今回は、鈴木ミントさん(ロック所属)について、H30年9月頭のDX東寺での模様を、演目「明日への手紙」を題材に語りたい。なお、本レポートは鈴木ミントさんの「ストリップの妖精に恋をする」シリーズ(その8)になる。

 

 

H30年7月結のDX歌舞伎で初めて演目「明日への手紙」を拝見し、また観たいと思っていたら、次の9月頭のDX東寺でまた観ることができた。

しかも、その時にミントさんから内容と選曲について丁寧な手紙を頂き感激した。

私自身、初めて作品を観劇した時に、あのキツネの面を見てビビッとした強いインパクトを感じた。この感覚はなんだろうか? 気になってしょうがない。

ミントさんの解説「テーマというか自分なりのストーリーです。狐の面は嘘を表現してます。花魁は自分の心に嘘をついて身体を売る。綺麗に着飾って、色目を使う。でも、ふと、故郷の事を思い出す。昔の自分からの手紙で迷う(元気でいますか? 夢は叶いましたか?) 最後はキツネ(嘘)を脱ぎ捨てて、この道を歩むと決める・・ちょっとストリップにも似てますね!」

これを読んで、是非とも観劇レポートさせて頂きたくなった。

 

まず、私なりにステージ内容を話したい。

 最初に、妖しいおどろおどろしたインスト曲が流れる。琴の音が響く。

 黒い生地をベースに緑と青がキラキラする着物姿で登場。なんと白い狐の面を付けている。舞台左側に鏡台があり、狐の面を取って鏡台の前に座り簪(かんざし)を付ける。

一曲目はRin'の「浅キ夢見シ」である。Rin'(リン)は、日本の音楽バンド。日本の伝統楽器、箏、十七絃、琵琶、三絃、尺八で音楽活動を行なっていた、女性邦楽器演奏家3名によるバンド。2003年4月7日、東京芸術大学の同窓生、Mana(吉永真奈)・Tomoca(長須与佳)・Chie(新井智恵)の3人によりRin'結成。バンド名の由来は「凛(りん)とする」という意味のほか、英語の「Ring(輪)」と和楽の「和」をかけて、音楽を通じて「輪」を作っていきたい…という理由から。 2004年にavexから 「Sakitama〜幸魂〜」でデビュー、日本の伝統楽器の音色にJ-POPのメロディーを取り入れ、新たな伝統音楽を創造している。音楽の国際見本市であるMIDEM2006(於カンヌ)に、KOKIA・Rie fuとともに出演した。 2006年にドーモレコードからInland Seaで全米デビューを果たす。2009年2月13日、解散によりRin'としてのグループの活動終了を公式ページで発表した。

 音楽が変わって着替える。また日本楽器を使った軽快なインスト曲。

 鶴の絵柄の赤い内掛けを羽織って現れる。頭は簪の付いた鬘(かつら)のまま。内掛けを脱いで、煙管を持って花魁の恰好をする。

 二曲目は、コタニキンヤ.の「和魂:カズ・ハヤシのテーマ曲」(リリース:2014年10月29日)。ちなみに、カズ・ハヤシ(1973年5月18日 - )は、みちのくプロレスのプロレスラー。

コタニキンヤ.(1979年7月16日 - 現在39歳)は、日本の歌手。埼玉県出身。本名小谷 欣矢。旧芸名コタニキンヤ、キンヤ。所属レーベルはダーウィンレコード。

更に、音楽が変わる。今度は心が鎮まるようなインスト曲。三曲目は、高橋みどりのアルバム「プラス思考」(2004年)の中から「水のゆらめき」。

 着物を徐々に脱いでいく。赤い帯を解く。さらに白い帯(紐状)も取る。

 ここで一旦暗転。

 紫の傘をさして、襦袢姿(下半身のみ)で現れる。頭は簪の付いた鬘(かつら)のまま。

 手紙を持って盆に移動。

 ベッド曲は、手嶌葵の「明日への手紙」。透き通った水のように美しい声だ。

 本作品のタイトル曲であり、後ほど参考欄で詳しく述べたい。

立ち上がり曲は、天地雅楽 の「風の王国 〜Kingdom Of Wind〜」。結成10周年記念、13曲収録のベストアルバム「玉響〜たまゆら」に収録。天地雅楽のリーダーは久次米一弥(くじめかずや)で、天地雅楽ほぼ全ての作曲・編曲・プロデュースを担当。高祖父は地方楽師、曽祖父は関西を拠点に神道祭典楽会を創設した人物であったことから、幼い頃より神社での祭典奏楽と神楽に携わってきた経歴を持つ。

 どの曲もミントさんの選曲センスが光るものばかりですごく感心させられる。

 

 

 ミントさんのお手紙の中に「キツネは嘘の象徴」のような記載がありましたね。狐の仮面をかぶるという点は、ステージでは最高の演出だと思います。

 ところで、狐は本当に嘘つきなのかな?と、ふと思いました。

 というのは、最近、ディズニーの映画『ズートピア』を観たのですが、この映画の中に、主人公のウサギと詐欺師のキツネが登場する。確かに、キツネは嘘つきの代表のように詐欺師という役柄でした。ところが、物語の中で、ウサギは次第に「キツネが嘘つきだというのは偏見だ!」と気づいていきます。

 映画では、ズートピア初のウサギ警察官になった、いつも夢を信じる新米警察官ジュディに対して、夢を忘れたキツネ詐欺師ニックが弱みを握られて協力せざるを得なくなり、二人で難事件を解決していくことになる。ニックのことを‘夢を忘れた’と書きましたが、彼は幼少の頃にジュニアレンジャースカウトの団員になろうとしたが、「キツネは信用に値しない」として誓いの儀式で口輪をはめられるいじめを受け、心に傷を負う。そうしたトラウマから彼は夢や希望は既に捨て去っており、ズートピアに夢を持って上京してくる者達を冷ややかな目で見ていた。そのため会った当初からジュディをバカにして「ニンジン」とか「ウサギ」などと呼んでいた。しかし、ニックは途中から大きく変わっていく。行方不明事件を追う中で、彼が詐欺師として得てきた知識や経験をジュディに見初められ、警察官になることを勧められ、最終的にキツネ初の警察官となった。

 ジュディも、幼い頃に近所のキツネのギデオンにいじめられたこともあって、上京時に両親からもらったキツネよけスプレーも持ち歩いていたわけで、やはりキツネに対する偏見を持っていた。そのことが、後にニックとの葛藤を引き起こすことにつながる。ちなみに大人になったギデオンは、昔いじめたことを謝ってジュディと仲直りする。

 最終的にはジュディはニックの人柄に惚れていく。その過程で「都会は怖いんだぞ!中でもキツネは最悪だ!」という父親の忠告に対して、ジュディは「キツネ全部がイジワルじゃないわ。性格の悪いウサギだっているわよ」と言い返すようにまでなる。

 

「キツネは嘘つき」という昔話はたくさんありますね。すぐに思いつくのが「キツネの嫁入り」です。少し長くなりますが、次に「キツネの嫁入り」について話します。

「狐の嫁入り」と辞書で引くと次のように解説されている。①.日が照っているのに、急に雨がぱらつくこと。日照雨(そばえ)。天気雨。②.夜、山野で狐火が連なって、嫁入り行列の提灯のように見えるもの。

 この「狐の嫁入り」の由来について、次の三つの説がある。

1.     狐を生け贄(いけにえ)にした

2.     狐を隠している

3.     狐に化かされている

それぞれの話を紹介しよう。

1.     狐を生け贄(いけにえ)にした

  昔、ある村で長い間雨が降らず、田畑が干上がり農作物が育ちませんでした。困った村人たちは神に生け贄を差し出し、雨乞いをすることを計画します。

 何を生け贄にする?  「狐にしよう」

 どうやって掴まえる? 「騙してやろう」

 人間に化けるのが得意な、女狐がいました。

 村一番の男前の若者が狐に近づき、自分との結婚を持ちかけます。

 嫁入りに来たら、殺して生け贄にするという計画。

 交際しているうちに、二人は心を通わせるようになりました。そして狐は、若者の本当の目的に気が付く。

 それでも狐は嫁入りを決意します。

 若者のため、村のため生け贄となり、狐の流した涙が大粒の雨となって、村中に降り注いだのです。

 

2.     狐を隠している

 ある狐の娘、嫁入りが決まりました。めでたいということで、親戚そろって娘を連れて嫁入り行列をしようということになりました。

 ところが、人間の村の中を狐がぞろぞろと行列をつくって歩いた日には、一斉に掴まえられるに決まっている。

 雨でも降っていれば少しは視界がぼやけて見えないのに、めっちゃ晴れてるし。それでも、狐たちは、精一杯の雨乞いをした。すると、自分たちの周りだけ雨が降り出した。

 狐たちは雨を降らしながら足早に村を通り、無事に嫁入りすることができました。

 そうとは知らない村人たちは、なんで雨が降っているのか謎のまま。狐って雨を降らせるんだーという話になりました。

 

3.     狐に化かされている

昔ある地域では、提灯(ちょうちん)の明かりをともしながら夜中に嫁入りをする風習があったそうです。

 めでたい行事ですし、村を挙げてお祝いをする日になります。

「明日は、与作んとこに嫁くるべ」

「来週は、田子作んとこに嫁くるべ」

 村の掲示板には、最新の嫁入り情報が張り出されたことでしょう。

 そんなある日。

 村はずれの森の中から、ポツリと小さな火の灯りが見える。今日は嫁入りの予定は無かったと思ったけど・・・

 ポツポツポツ。灯りは増えて漂います。

 フワフワ揺れているが・・人の姿はない!?

  謎の灯りを鬼火とも呼ぶ。これは狐が人間に隠れて行っている、嫁入り行列だろうと言われるようになった。

 

 一番スタンダードな説は、二つ目に紹介した「狐の嫁入りを雨で隠す」のようです。「狐は嘘つき」という意味では最後の「狐に化かされている」の説が近いでしょう。

 しかし、私には、最初の女狐の悲しい伝説が心に残りました。こうなると、ウサギ警察官ジュディの言うように「キツネが嘘つきだというのは偏見だ!」と思いたくなる。いや、むしろ人間の方が嘘つきだと言いたいね。ひとつ、私流に童話「狐の嫁入り」を書いてみたよ。ミントさんにプレゼントするね。

 

 さて最後に、「ちょっとストリップにも似てますね!」というミントさんのコメントを受けて、改めて問う。「ストリップは嘘・偽りの世界なのか?」

 ストリップでは絶世の美女が目の前で裸体を晒してくれる。我々男性はもしかしたら女狐に騙されているのかもしれない(笑)。しかし、女に相手にされない男性にとって、こんな夢のような世界はないだろう。

 女性に相手にされない現実と、そして厳しくも気ぜわしい現実からの逃避として、男はストリップ劇場に潜り込んで一時の竜宮城のような世界を味わい、そして現実に帰っていく。劇場を一歩出たら、そこにはまた厳しい現実社会が待っているわけだ。

 しかし、ストリップが‘まやかしの世界’だとは私は思いたくない。ストリップから受けた感動を幻だとは思いたくない。だから、形あるものとして記録しておきたくて、こうして観劇レポートなどを書いているのかもしれない。

 私にとって観劇レポートや童話は、いつか振り返ってみた時に、あの心ときめく世界をもう一度鮮明に思い出したくて記録している。これが私にとっての「明日への手紙」なのである。

 少なくとも私にとっては、ストリップは真実そのもの。それが私のストリップ愛なのだと断言したい。

 

 

平成30年9月                             DX東寺にて

 

 

 

 

【参考】手嶌葵/明日への手紙

作詞:池田綾子    作曲:池田綾子

手嶌葵5枚目シングル 2016年2月10日リリース

月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』主題歌

耳に残るそのタイトルの響きからして既にせつなさを感じさせるこのドラマは、「東京ラブストーリー」以降、「愛し君へ」「それでも、生きてゆく」「mother」「最高の離婚」など数々の名作を世に送り出してきた坂元裕二脚本による本格ラブストーリー。有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎という今もっとも旬な若手俳優陣を迎え、東京という街に飲み込まれそうになりながらも必死に生きようとする若者たちのリアルな恋を丁寧に描いていく。

 

これを歌う手嶌葵さんは、私が心酔しているジブリ作品と深く関係する方である。その点について以下に少し述べたい。

 

手嶌 葵(てしま あおい、1987年6月21日 - 現在31歳)は、日本の女性歌手。本名同じ。ランデブー所属。福岡県出身・在住。身長174cm。

幼い頃から両親の影響で古いミュージカル映画に親しみ、趣味は映画鑑賞である。特に好きな映画として挙げているのは、『オズの魔法使い』『秘密の花園』『小公子』『ティファニーで朝食を』等。またスタジオジブリ作品では、『紅の豚』がお気に入りであると公言している。両親が洋楽好きだったこともあり、ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディなどのジャズ・シンガーが好きで、特に中学時代に聴いたルイ・アームストロングの「ムーン・リバー」に衝撃を受けてジャズが好きになった。そうやって日頃から慣れ親しんできた映画音楽やジャズが彼女の音楽のルーツとなった。

自身の性格として「頑固で気が強い」と自己分析しており、映画『ゲド戦記』にて自身が声を当てたテルーにも、「頑固者なところや負けず嫌いなところなど、似ている部分はある」と答えている。また、カメラが苦手である旨を語っている。

中学生の頃、対人関係の問題から登校拒否に近い状態になった。その時に心の支えとなったのがベット・ミドラーの「The Rose」であり、アマチュア時代からライブでカバーしている。このカバーの音源がデビューのきっかけとなる。

 

2005年 3月、韓国で行われたイベント『日韓スローミュージックの世界』に出演。このイベントがきっかけで、後日、ヤマハの関係者からスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーにデモCDが手渡された。これに収録された「The Rose」のカバーに惚れ込んだ鈴木プロデューサーの薦めでデモを聴いた宮崎吾朗監督も彼女の歌を気に入り、当時まだ無名の新人ながらジブリ映画『ゲド戦記』のテーマソングを歌う歌手に抜擢される。また映画のテーマソングだけでなく、ヒロイン・テルー役の声優も務めることになった。

※「テルーの唄」

1st 2006年6月7日  テルーの唄 オリコン最高5作詞:宮崎吾朗,作曲:谷山浩子

4th 2011年6月1日  さよならの夏 〜コクリコ坂から〜 16作詞:万里村ゆき子/作曲:坂田晃一

<「明日への手紙」の歌詞>

元気でいますか。

大事な人はできましたか。

いつか夢は叶いますか。

この道の先で

 

覚えていますか

揺れる麦の穂 あの夕映え

地平線 続く空を探し続けていた

 

明日を描こうともがきながら

今夢の中へ

形ないものの輝きを

そっとそっと抱きしめて

進むの

 

笑っていますか

あの日のように無邪気な目で

寒い夜も雨の朝もきっとあったでしょう

 

ふるさとの街は帰る場所ならここにあると

いつだって変わらずに あなたを待っている

 

明日を描くことを止めないで

今夢の中へ

大切な人のぬくもりを

ずっとずっと忘れずに

進むの

 

人は迷いながら揺れながら

歩いてゆく

二度とない時の輝きを

見つめていたい

 

明日を描こうともがきながら

今夢の中で

形ないものの輝きを

そっとそっと抱きしめて

進むの

 

 

 

 

ストリップ童話『狐の嫁入り』

~鈴木ミントさん(ロック所属)の演目「明日への手紙」を記念して~

 

 

 昔昔の話です。

 

「困ったのぉ~。このままでは田畑が干上がってしまう。一体いつになったら雨が降ってくれるのかねぇ~。」村人たちはほとほと困った顔で空を眺めました。

 この村には、長い間、雨が降っていません。

 村の長老たちは、村にある唯一の神社に集まり、神主に相談しました。

「昔から、干ばつの時には、神様に生贄(いけにえ)を差し出し、雨乞いをしたようだ。今回も雨乞いの儀式を行わないといけないと思う。」神主の言葉に長老たちは頷きました。

「問題は、神様に差し出す生贄だ。昔から美しい生娘を差し出すことになっている。」

 長老たちは顔色が変わり動揺しました。「おらのところの娘だけは勘弁してほしい」と口口に言いました。

 すると、ある長老が目をぎょろりとさせて言いました。

「狐にしようか。」

 長老たちは皆お互いの顔を見ながら頷きました。

「騙して生贄にしてしまおう。」

 

 その村には、人間に化けるのが得意な女狐がよく出没していました。村の人はその女狐をミントと呼んでいた。狐の毛皮をミントの毛皮と言っていたのでね。

 村の娘たちが楽しく遊んでいると、ミントはいつの間にか仲間に加わっています。ミントは肌の色が透き通るほど白く、とても可愛い顔をしていた。明るく優しい笑顔をしていたので、誰もが一緒にいても違和感を覚えません。

 ミントは人間が大好きでした。人間は遊びをたくさん知っている。例えば、かくれんぼ、お手玉、ゴム跳び、おはじき、ままごと。まだまだある。だから、一緒にいるととても楽しくて時間を忘れてしまうほどです。

 夕方になれば、女の子は皆お家に帰っていく。ひとり去り、またひとり去り、そして一人ぼっちになったミントは淋しく森に帰っていきました。

 ミントは人間になりたいと思いました。でも、人間に化けることができても人間になることはできません。

 

 ある時、娘の姿をしたミントは、村の長老に声をかけられた。

 今度、村で「花之宴」を催すので、是非参加したらいいと誘われたのです。いつも遊んでいる娘たちも参加します。そして村の若い男衆も参加します。実は、その「花之宴」とは集団お見合いの場だったのです。

そこでは、娘たちは色とりどりの綺麗な着物を自分で選んで着ることができました。ミントは嬉しくなりました。喜んで「花之宴」に参加することにしました。

「花之宴」は始まりました。・・・

ミントはたくさんの着物を前にして心が弾みました。そして花柄の赤い着物を選びました。かわいい髪飾りも付けました。村の老婆たちが着付けを手伝ってくれました。帯を締め、白い打掛まで羽織らせてくれました。その白い打掛には華麗な花車が描かれていました。果たして花車はミントに幸せを運んでくれるのでしょうか。

赤い口紅も軽く塗りました。小顔で色白のミントによく似合い、それはそれはたいそう美しい娘になりました。村の衆が、あまりの美しさにため息を漏らしました。

そこに、村一番の男前の青年が近づいてきて、彼女に求愛しました。彼は涼しげな眼差しでミントの瞳を見つめました。ミントの心はときめく。彼の名前はサワテと言いました。

ミントは、サワテの求愛を受けました。その晩は、夫婦の契りをすることになります。

二人は連れ立って、離れた別の部屋に移っていきました。これから「花之宴(艶)」第二幕が始まります。

二人の後ろ姿を見ていた村の長老たちは「うまくいったな」と顔を見合わせました。

 

二人が別の部屋に入ったら、そこには床(とこ)が取ってありました。

ミントはサワテに向かって言いました。「衣服を脱いで、お布団の上に横になって下さい。後はわたしにお任せ下さい。」サワテは黙って彼女の言うままにした。

行燈の灯りを消して、ミントは着物を脱ぎ始めた。月明かりに彼女の裸体が妖しげに浮かび上がった。

「なんて綺麗なんだろう。私はこんなに美しいものを見たことがない・・・」

透き通るほどの白い肌。形のいい乳房。細くくびれた腹部。ふっくらした腰回り。すらりと長い手脚。まるで妖精のように美しい裸体に彼は生唾を飲み込みました。暗がりでよく分かりませんでしたが、黒髪の間に白い毛の生えた耳が立ち、臀部にもふわふわした白い尾のようなものが見え隠れしていました。しかし、サワテにはそれを気にする余裕はありません。

ミントの長い髪が風に揺らぎました。部屋は閉め切っているのに、彼女の周りに風が吹いています。彼女の背後には広い草原が見えます。風は草木を撫でました。空には太陽と月が交互に現れます。なんて幻想的な光景なんだろう。

二人は風になり、宙に浮きながら、性の営みが繰り広げられた。彼女の長い手足が身体に絡みつき、ふわふわした尾が彼の性感帯を探すように全身を撫でまわした。そして彼女の妖しい舌が彼の唇を吸い、次々と彼の性感帯を這い回し、最後に辿り着いた要所を優しくかつ鋭く刺激し包み込んだ。サワテは激しく反応し、二人は性の獣と化す。そして、サワテとミントは一体となる。その瞬間、太陽と月も一体となる。壮大なパノラマの中での性の営み、そして絶頂期を迎える。

 青年はこれまで数々の女を経験していた。が、もちろん、こんな感覚は初めてだった。サワテは幻想的で異次元の性行為に酔いしれた。

 こうして「花之艶(宴)」第二幕は終わった。

 二人の夫婦生活が始まった。二人は心から愛し合った。

 しかし、二人の幸せな生活は三日と続かなかった。

 

 長老たちが、女狐を生贄にする算段をしていた。

 それを風の精がこっそりミントの耳に運びました。彼女は驚きました。その企てをサワテが知っていることにも涙しました。なぜなら、ミントはサワテのことを心から愛していましたから。

 一方、サワテは悩んでいました。女狐を生贄にすることを承知で近づいたわけですが、たまらなく可愛く、献身的に自分に尽くすミントのことを愛していました。全て正直にミントに告げて許しを請い、二人で駆け落ちしようと考えていました。もう村にはいられません。

 サワテがそう決心して、家に戻ったら、ミントは居ませんでした。長老たちがミントを連れだした後でした。

 ミントは何の抵抗もせず、黙って長老たちの言うことに従いました。そして、愛するサワテのため、村のため、神様の生贄になろうと、自ら進んで崖の上から身を投げたのでした。

 すぐに、女狐の流した大粒の雨が降り出しました。   

 

 ミントを探していたサワテは、急に雨が降り出しことに慌てました。

「もしかしたら、ミントの身になにかあったな・・・」

 長老たちを見つけ出したサワテは問い詰めました。彼の血相に驚いた長老たちは事の成り行きを説明してから「サワテ、よくやった。このお礼はしっかりさせてもらうよ・・・」と話し出しました。サワテは彼らの最後の言葉を聞かず、飛び出しました。そして、ミントが身を投げた崖に駆け付けました。

「ミント、おれは大変なことをしてしまった。申し訳ない。・・・」サワテは泣き崩れました。そして、意を決したように立ち上がり「おまえ一人を死なせるわけにはいかない。おれも一緒にそっちに行くからな・・・」と言い、崖から身を投じました。

 

 ミントとサワテの話は村中に広まりました。村の人たちは二人の死を嘆きました。

 二人のお陰で、その後、村には干ばつが無くなり、田畑も生き返りました。

 村の人たちは崖の上に二人の祠(ほこら)を立て、後々まで二人の話を語り継ぎました。

 

                                    おしまい