黒瀬あんじゅさん(TS所属)について、2019年6月中の池袋ミカドでの公演模様を、1周年作「でぃあみー」を題材にして、「心の葛藤を表現する」という題名で語りたい。
2019年6月中の池袋ミカドに顔を出す。
今週の香盤は次の通り。①相田樹音(フリー)、②山咲みみ(TS)、③水原メノ(TS)、④黒瀬あんじゅ(TS)、⑤夢乃うさぎ(晃生)、⑥宮野ゆかな(TS)〔敬称略〕。今週は夢乃うさぎさんがミカド初乗り。
今週は、黒瀬あんじゅさんの一周年週。正確には先週だったがオフだったので今週になったとのこと。
今更のように一年前を思い出す。デビュー週二日目の平日にシアター上野に顔を出した。そのとき、劇場側の配慮で、デビューしたばかりということでポラサインがなかった。私としてはなんかガッカリして「お客さんが少ないんだから、こういうときこそサインの練習をしたらいいのにな・・」と仲良しのKAERAさんに愚痴ったのを思い出す(笑)。手紙を渡す私としては相手の反応が分からないと仲良くなりずらいと思ったわけ。
でも、あんじゅさんが私が頼んだアンケートに答えてくれたので、その週は三日間通い、デビュー記念に観劇レポートをお渡しすることができた。いま読み返すと懐かしい。そのときの総括として「外見の良さ、バレエで鍛えた魅せるダンスステージ。いずれをとっても素材の良さが光る。まさしくTS期待の新人の登場である。」とレポートを締めくくっている。
ただ正直言って、これだけの逸材の子と、野暮な私が仲良くなれるか不安だった。最初はまめに会いに行くしかない。どんな内容の手紙を出せば喜んでくれるのかも分からなかった。当たって砕けろ!的な気分で、あんじゅさんに向かっていったのを覚えている。
たまたま、私はそのとき‘お絵描きのMYブーム’だった。前年の暮れに、晃生の羽音芽美さんが私の童話に漫画を描いてくれたのがきっかけに、踊り子さんから頂くお絵描きに夢中になった。ところが肝心の芽美さんが辞めてしまい、その後を引き継いでくれる踊り子さんを必死で求めていた。あんじゅさんにも半分ダメ元でお願いしてみた。そうしたら、ステキなイラストがすぐに返ってきた。これには感激した。次にも、恐る恐るお願いしたら、すぐさまイラストが返ってくる。その絵がすごく上手なのに感動した。私が渡したばかりの童話に即して、どんなキャラクターも器用に描いてくれる。こんな娘に初めて出会った。まさにストリップの神様がお絵描きブームの私に見合う踊り子さんを天から降臨させてくれたのだと思った。あんじゅさんのお陰で私のお宝コレクションはどんどん貯まり、あんじゅさんは今では私の童話に欠くことのできない大切な大切な専属マンガ家になってくれた。心から感謝・感謝である。
ストリップファンとして、あんじゅさんは素敵なヌード、素敵なステージに加え、素敵なお絵描きまでしてくれる、一粒でたくさんの味を持っている踊り子になっている。あんじゅさんのお陰で、この一年間は幸せな時間を過ごさせて頂いた。もちろん、これからも応援させて頂きたいし、仲良くさせてもらいたいと心から願っている。
前置きはこのくらいにして、さっそく一周年作を紹介させてもらう。
初めて観た瞬間、この作品は「奥が深いなぁ」と直感した。
まず、この演目名「でぃあみー」ってどんな意味なのか気になった。なんだろう? ネットで調べたら、Dear Me(ディアミー)という言葉にヒット。楽天市場のショップ名だが、この演目では字の通り「こんにちは、私です」という感じで今の自分の心境を演じているのかなと感じられた。また、ボカロの初音ミクの曲「ディアミー」(作詞作曲:ただのCo)にもヒットした。本作品のラストソングに初音ミクが登場しているし、なんか関係があるのかなぁと思っちゃう。
次に、あんじゅさんはバレリーナーだから、今回の作品はバレエを基調にしているのかなと最初の出だしで感じた。最初の音楽がクラシック調だったしね。しかし、観ていくうちに、これはコンテンポラリー・ダンスだと気づく。説明するまでもなく、コンテンポラリー・ダンスは古典的なバレエ、フラメンコ、ジャズダンスといった既成のジャンルに属さないものを指す。ネットの辞書には「1980年代から広く使われるようになった語。字義的には現代の舞踊すべてを指すが、一般には、バレエ、フラメンコ、ジャズダンスといった既成のジャンルに属さないものを指す。そこにはモダン・ダンス、バレエ、舞踏など、様々なジャンルの影響が入り交じっている。モダン・ダンスとの境界線は明確ではない。」「今のところ、現在行われているダンスのうち『非古典的かつ前衛的で、時代の先端を体現している』と考えられるダンス作品およびダンステクニックを指す曖昧な概念である。」との解説があった。
ストリップのステージでバレエを演ずることもあるが、あんじゅさんは今回の作品ではあえてバレエを否定しているのかもしれないと感じられた。
そして、本作品の最大の特徴は、あんじゅさん本人の肉声が入っていて、その語りをバックにして踊っていること。こういう試みは初めて観た。最初は歌のイントロとして語りが入っているのかと思ったが、長いし、途中で本人の声と気づいてから、その語りの内容に聞き入った。踊り子になってのこの一年を振り返り、自分の内と外から思うことを語っている。バレエの一線で活躍していたのに、今やストリップの世界に身を落としている。そんな自分のことを人はどう思うかを悩んでいる感じ。そうした心の葛藤を今回の作品で表現したいのだろう。まさしくアーティストとしての葛藤である。前作「名前のない怪物」で、観客はこの演目を暗いイメージで捉えられるかもしれないけど今の自分の思ったことを演じてみたいの!と話していたので、今回もその延長線にあるのだろう。
自分の内面を表現するのは難しい。新人なら最初のうちは明るいアイドルものを中心に演じたらいいとアドバイスする人もいるだろうけど、あんじゅさんは既にその域を超えているし、内面を表現する実力が十分に備わっている。
さて、ステージ内容について言及する。
最初に、クラシック調のインスト音楽にのって、上下セパレートの白い衣装で登場。衣装は白い刺繍入りの生地。しかも、白い中にも銀色に光るものがあり、華やかである。
上半身は、肩出しで、首から下にバスト部を覆う。上腕部に銀と白の布を巻く。スカート部はミニで白い透け透けの布を右足側に垂らす。左足には長い脚絆を履く。足元は裸足。
髪は金髪にしてロングに垂らす。
音楽にのって、コンテンポラリー・ダンスを舞い踊る。
一曲目は、ゲスの極み乙女。のインスト曲「列車クラシックさん」。最初にこの曲を持ってくるところ、あんじゅさんの選曲センスが渋いねぇ~♪
曲名にクラシックという言葉が入ってるように、フランスの音楽家モーリス・ラヴェル「水の戯れ」を分解して作ったインストゥルメンタル・ナンバー。作曲はメンバーの中心である川谷絵音であるが、メンバーの一人ちゃんMARIがピアノで奏でている。冒頭には"ガッタンゴットン"という列車のコーラスが入るが、それ以降は瑞々しい音色のピアノが響くクラシックとして昇華している。
ゲスの極み乙女。(ゲスのきわみおとめ)は、2012年5月にロック・バンド、indigo la Endのボーカルでもあった川谷絵音を中心に結成した四人組のバンドである。通称はゲス乙女、ゲス、ゲス極などと呼ぶ。プログレッシブ・ロックやヒップホップを基調としたポップメロディを演奏している。楽曲は、すべて川谷絵音が作詞・作曲したものである。
川谷 絵音 (かわたに えのん、1988年12月3日 – 現在30歳) は、日本のミュージシャン、ボーカリスト、ギタリスト、キーボーディスト、作詞家、作曲家である。長崎県出身。「indigo la End」「ゲスの極み乙女。」「ジェニーハイ」「ichikoro」のメンバーであり、ボーカルおよびギターとして活動している。東京農工大学工学部応用分子化学科卒業。
2014年10月、ファーストフルアルバム『魅力がすごいよ』の中に、「列車クラシックさん」が収録されている。川谷がこのアルバムについて「裏テーマはクラシック」と語っているように、クラシック育ちのちゃんMARIの素質が作品全体に大きく影響している。
次に、あんじゅさんの肉声が入る。「2曲目は家のリビングで録りました(笑)」もしかしたら外のサイレンの音が入っているかもと心配していたが大丈夫ですよー
ここで、暗転というか舞台が薄暗くなる。
音楽が変わり、衣装を着替える。
パープルのふわっとしたロング・ドレス。肩紐で胸から下を吊るしており、足元まで流れる。胸の中央にピンクのバラがワンポイント。
音楽は、美波の「カワキヲアメク」。作詞作曲:美波。「3曲目はとっても大好きな曲です♡」と、あんじゅさんがポラコメで教えてくれたように本作はこの曲がポイントになる。ネットで検索したことは後で詳しく述べることとし、先に進む。
ここで一旦、インスト曲をつなぐ。妖艶で独特な物憂い気を醸す音だ。これは「ドラマQ10」サントラから「AWAQ」(金子隆博が作曲)。『Q10』(キュート)は、佐藤健主演、日本テレビ系土曜ドラマ(2010年10月16日から12月11日まで放映)。音楽は金子隆博、小山絵里奈が担当。「ドラマQ10」も気になってネットで調べたが内容は割愛する。
そのままベッドショーへ。ドレスを脱いで、パープルなパンティ一枚に。それを脱いで右手首に巻く。パイパンに近い。魅力的なヌードに酔いしれる♡
ベッド曲は、ryo (supercell) feat.初音ミク の曲「ODDS & ENDS」(オッズアンドエンズ)。
supercell(スーパーセル)は、コンポーザーのryoを中心にイラストレーターやデザイナーが集ったクリエイター集団(同人音楽サークル)である。メンバーにはボーカルはおらず、supercell名義で発表する楽曲については、ファーストアルバムでは音声合成ソフトの「初音ミク」をボーカルに用い、セカンドアルバムまでの楽曲ではnagiを、セカンドアルバムの後は、こゑだをゲストボーカルに迎えている。参加ユニット:EGOIST (2011年〜)、supercell (2007年〜)
ryo (supercell)と聞いて、あっ!!と思う。前作「名前のない怪物」で、タイトルにもなっているラスト曲「名前のない怪物」とスタートの曲「KABANERI OF THE IRON FORTRESS」はEGOISTで、そのプロデュースはsupercellのryoだったことを思い出す。<演目「名前のない怪物」は、ベッド入りのAimerの曲「Black bird」と最後のEGOISTの曲「名前のない怪物」を中心に構成しました。>と、あんじゅさんが語ってくれたわけだが、今回の一周年作もそれをそのまま引きずっていることに気づかされる。前作は、人の嫉妬心など内面のどろどろしたものを表現していたが、本作品でも内面の心の葛藤を表現しているのだ。
ここで、美波の「カワキヲアメク」について、ネットで検索したことを追記したい。
美波(みなみ、1997年9月14日 -現在21歳)は、埼玉県出身のシンガーソングライター。主に関東を中心にライブ活動をしている。ライブ以外では素顔を露出せず、公式プロフィール画像ではイラストを使用している。2019年1月29日、「カワキヲアメク」で満を持してメジャー・デビューを飾る。自らの心中を嘘偽りなく吐き出しながら、リスナーの心にも確かに刺さる曲と歌声を放ち続けると評判になっている。
私は正直言って、ネットでMVを聴いてもよく理解できなかった。キレイなフレーズをたくさん使っているが、一体どういうシチュエーションなんだろう。前作「名前のない怪物」で使っていたAimerとどこかイメージが共通している気がした。とにかく、この曲を自分なりに理解できないと、本作「でぃあみー」は理解できないと思えたので、なにがなんでも克服したいと思った。
この曲は、アニメ「ドメスティックな彼女」(ドメカノ)のオープニングテーマ。私はすぐに興味をもってアニメの第一話を見てみた。そうしたら一気にこのドラマに吸い寄せられた。
あらすじは次の通り。高校生の藤井夏生は、教師・橘陽菜へ密かに想いを寄せいていた。ふと誘われた合コンに参加した夏生は、そこで出会った橘瑠衣と、初対面で初体験をしてしまう。そんなとき、父が再婚することとなり、再婚相手が連れてきた子供が、なんと陽菜と瑠衣だった......ひとつ屋根の下で暮らすことになった3人の、ピュアで禁断過激な三角関係がスタートする。・・・
学園ドラマでありながら、さわやかどころか、シリアスなテーマがてんこ盛りで、恋愛がこじれまくっている。
このアニメを見てから、主題歌である「カワキヲアメク」を聴くと、すーっと耳に馴染んで行くのを感じた。
まず、この曲のタイトル「カワキヲアメク」の意味が気になる。漢字で書くと「渇きを叫く」になる。渇き(かわき)は潤いがない状態のこと。叫く(あめく)はわめく、叫ぶ、大声を出す、騒ぐ……といった意味。まとめると「渇いていると叫ぶ」ということになる。
タイトルだけでも、痛々しくも美しい表現になっている。
じゃあ、何に渇きを覚えて叫んでいるのか?
ここでは歌詞を解釈するより、あんじゅさんの肉声(心の叫び)に戻ることになる。
先に、今回の作品は踊り子になった心の葛藤を表現していると述べた。もちろん、本人はストリップを演じながら、いろんな心の迷いや挫折があることだろう。あんじゅさんの心の叫びが突き刺さってくる。
そこで、あんじゅさんの一ファンとして、こう言わせて頂きたい。
私にとって、黒瀬あんじゅのデビューは救いだった。ストリップファンとして、TS常連として、あんじゅさんとの出会いは感動であった。特に、お絵描きブームの私には、あんじゅさんは魅力に溢れていた。今では、私の専属マンガ家としてピカイチの存在だ。これからもお時間の許す限りでかまわないので是非ともお絵描きして頂きたいと切にお願いする。これからも当然に応援させて頂くつもりですよ。
迷うことはない。ストリップ道を堂々と邁進していってほしい。
2019年6月 池袋ミカドにて