今回は、渋谷道劇の踊り子・香坂玲来さんの演目「たんぽぽ」について語ります。
七人香盤で賑わった渋谷道劇GW興行が過ぎると、どこの劇場もそうだが、客足ががくんと落ちる。そんな中、今週5月結も渋谷道劇では七人香盤をはった。
香盤は次の通り。①香坂玲来(道劇)、②美咲遥(DX歌舞伎)、③一宮紗頼(道劇)、④希崎遥(道劇)、⑤七海セーラ(晃生)、⑥宮野ゆかな(TS)、⑦アキラ(道劇)〔敬称略〕。
玲来さんの演目は「たんぽぽ」と「オキナワ」の二個出し。
以前、演目「たんぽぽ」を初めて観て、「さて、これは何を演じたものかな?」と玲来さんに尋ねたところ、「たんぽぽ」という回答。なるほど、たんぽぽを演じると、小さいお日様のような可愛い花と白いふわふわの綿毛を演ずることになり、こういう演目構成になるのかぁ~と単純かつ純粋に感激したのを思い出す。
「たんぽぽ」の演目内容を紹介する。
最初に、盆の上の白い椅子の上に茶色い花瓶が置いてある。花瓶には緑の葉が平べったく広がっている。すぐに椅子と花瓶を片付ける。
帽子をかぶり裾広がりのドレスを着た玲来さんが登場。緑カラーをベースにした衣装ではあるが、黄色の線が襟元から胸元を伝い、スカート部に鮮やかに広がっている。白いブーツを履いて軽快に踊る。
次に、緑の上着を脱ぐと、鮮やかな黄色い衣装が現れる。茶髪を背中まで垂らし、緑と黄色を重ねたリボンを付ける。オレンジ色の花と緑の葉がついた棒を振って、白いブーツを履いたまま踊る。
最後に、一転して、ふわふわした白い衣装で登場。白い大きな帽子で頭全体を包み込む。大きな綿帽子の付いた棒を振り回し、裸足で踊る。たんぽぽの綿毛を演じている。
そのままベッドへ移行。近くでアクセサリーを観察すると、左手首に純金のブレスレットのみで、あっさりとしたお洒落。マニュキュアもしていない。逆に、玲来さんのお洒落はヘアカラーやアイコンのカラーを変えたりすることに現れる。
最後の最後に、また盆の上に椅子を持ってきて、花瓶を置く。たんぽぽはまた芽を出す。
さて、作品に対する感想を述べてみたい。
たんぽぽというのは春を代表する野草であるが、白い綿毛の場面は冬の雪の妖精のイメージを感じさせ、すごく対照的な場面が並んでいる。
今回改めてステージを拝見しながら、たんぽぽという花がお日様のような可憐な花から白い綿毛に、何故にこんなに劇的に変身するのかなぁと無性に気になった。このことを私なりに童話にしてみようかと考えた。そうしたら、たんぽぽには既に「タンポポと南風の物語」という話があり、私の考えたイメージ通りの内容であった。・・・
ある春の日、なまけ者の南風は、野原にたたずむ黄色い髪の美しい少女を見つけ、毎日夢中になって、少女を見つめ続けた。しかし、いつの間にか少女は白髪の老婆になってしまう。南風は、悲しみのあまり大きなため息をつく。すると、ため息に飛ばされて、白髪の老婆もいなくなった。
玲来さんの作品では、老婆ではなく、お日様のような花も白い綿毛も妖精のように可愛く可憐に演じている。しかし、私のたんぽぽに対するイメージはこの物語に近い。
たんぽぽは、西洋でも愛される花の筆頭格で、たくさんの花言葉がある。
英名のダンディライオン(dandelion)が、フランス語の「dent-de-lion(ライオンの歯)」に由来し、たんぽぽのギザギザした葉がライオンの牙を連想させることにちなんでいるというのも面白い。
また、西洋では古くから綿毛を使った恋占いの方法がある。「好き、嫌い、好き・・・」と唱えながら綿毛を吹いて、最後の綿毛がどちらかという占い。また一息ですべての綿毛を飛ばすことができれば「情熱的に愛されている」、少し残れば「心離れの気配がある」、たくさん残ってしまえば「相手があなたに無関心」という占いもある。
こうした花占いから、たんぽぽには「love’s oracle(愛の信託)」という花言葉もある。他にも「faithfulness(誠実)」「happiness(幸福)」など。
また、たんぽぽには「別離」という花言葉もある。これは綿毛が飛ぶ姿に由来している。先ほどの物語もこの「別離」がテーマ。
たんぽぽを辞典で調べると、生命力の強い植物であることに今更ながら驚く。アスファルトの裂目から生えることもある。50センチ以上もの長い根を持っていて、最大で1メートル程度まで伸びることもあるようだ。
茎が非常に短く、葉が水平に広がっている。このため、表面の花や茎を刈っても容易に再び生え始める。他の植物では生きていけないような厳しい環境下でも生えていることが多い。
朝、花が咲き、夕方、花は閉じてしまう。
花の特徴としては、舌状花と呼ばれる小さな花が円盤状に集まり、頭花を形成している。そのため、頭花が一つの花であるかのように見える(これはキク科植物共通の特徴である)。舌状花一つには計5つの花びらがあり、これが後に冠毛に発達し、風により種子を飛散させる役割を持つ。
改めて、たんぽぽの神秘的な生命力に感動する。これは、可憐な少女が老婆になろうが、髪を振り乱しながらも子孫を守ろうと必死になっている姿かもしれない。
玲来さんは作品を通して、いつも私に考えるヒントを投げかけてくれる。素敵な作品に感謝あるのみ。
H27年5月 渋谷道劇にて
【事後録】
「たんぽぽの演目は、芽が出てお花が咲いて綿毛になって、その綿毛がまた芽を出す。自分の人生とも重ね合わせています。」との玲来さんからのコメント。輪廻転生なのか。。。