ハウルの動く城がやってくる  

 

 森のストリップ劇場の上空に大きな異様な物体が飛んできました。上部に複数の砲塔がありますが、とても戦闘機とは思われません。どう見てもガラクタの集積のような造りです。UFOならこんな造りはしていないですよね(笑)。

 とにかく劇場の面々は大騒ぎ。これは大変と、てんやわんや。

 

 その物体は劇場の近くに降り立ちました。なんと鳥のような四本の足があって、のっそのっそと劇場まで近づいてきて止まりました。砲塔からプシューと蒸気が吹き出ました。

そして、中から、生き物がぞろぞろと出てきました。最初にピョンと飛び出してきたのは一本足のかかしでした。次に、ずんぐりむっくりした老犬がのっそり現れる。その後から、年老いた老婆を車椅子に乗せ、その椅子を押す少年の姿。

 最後に、二人の男女の姿が見えました。男の方は木村拓哉似の美青年。そして、女の方は90歳のおばあさんでした。老婆ですが、背筋はシャキンとしていて品があります。どこか倍賞千恵子に似た可愛さを持っています。

 博識のカメさんはすぐに映画「ハウルの動く城」の面々だと気づきました。二人の男女はハウルとソフィーです。かかしはカブ、犬はヒン。車椅子の老婆は「荒地の魔女」で、車椅子を押しているのは少年マルクルです。そうです、この異様な物体こそ「ハウルの動く城」だったのです。

 彼らは、激しい戦争が終わって、平和なひとときを味わいたくて、森のストリップ劇場にやってきたようです。なるほど、ストリップって平和の象徴だよね。

 

 カメさんとうさぎちゃんは、すぐにハウルとソフィーのところに近づき挨拶をしました。

 うさぎちゃんはハウルの美しきに呆然としました。金髪の髪に青い瞳。見ているだけで吸い込まれそうな美しさです。ハウルが映画の中で言った「美しくなければ生きていけない」という台詞は有名です。

 驚くのは、その美青年のお相手が90歳の老婆であることです。動揺しているうさぎちゃんに対して、カメさんは落ち着いて「立ち入った話で恐縮ですが、お二人は歳の差が随分あると思いますが、どうしてカップルになったのですか?」と質問しました。

 ハウルは笑って話してくれました。「若い女性だけが美しいわけじゃないよ。若さがなくなると美しさも一緒に消えていくと思っている人がいるけど、そんなことはない。歳をとると年齢相応の美しさを持つんだ。ストリップを観ているとよく分かると思うんだけど、ベテランの方は技術に磨きがかかり素晴らしいステージをするよね。若い娘は技術が未熟な分だけ、若さを強調して美しい裸体を披露すればいい。女性はいくつになっても歳相応の美しさを持っているんだ。」

 ソフィーが凛とした表情で、かつ優しい眼差しで、付け加えました。「あなた方はハウルの外見の良さだけを見ちゃうでしょ。でも実際の彼はダメ男なのよ。自分の身なりばかりを気にしていて、少し髪型が乱れただけですぐ泣いちゃう弱虫なのよ。

悪魔に心臓を取られた時なんか、失くした自分のハートを埋めたくて、必死で女の子のハートを射止めようと声をかけまくったプレイボーイだったのよ。心臓が戻ってからは浮気癖が収まり、漸く私のところに居てくれるようになったわ。

本当は、私は彼が浮気したってかまわないの。私はこんな老婆だから、彼だってたまには若いぴちぴちの娘の相手をしたい時もあるでしょ。それでもいいの。最後に私のところに戻ってくれると信じているから。私はね、彼の古女房でいいの。」

カメさんは、ソファーの瞳の奥に母親を感じました。母親は自分の息子のためならいつでも死ねます。だから息子が自分以外の女性を愛し結婚しても、それを潔く認める自己犠牲愛を持つのです。また息子を想う母親の愛は、いくら息子が歳をとって老人になろうが変わりません。いつまでも海のごとく深く、海のように透明なのです。

二人の愛は親子の愛に近いのかもしれませんね。愛にはいろんな形があっていいのです。

そのとき、ハウルの動く城の中から、大きな声が聞こえてきました。火の悪魔カルシファーの甲高い声です。「二人の愛を取り持ったのはオレだよ。二人の燻(くすぶ)っていた心に火を点けたのさ。」

 

ところで、ハウルとソフィーは、仲よくしているカメさんとうさぎちゃんに対して、こんな質問しました。

「カメさんとうさぎちゃんは、それぞれ寿命が違うでしょ。カメさんは長生きするし、うさぎちゃんは寿命が短い分、早く歳をとっちゃう。カメさんは年老いたうさぎちゃんを愛することができるかな?」

 カメさんはきっぱり言いました。「ボクは一生うさぎちゃんのことを愛し続けると誓います。」

「そう。それなら早くうさぎちゃんの気持ちに応えてあげることね。うさぎちゃんが早く結婚したがっているのは本能なのよ。動物のもつ寿命の違いを理解してあげてね。」とソフィーは言いました。そして二人のために「世界の約束」を歌ってあげました。優しいメロディ、心に沁みる歌声と歌詞です。

 またまた、城の中からカルシファーの声が聞こえます。「オレ様が二人の心を燃え盛らせてあげるぞー!」

 

 ハウルたち面々は終日、森のストリップ劇場で、ストリップを楽しみました。

 荒地の魔女は「若い血は私を若返らすわね」と喜び、かかしのカブも「魔法が解けそうな気分」と喜びました。

 城の中から「おいらにもストリップを見せろ~」と叫ぶカルシファーの声が聞こえます。かわいそうですが、彼が城から離れると城が壊れてしまいますからね。ハウルの面々は帰路の途中でストリップの土産話をカルシファーにしてあげたようです。

                                    おしまい