今回は、H27年8月結の道劇二人(一宮紗頼さんと多岐川美帆さん)の周年について、「二人の引退劇」と題して語りたい。
お盆を過ぎて東京はもう秋の気配を感じ始める。7月から続いた、あの猛暑が和らいだだけでも心身共にホッとしている。
H27年8月結の渋谷道劇の香盤は次の通り。①愛野いづみ(道劇)、②井吹天音(フリー) 、③天上くるみ(TS)、④六花ましろ(道劇)、⑤一宮紗頼(道劇)、⑥多岐川美帆(晃生)〔敬称略〕。
今週のメインは、三周年を迎えた一宮紗頼さんと七周年を迎えた多岐川美帆さんの周年記念。先月、渋谷道劇に通ったときに、一宮紗頼さんから「来月は私の三周年なの。本当は8月中なんだけど、今回は8月結に多岐川美帆姐さんの周年と一緒にやるから来てね。自信作なんだから必ず来てね。もしかしたら美帆姐さんとチームをやるかも・・」と話してくれていた。
私は8月25日(火)に東京で午前中に仕事があったついでに、午後から渋谷道劇に顔を出す。一回目の天上くるみさんのステージに間に合った。平日だし、すぐに盆周りの席に座れるほどに客入りは少ない。
さっそく、一宮紗頼さんの三周年作を紹介する。「今週は周年作と昨年主催イベントで出した作品のストリップバージョンの二個出しです。」
最初に、盆の上に長い洋剣を置いてからスタート。
中世ヨーロッパの戦闘服姿で登場。昔のケルト人をふと彷彿させられる。
華やかな銀色の鎧を着る。上半身にがっちりした銀の鎧を装着し、下半身はスカートのようにふわふわして動きやすい。鎧には黒い短い紐でたくさんの装飾がされ、上着の裾には金の毛が垂れ下がる。頭には白い羽根が付いたヘアバンドを巻き付け、またヘアバンドの左右サイドにも金の毛が垂れている。両手にも鎧をガシッと巻き付ける。足元は黒いシューズを履き、洋剣を振り回して軽快に舞う。
洋剣は赤い鞘が華やかで本格的なもの。実際に持たせてもらったらかなり重かった。紗頼さんは機関銃にしても洋剣にしても小道具にはかなりこだわりが強く、数万円もする高価なものらしい。
その後、白いドレスに着替え、最後はドレスを脱いで、長い黒髪を背中までなびかせながらベッドショーへ。ベッドでは洋剣に絡み、洋剣を振りかざしながらポーズを決める。
事件はポラタイムに起こった。
紗頼さんがおもむろに年内引退を発表。土曜日の周年イベントで発表したようだが私にとっては初耳。正直かなり動揺した。なぜ、こんなに早く・・・「何事も時間を区切ることが大事!だらだらしたくないの!」と言う。昨年末にH27年度を勝負の年にしたい!と話していたが、こういうケジメだったのか。大きな目標を抱いている紗頼さんにとって、踊り子はひとつのステップにすぎないのだろう。「そのわりにはお金が全然たまってないの。衣装に懲りすぎて、家の中は衣装で溢れかえり、まだ着ていないものもたくさん。」と言う。
私にとって紗頼さんは、数少ない私の理解者であった。私は紗頼さんのステージに知的好奇心を掻き立てられて沢山のレポートを執筆できた。同じ表現者としての血を感じ合った同志みたいな存在であった。だから、さらりと引退宣言されてしまったが、私としてはショックは物凄く大きい。
その状態のまま引き続き、1ステージラストの多岐川美帆さん(愛称のタッキーで呼ぶ)の七周年作が始まった。
これまた驚いた。いつもコミカル路線でくるタッキーが真面目な演目に挑んでいる。
華やかな白いロングドレス。上半身は白地にキラキラ輝くダイヤのような宝石が散りばめる。下半身は裾広がりで、裾に前から見て白い花が二つ括り付けられている。髪は後ろにまとめて白い花と緑の茎で飾る。白い可愛いブーケを持って、白いブーツを履いて舞い踊る。
これはウエディングドレスではないか!?
しかも、曲が次のように続く。女性ボーカル版「贈る言葉」、堀内孝雄の「愛しき日々」、中島みゆきの「時代」、そして八代亜紀の「あなたに乾杯」。ラスト曲は七年目での別れの歌詞で聴いていて泣かせる。もしかして・・・「タッキーも引退するの?」と尋ねる。
「新作25作目。引退作を作ってみました。是非、レポして下さいね。」ただし引退はしない!との答えにホッとする。一種の生前葬みたいに、引退作を先に作っておいたと話す。タッキーは以前から「引退興行はせずに、いつかはフェイドアウトすると決めているので。」と言っている。
それにしても、紗頼さんの引退発言を聞いた後で、このタッキーのステージを観ていたら涙が止まらなくなった。紗頼さんがタッキーとチームにしようかな!?と云っていた言葉が思い出される。その旨を二人に手紙で感想する。
すると、タッキーから「太郎さん、やはりよく見てますね。紗頼ちゃんと、ある意味チームショーなんです。」と、紗頼さんからも「そうだよー。2人のチームショーだったのにあまり向こうの方が引退作って気づいてる人少なくて、ドッキリにならないじゃん~と言っていたんだよ~笑」と返って来た。
ジョークを交えた、こんなチームショーが有ることに、改めて感激した。
タッキーは紗頼さんの独演会に友情出演した仲。道劇という同じ劇場で親交を深めた二人の関係にも改めて敬意を表したい。たまたま同じ時代に踊り子になり、たまたま同じ劇場所属になり、たまたま私もファンとして二人を応援させて頂いた。これ自体がなんて素晴らしい縁かな!としみじみ思う。
紗頼さんの三周年、タッキーの七周年、そして二人のすてきな友情に乾杯したい。
平成27年8月 渋谷道劇にて