今回は、TS所属の踊り子・箱館エリィさんについて、シアター上野H30年お正月興行の模様を、新作「牧神の午後」を題材に語ります。

 

 

 

まずは何の先入観もなく、新作「牧神の午後」を二回拝見する。正直その内容が全く理解できなかった。(笑)

一旦そのまま内容を紹介する。

 

照明が点くと、エジプト壁画のような大きな布(幕)が現れる。

パッとその布を下ろすと、白い着物姿のエリィちゃん。かわった格好をしている。頭に二つの角と二つの耳を付け、白いリボンで包み込む。白い着物に、牛の斑模様の帯を締める。

そして足袋を履き、扇子を持ってノリノリで踊る。音楽は、ご当地ソング「牛タンラップ」。

一体この牛の着物姿という格好は、北海道出身らしいお正月気分か、はてさて何かのギャグかと勘繰るものの理解不能。

次に、肩紐で吊るした白い花柄の衣装に着替える。頭は後ろに髪をひとつ結びし、花輪を置く。ピンクの花柄のショールを操り裸足で舞い踊る。

音楽は、Björk(ビョーク)の「Saint」。トリのさえずりから始まる。ビョークの音楽だなんて渋い選曲センスだね。

ここで暗転。

けだるいクラシック音楽が流れる。

エリィさんが全裸になる。髪は解き垂らす。腰に一本の緑の蔓を巻く。その蔓はオリーブの実のように見える。

エリィさんが奇妙な踊りをしている。この振付は誰がしたのかな。かわいい裸体が流れるように舞うのを見ているうちにベッドへ。

ここで別のクラシック音楽に変わる。バッハの「ミサ曲ロ短調" Mass in B minor "」。

エリィさんが迫真のベッド演技を見せる。指入れオナニーを始めたときには思わず生唾ごっくん♪ しかも指爪のマニキュアが銀色にきらきらしているんですもん。どうしても目が釘付けになりますよ♡

立上り曲は、ジョーン・バエズ(Joan Baez)の「オルフェの歌」。

 

以上の内容紹介になりますが、読んでいて何を言いたいか分からないでしょ。そうなんです、私自身、一度見ただけではその内容をまったく理解できなかったのです。

すぐにエリィさんから解説をしてもらった。「新作は、昔の有名なバレエダンサーのニジンスキーが振付たバレエ作品が元ネタですー。実際舞台でオナニーしたって、伝説的な作品なんです~。三曲目の踊りは、その作品の振り付けを参考にしました。」

私はこの解説に基づいて、懸命に自分の知識不足を補おうとした。

エリィさんの演目はどれも元ネタがあり、しかも古典的な名作ばかりなので、いつもレポートするために調べると面白くて嵌ってしまうものばかり。これまでの作品の元ネタを見てみると、一作目はシェースピアの喜劇「夏の夜の夢」、二作目はフランス映画「ポンヌフの恋人」、四作目は元祖アダルトアニメ「くりいむレモン」で、調べれば調べるほど興味をそそられた。こうした背景が分かった上でエリィさんのステージを観ると、まさしく昆布のように噛めば噛むほど味が出てくる。

それは今回の六作目の元ネタがバレエ「牧神の午後」と分かることで、面白さは絶頂を迎えた。調べ出したら次から次へと興味が止まることを知らず時間を忘れた。最初にYouTubeでバレエ「牧神の午後」を拝見し、このベース音楽であるフランスの作曲家ドビュッシーの名曲「牧神の午後への前奏曲」を聴き、次にドビュッシーがこの曲のインスピレーショ―を与えられたという詩人マラルメの『牧神の午後』(『半獣神の午後』)に触れる(これは難解)。

更に、ネットでバレエ「牧神の午後」を調べる中で、山岸凉子の漫画「牧神の午後」 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)に出会い読んでみた。このバレエ「牧神の午後」を創り上げ演じた天才バレエダンサー、ニジンスキーの、衝撃的なデビューから神経衰弱を発病するまでの、栄光と悲哀を見事に描いている。ニジンスキーは常人とは思えない跳躍を見せ観客の度肝を抜く。四メートル半も跳んだらしい。その点について、彼は「跳べるような気がするんだ」とさらりと言う。まさに天才の感覚。ところが、彼は踊るためだけに生まれてきたような人間で、普通に生活する上での現実適応能力、コミュニケーション能力が全然ない。そのことを作者は「翼をもつ者には腕がない」という言葉で印象的に表現している。この漫画はニジンスキーを通して「天才」とはなにかを示唆してくれる名作である。

私はバレエ「牧神の午後」が持つあまりの奥深さに溺れそうになった。

 

バレエ「牧神の午後」のことを少し触れますね。(出典 Wikipedia)

『牧神の午後』は、クロード・ドビュッシーの管弦楽曲『牧神の午後への前奏曲』(1894年)に基づいて作られたバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のバレエ作品。レオン・バクストが美術と衣裳を担当し、同団の花形ダンサーであったヴァーツラフ・ニジンスキーが初めて振り付け、主演を務めた。バレエの筋書きは、ドビュッシーの作品にインスピレーションを与えたステファヌ・マラルメの詩『半獣神の午後』に拠っているが、振付は古典的なバレエの様式を全て否定した、モダンダンスの元祖ともいうべきものであり、露骨な性的表現と相まって、1912年にパリで初演された際には物議を醸した。

あらすじは次の通り。

牧神が岩の上で葡萄を食べていると7人のニンフ(妖精)が現れ水浴を始める。欲情した牧神は岩から降りニンフを誘惑しようとするが、ニンフ達は牧神を恐れて逃げ出してしまう。ひとり残された牧神はニンフの一人が落としたヴェールを拾い上げると、それを岩に敷き、自らを慰める。

 

 次から次へと知識が深まる中で、漸くエリィさんのステージが理解できた。

 まず最初に出てきたエジプト壁画のような大きな布(幕)はニジンスキー直筆の‘舞踊譜’という彼が織り上げた一枚の羽衣(ヴェール)ではないかな。

 また、最初の牛はニジンスキーの演じた牧神であり、次のピンクのショールを操っていたのはニンフ(妖精)だったのですね。

ニジンスキーは初演の中で、山羊の角と、牛を思わせる斑模様の肌着で、異様とも言えるほど完璧に「牧神」と同化しています。エリィさんのギャグセンスがこういう演出になったのですね。(笑)

また、ニジンスキーの振付は非常に独特で、身体は正面のまま顔は横向き、移動は左右のみという二次元的な振付でした。この独特の振付の着想は、古代ギリシャの壺絵ともエジプトの壁画とも言われていますが、従来のバレエとはまったく異質な動きです。モダンダンスの元祖といわれる所以です。エリィさんが全裸で模倣した動きはこの振付なんですね。

そして、この三曲目で流れていた、けだるい、ぼんやりとした曲調のクラシック音楽こそ、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」です。彼の出世作。演奏時間は約10分。

この曲はドビュッシーが敬慕していた詩人マラルメの『牧神の午後』(『半獣神の午後』)に感銘を受けて書かれた作品。" 夏の昼下がり、好色な牧神が昼寝のまどろみの中で官能的な夢想に耽る"という内容で、牧神の象徴である「パンの笛」をイメージする楽器としてフルートが重要な役割を担っている。

初演のラストシーンでは、ニンフが残していったヴェールの上にうつ伏せになった牧神が下腹部に手を入れて自慰の動作をし、腰を痙攣させて性的な絶頂を表現する。性的なテーマがこれほど露骨な形で表現された舞台作品というのは前代未聞であった。そのため、新聞紙上を含め知識人の間で大変な物議を醸した。しかし、そのことが好奇心の強いパリ市民の評判を呼び、公演は連日超満員という大成功を収めた。

エリィさんの激しいオナニーベッドショーはこれを反映しているんだね。

また、牧神がニンフ(妖精)の残していったヴェールの匂いを嗅ぎながらオナニーする場面に、今のストリップにおけるパンプレ人気のもとになる、女性が身に付けたものに対する男性のフェティシズム(性的魅惑)の源流を垣間見た気分になった。神でさえもこうなんだ!と思うと安心するよね。(笑)

まさしく、「牧神の午後」という作品は、人間の本質を生々しく表現した官能的エロティズムの世界を醸している。

素敵な世界に誘ってくれたエリィさんに心から感謝する。

 

 

平成30年1月                            シアター上野にて

 

 

『浦島太郎の玉手箱』 

~箱館エリィさん(TS所属)の演目「牧神の午後」を記念して~

 

 

 ご存知、浦島太郎のお話です。

 浦島太郎は助けたカメに連れられて竜宮城に行きました。

 竜宮城にはそれはそれは美しい乙姫様がいました。太郎は一目惚れ。こういう女性(ひと)を絶世の美女というんだろうなと心底思いました。

 太郎は、亀を助けた御礼として酒宴を催してもらいました。たくさんの海の幸とお酒を振る舞われ、そしてタイやヒラメの舞い踊り。その酒宴は三日三晩も続きました。その間、乙姫様はいつも浦島太郎の側に居てお酌の相手をしてくれました。太郎にはまさしく夢のようなひとときでした。

 三日後、太郎は乙姫様に言いました。「ついついご厚意に甘えて、たいへん長居をしてしまいました。家では年老いた両親が心配していると思います。そろそろ御暇乞(おいとまご)いさせて頂きます。」

 乙姫様は太郎のことを気に入り、太郎の手をとり、太郎の目を見詰めながら「貴方さえ宜しければ、このままずっと竜宮城で暮らして頂きたいと思っていました。でも、貴方様のご事情もありますでしょうから致し方ありません。でも、また是非戻ってきてほしいです。私に会いたいと思いましたら、いつでもいらして下さいね。」と声をかけてくれました。

 太郎はとても喜びました。

 乙姫様は太郎の反応を見て大層喜びました。そして、「私のことを思い出しましたら、この玉手箱を開けて下さいね。」と言って、小さな箱をお土産に持たせてくれました。

 

 太郎は、また助けた亀に連れられて元の漁村に戻っていきました。

 元の生活は味気なく退屈なものでした。太郎はすぐに竜宮城の乙姫様のことを懐かしく思い出しました。そして、お土産に頂いた玉手箱を開けました。

 すると、中には乙姫様の使用済みの下着が入っていました。太郎は驚きました。手にとって広げると微かに沁みの痕跡があります。思わず、その下着を鼻孔に押し当て匂いを嗅ぎました。強烈な匂いに頭がくらりとしました。これがあの大好きな乙姫様の匂いです。そう思うと太郎は卒倒しそうになりました。太郎は股間に手を伸ばし激しくオナニーを始めました。美しく優しい乙姫様の笑顔が目に浮かんできます。太郎は夢の中を彷徨いながら果てました。

この世にこれほどの快感があるだろうか。大好きな乙姫様の匂いに包まれてのオナニーは最高でした。

 太郎は仕事もせず、飽きずにせっせせっせとオナニーに耽りました。

 いつの間にか、太郎は痩せ細り、頭は白髪頭になり、まるで老人のようになりました。太郎は「あぁ~こんな姿になってしまったからには、もう乙姫様に合わせる顔がないなぁ」と悲観にくれました。

 

 一方、亀の話をします。

 助けた亀はそのご恩返しとして浦島太郎を竜宮城に連れていきましたね。

 ところが、太郎が乙姫様といちゃいちゃしていた三日間、ずっとほったらかしの状態でした。さすがの亀も堪忍袋の緒が切れそうになりました。

 そのため、村に帰るまでの面倒はみましたが、それ以降は太郎の前に現れませんでした。

 太郎は、海に向かって「亀さんよー、戻ってきておくれよー」と何度も叫ぶのでした。

 

 太郎は、乙姫様に会えない憂さを晴らすために、ますますオナニーに励みました。

 あまりにも、匂いを嗅ぎ過ぎたのか、下着の匂いはどんどん薄れていきました。

 薄れていく匂いの中で、太郎は静かに息を引き取りました。眠るように死んでいった太郎の顔には笑みが浮かんでいました。まさしく大往生。めでたしめでたし

 

                                    おしまい