渋谷道劇の香坂玲来さんの四周年記念に、観劇レポート「うたかた姫 香坂玲来」を贈ります。

 

 

 ちょうど一年前のH25年3月結の渋谷道劇で香坂玲来さんの三周年作「UN-MORAL」を拝見し、かなり刺激を受けて、観劇レポート「癒しの天使からの脱皮 香坂玲来」を書かせてもらった。

 今回の四周年作「泡沫(うたかた)」も、同じくらい刺激を受けたので早速観劇レポートを書かせてもらう。

H26年3月結の渋谷道劇には後半一度だけしか顔を出さなかったので、今回4月中のDX歌舞伎でじっくり周年作を拝見した。

今週の香盤は次の通り。①香坂玲来(道劇)、②六花ましろ(道劇)、③綾瀬ナナ(道後)、④ALLIY(ロック) 、⑤川原美咲(ロック)、⑥小室りりか(ロック)〔敬称略〕。2,4回目は六花ましろさんとのチーム「ハモンセラーノ」の『DOLL』を演じていた。

 

 

笛の音で始まる。古風な和物かと思いきや、かなり斬新な出で立ち。三周年作に負けないほどの斬新さである。

着物は、赤をベースにし、黒がまだらに入る。花と鳥の絵柄がプリント。紫色の帯のうえに、更にキラキラしたエナメル色の大きな帯をしめる。

髪飾りがステキ。きらきら光る黒色のリボンと、赤い紐が付いている。

黒い紐で結んだ赤いロングブーツを履いて軽快に踊る。

 

衣装の斬新さが最初に目を引くが、なんと言っても驚いたのは次の場面。

先ほどの厚手の衣装を脱ぎ、ダーク・パープルな軽装になったかと思うと、その姿でドラムを叩き出した。しかも、その演奏が滅茶苦茶うまいことに度胆を抜かされた!

以前、バンドを組んで演奏していたようだ。なるほどねぇ~、さもなければ、これだけのバチ捌きはできない。

先の演目「オキナワ」で沖縄三味線を弾いていたが、こちらは素人肌。それでも弾けるだけで十分感心させられたが、今回のドラムの腕前を聞いて、玲来さんの音楽センスに感服した。「能ある鷹は爪を隠す」というか、五年目にして披露するところが粋だねぇ~♪

玲来さんに、ロックのトップスター灘ジュンさんが高校時代にブラスバンドで演じていたサックスをステージで演奏した話をしたが、ジュンさんも9年目で披露したわけで、素敵な女性というのは知性・教養含めて奥深い才能や素養をもっているんだなと感心する。我々ストリップファンというのは、単に女性のヌードを眺めるだけでなく、憧れの女性のキラキラした部分を感じたくて劇場通いしているところでもある。だから、今回のドラム演奏のようにキラキラした才能を披露されるとますます玲来さんの魅力にはまってしまう。

 

次に、エレキギターを盆の上に置く。エレキギターを演奏はしなかったが、バンドをやっていたくらいだから、そのエレキも自己所有のもので、きっと心得はあるはず。今回はベッドショーでそのエレキと戯れる。

玲来さんは、長襦袢姿でベッドへ。右側が白で左側が黒という色彩で、赤い線が入った黒いベルトを締めている。そのベルトを解いて、エレキに巻き付けたりする。

玲来さんの豊満なヌードはたまらない。おもわず豊かなバストに顔をうずめたくなる。セクシーな大きなヒップに頬刷りしたくなる。玲来さんの優しさに包まれたい。

玲来さんのキラキラに大満足!

キラキラ、バンザイ!

 

さて、最後に、この演目のタイトル「泡沫(うたかた)」について触れてみたい。

初めて、この出し物を見て、題名を尋ねて「うたかた」と返事され、「うた」って「歌」の方と聞いたら「あわ」の「泡沫」と教えてもらった。泡沫とは水面に浮かぶ泡の如く、消えやすい儚いものの譬えである。ものすごく意味深。三周年作「UN-MORAL」同様に深い意味や意図がありそう。

玲来さんに尋ねた。「泡沫にした意味は、そう長くはない人生の中で踊り子でいられる瞬間はもっと短くて、その僅かな間は少しでも自己表現をしてゆきたいという決意みたいなものかな~? 」

ドラムの音もすぐに消えていく。美しきヌードも永遠ではない。であるからこそ、今を輝かせたい。今の自分を精一杯表現し、客の目に、客の心に何かを残したい。そういう玲来さんの気持ちが演目「泡沫」から伝わってきた。

ちょうど四周年グッズとして素敵な写真集カレンダーを頂いたが、その表紙に次のようにある。

「何故 歩き出さないの? 

何故 創り上げないの?」

彼女は何かを模索している気がする。それは、踊り子としての理想像か将来の人間像か。一瞬、私に向かって投げられた言葉のようにも感じた。

私が文章や童話(ストーリー)で模索しているものに相通ずる。実際に私の文章への玲来さんの反応が心の琴線に触れることがよくある。踊りと文章と、表現する手法は違えども、表現者として目指す自己表現や自己実現は同じだろう。

これからの玲来さんから目が離せない。いや、ファンとして絶対に離れないからねー♪

 

 

平成25年4月                            DX歌舞伎にて  

 

 

 

 

 

                               H26.5

『うたかた姫』 

~香坂玲来さん(道劇所属)の周年作「泡沫(うたかた)」を記念して~

 

 

 

 ある少女の前に、一匹のカエルが現れた。ゲロゲロと鳴く。

「うたかた姫、私はあなたのしもべです。これからの長い人生、お付き合いさせて頂きます。」

 少女は驚く。「えっ!私はうたかた姫なんかじゃないわよ」

「いいえ。この世はすべて泡沫(うたかた)。だから、あなたも‘うたかた姫’なんですよ」

 

 カエルは、いつも忘れた頃に、ひょっこり現れた。

「うたかた姫は歌が上手ですね。将来は歌手になりたいんですか?」と尋ねる。

「私は唄が大好き。聞くのも歌うのも楽器を演ずるのも大好きよ。いつかバンドを組んで演奏するのが夢なの。」と、うたかた姫は答える。

「わかりました。うたかた姫の夢を泡に包んで時の大河に流しましょう。」とカエルは話しました。カエルはゲップゲップと鳴く。うたかた姫はカエルが何を言っているのか分かりませんでした。

 

 カエルが、また、ひょっこり現れた。

「うたかた姫は絵が上手ですね。将来は画家になりたいんですか?」と尋ねる。

「私は絵を描くのが大好き。デザイナーの仕事なんかもステキよね。」とうたかた姫は答える。

「わかりました。うたかた姫の夢を泡に包んで時の大河に流しましょう。」とカエルは話しました。カエルはゲップゲップと鳴く。うたかた姫は、カエルの言葉にきょとんとした。

 

 カエルが、またまた、現れた。

「うたかた姫はダンスが上手ですね。将来は踊り子になりたいんですか?」と尋ねる。

「私はダンスが大好き。いろんなダンスを習得して、大きな舞台で舞い踊るのが夢なの。」と、うたかた姫は答える。

「わかりました。うたかた姫の夢を泡に包んで時の大河に流しましょう。」とカエルは話しました。カエルはゲップゲップと鳴く。うたかた姫は、怪訝な顔をしました。

 

 少女は年頃になって恋をした。

「彼こそが私の全て、彼こそが永遠」と恋に夢中になる。しかし、あえなく恋は砕け散る。少女が悲しみの中で傷心な日々を送っていると、またカエルが現れた。

「‘うたかたの恋’でしたね。この恋も泡に包んで大河に流しましょうね。」とカエルは言う。カエルはゲップゲップと鳴く。

「いつもよく分からなかったの。泡に包んで流すって、どういうこと?」と、うたかた姫は尋ねる。

「この世はうたかた。全ての想いが泡になって大河という時の流れに入る。今回の失恋は、いずれ思い出となって、シャボン玉のように光輝くようになるのよ。」

 うたかた姫はますます分からなくなった。

 

 学生時代に、少女は仲良しの仲間と一緒にバンドを組んで夢中で演奏した。

 そこに、カエルがひょっこり現れる。ゲロゲロと鳴く。

「うたかた姫、お久しぶりです。大河に流したひとつの泡が輝いていますね。素敵なことです。頑張って下さいね。」

 夢中になったバンドも、いつしか仲間が離れていき、音楽熱は冷めていく。

 

 少女は、いつしか美しい女性になり、踊り子になって舞台の上で輝いていた。

 そこに、またカエルが現れる。

「うたかた姫、素敵な踊り子になりましたね。よかった!よかった!

 あなたが小さい頃に抱いた想いは、大きな大河の中で揉まれました。絵の泡は破裂してしまいましたが、音の泡は残り、また踊りの泡は今すてきに輝いていますよ。」

 うたかた姫はカエルに向かって尋ねた。

「あなたは、いつも、この世の全ては泡沫って言うわよね。どういうことなのか教えてくれない?」

 カエルは、うたかた姫の真剣な目を見つめ返して、静かに語り出した。・・・

 

 この世はうたかた・・・

 全てのもの、全ての人の想いは、時という大きな大河に流される。

全てが泡になり、大河の中で浮き沈みしている。また全ての思い出が泡に包まれて流れていく。

 音もうたかた

 色もうたかた

 恋もうたかた

 命もうたかた

 

奏でた音はすぐに消えていく。音はひとつひとつの音符で構成され、絡まり合い、組み合わさってリズムやメロディになる。しかし、演奏された音はすぐに大河の流れに消えていく。

絵もそう。ひとつひとつの色素が重なり合い組み合わさって絵になっているけど、すぐに大河の中で消えていく。

もっと言えば、目の前の全てのものが小さな小さな素粒子の塊なの。もともと素粒子そのものはなんの意味を持たないけど、一時それらが集まることで形や機能が生まれてくる。不思議なことね。でも、それらも大河の流れの中で再び粉々に砕け、また素粒子に帰っていくの。

恋も命も時の移ろいの中で流れていくもの。

男と女が出会い命が生まれる。無数の精子がひとつの卵巣に群がり、たったひとつの精子だけが卵子と結ばれ、生命が誕生する。残りの無数の精子たちは消え去る。命の厳かさとは実は無常観のかたまり。

 

カエルが、ここまで話したときに、うたかた姫は叫んだ。

このステージを泡沫にしないで! 

 大好きな恋人を泡沫にしないで!

 大切な両親を泡沫にしないで!

 愛する家族を泡沫にしないで!

 誰か時の流れのスイッチを止めて!

 

愛する人が消えていく。あれだけ熱い契りをしたのに、愛する人は去っていった。この世に永遠の恋なんてない。

 愛するお母さんも亡くなった。若くして罹った癌の進行は早かった。もう、私のことを心から愛してくれる人はいない。

 私の人生も、きっと、うたかたのように消えていく。私が生きた証(あかし)は何も残らないのかしら?

 この世に永遠と呼べるものは何もないのかしら?

 あぁ~淋しくてたまらない。虚しくてたまらない。どうしたらいいの? 

 

 カエルは、うたかた姫の様子を窺い、彼女の真剣な眼差しを受け止めた。しかし、何も答えないまま消えていった。

うたかた姫は思った。・・・

 

今を生きるしかない・・・

 全てがうたかたと分かったうえで、今を精一杯生きれば、きっとその先に何かがあるはず。そう信じて踊る。

 私は、うたかた姫。

今、このステージを夢中で踊る。

 輝く裸体。飛び散る汗。熱い視線。今はそれが全て。

 

                                    おしまい