「風立ちぬ」がやってくる
森のストリップ劇場の近くにあるホテルの中で、カメさんは一組のカップルと出会いました。映画「風立ちぬ」に出演していたので顔を知っていました。
男の名前は堀越二郎。零戦を発明した有名な科学者です。スマートでさっそうとした含羞(がんしゅう、はにかみの意味)、身のこなしが軽やかで、人懐こく、礼儀正しい紳士。
女は二郎の妻、菜穂子。美しく明るい貴婦人。
菜穂子さんは絵画が趣味で、パラソルの下で絵を描いている姿は、まるでクロード・モネの絵「パラソルを持った人」そっくりでした。絵の好きなカメさんは菜穂子さんに話しかけました。受け答えの上品さに惹かれました。強い風が吹いてパラソルが飛んだ時に、カメさんが取ってあげたこともありました。
ホテルのデッキで、堀越二郎さんが本を読んでいました。堀辰雄の著「風立ちぬ」でした。彼はまるで台詞の棒読みのように「風立ちぬ、風立ちぬ、風立ちぬ・・・」と呟いていました。
説明するまでもありませんが、「風立ちぬ」とは風が立たないという意味ではありません。「ぬ」は完了の意味の助動詞の終止形。だから「風立ちぬ」は「風が立った」または「風が確かに立つ」ことを表しています。
カメさんは「横に座ってもいいですか」と言って話しかけた。
「こちらへはどういうご用件で来られたのですか?」
堀越二郎さんは気さくに答えてくれた。「ええ、実は、零戦の功労として長期休暇がもらえたので避暑としてやってきたのです。あと、私の場合は糖尿病を患っているので療養も兼ねています。」
カメさんは「そうか、旦那さんがインポテンツなために、このカップルには子供がいないのか。」と察しました。
そこで「このホテルの近くに森のストリップ劇場があります。適度に刺激もありますので、是非奥様とご一緒にいらして下さい。」と言って、劇場の無料招待券二枚を渡した。
翌日、二人のカップルは仲良く手を繋いで、森のストリップ劇場にやってきた。
カメさんの話を事前に聞いていたので、劇場関係者もうさぎちゃんたち踊り子も二人を大歓迎した。
菜穂子さんは、うさぎちゃんやバンビちゃんの可愛さに大感激。
二郎さんも大興奮して叫んだ。「チンポ立ちぬ!!!!!」
二郎は、菜穂子を急き立てるようにしてホテルに帰っていった。
カメさんとうさぎちゃんは唖然として顔を見合わせた。
「きっと菜穂子さんは映画のように『あなた、早く来て!』って言ってんだろうなぁ・・」とカメさんは呟いた。その後の話は‘風とともに去りぬ’だね。
おしまい