. 「耳をすませば」がやってくる  

 

 森のストリップ劇場に、映画『耳をすませば』の主人公、月島雫と天沢聖司のカップルがやってきた。

天沢がバイオリン職人として10年間のイタリア修業が明けて帰国。中学時代の約束通り、つい最近二人は結婚したばかりで、ほやほやの新婚カップル。二人は今25歳同士。

 雫は、中学生の時に聖司と結婚の約束をしてから後、バイオリン職人としての夢を追い続ける聖司に負けまいと、自分も小説家になる夢を膨らませる。聖司のおじいさんのアドバイスもあり、自分の勉強不足を痛感して、高校そして大学へと進学する。大学在学中に書いた小説「猫の恩返し」で新人賞をとり、運よくジブリの目に留まり、絵本や映画化まで実現し、一躍時の人になりました。

 今では、ストリップのことにも興味が湧き、大和ミュージックというストリップ劇場で受付のバイトをしていると聞きます。

 お陰で、今回の森のストリップ劇場への来訪につながりました。

今回は、雫の親友である(原田)夕子と杉村のカップルも同行しました。二人も既に結婚していました。二人を見ていると、中学時代の淡い思い出が蘇ってきます。杉村を好きだと夕子に相談された雫。ところが杉村は雫のことがずっと好きだった。そのとき雫は聖司に思いを寄せていたため、杉村は雫にふられる。しかし、杉村が夕子と結ばれて本当に良かったと雫は思っていた。今回は雫にとって新婚気分だけじゃなく、ノスタルジックなストリップ観劇になる。

 

 カメさんは、有名になった雫に挨拶に行き、「これは私が書いたストリップ関係の絵と文章です。つまらない内容ですが、よろしければ見て頂けると嬉しいのですが。」と冊子にしたものを渡した。雫は開演までの時間を、その冊子に目を通していた。

 

 いよいよストリップが開演しました。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、ラストに看板娘のうさぎちゃんが出演して盛り上がる。カメさんも懸命にリボンを投げて応援しています。

 映画『耳をすませば』の面々は、目を凝らし、耳をすまして観劇していた。

 

 一公演終了後、カメさんとうさぎちゃんは映画『耳をすませば』の面々に挨拶に行く。

 うさぎちゃんのステージも褒められたけど、カメさんのリボンも褒められた。二人の息がぴったり合っていることから、うさぎちゃんとカメさんがすてきなパートナーであることがすぐに彼らに伝わったようだ。カメさんがうさぎちゃんをストリップに誘って、カメさんがリボンとして懸命にうさぎちゃんを応援している二人のなれそめも知った。

 そのとき、雫はカメさんに向かってこう言った。「カメさんから頂いた冊子を拝見させてもらったわ。すごく素敵な内容だった。粗削りなところもあるけど光る原石を見つけた気分になった。カメさんには私と同じ表現者の血を感じるわ。

 カメさんはうさぎちゃんを支え、立派な踊り子にさせることが夢だと話してくれたけど、もうひとつ別の夢を追いかけたらいいわ。カメさんには表現者の才能があるから、それを開花させる夢を持つべきね。

 私はストリップに興味をもったので、今度ストリップを題材にして記事や小説を書こうと思っているの。カメさんも協力してくれないかな。まずは私の文章の挿絵を頼みたいな。

 また、カメさんも、冊子の内容を公表する気がない? 私が協力するわよ。」

それに対して、カメさんは答えた。「ボクには夢なんか無いんだ! ボクの夢は、うさぎちゃんのことを立派な踊り子にするよう支え続けることなんだ。」

雫は「そうかな? カメさんの絵や詩はすてきよ。才能あると思うわ。その才能を活かすべきよ。」

カメさんは「いや、ボクの絵や文章は全然ダメなんだ。こんなんで人に見せることなんて出来ない。」

雫は「それはカメさんが自分で勝手に思っていることでしょ。評価は他人が決めるのよ。いや、本当は自分でわかっているはず。そうでなければ、これだけ続けられないもの。

 今回の冊子は最新号になっていたけど、毎日毎日、日記風に書かれているわね。ずっと長い間、書き続けているのね。毎日続けていることが素晴らしいこと。‘継続は力’と云うけど、書いたものが凄いというより、いつでも書けるということがもっと凄いことなの。それが才能なのよ。」

 カメさんは嬉しそうにはにかんだ表情を浮かべた。

 雫は更に言葉を重ねた。

「自分の中の原石を見つけて、それを磨いていけば、必ず原石は輝くのよ。これだけ続けられたってことは、もう自然に原石は磨かれているわ。それを思い切って、公開するかどうか。公開しないと後悔するわよ。(ダジャレ)

カメさん、もっと自信をもって! あなたは、とっても素敵です。そのことは、うさぎちゃんが一番よく知っています。あなたの描いた絵や詩がうさぎちゃんをどれだけ励ましているか!? 一番の理解者がすぐそばにいるんですよ。」

 カメさんはうさぎちゃんの顔を見て頷いた。

 

 雫は感動していた。「ストリップという素晴らしい世界。そしてカメさんという新しい才能の発見。夢追い人がたくさん。あぁ~最高だわ!」

 

おしまい