TS所属の踊り子・箱館エリィさんについて、シアター上野2020年7月頭の公演模様を、演目「リボンの騎士」を題材に語ります。

 

 

2020年7月頭のシアター上野に初日に顔を出す。

今週の香盤は次の通り。①eye(道劇)、②美月春(道劇)、③天羽夏月(フリー)、④箱館エリィ(TS)、⑤JUN(西川口) 〔敬称略〕。

 

エリィさんとはコロナ明けしてから頻繁にお会いしている。6月頭のミカド、7月頭のシアター上野、そして今週7月中はライブシアター大和となる。しかも、天羽夏月さんとご一緒のことが多い。ミカドに二日間いたとき、天羽さんを題材にしている私の創作童話「ちから姫」がうけて、天羽さんの絵を出演者の方がたくさん描いてくれて盛り上がるというおまけまであった。

 

さて、上野でエリィさんが新作「リボンの騎士」を披露。

実は私は手塚治虫の大ファン。彼の漫画を子供の頃にたくさん読んでいた。たまたま、今回のコロナ自粛期間中、私はジブリの宮崎駿監督について調べていて、宮崎駿と手塚治虫との関係をレポートしていた。そのため手塚治虫のことも改めて勉強し興味が湧いた。

そこで、もう一度、手塚治虫の漫画を読み返そうと思った。私はコロナ自粛期間中、近くの漫画喫茶でたくさんの漫画を読みふけっていたので、手塚治虫の作品も探してみた。ところが、代表作の「火の鳥」「ブッダ」「ブラックジャック」はかろうじてあっても、それ以外の作品は全く置いていない。昔の漫画を読む人は今やいないために置いていないと店員から言われた。正直がっかりした。

そんなこともあって、エリィさんが手塚治虫の「リボンの騎士」を作品にしているのを観て、驚くやら、めっちゃ嬉しくなった。エリィさんに私が手塚治虫ファンなんだと告げたら、エリィさんから「そういえば太郎さんは手塚治虫に似ているわね」と言われた。光栄至極である!!!

 

さっそくステージ内容を紹介する。

ミュージカル「リボンの騎士」がベースにある。音楽は「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」ソング・セレクションというオムニバス(映画・演劇・ドラマなどで、数編の独立した話を並べて一つの作品に構成したもの)から選曲している。

最初に、金のマスクを付け、黒いマントを羽織って登場。黄色の大きな帽子をかぶる。黒いマントを颯爽と取ると、下には赤いマントを羽織った、白と青がミックスした「リボンの騎士」定番のコスプレ衣装が現れる。白い手袋に白いブーツ。

一曲目は「リボンの騎士」。父親に向けて語る歌詞。しっとりと聴かせる。この曲で私は一気に作品の世界に入り込む。

二曲目で、剣を持って舞い踊る。

音楽が変わって、一旦暗転し、着替える。

 肩から足元までのロングドレス。刺繍入りの白地に黄色いフリルが肩から足元まで流れる。頭には白と赤の大きなリボンを付ける。小さなリボンが十字形に交差している。

 赤いハイヒールを履いたままベッドショーへ。白いパンティを左ふとももに巻く。

 両手首にプラチナのブレスレットがきらり。白いマニキュア。

 

 リボンの騎士は、女性が戦う男性を演ずるもの。

 時にストリップのステージで、ベテランの踊り子が「男装の麗人」を演ずることがある。その男装がめちゃくちゃ似合いすぎて、同じ舞台で次に女性役を演ずるとなんか見劣りして見えることがある。それは男装がはまりすぎているからだ。「男役」と「娘役」の両方をうまく演じ分けるのは本当に難しいんだなぁと感ずる。

 私は前から「リボンの騎士」をうまく演じられる人こそが理想なんだろうなと個人的に思っていた。

 エリィさんの場合は、かわいいリボンの騎士だ。残念ながら、今回の作品からは男装のかっこよさは感じない。チャーミング過ぎるエリィさんの持ち味だね。(笑)

 

 最後に、手塚治虫の「リボンの騎士」について簡単に触れたい。

『リボンの騎士』とは、手塚治虫による少女漫画作品。手塚の20代の頃の連載漫画代表作の一つであり、少女向けストーリー漫画の先駆け的な作品。

天使・チンクの悪戯で誕生した、男の心と女の心を持つサファイア王女(王子)をヒロイン兼ヒーローに据えたファンタジー作品。お姫様が「男装の麗人」となって悪人と戦うという、当時の少女漫画としては斬新な内容であった。

手塚自身が幼少のころから親しんだ宝塚歌劇団の影響を強く受けており、サファイアのモデルは元宝塚歌劇団娘役の淡島千景である。当時、淡島の大ファンだった手塚が、娘役である淡島がたまたま男役を演じた舞台を観劇して、それをヒントにサファイアを考え出したという。

少女漫画としては一般に記憶される初の「戦う少女」であり、今で言うところの変身、コスプレ、ツンデレなどの萌え要素を先駆け的に含んでいた。

 この作品「リボンの騎士」ひとつ取っても、手塚治虫の斬新的な天才性が光る。

 

2020年7月                            シアター上野にて

 

 

 

 

 

 

 

 

2020.7

『ちから姫』続編1 -リボンの騎士編-

~箱館エリィさん(TS所属)に捧げる~

                   

 ミーン ミーン

蝉が鳴いているような声が寝室から聞こえます。今夜も、ちから姫と王子が愛し合っているようです。この音が聞こえているときは、侍従たちは決して寝室の扉をノックしないようにしています。

そうそう、ちから姫のお相手の王子の名前を言い忘れていましたね。彼はサワティ王子と言いました。

 

ちから姫のいるゴールデン王国には平和が続いていました。

ところでゴールデン王国の周りには七つの王国がありました。そのひとつにシルバー王国があり、ゴールデン王国と隣接していました。今回はそのシルバー王国の話です。

 

シルバー王国には若いエリィ王子がいました。まだ12歳です。

実は、このエリィ王子は女の子でしたが、表向きは男の子として育てられました。というのは、シルバー王国では王位を継承できるのは男子のみという仕来たりがありました。一人っ子のエリィ王子が王位を継承できないとなると、王様のたった1人の従兄弟で腹黒いジュラルミン大公に自動的に王位を継承することになってしまいます。それをどうしても避けたかったシルバー王国の王様はエリィを男の子として国民に公表したのでした。こうしてエリィ王子は男の子として立派に武芸を習い、勝気な性格だったので男勝りの王子に育ちました。

エリィ王子はその服装から‘リボンの騎士’と呼ばれていました。本人は女らしさを押しつけられることに反発しており、服装も動きやすいパンツルックです。ブルー系の上下に、白い半袖、白いストッキング。全体としては、フランスの文豪デュマの小説「三銃士」ぽい中世ヨーロッパの騎士の恰好を想像して下さい。そして、‘リボンの騎士’という由来のごとく、黄色いツバ(ひさし)が大きく広い帽子で、上部に大きな赤い羽根のようなリボンが付いているのが最大の特徴でした。

 

昨年のこと、隣のゴールデン王国で武闘大会が開催された時も、エリィ王子は自分も参加したいと思っていました。しかし、武闘大会の趣旨がちから姫の婿取りであり、また若いエリィ王子は年齢制限もあり、参加することはできませんでした。

エリィ王子は観客席から武闘大会の様子を眺めました。ちから姫の圧倒的な強さにエリィ王子は驚愕しました。本来、同じ女子でありながら、あれだけのパワーを見せつけられると負けず嫌いのエリィ王子はちから姫と勝負がしたいと思いました。ライバル心と憧れに胸をときめかせたのです。

昨年、めでたくちから姫とサワティ王子の結婚式が挙げられた時、その祝賀会に隣のシルバー王国を代表してエリィ王子も招待されました。はじめて、ちから姫の前に立ったエリィ王子は、ちから姫の神々しさに身体が震えました。同じ女性として畏敬の念を抱いたほどです。

そのときエリィ王子は武闘大会のことを話題にし、是非ともちから姫と決闘させてほしいと願い出ました。ちから姫も、エリィ王子のことをかわいい妹というか、いや、かわいい弟のように感じ、快く決闘の申し出を受けました。

日にちを変え、練習試合ということで二人は決闘を始めました。エリィ王子は前日の結婚式の正装とは打って変わり、普段着である‘リボンの騎士’の恰好で登場。試合は圧倒的にちから姫のパワーとスピードが勝りました。戦っている最中に、ちから姫はエリィ王子が女の子であることを察しました。その勝負を機会に、ちから姫とエリィ王子は深い絆で結ばれました。ちから姫はエリィ王子のことをまさしく自分の妹分として可愛がるようになりました。

 

エリィ王子はその可愛らしい容姿から‘リボンの騎士’として国内外に名を馳せました。

シルバー王国内では、エリィ王子のことを女の子ではないかと疑っているジュラルミン大公が陰でエリィ王子の命を狙って暗躍していました。しかし、エリィ王子はジュラルミン大公の企てを鍛えられた武芸の腕で跳ねのけました。

 ちから姫は、エリィ王子の裏事情を知り、心から心配していました。ゴールデン王国では女系でも王位を継承することができたので、隣のシルバー王国で男系のみが王位継承できるという仕来たりをおかしなことと思いましたが、隣の国のことをとやかく言うことは内政干渉になるので口出しはできません。ちから姫はあくまで相談役として協力するしかありませんでした。でも大丈夫です。きっとエリィ王子は立派に乗り越えてくれることでしょう。

 

 さて、隣のシルバー王国の話はこれくらいにして、ゴールデン王国の方に話を戻します。

 ちから姫とサワティ王子は深く愛し合っていました。

 ミーン ミーン ミーン

 今夜も二人の寝室から蝉のような鳴き声が聞こえます。二人の「大木に蝉」という密やかな夜の営みが行われているようです。しかも今夜は激しい様子。

 そして、とうとうちから姫は妊娠し、かわいい男の子を出産することになります。

 次回は、ちから姫の赤ちゃん‘ちから王子’のお話をいたします。

 

                                    おしまい