今回は、ロックの踊り子、藤咲茉莉花さんの11周年作「風の盆恋歌(こいうた)」を観劇レポートします。

 

H26年9月18日(木)、大和ミュージックに足を伸ばす。

今週の香盤は次の通り。①潤奈(天板)、②渚あおい(東洋)、③相田樹音(フリー)、④一宮紗頼(渋谷道劇)、⑤夏木りりか(ロック) 、⑥藤咲茉莉花(ロック)〔敬称略〕。

 会社帰りなので、三回目の一宮紗頼さんのポラタイムからの観劇となる。もちろんラストまで観ていくつもりだったが、深夜23時前に始まったトリの藤咲茉莉花さんの四回目ステージを拝見し、身体が震えるほどの感動を覚えた。「ステージ美、ここに極まる」という感想が自然に私の口からこぼれた。

 

 さっそくステージ内容を紹介する。

 川のせせらぎ、風鈴の音。半月形の大きな編み笠を深くかぶった着物姿で登場。美しく優雅な姿と振りがかなり強いインパクトとなり、私をぐっとステージに惹きこむ。

♪「越中おわら節」から、越中八尾の町、おわら祭りであることが分かる。おわら祭りは、9月1~3日の三日間、編み笠を深くかぶった女衆と黒装束の男衆が踊りながら八尾の町を流していく。これを町流しといい、古来から伝わる踊り。八尾は坂の多い街で、胡弓と三味の音が街の坂道に響く。弔いの人々が死者を送っていくようだと言われ、幽玄の世界が漂う。

 次に、着物姿で登場。白と黒のまだら縞で、下に向かうと綺麗な灰色になるという気品ある表面生地。足元がはだけて、オレンジの裏地が見える。白い帯を締め、その下には紫の帯が巻かれている。黒髪に大きめの白い櫛と簪(かんざし)。

 なんてキレイなんだろう~♡ 私は唸った。立ち姿だけでなく振付も素晴らしい。昨年10周年のレポートで‘ストリップ界の着物№1は間違いなく茉莉花さんだ’と評したところだが、今回まさしくそれを証明した作品になっている。

 石川さゆりさんの♪「風の盆恋歌」が流れる。

この周年作は、直木賞作家、高橋治さんの名作「風の盆恋歌」をモチーフにしているのが分かる。このあらすじは「互いに心を通わせながらも離ればなれに生きてきた男と女が、二十年ぶりに再会し、越中おわらの祭りに逢瀬するようになる。一年のうちのたった三日間の不倫という名の真実の愛。残りの362日の日常は偽りの自分か。ぼんぼりに灯りがともり、胡弓の音が流れるとき、風の盆の夜はふける。死の予感にふるえつつ忍び合う。・・・」

石川さゆりさんの♪「風の盆恋歌」の歌詞が、そのストーリーを見事に綴っている。次の曲が中島みゆきさんの♪「寄り添う風」。この曲がまた、この演目にピッタリの歌詞になっている。茉莉花さんが手ぬぐいや傘を使いつつ、しっとりと舞い踊る。

ステージは一旦、場面を変える幕のように、大きな簾が下りる。

上半身が裸で、赤い腰巻を付け、その上に赤い花柄の襦袢を羽織る。長い花道に白い花が散在。そのまま盆でベッドショーへ。スローバラード「今を生きる」が切々と流れる。「『今を生きる』といって死ぬことも実は物語にピッタリなのです」との茉莉花さんのコメント。

ステージの最後、簾が上がり、舞台の上は一面の花畑。花の中で簪(かんざし)を喉にさして息絶え、終わる。虫の音が聞こえる。

 

花芯がピンク色の白い花は小説の中に登場する「酔芙蓉(すいふよう)」。酔芙蓉が知ら間に玄関先に植えられていたくだりがある。朝、白い花を咲かせるが、夕方には酔ったように赤くなり花は落ちる。艶やかであるが儚い花である。まさに、この酔芙蓉が二人を暗示するかのごとく物語は進行する。

「おわら風の盆」の限られた日に、家庭の日常を離れ、毎年、八尾で密会を重ねることとなる。そして二人は遂に破滅への道を辿る。

小説では、東京に住む大新聞の部長の都築とえり子が主人公。年に一度の密会のために八尾に家を購入した都築だが、四年目、なかなか姿の見せないえり子に代わって現れたのはえり子の娘だった。「母は死にました」と告げて身を翻して去る。都築はたたきに降りようとして倒れた。再生不良性貧血が原因だ。そこに、えり子から電話が鳴る。都築の異常を知ったえり子は京都から駆け付ける。えり子は既に冷たくなっていた都築の身体に寄り添って睡眠薬を呑む。・・まるで「ロミオとジュリエット」ばりのラストシーン。ちなみに茉莉花さんのステージではラストを少し変えているね。

 

観終わって、感動がじわじわと身体に沁みてくる。これまで観てきた中でトップクラスの作品だ。「ステージ美、ここに極まる」という評は今の私が考え付く最大級の褒め言葉。

インターネットでいろいろ調べるとますます作品にはまっていく。しかも、八月のお盆週に発表されるや、茉莉花ファンを始めとして目の肥えたストファンが口伝えで、この作品の魅力を語り始め、評判が徐々に上がってきている。

改めて、この作品がもつ魅力を考察してみた。

まずは、高橋治の小説「風の盆恋歌」というモチーフが明確なこと。美しい物語になっていて、そのストーリーがはっきりと浮かぶ。物語になっていると印象が鮮明に残るもの。

しかも、たまたま石川さゆりさんの名曲「風の盆恋歌」があり、歌詞がそのままストーリーをなぞってくれる。説明しなくても勝手に客の頭の中にイメージが膨らむ。しかもドラマはどんどん美化されていく。この効果が計り知れない。

更に、作品の構成がよく出来ている。特に、最初のおわら風の盆踊り。日本の伝統美が作品に活かされ、この強いインパクトが作品の中に一気に引きこむ。その他、選曲を含め、非常によく考えられた構成になっている。

そして、茉莉花さんの演技力の素晴らしさ。着物姿が似合うという資質に加え、相当練習した跡が見受けられる。茉莉花さん自身、人妻の色香を出せる年齢になってきたかな。

また、衣装の美しさに加え、小道具の効果が抜群。なんと言っても酔芙蓉という花が印象的。他にも、傘や手ぬぐいが演技にうまく利用されている。

総括すれば、名作・名曲・名演技と三拍子そろっているのだ。成功しないはずがない。ステージに見惚れ、曲に聞き惚れ、知らず知らずに作品の魅力にはまっていく。

ストリップ・ファンとして、これだけの名作に出会えた幸せを噛みしめている。

 

 最後に余談ながら書き加えておく。

以上は、私がインターネットで調べた範囲で、読みかじりの知識でのステージ感想にすぎない。以前、渡辺純一氏の「愛の流刑地」(2006年5月刊)という新聞小説が掲載され、私は毎朝読んでいたが、その中に風の盆の話があり、それにイメージを重ねていた。ともかく、実際に小説「風の盆恋歌」を読んでみないといけないね。

また、越中おわらの風の盆を観に行きたくなる。高橋治の小説「風の盆恋歌」が1985年に刊行されると「おわらブーム」に火が付きテレビドラマや演劇にされる。更に石川さゆりが同名タイトル曲を1989年に発売(なかにし礼作詞、三木たかし作曲)することで「風の盆」は全国的に有名になった。以来、ふだんは人口二万人ほどの静かな山間の町だが風の盆祭りの時には三十万人の観光客が訪れるようになった。以前は三万人ほどの観光客だったというから十倍の経済効果をこの小説は紡ぎ出したことになる。

 

今回、大和でのたった一回のステージ観劇で、これだけの感動を与えて頂き、こうして文章化させてもらった。更に、ストーリーテーラーとしての私にストリップ小説を書いてみたいという刺激とインスピレーションを与えてくれた。私の体験をもとにストリップ小説「青葉城恋唄」を書き始めるつもり。翌週、茉莉花さんを追って仙台に遠征しながら書き上げたいと思う。できあがったら茉莉花さんにすぐに渡すね。

歳を重ねる度に作品の完成度を上げていく茉莉花さんと、こんな最高の気分にさせてくれた茉莉花さんのステージに敬意を表したい。

 

平成26年9月                        大和ミュージックにて

 

 

 

【付録】石川さゆりさん♪「風の盆恋歌」(なかにし礼作詞、三木たかし作曲)

 

蚊帳の中から 花を見る 咲いてはかない 酔芙蓉

若い日の 美しい 私を抱いて ほしかった

忍び合う恋 風の盆

 

私あなたの 腕の中 跳ねてはじけて 鮎になる

この命 ほしいなら いつでも 死んでみせますわ

夜に泣いてる 三味の音

 

生きて添えない 二人なら 旅に出ましょう 幻の

遅すぎた 恋だから 命をかけて くつがえす

おわら恋唄 道連れに