今回は、TSの新人・箱館エリィさんのデビュー模様について「妖精の時間を旅する」という題名で話します。
H28年12頭のTS公演が始まる。TSは翌年早々1月15日で閉館するため、11月からTSさよなら興行が始まっている。
今週のTSの香盤は次の通り。①望月きらら(晃生)、②神崎雪乃(晃生)、③箱館エリィ(TS)、④水原メノ(TS)、⑤石原さゆみ(道劇)、⑥坂上友香(東洋)、⑦宮野ゆかな(TS )〔敬称略〕。
今週で二週目になる新人の箱館エリィさんと初顔合わせ。彼女は先月11月1日池袋ミカド劇場からデビューしている。宣材ポスターを見たら、どこか凄んでいるような迫力がある。きっとSMパフォーマンス系の子じゃないかなとスト仲間が話していた。ところが、実際にデビュー週に会いに行ったスト仲間が「いや、普通のかわいい子だったよ」と、ポラ写真を見せてくれた。お陰で、今週はエリィさんと会えるのが楽しみになった。
早速、初日12月1日に顔を出す。
本当だぁ~♪ 普通にかわいい女の子♡ 私の心はるんるん気分♪
宣材ポスターがかわい過ぎて実際にがっかりすることも多いが、逆のパターンは気分が上々になる(笑)。まぁ、それでもエリィさんの宣材ポスターは見直した方がいいかもね。
さて、エリィさんのステージ模様を話そう。
最初に、童話ピーターパンに出てくる緑の妖精ティンカー・ベルの格好で現れる。緑の衣装に、背中には透け透けの羽根が四つ。頭には緑の帽子。帽子の縁には白い花、そしてふわふわの毛が立っている。髪を後ろに一つに結んでいる。銀のハイヒールを履いて、結婚行進曲にのって軽快に舞い踊る。
先端が赤いハートになっている矢を持って、お客の胸を突き刺し、悪戯っぽくニヤッと笑う。恋のキューピットあるいは恋の悪戯者か。矢に花を巻くシーンがある。
1曲目が終わると「ここが拍手をするところです」と声をあげ、客に向かって拍手を促す。
場面が変わり、松任谷由実の大ヒット曲「真夏の夜の夢」が流れる。
エリィさんが、白いウエディングドレスに着替えて登場。胸から足下までのロングドレスを肩紐で吊している。腰のところに大きな花が付いている。頭には白いベールをかぶる。手首にガラスのブレスレット。銀のハイヒールを履いて舞い踊る。
先ほどの赤いハートの矢を胸に突き刺して倒れるところで場面が変わる。
妖しいファンタジー音楽が流れる。ハリーポッター映画の最初の場面で聴いたことがある音楽だなぁ・・・
エリィさんが白い襦袢を着て現れる。襦袢には緑の葉が模様になっている。これまでと
雰囲気が一変。前半はメルヘンぽい感じがしたが、後半は妖しく幻想的で、かつエロテックに展開する。
そのままベッドショーへ。私はたまたま盆の先端、ポール横に座っていたが、近くで観ていて、エリィさんのヌードの美しさに感激☆ 北海道出身というだけあって肌が透き通るほど色白で、形のいいお尻が超セクシー。お尻が目の前に迫ってくると目眩がするほど興奮しちゃった♡ 後からスリーサイズを聞いたら、149㎝、B85.W63.H91。なんとヒップが91㎝と大きいんだ!納得!
まずは、エリィさんのステージを拝見して、新人らしからぬ舞台度胸というか、かなり舞台慣れしているなと感じた。エリィさんは「すごく緊張した」と話していたけど、たしかに慣れない舞台構成やポラ対応などのTSのシステムを知らないから大変だとは察するも、こと舞台としては新人離れしている。ふつうの新人は「ここで拍手をして下さい!」なんて言えないもんね(笑)。
私のスト仲間が「彼女の目線は舞台俳優のもの」と話してくれた。彼は舞台好きで年間たくさんの演劇を観ているから、間違いない。案の定、エリィさんからの手紙に「(なにか舞台をやっているの?という)質問にお答えしますね。北海道でアングラ系の舞台をやっています。ダンスです。でもストリップとは全然感じが違うので、なかなか・・。AVの経験はありません。普通にお花屋さんで働いてました。お花生けるの得意ですよー。」とある。ストリップに入るきっかけを尋ねたら「ストリップをやろうと思ったのは、私の公演にストリップをやってる方がお客さんとして来てくれて、お話を聞いたら興味持って。舞台のお勉強ができて、お給料も頂けるなんて、こんな素晴らしい環境にいることができて幸せです。」ただ「思っていたよりもはるかに大変ですね。本当に、踊っているだけが仕事じゃないし・・・でも楽しいです。お姐さんたちも、自信満々にプライドを持って舞台に乗っていて、そうした姿を見ていると、世界一美しいと思います。私もそうなりたいです。」踊り子の仕事を続けてくれそうで私は嬉しくなった。
今回の作品について尋ねた。
「演目名は、つけるとしたら『真夏の夜の夢』かなぁ~」。選曲について尋ねたら「最後の2曲が私の選んだ曲です。後は振付けの先生(桃子先生)に付けてもらいました。4曲目が緑魔子、5曲目がCherの‘Bang Bang’です。大好きな曲。」
内容は「妖精の悪戯で恋に落ちた花嫁です~」「ストーリーというか・・・振付けの先生からは何も言われてませんが、私は前半は一人の女の子の前世で、後半は現世だと思って踊っています。でも、好きなように解釈して下さいね。」
なるほど、前半は西洋メルヘンぽいのに、後半は和風の濡れ場ぽいなのは、作り手が違うせいなのか。白い襦袢を西洋ぽいナイトドレスに変えて一貫性を持たせるやり方もあるかもね。
いずれにせよ、このやりとりのお陰で、私はこの演目がシェイクスピア作の有名な喜劇であることが分かった。興味が湧いて、ネットで『真夏の夜の夢』について調べてみた。『真夏の夜の夢』は、妖精のいたずらに迷わされる恋人たちが月夜の夜に繰り広げる幻想喜劇である。改めて、いろんなことが分かり楽しくなる。
そうか、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』が演じられる時には、結婚行進曲を含むメンデルスゾーンの付随音楽がつきものである。しっかり考えられた選曲だ。
ティンカー・ベルに見えた妖精は、原作のパックのことか。妖精パックはトリックスターとしての役割を果たしている。トリックスターとは神話や伝説の中で活躍する悪戯者で、その狡猾さと行動力において比類ない。善であり悪であり、壊すものであり作り出すものであり、変幻自在で神出鬼没な存在。『真夏の夜の夢』では、妖精の世界と人間の世界を行き来できる唯一の存在として活躍する。
そうそう、今回の演目で、矢に花を巻くシーンがあり、最初は何を意味するのか不明だったが、『真夏の夜の夢』を再読してみて、矢に「恋わずらい花」を塗りつける場面がありハッとした。しっかり計算された演技なのに改めて感激したよ。
後で、付録として『真夏の夜の夢』の内容を紹介したい。
また、エリィさんは私の手紙に対する反応がいい。
「たくさんお手紙ありがとうございます。まだ分からないことがたくさんあって、いろいろとアドバイスをいただけると、とても助かります。うれしいです。さっそく実践してみました。うーん、気づいてもらえたかな・・??(笑) 緊張で胸がばくばくですけど、踊るの大好きだし、お客さんとお話しできて楽しいので、続けられるよう頑張りたいです。」
文通しているみたいに楽しい。この子とは相性がいいと感じさせられた。ファンとして応援させて頂く。
そうそう、エリィさんのポラ対応がすごく好感を読んでるよ。明るく対応してくれるうえに、握手しながら、もう片方の手で腕を掴んで身体を寄せてくるよね。このスキンシップが大評判になっているよ(笑)。ポラを買った人から口伝えに「彼女のポラを撮ると気持ちいいよ。おまえも買ってみたらいいよ。」と噂が広がっている。
この観劇レポートを締めるにあたり、戯曲『真夏の夜の夢』の最後のある台詞を引用させてもらう。・・・
真夜中の鐘が24時を知らせている。
「恋人たちよ、さあ、ベッドへ。もう妖精の時間だ。」
これは貴族たちが舞台を去る時の台詞だ。「妖精の時間」とは人間が妖精のように愛し合う夜のひとときを意味する。なんてロマンチックな言葉だろう。
今回のエリィさんの観劇レポートのタイトルを「妖精の時間を旅する」とするね。
平成28年12月8日 TSミュージックにて
【付録】シェイクスピアの『夏の夜の夢』
まず、題名について話しておく。
この作品は、『真夏の夜の夢』とか『夏の夜の夢』と訳されるが、正確には『夏の夜の夢』が正しいようだ。
この作品の原題は‘Midsummer Night’s Dream’なので、坪内逍遙ら先人により最初に『真夏の夜の夢』と名訳された。しかし、Midsummerとは夏至のことで、聖ヨハネ祭(Midsummer Day)が祝われる6月24日の前夜を指すこと。また、真夏では日本の暑苦しさをイメージさせ誤解を抱く恐れがあることから、近年では『夏の夜の夢』とすることが多い。
以下に、あらすじを紹介する。
アテネの公爵シーシアスはアマゾンの女王ヒポリタとの婚儀をあと四日に控え、幸せな焦燥感を味わっていた。そこへ貴族イージアスから訴訟が持ち込まれる。娘のハーミアが親の意思を無視して別な男と結婚したいと言って聞かないというのだ。アテネの法律によれば、親の意向を無視した娘に与えられる選択は死か、修道院に行くか、どちらかしかない。公爵はハーミアに考える猶予を四日間与える。絶望のどん底にいるハーミアに恋人ライサンダーは駆け落ちを持ちかけ、あくる夜、実行することにする。
一方、アテネの職人たちは公爵の結婚を祝って、披露宴で撃を上演しようとしていたが、その内容はどうやら本人たちの意気込みとは裏腹にとんでもないドタバタ劇になりそうである。趣向が人々にバレないように森でリハーサルをすることにする。
さて、アテネの森には緊迫した空気が漂っている。妖精の王オベロンと女王のティターニアがインド連れ帰った子供をめぐって夫婦げんかの真っ最中。怒り狂ったオベロンが惚れ草の汁で女王に恥ずかしい思いをさせようと計画を立てているところへ、ディミートリアスとヘレナがやって来る。彼はハーミアをライサンダーの手から取り返そうとやって来たのだ。邪険に扱われるヘレナに同情したオベロンは惚れ草の汁を女王の目に塗った後、ディミートリアスにも塗ってやろうと、パックに命じた。
だが、パックはディミートリアスを見ていないため、駆け落ちの途中で眠ってしまったライサンダーを当人と勘違いして、彼の目にも惚れ草の汁を塗ってしまう。しかも、そのライサンダーが目覚めて最初に見たのが、ヘレナだったから、さあ大変!ライサンダーがハーミアではなく、ヘレナを好きになってしまったのだ。間違いに気づいたオベロンは自分の手でディミートリアスの目に惚れ草の汁を塗る。そこにヘレナがやって来て、目覚めた彼から熱烈な求愛を受けるが、喜ぶどころかみなハーミアの差し金と思いかんかんに怒り、女同士の大喧嘩になる。止めに入った男同士も決闘騒ぎ。パックは魔法で眠らせライサンダーの目には惚れ草の解毒剤を塗る。
さて、女王の眠る森の一角で職人たちのリハーサルが始まった。悪戯者のパックはボトムの頭をロバの頭に変えてしまう。職人たちは恐れおののき、逃げていく。その騒ぎで妖精の女王が目を覚まし、ロバ頭のボトムに惚れてしまい、熱烈な求愛をする。しばらく、女王の醜態を見ていたオベロンだが、哀れを催し、女王の魔法を解き、仲直りする。
朝になり、目を覚ました二組の恋人たちは、夢とも現実ともつかない昨晩の不思議な体験を語り合いながらアテネの宮廷に帰っていく。もとの頭に戻ったボトムもアテネに帰っていく。
もめごとが納まり、いよいよ待ちに待った公爵の結婚式である。二組の恋人たちも一緒に式を挙げた。披露宴では職人たちのおもしろおかしい「悲劇」が演じられ、真夜中の鐘が鳴ると、みな床に就く。寝静まった宮廷を森の妖精たちが清めて舞台は終わる。