栗橋の踊り子・黒井ひとみさんについて、H29年11月結のライブシアター栗橋での5周年の公演模様を、周年作「上海バンスキング」を題材にレポートします。
周年作「上海バンスキング」を観たまま感じたままを紹介する。(まずは、演目名も知らずに観劇した状態で、私の感性に従って書いてみる。)
最初に、チャイナドレス姿の女性が登場。昭和初期のクラブかキャバレーをイメージ。
チャイナドレスの定型で丸い襟元に袖なし、緑色を基調にして金の刺繍が散りばめられた豪華な衣装である。特徴的なのがスカートの裾部のみ透け透けの生地になっている点。
頭には、長いロングのウイッグをかぶり、左側頭部に黒・赤・青の羽根飾りを付ける。
赤い大きな羽扇子を振り回し、銀のハイヒールを履いて華麗に舞い踊る。
インスト曲に変わり、チャイナドレスを脱ぐ。下にはコルセット状の赤い衣装が現れる。胸元に銀の刺繍が入った華やかな衣装である。
楽しく踊っていたところ、突然、銃撃の音。逃げ惑う観衆。ピストルの単発が次第にマシンガンの連射へと激しくなり、最後は飛行機の音が聞こえ建物ごと爆破される。
場面は変わり、波止場の風景。
カーキ色の軍人服を肩に羽織って、女性が登場。金色の煙管をくわえている。吸っているのは煙草か、それとも阿片か。きっと軍人相手の娼婦になったのだろう。
そのまま、盆の上でオナニーショーを始める。
軍服と絡みだしたので、このまま軍人とハッピーエンドになるのかと思い気や、途中から、女性の表情が険しくなる。
軍人に捨てられたのか、軍人と死に別れたのか、はては阿片で身体がボロボロになったのか、その辺の事情は分からないが、軍人との関係は続かず破局を迎える。
最後に、明るい曲に変わる。女性が白く明るいキラキラした布を身体にくるりと巻いただけの姿で登場。布は左肩のところに結ばれて、足元まで流れる。白い羽扇子をもって裸足で優雅に踊る。そこは天国なのか。彼女は死んで天国で舞っているのだろう。
ここまで書いた後に、演目名になっている元ネタの「上海バンスキング」というミュージカルを調べ、また、ひとみさんから解説を加えてもらった。私の最初の印象がどう変わっていったかを述べていきたい。
ミュージカル「上海バンスキング」は、斎藤憐の戯曲。1936年(昭和初期)の上海を舞台にジャズのバンドマンとダンサーの物語を描いた音楽劇で、オンシアター自由劇場により1979年に初演された。これまでに複数回、舞台化や映画化がされている。バンスというのはギャラの前借りのことである。
次のようなあらすじ。
日中戦争が開戦する1年前の1936年の初夏、クラリネット奏者である波多野は、妻であるまどか(マドンナ)と上海にやって来る。軍国主義が広まりつつある日本を離れ、ジャズを自由に演奏できる上海に行くために、波多野は妻をパリに連れて行くとだましたのである。
2人を迎えたトランペット奏者の松本(バクマツ)はギャンブルが好きで、つねにクラブ「セントルイス」のオーナーのラリーから前借り(バンス)をしている。やがて松本はラリーの愛人であるリリーと恋に落ちる。松本に怒りを表すラリーを仲裁するまどかと波多野も、彼らとともにクラブのショーに出演することになる。
松本とリリーが結婚して間もなく日中戦争が始まり、日本の軍隊が上海にも侵略の手を伸ばすことで、上海からは自由もジャズも消えていく。やがて戦争が終わり、再び自由が戻って来た時には、波多野は阿片中毒で廃人となり、戦争に駆り出された松本は戻って来る途中で死んでしまう。
実際のミュージカルでは、以上のストーリーになる。ここまでの知識をもって再度ひとみさんのステージを拝見すると、改めて彼女の迫真の演技に胸を詰まらせる。
今回の演目では、音楽は全部サントラからとっている。ちなみに、劇中に使われる楽曲としては「ウエルカム上海」が唯一のオリジナルで、他は映画などのスタンダードナンバーが数多く使われている。
なお、最後の部分が原作と違うので質問してみた。ひとみさんの演目では少し変えているのが分かった。「ストーリーは元ネタのミュージカルをちょっとひねっていて、上海のキャバレーの女の人が戦争で恋人を失い、哀しみから阿片中毒になって幻覚をみながら死んでしまう・・・(レイプ) 最後は天国で幸せになる・・です。」
ひとみさんは、ジャズのバンドマンとダンサーが戦争という時代に翻弄される姿にやるせないものを感じて、どうしても最後は天国で幸せになってほしいという思いを込めたようだ。「私なりの反戦ものです。」
彼女の表現者(アーティスト)としての真骨頂を見た思いがする。素敵な作品と出会わせてくれたことを心から感謝したい。
平成29年11月 ライブシアター栗橋にて