今回は、H29年8月中の大阪東洋ショー劇場での、ロックの踊り子・大見はるかさんのステージ模様を、演目「朧月夜」を題材にしてレポートします。
H29年9月中の大阪東洋ショー公演の初日に顔を出す。
今週のメンバーは次の通り。①北川れん(道劇)、②鶴見つばさ(ロック)、③榎本らん(東洋)、④大見はるか(ロック)、⑤荒木まい(東洋)〔敬称略〕。
大見はるかさんは15日ロングなので、既に今週お会いしていて二度目になる。今週は三個出しだが、その中に演目「朧月夜」があった。実は前回6月結の東洋公演で初出ししたこの演目を拝見して気に入り、また観たいと思っていたので嬉しかった。
もうひとつ偶然が重なった。私は今年六月から源氏物語を読んでいた。前回ちょうど朧月夜のところを読書中で、また今回は最後まで読み終わったばかりで感動を引きずっていた。そのため今回はこのレポートを書く気満々だった。
さっそく演目「朧月夜」のステージ内容を紹介しよう。
盆前からスタート。白い上下セパレートの衣装で登場。上部は肩出しの吊るしでピンクのブラの周りをふわふわした白い布地が囲む。白い花を中央に置く。下部は前上がり後ろ下がりのギザギザした白い布。右頭部に白・ピンクの花飾り。数珠を垂らしたような白い首輪。両手首にも白い布地。
NEWSの曲「I・ZA・NA・I・ZU・KI」に乗って、ピンクの扇子を振り回して、裸足で舞い踊る。二曲目は切々と歌うFlowerの「初恋」。
次に、白い衣装に着替える。首の後ろで結んだワンピースドレスが足元までふわりと流れる。衣装は、白の中に赤と青の線が描かれている。胸元の赤い花がワンポイント。またFlowerの美しいバラード曲「熱帯魚の涙」に合わせ、スカートの裾を掴んで振りながら舞い踊る。
そのままベッドへ。黒い扇子を持っている。赤いパンティを脱ぐ。
立上り曲は中島美嘉の名曲「一番綺麗な私を」。とてもいい選曲だね。
最後に舞台に戻り、ピンクと黒の二つの扇子を丸く重ねてポーズを決めて終わる。
しっとりとしたいい演目である。大人の女性としてのはるかさんの艶やかさを感ずる。
「朧月」は霧(きり)や靄(もや)などに包まれ、柔らかくほのかにかすんで見える春の夜の月のことで、「朧月夜」は朧月が出ている夜のこと。私は今回の演目をてっきり唱歌「朧月夜」を代表とする風情をテーマにしていると思っていたが、はるかさんからのポラコメに源氏物語の朧月夜と書かれてあり驚いた。
一体この作品のどこから源氏物語の朧月夜をイメージするのか。また、そもそも源氏が愛した数ある女性の中でどうして朧月夜に惹かれたのか、気になった。
翌日、この観点からステージを観直してみた。ハッと気づいた。二つの扇子が月を意味しているんだ!これは朧月夜という女性の側の気持ちにならないと見えてこない。
朧月夜は宮中の桜花の宴の夜に思いがけず源氏と出会い見初められ関係をもった。しかし、朧月夜の父親は右大臣で源氏の政敵にあたる。そのためお互い思いはあるものの、会いたくても会えない関係。まるでロミオとジュリエットの世界だ。これを踏まえて作品を観ると、二つの扇子が朧月夜の象徴的な気持ちを示す。最初のピンクの扇子は絶世の美男子である源氏に愛され抱かれた女の歓びを表現している。そして次の黒い扇子は愛する源氏に会いたくても会えない女の淋しさを表している。
そのことが分かると、全ての曲が朧月夜の気持ちをよく反映している。Flowerや中島美嘉の美しくも儚く切ないバラード曲が朧月夜のイメージとよく重なる。特に朧月夜が最初に源氏と結ばれたときの気持ちがまさしく「一番綺麗な私を抱いたのは貴方」なのだろう。
ここまで理解できて「朧(おぼろ)」が取れてすっきりしたよー。
最後に蛇足ながら、「私はストリップ界の光源氏になりたい」という話を聞いて下さい。
源氏は女性に手紙を出しまくった。卓越した和歌の才能もあった。当時は電話もメールもなく、手紙だけが恋の告白の手段として貴重だった。
私も源氏になりきって、踊り子さんに手紙を出しまくる。和歌は書けないが童話を書く。気分は光源氏なんです。(以前、灘ジュンさんは私の気持ちをよく理解してくれたなぁ~笑) しかしながら、なかなか恋は実らない。(涙)
絶世の美男子とチビデブハゲの親父ではかくも違うものか・・・悩む日々。
平成29年9月 大阪東洋ショー劇場にて
【補足】源氏物語の朧月夜について
長い長い源氏物語を読み終えたときは思わずバンザイしたよ。
この源氏物語のテーマについては昔から様々な諸説がある。本居宣長が『源氏物語玉の小櫛』において「もののあはれ」論を主張したのは有名。しかし、『源氏物語』にはそもそも西洋風にテーマを論ずることには意味がないという説もある。
私は、物語を読み終えたときに、「これは世にも稀な美男子であった光源氏の、王朝内における壮大なる近親相姦の世界だ」と思えた。
光源氏は自分の周りにいた女性を、きれいだと思ったら片っ端から手を付けた。その見境なさはほとんど病気である。
最初に手を付けたのが継母なのだから驚くしかない。あまりに見境なく呆きれ果てる。
二人の関係を少し説明しよう。光源氏は父親である桐壺帝と桐壺更衣との間にできた子。桐壺帝は他の有力な妃を差し置いて桐壺更衣を偏愛し、やがて源氏が誕生するわけだが、更衣はその心労が祟って病死する。悲しみに暮れる桐壺帝を見かねた周囲のすすめにより、亡き桐壺更衣に瓜二つである藤壺(先帝の第四皇女)を入内させて寵愛し、第十皇子(後の冷泉帝)を産んだのを機に中宮に据えた。源氏は桐壺更衣がすぐに亡くなったので後ろ盾もなくなり王位に就くことができなかった。この冷泉帝は、実は光源氏と藤壺との不義の子であるが、桐壺帝はそのことを知らない。こんなこと考えられますか?
光源氏と関係をもった女性はあまたいるが、親戚縁者が多い。思いつくままに挙げると・・・源氏に最も愛され後に正妻となる「紫の上」は継母である藤壺の姪。二番目の正妻「女三の宮」は源氏の姪。源氏の正妻候補に幾度か名前が挙がった「朝顔の姫君」は源氏の年上の従兄弟。源氏の父桐壺帝の妃を姉に持つ「花散里」。・・・また親友であり良きライバルであった「頭の中将」に関係した女性たちとも通じる。「夕顔」とは三角関係になるが、その夕顔と頭の中将との間に生まれた娘「玉蔓」を自分の養女にしながらも通じる。この他にもたくさんの女性と関係を結ぶ。まさしく光源氏はプレイボーイ中のプレイボーイでした。
そのため、女性で痛い目にもたくさん遭う。その中で最大の事件が「朧月夜」との密通でした。彼女が源氏の政敵である右大臣の娘であったため、これが一因となり源氏は須磨に島流しになる。
ちなみに、この名「朧月夜」は、古今和歌集に10首入集された大江千里(歌人)の和歌「照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしく(似る)ものぞなき」に由来する。朧月夜をうまく表現した和歌ですね。もともと漢詩句「不明不暗朧朧月」を翻案したもの。
この機会に、朧月夜の一生を詳しく述べておこう。
朧月夜は当時権勢を誇った桐壺帝の右大臣の六の君(六番目の娘)で、桐壺帝の正妻である弘徽殿女御の妹という高貴な生まれだが、作中では珍しい艶やかで奔放な気性の女君である。姉弘徽殿女御の産んだ東宮(源氏の兄にあたる。後の朱雀帝)の女御に入内する予定だったが、宮中の桜花の宴の夜に思いがけなくも光源氏と出会い関係を持ってしまう。後にその関係が発覚して入内は取り止めになる。源氏の最初の妻である葵の上が死んでいたので、右大臣は源氏と結婚させることも考えたが、弘徽殿女御が猛反対し、源氏自身も既に紫の上を妻にしていたため実現しなかった。
朧月夜は始め御匣殿別当として登華殿にあり、後に尚侍(ないしのかみ)となって弘徽殿に移る。その美貌と当世風で華やかな人柄から朱雀帝の寵愛を一身に受ける一方、源氏との逢瀬も密かに続けていた。朱雀帝は自身が源氏の魅力に及ばぬことを認め、朧月夜を責めなかったが、彼女と源氏の関係が発覚したことが右大臣と弘徽殿大后の怒りを買い、源氏須磨流しの一因となった。
源氏の不在中に父太政大臣(元右大臣)が死去。朱雀帝退位の後、源氏の全盛時代には朱雀院に従った。朱雀院出家後に再び源氏と関係を持つが、最後は源氏にも告げずに院の後を追い出家、物語から退場する。
『着物の妖精 百花繚乱』
~大見はるかさんの演目「朧月夜」を記念して~
宮廷界の貴公子・光源氏が浮かない顔をしていた。
心配した友人の陰陽師が声をかけると、光源氏はこんな話をし出した。
「私はたくさんの女性を愛してきた。いつだって本気だった。いい加減な気持ちで相手をしたことなんて一度もない。・・・しかし、振り返ると、たくさんの女性を不幸にしてしまったんではないかと悔やまれてならんのだ。」
陰陽師は言った。「あなたは純粋に女性たちを愛した。そのことに嘘偽りはありません。側に仕えていた私がそのことをよく知っています。」「女性たちはあなたに愛されたことを誇りに思っています。最高の幸せと感じています。あなたが残した忘れ形見を大切に育てることに一生を捧げる方がたくさんいます。そのことをあなたが苦に感ずる必要はありませんよ。」
それでも光源氏は納得がいかない様。
陰陽師が言う。「それならば私がこの世の精霊たちにうかがってあげましょう!」
エロエロエッサイム♪と唱える。
この世の魑魅魍魎たちが虹の架け橋を伝って集まって来た。変な顔をした精霊も多かったが、話が光源氏のことというだけで、たくさんの花の精霊たちが多く集まってきて華やかだった。
陰陽師が尋ねる。「光源氏は一時の性欲のために女性を愛したのか。その罪はいかばかりか?」
精霊たちは口々に言う。「女性は光源氏に愛されて真に満足しています。女の人生において、本当に好きな男に抱かれることほど幸せなことはありません。光源氏は己の性欲に駆られて女を抱いてしまったことを悔いているようですが、そもそも男性の性の快感に対して、女性の性の快感は比べものにならないほど大きいのです。男女の性交の後、女性には出産という苦しみが待っています。その代償のためにも、性の喜びのご褒美が与えられているのです。」
陰陽師が付け加える。「それでも光源氏は愛した女性たちに何か償いをしたいと考えています。何か良いものはありませんでしょうか?」
花の精霊たちが言う。「光源氏が『この世には女性の数だけ美しさがある』と言っている気持ちがとても素敵だと思います。特に日本の女性は美しい。彼女たちに特別のご褒美をあげたいですね。日本の女性に似合う花柄の着物はどうでしょうか。私たちが提供してあげますよ。」
こうして日本には着物の文化が興りました。
おしまい