

しかし、日本ではこの映画以降、ホラー映画はあまりパッとしなかった。

 唯一ヒットしてシリーズ化されたのが「リング」シリーズの貞子だった。この原作は、1991年に発行された鈴木光司の「リング」。この人気を受け「らせん」「バースデイ」と続編が続き、現在では6冊に及ぶ大河シリーズとなっている。その中心にいるのが、全ての呪いの元凶となる女性・山村貞子。

 1998年公開の映画『リング』が大ヒットする。監督は東大卒(しかも理Ⅰ)の奇匠・中田秀夫(1961年7月19日 - 現在58歳)。ヒロインは本作が映画初主演だった松嶋菜々子で、また冒頭で呪いによって死ぬ女子高生に竹内結子が扮していたのは有名なトリビアになっている。このヒットを受け、翌年1999年の深田恭子出演『リング2』、2001年の仲間由紀恵主演『リング0 バースデイ』と「リング」三部作となる。

その後も、2012年の石原さとみ主演『貞子3D』、さらに2013年の『貞子3D2』と続いた。『貞子3D』と『貞子3D2』は鈴木光司の書き下ろし「エス」を基にしたストーリーである。2016年には『呪怨』シリーズの伽椰子と対決するドリーム企画『貞子VS伽椰子』まで制作される。ここまで来ると少しやりすぎだな。ちなみに、2003年に公開された『呪怨(じゅおん)』もシリーズ化されるなどの人気を誇ったが、リングにははるか及ばない。

「最新作2019年の映画『貞子』ももちろん観たよ。監督が最初の『リング』『リング2』で世間を震撼させた中田秀夫監督だったこともあり、原点回帰というか、本来の路線に戻ったような恐怖感があって良かったよ。」

「それにしても、初期のクライマックスシーン “テレビから這い出てくる貞子”は強烈だったなー。今では多種多様なパロディーネタにすらなっているけど。」

ここでペニス三兄弟が口を挟んできた。

「この恐怖が海外に伝播していく。『リング』の完成度の高さと新しい恐怖の描写は世界的にも高く評価され、海外でリメイクされていったのは凄かった。」 

まず、韓国で1999年に『リング・ウィルス』が制作される。そして日本のシリーズが『リング0 バースデイ』で一段落したタイミングでスタートしたのがハリウッドリメイク版だった。2002年の『ザ・リング』と2005年の『ザ・リング2』(中田秀夫が監督)と、どちらも大ヒットを記録する。

「貞子はもう誰もが知っているホラーアイコン(偶像)だね。ハリウッドリメイク版でもヒットしたため、世界的にも有名な存在になったよな。ニューズウィークが選ぶ『世界が尊敬する日本人100人』 にイチロー、大坂なおみ、羽生結弦、YOSHIKIなどともに選ばれたんだから驚くね。」

 

「ホラーアイコンといえば、『13日の金曜日』のジェイソンや『エルム街の悪夢』のフレディなどが有名だよな。」

「同じホラー映画でも、日本と海外のとでは随分違うよな。欧米のホラーのような血しぶきが飛び交うという恐怖感ではない。あくまで日本古来の奥ゆかしさを基調にして、ゆーくりと、じーんわりと真綿で締め付けるように恐怖を味あわせてくれる。それが『怪談』や『貞子』という映画の真骨頂であり、同時に日本固有の恐怖の表現であると思われる。」

 

もう少し、日本のホラー映画と海外のホラー映画の違いについて触れたい。

「ホラー映画は国の文化や生活が大きく影響する。日本と海外では文化・生活・思考が大きく異なるために、ホラー映画にも違いが出てくる。」

「まず、日本のホラー映画の歴史を振り返ってみるか。

日本では1897年頃から歌舞伎や落語などを起源とした怪談映画が公開されている。仏教の教えを踏まえており、悪行を懲らしめる内容になっている。悪行をした者が罰せられたり、非業の死を遂げた者が成仏せずにさまよっているなど、現在のホラー映画のような幽霊が人々に危害を加える内容ではなかった。この時代の日本では映画産業があまり盛り上がっておらず、国民を恐怖に落とし込むような事件もなかったため、このような内容の怪談映画が多く存在していたんだな。

日本のホラー映画となると、1990年代後半に中田秀夫が公開した『女優霊』がきっかけで盛り上がりをみせる。さらに1998年に中田秀夫が公開した『リング』では今までの怪談映画と違った、現在のホラー映画のようなタイプで世界的なヒット作となる。

2003年には『呪怨(じゅおん)』が公開されていき、シリーズ化されるなどの人気を誇る。」

「こうした日本映画の特徴というと、宗教の影響を受けず、日常に起こる恐怖を描いた内容のものが主流。殺人のような直接的な恐怖ではなく、何かを予感させて精神的な恐怖を与えるのが日本のホラー映画といえる。扉の音や水の音、殺人シーンの省略、何気ない日常を丁寧に演出するなどの手法を駆使して人々に精神的恐怖を与えていく。」

 ここでペニス三兄弟が話し出す。

「それに対し、海外のホラー映画では宗教的な思想が含まれているものが多いです。キリスト教などのでは悪魔や魔女を悪役のキャラクターとして用いているのが印象的です。だから、海外のホラー映画を理解するにはその土地の宗教を理解しないと本当の怖さは分からないのです。

また、海外のホラー作品は幽霊が人々に直接的な恐怖を与えることが多く、精神的な恐怖を与える日本と一番異なる点といえます。」

「じゅあ、日本のホラー映画と海外のホラー映画はどちらが怖いと思う?」と、ちんぽ三兄弟がペニス三兄弟に尋ねた。

「断然に日本のホラー映画の方が怖い!!!

なぜなら、海外のホラー映画は観ている間だけ怖いんだが、日本のホラー映画は鑑賞している時だけでなく、その後の生活においても恐怖がしばらく残り続けるところがある。これが海外の人に恐怖を与えるんだな。」

なるほど、日本のホラー映画は精神的恐怖を与え、海外のホラー映画は直接的な恐怖を与えることが分かりました。

 

以上の長い話を受けて、巻頭に述べた怪談ストリップにつながっていったのでした。

 

                                    おしまい