渋谷道劇の香坂玲来さんの五周年記念に、「世界平和」と題して観劇レポートを贈ります。

 

 

 3月頭に大阪晃生で玲来さんに会い、次の3結の渋谷は五周年だから来てね!と言われ、さっそくやってきた。

今週の香盤は次の通り。①愛野いづみ(道劇)、②井吹天音(フリー)、③永瀬ゆら(林企画)、④渚あおい(東洋)、⑤小森なな(TS)、⑥香坂玲来(道劇)〔敬称略〕。

玲来さんの五周年作をすごく楽しみにしてきた。ここ数年、毎年、周年レポートをプレゼントしているが、実際に私の琴線に触れる作品ばかりで、書かずにおれなくなる。なので玲来さんも期待しているかもしれないが、私自身、どんな作品を披露してくれるか、期待に胸をふくらませていた。

今回も期待を裏切らなかった。インパクトが強く、メッセージ性の強い作品。

 

さっそくステージ内容を紹介しよう。

最初の、黒尽くめの衣装が衝撃的。頭巾をかぶり、二つの丸い口先のある毒マスクをしている。黒いふわふわの衣装に身を包む。胴周りには赤黒いコルセット状の布を巻く。機関銃を持ち乱射する。

まるで暗黒の世界からの使者か。最近、TVで観るイスラム過激派、イスラム国の戦闘員のイメージが彷彿されるが、さらに、ガサ地区では女性の戦闘員もいるはずで彼女たちが死んでいく地獄絵巻までが浮かぶ。

次は、白尽くめの女神が現れる。頭からターバンを巻き付けて、ブルーに光る地球儀を携えている。平和を願う女神の気持ちが伝わる。

一転して、白いかぶりものを脱ぐと、レインボー色のブラと短パンのセパレート衣装へ。明るい虹色の世界を標榜しているのかな。おもむろに、地球儀の中から二本のライトを取りだす。

照明が落ちる。すると、オレンジとイエローの蛍光色が浮かび上がる。足首にも青・黄緑・ピンク・黄色というバンドを巻き付けていて、蛍光色が輝く。

さきほどの二本のライトを紐で振り回す。最初はふつうに回していたが、次第にクロスしながら器用に回す。かなり習熟した動きに、玲来さんの運動神経の良さが窺える。演出効果がかなり凝っている。ライトの輪はきっと平和の輪に繋がるのだろう。

明かりがついて、そのままベッドへ。

改めて、玲来さんのブラウンにした肩口までのヘアが目に入る。ぱっちりとした付け睫毛とカラー・コンタクト。それ以外はアクセサリーも派手にしていない。左手首に純金のペンダントが付いたブレスレットかひとつ。マニュキュアもしていない。

 目元の化粧からは「みんな、目を覚まして!しっかり現実を見て!」と訴えているようだ。

 

今回の演目は、まだ作品名を決めていないようだが、テーマは「世界平和(World Peace)」とはっきりしている。(後にタイトルは「Have Oneself」(~を楽しむの意)と決まった。)

非常にタイムリーで普遍なテーマ。表現者としての玲来さんの真骨頂を見た思いがした。

 

最近ではイスラム国の勃興、日本人二人の人質殺害、直近でもチュニジア博物館襲撃事件と、イスラム過激派の横暴は止まるところを知らない。

今回の玲来さんの出し物は、イスラム国というよりはむしろ最近のガサ地区の攻防が連想させられる。根の深い宗教問題。ここでは女性や子供などたくさんの市民が犠牲になっている。また女性や子供までが戦闘に加わるという悲惨な状況がある。

世界平和を声高に訴える、悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。「エロ呆け」「平和呆け」した我々にガツンと活を入れて来たね。

しかも、女性目線で、それをストリップとして演じている。なんて素晴らしいことだろうと感動させられた。

私は、ストリップというのは平和のシンボルだと思っている。もっとストリップの意義をたくさんの人々に浸透させたいと願っている。

その気持ちを今回の童話『イスラム国とストリップ国』に込めてみた。これまで漠として抱いてきたいろんな想いがひとつの童話として仕上がった。これからのストリップを救うヒントがあると共感してくれますか?

 

 

平成27年3月                            渋谷道劇にて  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イスラム国とストリップ国』  

~香坂玲来さん(道劇所属)に捧げる~

 

 

 2015年に入り、中東に興ったイスラム国が、日本を標的にして横暴に走り出した。日本人二人を人質にとって身代金やイスラム国囚人解放を要求してきた。日本はテロに屈しない強い態度で交渉を続け、結果的に人質二人はイスラム国に処刑されることとなった。

 イスラム国の新興を遠い中東の話と思い込んできた日本人にとって、今回の事件は他人事ではないことを思い知った。

 

 そんな中、一人の男性が命からがら、イスラム国から日本に逃げ帰ってきた。名前をサワテと言った。

 サワテはイスラム国の残虐非道な横暴に憤りを覚えるとともに、平和の大切さをつくづく感じた。

サワテは以前からストリップが好きだった。ストリップこそが平和の象徴(シンボル)だと思っていた。彼は、ストリップを通して世界平和に貢献できないかを思索し、行動を始めた。

彼は多くのストリップ仲間を集めてストリップ平和党を立ち上げた。党是は、‘美と愛でもって世界の人々に平和と幸せをもたらす’というスローガン。

 

 一方、日本は2020年の東京オリンピック&パラリンピックを前にして、風俗の代表格であったストリップを規制する動きが強まった。

実際、東京オリンピックの話が決まる前から、警察はストリップに対して定期的にガサ入れを実施、個々の劇場を順繰りに約一年間の休館に追い込んでいた。そのため経済的基盤の弱い劇場は次々と倒産する羽目になった。

以前はストリップ劇場は全国各地にあった。ストリップ劇場だけでなく、映画館や小さな小屋でも盛んに踊り子さんは登場した。どさ回り芸人としての踊り子がたくさんいた。

ところが、いろんな風俗が登場し、ストリップはどんどん衰退していく。衰退を防ごうと、なんでもありのエログロ路線に走ったのが間違い。典型は本番まな板ショー。これが風営法で徹底的に取り締まられどんどん廃業に押しやられた。時代の流れの中、どうしようもないところではあったが、現在はアイドル路線に切り替え生き残っている。しかしAV業界など他の風俗が台頭することもあり未だに衰退の一途を辿っている。劇場数は、今では数えるほどに減ってきていた。

更に、東京オリンピック&パラリンピックで追い打ちをかけ、ストリップ規制が強まれば、ストリップは壊滅してしまう。こうした懸念が現実化していた。

観客数が少なくなって衰退していくのは時代の流れかもしれないが、警察の規制でストリップをいじめるのだけは我慢がならない。

そこで、ストリップ平和党は、ストリップを応援してくれる有力者を求めた。お笑い界にはストリップ劇場出身者が多かった。その中で、奥さんが元踊り子という二人、TVでの愛称:欽ちゃんこと萩本欽一さんと、今や日本を代表する映画監督になったビートたけしさんが全面的に協力を表明してくれたことが大きい。他にも、青春時代にストリップにお世話になったたくさんの著名人が協力者に名前を連ねた。

ストリップ平和党は勢いづいた。

 

 党首サワテは、ストリップの社会的意義を熱心に説明した。

 なにより、ストリップは多くの社会的弱者を救う。

 恋人がおらず結婚できないでいる淋しい男性にとって、ストリップは心地よい居場所になる。結婚している男性でも、家族に相手にされなくなった人にとってはお小遣い程度で遊べるストリップは楽しい場。そうした男性弱者を救う。

 以前、ある踊り子さんが話したことを思い出す。2008年、トラックで歩行者天国になっていた交差点に乗り入れ、次々にナイフで切り付け、死者7人、負傷者10人を出した通り魔事件、いわゆる秋葉原無差別殺傷事件が起こった。加害者の加藤智大(ともひろ)(当時25歳)は元自動車工場派遣社員で、携帯ネットに「彼女ができない」とこぼす淋しい青年だった。私はこの事件が起こった直後にある踊り子が話した言葉を忘れられない。「この人、ストリップに来ていたら、こんな事件を起こさないですんだと思うわ」。

 また、今のストリップは多くの高齢者を救う。若い人はどうしても直接的な刺激を得られる風俗を求めてしまうが、性的に弱くなった50~60代の客層には若い女性の裸を眺め、女の子を適度にからかって相手してもらう遊びの場としてストリップは最適な場所。

さらに、ストリップは高齢化社会の性福祉に役立つかもしれない。高齢者にストリップで性的な刺激を与えることで、近年社会的な大問題となっている認知症の増加や、健忘症・痴呆症の予防につなげる。

 

次に、ストリップは性犯罪の防止につながる。

最近のストリップでは、パンティ・プレゼントが人気。このイベントがあるとたくさんの客が集まる。TSミュージックでは二日に一日はパンプレDayになっているほど。これにより、下着泥棒などの軽犯罪がどれほど減っているか計り知れない。他にも、性的に鬱屈した男性のストレス発散にストリップは最適。ストーカーなどの犯罪防止に大きな役割を果たしている。ストリップはギャンブルと同じく、社会において必要悪な存在と捉えることもできる。

 

最後に、ストリップを大切な文化遺産として残していくことを考えたい。

毎日、多くの外国からの観光客が新宿のストリップ劇場に押しかける。ツアーのひとつに組み込まれているわけだが、ストリップは海外にはないのでかなり興味津々そう。楽しそうに観劇している彼らの姿を見ていると、ほんとストリップに国境はない!と思わざるをえない。

ストリップは日本に昔からある大衆文化。しかし、娯楽の殿堂であったストリップも今や人気低迷。ストリップ劇場がどんどん減っている。娯楽や風俗の多様化で、ストリップ人口がどんどん減っているからであるが、もう一度ストリップの良さ・意義を見直してほしい。ストリップは単なるエロではなく、むしろアートであり、大切にすべき庶民文化である。昔は本番生板ショーなどえげつない路線もあったが今は全く違う。相変わらずストリップを昔のエログロ路線のままと思っている人もいる。こうした誤解を解き、気楽に楽しめる娯楽場としてもっとストリップに足を運んで欲しい。

男が女のヌードを好きなのは本能。今日の疲れを癒し、明日への活力を培うのにストリップは最高の場。しかも小遣い程度で楽しめるという庶民の娯楽場なのである。

今は趣味・嗜好が多様化しているが、東京は人口が多いためストリップ・ファンも多く、たくさんの劇場が賑わっている。問題は地方。昔は地方の大きな都市には必ずストリップ劇場があった。今や100万人都市でさえ、名古屋にも博多・札幌・神戸にもストリップ劇場がないという信じ難い事実。地方の再生をストリップで!というのがストリップ平和党の政策課題のひとつになっている。多くのストリップ・ファンが全国を行き交えば経済的効果も大きい。

 

党首サワテは、これまで書き溜めていたストリップ・エッセイを編纂して「ストリップ・バイブル」をまとめた。それが多くの人々の目にとまり、ストリップ平和党は多くの人々の賛同を得ることができた。

時代の潮流を感じた党首サワテは、機を逃さず持論の政策を展開させることにした。東京のある地区に劇場を集約し、そこを国際的なカジノ都市に倣って、ストリップ都市にする構想を提案。話はサワテの予想を超えるスピードと展開をもち、最終的にそこを「ストリップ国」として独立させる運びとなる。サワテは大統領に就任。

サワテ大統領は次々と政策を実行していった。

収入はストリップによる劇場収入がメイン。世界中から観客を集めた。一方、踊り子を養成するためにストリップの学校も整備した。

サワテは、イスラム国への対抗を強く意識した。イスラム国は、インターネットを媒体にして世界の若者を募っている。この世には社会からはみ出しそうな分子がたくさんいる。そうした若者を巧みに誘ってイスラム国の戦闘集団にした。彼らの感情の源は今の社会に対する鬱屈した不平不満。そのため、サワテは、若者の鬱屈した不平不満をストリップで癒せないかを試みた。各地でチャリティー・ストリップを行い、若者にストリップの魅力を伝えた。先ほど話した加藤智大さんのような社会的弱者を多く救おうとした。

更に、ストリップ国は世界平和のために世界に向けた発信を行う。そのひとつとして、イスラム国の近くで、大きなストリップ・イベントを企画。イスラム国に流れようとした若者たちを食い止めることができた。またイスラム国からたくさんの若者が戻って来た。

 イスラム国の横暴が目に余れば余るほどに、ストリップ国は世界から注目され、多くの人々が訪れるようになり、ストリップ国は栄えた。

日本は、東京オリンピックとともに、ストリップの魅力でもって世界平和に貢献することを世界に強くアピールすることができた。

 

                                    おしまい