今回は、渋谷道劇所属の踊り子・ささきさちさんについて、シアター上野2020年5月結の公演模様を、二作目「ホーム」を題材に語ります。

 

 

2020年5月結のシアター上野に顔を出す。

今週の香盤は次の通り。①新井見枝香(フリー)、②ささきさち(道劇)、③山口桃華(TS)、④玉 (TS)、⑤南美光(TS) 〔敬称略〕。

 

ささきさちさんは、コロナ明け、5/7~10の渋谷道劇から活動を再開しストリップファンを驚かせた。ただ私としては、まだ緊急事態宣言が解除されていなかったので観劇はためらわれた。

シアター上野が5/24から営業を再開し香盤の中にささきさちさんの名前を見つける。初日に観に行ったスト仲間から連絡を受ける。「さちさんがポラでオープンを解禁していたよ。ファンがみんな歓喜していた。」との情報を聞く。私も緊急事態宣言が解除されたのを機に5/29(金)に顔を出してみた。

当日はパンプレもあったせいか、劇場は混んでいた。

そもそもコロナ対応のため座席数が少なくなっていたので混むのも当たり前。劇場内の状況は既にスト仲間から報告を受けていた。まず、舞台に近い花道の左右7席と盆の左右3席、計10席が座れなくなっている。初日に行儀の悪い客がいて無理やり座ったらしく、5/29当日には段ボールで座れない状態にしてあった。座席数が少ないため、盆から入り口までの後方は激込みになってしまう。

もうひとつの対応は、盆前の最前列4席はフェイス・シールドを装着することを義務付けられる。どうしても、かぶり席に座りたい人は必ず装着しなければならない。今回に限ると、踊り子さんは前方しか向かないので盆前最前列で観るには最高にいいだろう。

ところがフェイス・シールドを装着した人から感想を聞くと、「ガラス越しに観ているようだ」「メガネをしてマスクもしてかぶると暑苦しいし息苦しい」「汗をかくが、使い回ししているだろうから不衛生。かえってコロナにかかりそう」など評判は悪い。

しかし、踊り子さんをコロナから守るためにはマナーとして我慢しなければならない。それが嫌ならかぶり席を諦めるしかないということだ。

 

当日は、ささきさちさん目当てでたくさんの客が来ていた。上野に初のりになるが、さちさんは元気いっぱい。パンプレもあり、オープン解禁で、さちファンは大満足していた。

 

三回公演で、二個出し。1,3回目に新作「ホーム」、2回目にデビュー作。

新作は3月中の渋谷道劇で既に拝見していた。めちゃくちゃかっこいい作品で、ファンの間でもすこぶる評判がいい。

今回、曲名を教えて頂いたので、観劇レポートを書いてみたい。

まず、この作品のかっこよさは、ノリのいい最初と最後の曲に合わせた衣装と振付にある。圧倒的にそのイメージが強い。ところが、さちさんから「テーマは上京」と教えてもらい意外に思えた。そこで、その間の曲目にこだわってみる。2曲目はYUKIの「こんにちはニューワールド」。3曲目は藤原さくらの「500マイル (佐野さくら with 神代広平 Ver.)」。YUKIの歌い方だと歌詞がよく聴き取れなかったが、藤原さくらの方は噛みしめるような歌い方なので歌詞がよく聴き取れる。タイトル名の「ホーム」というキーワードが耳に入ってくる。

以下に、選曲にこだわって感想を書いてみたい。

 

まずは、全体のステージ模様から紹介したい。

一曲目は、誰もが知っているゴダイゴの「銀河鉄道999」。

この銀河鉄道999に登場する車掌のイメージに合わせ、銀色の制服を着る。

銀の帽子をかぶり、銀の上着(制服)、銀のスカート。銀の手袋。そして白いブーツを履く。

音楽にのり、笛を吹いて、颯爽と踊る。

音楽が変わり、制服を脱ぐ。白いブラウスになる。スカートを脱ぐとピンクのパンティ。そして白いブーツも脱ぐ。

二曲目は、YUKIの「こんにちはニューワールド」。

そのまま盆に移動してベッドショーへ。

白いブラウスはかっこよく左右の袖をめくっている。

ピンクのパンティを脱いで左手首に巻く。パイパンがたまらなく眩しいよ♡

アクセサリーとしては、右手首にガラスのブレスレットが輝く。左手中指にもガラスのリング。そしてブルーのマニキュアがくっきり。いい感じのオシャレだね。

ベッド曲は、藤原さくらの「500マイル (佐野さくら with 神代広平 Ver.)」

立ち上がり曲は、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)の「トワイライト」 (Twilight) 。かっこよく締める。

 

改めて、選曲の解説をしたい。

1曲目のゴダイゴの「銀河鉄道999」。19797月1日リリース。

ゴダイゴ (GODIEGO) は、1975年に結成された日本のバンド。日本のプログレッシブ・ロック・バンドの草分け的存在。1970年代後半から1980年代前半にかけてヒット曲を連発し、日本の音楽界に多大なる影響を与えた。2006年に恒久的な再始動を宣言し、現在も活動中。

(歌い出し)♪「さあ行くんだ その顔をあげて 新しい風に 心を洗おう 古い夢は 置いて行くがいい ふたたび始まる ドラマのために あの人はもう 思い出だけど 君を遠くで 見つめてる. The Galaxy Express 999. Will take you on a journey. A never ending journey. A journey to the stars...」

これをカラオケで歌いたくて英語の歌詞を必死で覚えた記憶がある。私が20歳のときの青春の曲のひとつ。

作詞は奈良橋陽子(英語詞)・山川啓介(日本語詞)、作曲はタケカワユキヒデ、編曲はミッキー吉野。映画版『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999) 』(東映)主題歌。またTVスペシャル版においても、オープニングテーマとして使用された。B面の「テイキング・オフ!(TAKING OFF!)」も劇中において使用されている。

改めて、ネットで曲の解説を読んで胸にじーんと来るものがあった。・・・

・英語作詞担当の奈良橋は、999号が飛んでいくような明るい感じにしようとタケカワと打ち合わせをしていたという。そして受験戦争という過酷な状況でノイローゼになり、下ばかり向いている子どもたちに対して、「日本だけでなく、世界に向かって生きていこう。」という意味を込めて詞を書きサビの部分で繰り返される「journey」の英単語が旅立つイメージを表現しているという。

・作曲担当のタケカワは、それまでロックやポップを使ったアニメソングがなかったため、「ここでその常識を変えるんだ」とやる気満々だったという。「口に出さないのに、格好良いと思った曲は絶対に良い曲」と豪語し、最初のフレーズを作った時には、既に良い曲になると確信していたという。またこのフレーズにおいて、音がどんどん高くなっていくところが、999号が宇宙へ飛び立つシーンを表現できているという。そして今でも、歌うと皆が喜んでくれるこの曲は、ただのヒット曲ではなく、皆の心の中に未だに銀河鉄道999は走り続けているのだと感じているという。

・編曲担当のミッキーは、タケカワが一夜漬けで完成させたデモテープを聴き、最初はスローのバラードだった曲を、蒸気機関車が力強く走るようなアップテンポにしたという。

・日本語作詞担当の山川は、ミッキーのスピード感のあるアレンジのおかげで、多少情緒的な詞でもベタベタしないだろうと思ったという。特に2番の歌詞において、「短い人生の猶予期間において、そのまま安定した人生を送るのも構わないが、もしかしたら君にしかできないことがあるかもしれない。それは大変なことかもしれないが、挑戦する価値があるのではないか。」という意味を込めて詞を書いたという。またサビの部分を英語のまま残すことについても大賛成であったという。 ・・・

 これを読むと、すばらしい才能のある人たちがたくさんの思いを込めて作り上げた曲なんだなと感無量になる。まさしく最高の旅立ちの曲である。

 

 もうひとつ、アニメ「銀河鉄道999」について。

内容は次のとおり。舞台は、銀河系の各惑星が銀河鉄道と呼ばれる宇宙空間を走る列車で結ばれた未来世界。宇宙の多くの裕福な人々は機械の身体に魂を移し替えて機械化人となり永遠の生を謳歌していたが、貧しい人々は機械の身体を手に入れることができず、機械化人の迫害の対象にされていた。そんな中、機械化人に母親を殺された主人公の星野鉄郎が無料で機械の身体をくれるという星を目指し、謎の美女メーテルとともに銀河超特急999号に乗り込む。

私が心底、敬愛する漫画である。私の尊敬する童話作家・宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に通じているのがたまらなく嬉しい。自分の血肉になっていると言っても過言ではない。

1977年から1981年にかけて、少年画報社「少年キング」にて、同誌の看板作品として連載された。ヒットコミックス全18巻。第23回(1977年度)小学館漫画賞を受賞した松本零士の代表作。連載中にテレビアニメ化、劇場アニメ化されて大ヒットしてアニメブームの原点を確実なものとし、『宇宙戦艦ヤマトシリーズ』とともに昭和50年代の松本零士ブームをも巻き起こした。

松本零士さんは、ゴダイゴの曲「銀河鉄道999」について、こんなことを述べている。

作者の松本零士は、クラシック指向であることから、当初こそゴダイゴの主題歌に違和感を覚えていたものの、メーテルと鉄郎が別れるラストシーンにおいて、希望に満ちたこの主題歌が流れることによって、鉄郎は大丈夫だということを感じ、彼の未来を案ずることがなくなったという。そのようなことができる音楽家を「自分たちとは別世界にいるマジシャン」と評している。

 

次に、ラスト曲になっている、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)の「トワイライト」 (Twilight)。これも1981なので、「銀河鉄道999」と同じ年代。ELOは私が大学時代に最も気に入って聴いていたアルバムのひとつ。私の青春を彩ってくれた音楽。

エレクトリック・ライト・オーケストラ(英: Electric Light Orchestra)は、イングランド出身のロック・バンド。通称「ELO」。 前身のロックバンド「ザ・ムーブ」から発展。1970年代の米国で最も多くの(ビルボード40位以内の)ヒット曲を放ち、1980年代まで世界的な人気を博した。1990年代以降は創設メンバー ジェフ・リンやベヴ・ベヴァンらが、冠名義で活動している。2017年『ロックの殿堂』入り。

だから、私のようなおじさん世代が「銀河鉄道999」と「トワイライト」を聴いて心をときめかせないはずがない。さちさんの選曲の勝利である。

 

そして、上京の主題を担う二曲。

まずはYUKIの「こんにちはニューワールド」。

2017年3月15日リリースのアルバム「まばたき」に収録されている。

先の二曲に比べて、こちらは最近の歌になる。よりさちさん世代に近い歌と云えるか。

作詞:YUKI. 作曲:yumeiroecho

(歌い出し)♪「視界狭い 歪んだ世界予測不可能 オイルショック世代向かって右側の青少年 絞ったレモンで前哨戦試してみるって約束だべ? せば何でもできると思ってるっしょ? 改めまして 初めまして ハロー ニューワールドナイス トゥー ミー チューあの日は春 ...」

 最初はラップから始まり、ゆったりした、おしゃべりのような歌い方をしている。

YUKI自身が歌詞を書いているので、歌詞を読んで味わわないと曲の本質に近づけない。

この歌詞こそがYUKI自身の上京を歌ったものである。だから函館弁まで出てくる。

ポイントは次の歌詞かな。<雪の降らないクリスマスにも 少しは慣れたし 故郷へ帰った友達は 「今が幸せだ」って 手紙をくれた>

 

YUKIのプロフィールを見てみる。

YUKI(ユキ、1972年〈昭和47年〉2月17日 – 現在48歳)は、日本の女性歌手。JUDY AND MARYの元ボーカリスト北海道函館市出身。血液型はA型。本名は倉持有希(くらもち ゆき)、旧姓は磯谷(いそや)。1990年代前半より、J-POPという分野において、女性ボーカルによるバンド表現の進化発展に大きく寄与してきた。日本人女性の間では、カリスマ的な存在として認知されている。GiRLPOPの確立に貢献した1人でもある。

YUKI は北海道函館市出身である。GLAYのJIROとは同郷で高校時代からの知り合い。TAKUROら他のGLAYのメンバーとも高校時代から交流があり、アブノーマルという女子だけのバンドを組んでGLAYの主催するライブに参加し、「かまって」と「モノクロームの思い出」という曲を作った。

偶然、ミュージシャンの恩田快人が出演した映画が函館であり、その撮影の打ち上げでデモテープを恩田に渡したことがきっかけで、のちにJUDY AND MARYを結成することとなる。

YUKI は中学・高校とバレーボール部に所属。サボってばかりだったが周囲からの信頼は厚く、高校ではキャプテンを務めたという。 高校卒業後、函館市内の北都交通でバスガイドをしていたが、バンドヴォーカルを探していた恩田に誘われて上京。ちなみに上京直後はすぐにバンドで食えずにエステティシャンをしていたようだ。 売れるまでには人に言えない苦労をたくさんしたことだろう。

そのときの思いを今だからこそと歌にした。そうしたら、自分はそれなりに成功したが、一緒に上京してきた友達の中にはデビューできなくて帰った子や、東京にいるけど音楽活動ができなくなってしまった子もいたことに思い至ったのだった。

YUKIはこの「こんにちはニューワールド」について、こう話している。・・・

この曲のレコーディングでは標準語で「なんでもできると思ってたでしょ?」と歌っていたんですけど、当時のことを歌っているのになんかスカしている自分がいるなと思って、歌入れのときに「せば何でもできると思ってるっしょ?」「約束だべ?」と函館弁で歌い直しました(笑)。「どこまでも終わらないような夢の中で 後ろめたさばかりなの 何故?」のところはレコーディングの終盤で歌詞が出てきたんですけど、これも、すごく言いたかったことを書くことができました。函館から東京に来てから、当たり前なんですけどいろいろな方たちにお世話になって、支えられて今の私があるんです。一緒に上京してきた友達の中にはデビューできなくて帰った子や、東京にいるけど音楽活動ができなくなってしまった子もいて。そういう人たちからも私は力をもらっていたのに、あの頃の私は自分本位で、人に対して失礼なことをたくさんしていたなという後ろめたさもあって。今は、そういう人たちにも幸せでいてほしいという気持ちと、自分本位は私の強みでもあったから、そこをもう少し取り戻したいという思いの両方をこの歌詞で言えたことがすごくうれしかったです。

「こんにちはニューワールド」では、「自分がどこまでやれるかは自分次第」だと自分自身をけしかけて、最後に「I am"Y"and"U"and"K"and"I"」と宣言しています。

自分で自分を自由にして、どんな歌も責任を持って歌うんだという覚悟がそこに出ましたね。・・・

 

次に、今回の作品の主題歌ともいえる藤原さくらの「500マイル(佐野さくらwith 神代広平 Ver.)」。私はこの曲を全く知らなかった。

この曲は、TVドラマ「ラヴソング」の劇中歌なんだね。『ラヴソング』は、2016年4月11日から6月13日までフジテレビ系「月9」枠で放送されたテレビドラマである。主演はなんと福山雅治。 吃音症のため対人関係に苦手意識を持つヒロインの少女‘佐野さくら’役が藤原さくら。そして元ミュージシャンで臨床心理士の主人公‘神代広平’が福山雅治。この二人が音楽を通して心を通わせるラブストーリーである。

あらすじは次の通り。・・・神代広平は、かつてプロのミュージシャンだったが、ある出来事をきっかけに引退し、現在は臨床心理士として働いている。そんな彼の元に、吃音症を持つ少女・佐野さくらがカウンセリングを受けにやって来た。吃音を気にして周囲の人とうまくコミュニケーションがとれないさくらだが、好きな歌を歌う時だけは吃音が出ない。彼女が歌う「500マイル」を聞き、その隠れた美声と才能に気付いた広平の心に、さくらの才能を花開かせたいという思いと共に、諦めかけていた音楽への情熱が再び湧き上がってくる。二人は音楽を通じて心を通わせて行く。・・・

この佐野さくら役に抜擢された藤原さくらは、二十歳のとき、演技初挑戦ながら、「歌唱力」「表現力」「感受性」などの選考基準をクリアし、約100人のオーディションで役を勝ち取った。このドラマ主題歌である「Soup」を歌唱し、2016年6月8日に1stシングル『Soup』をリリースする。「Soup」はオリコンウィークリーチャートで4位を獲得する。

藤原 さくら(ふじわら さくら、1995年12月30日 - 現在24歳)は、日本のシンガーソングライター、女優。福岡県福岡市出身。父親はベーシストの藤原宏二。父親の影響で物心つく前からビートルズを聴いて育ち大好きになる。特にポール・マッカートニーの熱狂的なファン。

 歌詞が味わい深いので、全て転記する。3分38秒の短い曲だ。

(歌い出し)♪「次の汽車が 駅に着いたらこの街を離れ 遠く.

Five hundred miles, Five hundred miles. Five hundred miles, Five hundred miles.

Lord I’m five hundred miles from my home

ひとつ ふたつ みっつ よっつ思い出数えて 500マイル 優しい人よ 愛しい友よ懐かしい家よ さようなら 汽車の窓に 映った夢よ 帰りたい心 抑えて抑えて 抑えて抑えて 泣きたくなるのを抑えて 次の汽車が 駅に着いたらこの街を離れ500マイル」

作詞&作曲:West Hyde 日本語訳詞:忌野清志郎

なんと日本語役は私の敬愛する忌野清志郎ではないかー♪ますます興味が湧く!

この歌の原曲は、50年前のアメリカの不況時代、ふるさとを離れ仕事を求めて放浪する者が恋人やもう帰れないだろうふるさとの思いをつづったものと知る。そうしたら、藤原さくらさんの歌唱力もあるだろうが、涙が止まらなくなる。

 ここに、ささきさちさんがテーマにした「ホーム」があるんだね。

 

ここまで調べることで、この曲を敢えて選曲に入れてきたさちさんの気持ちがなんとなく伝わってきた。

私は、さちさんのことをてっきり東京っ子かなと思っていたけど、もしかしたらYUKIの函館、藤原さくらの福岡のような地方から上京してきたのかなと感じた。私も秋田出身の田舎者なので、特にYUKIの話を読んで、じわっとくる。上京の覚悟、苦労、成功の喜びを感じ、彼女の人生に拍手を贈りたくなる。

 

今回の観劇レポートを書いて、この作品「ホーム」がとても好きになりました。チャーミングなさちさんのステージを眺めながら、自分の青春時代を振り返り、田舎から上京してきた当時の健気な決意を思い起こし、今だってまだまだ青春時代さ!と思いたくなる。こんな気持ちにさせてもらったさちさんに感謝したい。

ささきさちさんを今まで以上に応援してあげたくなったよ。これからもよろしくね。

 

2020年5月                               シアター上野にて

 

 

 

 

 

ストリップ童話『銀河鉄道999』 

            ~ささきさちさん(道劇所属)の二作目「ホーム」を記念して~

 

 

鉄郎は、女に縁のない野暮ったい青年だった。三畳一間の汚いアパートに一人住まい。布団を年中敷きっぱなしにしているので、サルマタケと呼ばれるきのこが生えてくるほどだった。めっぽう細菌に強いのか病気も近づかない。ただ不潔だから女に縁がない。毎夜、週刊誌のグラビアを見ながらオナニーに耽るのが彼の日課であった。

そんな彼が場末のストリップ劇場にふらりと入った。劇場の受付嬢が、彼の汚い身なりを見て一瞬顔を歪めた。しかし、鉄郎が入場料3000円を払ったので黙って入れてくれた。

受付横の階段を上って二階の分厚い扉を開けた。大きな音量が耳をつんざく。

ピンクの照明を浴びた一人の踊り子がステージの上にいた。「なんて綺麗なんだろう~」鉄郎は彼女の姿を一目見た瞬間に身体が凍り付いた。

鉄郎は吸い込まれるように、空いているかぶりの席に座った。彼女がチラッと鉄郎を見たが、何事もないかのごとく踊り続けた。

踊り子は黒い衣装を着ていた。まるでロシアの女性が防寒着のコートを羽織っている感じであったが、外国の喪服姿のようにも見えた。

彼女の最大の魅力は流し目だった。鉄郎は彼女の視線に釘付けになった。

踊り子の名前はメーテル。

そして演じているのは「銀河鉄道」という作品だった。

彼女は途中から車掌の恰好に着替えた。車掌の帽子を小粋にかぶり、黒い上下の制服を着て、胸には金のボタンが整然と並んでいた。車掌はおもむろに切符を取り出し、かぶり席の客に配りだした。

メーテルは鉄郎の前に来て、彼にも切符を渡した。そのとき彼の耳元で「この切符は実際に使えますよ」と囁いた。鉄郎は一瞬「えっ!」という顔をした。切符を見ると‘アンドロメダ行き’と書いてあった。

鉄郎はストリップ劇場を出て、自分のアパートに戻った。そして、いつものように布団の上でオナニーに耽った。今夜は劇場で出会ったメーテルのことを思い浮かべていた。彼は、ふと渡された切符を取り出して眺めた。「メーテルと一緒にアンドロメダまで旅をしたいな」と思った。彼は布団の上で果てて、そのまま寝入った。

夢の中にメーテルが現れた。彼の手をとって、じっと視線を合わせて「これから、私と一緒にストリップの旅に出掛けましょう!」と誘ってくれた。鉄郎は黙って頷いた。

 

鉄郎は翌日からメーテル目当てでストリップ劇場通いが始まった。

メーテルは全てが分かっているかのように、鉄郎を受け入れた。

「あなたを、どんな女性を前にしても動揺しないで相手ができるような、機械のように強い精神構造にしてあげる!」とメーテルは鉄郎に言いました。メーテルは身体の隅から隅まで鉄郎に見せてくれた。最初のうちメーテルが鉄郎の目の前でオープンした時には、後ろにひっくり返るほどに興奮していた鉄郎でしたが、次第にメーテルの性器に目が慣れるようになりました。「この世にこれほど綺麗なものはない♡」そう思って鉄郎はメーテルの性器を眺めていました。

 メーテルは頃合いを見て、鉄郎に言いました。

「そろそろ、私以外の女性も経験した方がいいわね。鉄郎は若いのだから、デビューしたばかりの初々しい女性の性器も見てきなさい。私よりも素敵な子がいたら鞍替えしてもいいわよ。」とメーテルは言いました。

「いやだ!ぼくはメーテルがいい。メーテルの側にずっと居たい!」と鉄郎は言いました。

 それに対して、「あなたは機械のように強い精神構造を持たないといけない。そのためには新しい女性をも経験しておく必要があるのよ。」とメーテルはきっぱりと言った。

 鉄郎には「自分はもっともっと強い男になりたい。そのためにもメーテルが言う‘機械のように強い精神構造’が絶対に必要なのだ。」という目標があった。

 メーテルは優しく鉄郎に言った。「たくさんの女性を経験してらっしゃい。そして私のことを思い出したらいつでも帰ってらっしゃい。私はあなたの古女房でいてあげる。新しい女房に飽きたら、いつでも私が迎えてあげるからね。」

 鉄郎はそのメーテルの言葉を胸に抱き、新たなストリップの旅に出掛けることにした。

 

 それから数年の月日が経った。

 鉄郎は新人の踊り子たちから慕われ、いつしか‘ストリップのお父さん’と呼ばれるようになった。もちろん、いろんな踊り子さんがいた。鉄郎と楽しいストリップLIFEを送り成長していく子がほとんどだったが、なかには鉄郎の足をひっぱるような恩知らずもいた。いろんなことを経験して鉄郎自身も強い男に成長していった。

 楽しいストリップLIFEではあったが、鉄郎の心の中にはいつもメーテルがいた。「やはり、ぼくにはメーテルが必要だ!」

そう決心して鉄郎はメーテルに会いに行った。

 メーテルは優しく鉄郎を迎えてくれた。以前は絶対的な美貌を誇ったメーテルも、今では美しさが影を潜めてきていた。

 メーテルは逞しくなった鉄郎の顔をじっと見つめて囁いた。「機械のように強い精神構造になったのね。」 それに対して、鉄郎は答えた。「いや、ぼくは機械になんかなりたくない。生身の人間の感情をもって、メーテルのことを愛したいんだ。」

鉄郎は以前メーテルにもらった切符を取り出した。彼はずっとその切符をお守り代わりに財布に入れて大切に持っていたのだ。「ぼくにとってのアンドロメダは、メーテル、君だったんだ!」そう言って、鉄郎はメーテルを抱きしめた。

メーテルの目から涙がこぼれ落ちた。

 

                                   おしまい