今回は、DX歌舞伎所属の踊り子・葉月凛さんについて、八周年作品「百万回生きたねこ」を題材にして話します。

 

 

 

童話「百万回生きたねこ」は題名を知っていたくらいで内容は知らず、今回ステージを拝見して私の琴線に触れました。次のような内容である。

舞台でナレーションが入る。

「100万年も死なない ねこがいました。100万回も死んで 100万回も生きたのです。立派なとらねこでした。・・・」から物語は始まる。

このセリフに沿って凜さんが演じていくのでストーリーが分かりやすい。また、このはきはきした女性のナレーションがメロディのように耳に馴染んでくるのが大きな特徴である。すーっとファンタジーの世界に入り込んでいける。

最初に、海賊の姿で登場。ねこは海賊に飼われていましたが、海に落ちて死んでしまう。

次に、マジシャンの姿で登場。ねこはマジシャンの手品のネタに使われていた。箱に入れられてノコギリで真っ二つ。ねこは無事に現れ拍手喝采。ところが、ある日マジシャンの手違いでねこは真っ二つにされ死んでいく。

その次は、泥棒の姿で登場。ねこは泥棒に利用され、ねこが犬に吠えられている間に泥棒が仕事をしていた。ところが、ある日ねこは犬に噛まれ死んでしまう。

この三つの場面で、飼い主たちは大好きなねこが死んで泣き悲しむ。ところが、ねこはすべての飼い主が大嫌いだった。

凛さんは前半部の三つの場面で男の子のねこに扮して演ずる。とてもかわいらしくて似合っている。表現者としての彼女の才能が光る。

後半部では、ねこは誰にも飼われていない野良猫として登場。ねこは自分のことが大好きで自由気ままを謳歌する。ステージでは、ねこに扮した凜さんが楽しそうにロックンロールを踊る。

ねこはモテモテで多くのメスねこから言い寄られるにもかかわらず、自分のことを見向きもしない美しい白いねこが気に入る。最初はなかなか相手にされなかったが、ねこは白いねこに一生懸命にプロポーズして受け入れてもらう。凛さんが白いねこに扮して、白いドレスを着て舞い踊る。

二人はたくさんの子猫に恵まれる。ねこは白いねこの側にいることが幸せだった。

子猫たちが大きくなり全員旅立っていき、白いねこは年老いる。そして、白いねこはねこに見守られて死んでいく。ねこは来る日も来る日も百万回も泣く。泣き終わって、ねこは死んでいく。「ねこはもう決して生き返ることはなかった。」

 

前半部は海賊、マジシャン、泥棒とそれぞれ波乱万丈な人生を送り、それを百万回も生き返っていたわけだが、後半部は一転、穏やかな家庭生活に入り幸せな一生を送る。そして「ねこはもう決して生き返ることはなかった。」ということに、「あーよかった!」という不思議な感動を覚える。この結末がこの物語の後味の良さになっている。

まるでミュージカル公演を観ている気分になる。佐野洋子のこの有名な童話をストリップ作品として纏め上げたことが驚きであり感動であった。まさしく葉月凛という踊り子の凄さを見た思いである。

 

私は無性に原作が読みたくなった。

原作では、前半部に、もう三つの場面がある。戦争の好きな王様が飼い猫を戦場に連れていき、ねこは矢に当たり死んでしまう。また、女の子がねこを猫可愛がっていたが、おんぶ紐がねこの首に巻き付き死んでしまう。最後には、おばあさんが可愛がっていたねこを老衰で死なせる場面がある。

いずれも、ねこは飼い主のことが大嫌いだった。そのせいか、猫の死に方がとてもシュールである。マジシャンにノコギリで真っ二つにされたり、おんぶ紐に首を吊られたり、あまりにも悲惨な死に方である。最後に、おばあさんに飼われたねこのみが老衰で生を全うしたのが救いかな。

私は前半部は、ねこが夢を追う部分と感じた。どんな人生があるか分からない。わくわくしながらページをめくり、次はどんな夢を叶えるのかなと楽しめる。ところがどの人生も悲惨な死が待っている。一見おばあさんとの場面では老衰で人生を全うしたかのようだがそれでも幸せだとは思えない。

それは、ねこが主体的に生きていないから。ねこはすべての飼い主が嫌いだった。愛されているにもかかわらず「愛」を感じなかった。愛を感じない人生は幸せとは言えない。

一転、前半部の「夢」に対して、後半部は「愛」に満ちている。

飼い主による受動的な人生ではなく、自由気ままな野良猫。自分の好みで伴侶を選ぶ。愛を与えられるのではなく、愛を与える生き方になる。波乱万丈な冒険に満ちた人生ではなく、平凡な家庭生活の中に本当の幸せがある。主人公は愛を与えることにより、愛に満ちた一生になった。これまで百万回も生きて一度も泣いたことがなかった主人公が、たった一度の人生で愛する者を失って百万回も泣くことになる。

人生というのは、愛を得ることと愛を失うことの繰り返し。愛による喜びと悲しみを知れば、人は幸せな一生であり、満足して死ねる。だから「ねこはもう決して生き返ることはなかった。」のである。

 

 

お正月早々、こんな素敵な童話と作品に触れさせて頂き、幸せな気分になりました。凜さんに心から感謝します。

 

 

平成29年1月7日                         DX歌舞伎にて

【付録】童話『百万回生きたねこ』(佐野洋子作) (※漢字版にしました)

 

100万年も死なない ねこがいました。

100万回も死んで 100万回も生きたのです。

立派なとらねこでした。

100万人の人が そのねこが死んだとき泣きました。

ねこは 1回も泣きませんでした。

 

あるとき ねこは 王様のねこでした。

ねこは 王様なんか嫌いでした。

王様は戦争が上手で いつも戦争をしていました。

そして ねこを立派な駕籠に入れて 戦争に連れていきました。

ある日 ねこは飛んできた矢に当たって死んでしまいました。

王様は戦いの真っ最中にねこを抱いて泣きました。

王様は戦争を止めて お城に帰ってきました。

そして お城の庭に ねこを埋めました。

 

あるとき ねこは船乗りのねこでした。

ねこは 海なんか嫌いでした。

船乗りは世界中の海と世界中の港に ねこを連れて行きました。

ある日 ねこは船から落ちてしまいました。ねこは泳げなかったのです。

船乗りが急いで網ですくいあげると ねこはびしょ濡れになって死んでいました。

船乗りは 濡れた雑巾のようになったねこを抱いて大きな声で泣きました。

そして遠い港町の公園の木の下にねこを埋めました。

 

あるとき ねこはサーカスの手品使いのねこでした。

ねこは サーカスなんか嫌いでした。

手品使いは毎日ねこを箱の中に入れて のこぎりで真っ二つにしました。

それから まるのままのねこを箱から取り出して拍手喝采を受けました。

ある日 手品使いは間違えて本当にねこを真っ二つにしてしまいました。

手品使いは 真っ二つになってしまったねこを 両手にぶら下げて大きな声で泣きました。

誰も拍手喝采をしませんでした。

手品使いはサーカス小屋の裏に ねこを埋めました。

 

あるとき ねこは泥棒のねこでした。

ねこは 泥棒なんか大嫌いでした。

泥棒は ねこと一緒に 暗い町をねこのように静かに歩き回りました。

泥棒は 犬のいる家だけ泥棒に入りました。

犬がねこに吠えている間に 泥棒は金庫をこじ開けました。

ある日 ねこは犬にかみ殺されてしまいました。

泥棒は盗んだダイヤモンドと一緒にねこを抱いて

夜の町を大きな声で泣きながら歩きました。

そして 家に帰って 小さな庭に ねこを埋めました。

 

あるとき ねこは ひとりぼっちのおばあさんのねこでした。

ねこは おばあさんなんか大嫌いでした。

おばあさんは毎日ねこを抱いて 小さな窓から外を見ていました。

ねこは一日中 おばあさんの膝の上で 眠っていました。

やがて ねこは年をとって死にました。

よぼよぼのおばあさんは よぼよぼの死んだねこを抱いて 一日中泣きました。

おばあさんは 庭の木の下に ねこを埋めました。

 

あるとき ねこは小さな女の子のねこでした。

ねこは子供なんか大嫌いでした。

女の子は ねこをおんぶしたり しっかり抱いて寝たりしました。

泣いたときには ねこの背中で涙を拭きました。

ある日 ねこは女の子の背中で おぶいひもが首に巻き付いて死んでしまいました。

ぐらぐらの頭になってしまったねこを抱いて 女の子は一日中泣きました。

そして ねこを庭の木の下に埋めました。

ねこは 死ぬのなんか平気だったのです。

 

あるとき ねこは誰のねこでもありませんでした。

野良ねこだったのです。

ねこは 初めて自分のねこになりました。

ねこは 自分が大好きでした。

なにしろ立派なとらねこだったので 立派な野良ねこになりました。

どんなメスねこも ねこのお嫁さんになりたがりました。

大きな魚をプレゼントするねこもいました。

上等のねずみを差し出すねこもいました。

珍しいまたたびをお土産にするねこもいました。

ねこは言いました。

「おれは100万回も死んだんだぜ。いまさら おかしくって!」

ねこは誰よりも自分が好きだったのです。

 

たった一匹 ねこに見向きもしない白い美しいねこがいました。

ねこは白いねこの側に行って

「おれは100万回も死んだんだぜ!」と言いました。

白いねこは「そう。」と言ったきりでした。

ねこは少し腹を立てました。なにしろ自分が大好きでしたからね。

次の日も 次の日も ねこは白いねこの所に行って言いました。

「君はまだ一回も生き終わっていないんだろ。」

白いねこは「そう。」と言ったきりでした。

ある日 ねこは白いねこの前でくるくると三回宙返りをして言いました。

「おれ サーカスのねこだったこともあるんだぜ!」

白いねこは「そう。」と言ったきりでした。

「おれは100万回も・・・・」と言いかけて ねこは

「そばにいてもいいかい。」と 白いねこに尋ねました。

白いねこは「ええ。」と言いました。

ねこは 白いねこの側にいつまでもいました。

 

白いねこは かわいい子猫をたくさん産みました。

ねこはもう「100万回も・・・・」とは決して言いませんでした。

ねこは 白いねことたくさんの子猫を自分よりも好きなくらいでした。

 

やがて子猫たちは大きくなって それぞれ何処かへ行きました。

「あいつらも立派な野良猫になったなあ。」とねこは満足して言いました。

「ええ。」と白いねこは言いました。

そして グルグルと優しく喉を鳴らしました。

白いねこは 一層優しくグルグルと喉を鳴らしました。

ねこは白いねこと一緒に いつまでも生きていたいと思いました。

 

ある日 白いねこは ねこの隣で静かに動かなくなっていました。

ねこは 初めて泣きました。夜になって 朝になって また夜になって 朝になって ねこは100万回も泣きました。

朝になって 夜になって ある日のお昼に ねこは泣き止みました。

ねこは 白いねこの隣で静かに動かなくなりました。

ねこは もう決して 生き返りませんでした。

 

                                    おしまい