前回H29年10月結のシアター上野公演で、演目「エレベーターガール」を題材に、童話「エレベーターガール」をプレゼントさせて頂きました。
ところが、あのあと徒然に、自作の童話「エレベーターガール」を読み返してみました。殆んど観た翌日に勢いで書いたので、よくよく考えてみると、何がテーマで、何が面白いのか、自分で納得がいかなくなる。もう一度練り直そうと思いました。
たまたま、あの上野公演の後に、大阪東洋で荒木まいさんが3周年を迎え、周年作の「天女」を披露していた。童話の中で、天国に連れていったエレベーターガールのことが天女に思えた。
もう一度、頭を整理して、地上と天国と地獄、そして天女と踊り子と現実の女房を、エレベーターガールに絡めて話を創ってみようと思いついた。
今回、推敲した際のポイントをまとめてみたので、参考まで終わりに添付しておきます。童話を読んだ後に見てもらうと私の推敲課程が分かると思います。
今まで、童話はある意味、ステージからのインスピレーションを受けて勢いで書いていました。前回、黒井ひとみさんの演目「マッチ売りの少女」をネタにして童話「踊り子になったマッチ売りの少女」を書いたときに、その後もずーっと内容にこだわって推敲しました。あんなことは今までなかったことです。
しかも、今回も同じことを繰り返しています。
黒井ひとみさんは私の童話を心から愛してくれてます。だから期待に応えたいという気持ちがそうさせるのだと思います。
黒井ひとみさんの存在は、私にとって、かけがえのない大きいなものと実感しています。
平成29年11月 ライブシアター栗橋にて
H29.11
~黒井ひとみさん(栗橋所属)の演目「エレベーターガール」を記念して~
ボクはしがない中年男。いちおう仕事も家庭も持ってはいるけれど、趣味はストリップ通いで、人にはたいして自慢できることのない普通の男。仕事や家庭でたまったストレス解消に毎週のようにストリップ劇場に通う。いつしかそれが生活のリズムになっていた。
今週も休日に、妻の目を盗んで、こそこそとストリップ観劇にやってきた。ここは地方都市で、ストリップ劇場としてはここ一軒だけ。今週のお目当ては、お気に入りの踊り子である黒井ひとみさんで、新作「エレベーターガール」を初披露。
目的の劇場は、大きなデパートの中に入っていた。映画館など娯楽施設も充実。その中でもストリップ劇場は併設している成人ピンク映画と同じ扱いのようだ。
一階入口からエレベーターに乗ると、デパートの制服を着た綺麗なエレベーターガールが立っていた。制帽を深くかぶっているので顔をよく拝見できなかったが、今回お目当ての踊り子の黒井ひとみさんに似ているような気がした。最近は客寄せのアルバイトとして開場前に踊り子がエレベーターガールをやるケースもあると聞いている。ひとみさん本人かどうか確認したいと思ったが、声が出ない。ボクは今までひとみさんと話したこともない。たまたまエレベーターに乗った客はボク一人しかいないにもかかわらず、気が弱くて声がかけられない。本当に情けない。こんなことだから一人でこそこそストリップなんか観に来るわけだ(苦笑)。
「本日は当デパートにお越し頂きありがとうございます」とのお決まりのアナウンスの後、「何階にお連れしましょうか?」と丁寧に声を掛けられる。彼女の顔は帽子の影に微笑みを浮かべているような気がした。
ボクは恥ずかし気に「ストリップ劇場に行きたいんだけど・・・」と返答した。
エレベーターガールは「了解しました。あなたを天国にお連れ致します。」と言う。
「えっ!? 天国って・・?」一瞬聞き間違えたかと思ったが、再度ストリップと念押しするのも恥ずかしかったのでボクは黙っていた。
エレベーターはなかなか到着しなかった。
「いったい何階まで行くのだろう?」エレベーターガールは後ろ向きのまま何も話さない。ボクはいらいらしてきた。早く大好きな踊り子さんを観たいな。気が焦った。
漸くエレベーターが止まった。
「あなたを天国にお連れしました。」とエレベーターガールは言う。
ボクはそこがストリップ劇場と思い、そそくさとエレベーターから降りようとした。すると、エレベーターガールがボクの手を掴んで離さない。帽子の下の顔がはっきり見えた。憧れの踊り子、黒井ひとみさんだった。少なくともボクにはそう見えた。そう思った瞬間、逆にボクは言葉を失い、なにを話していいか分からなくなった。
すると、彼女はおもむろに衣装を脱ぎだした。<踊り子さんに手を出してはいけない> それはストリップの常識である。ボクは慌ててエレベーターから降りようとした。
しかし、エレベーターのドアは開かない。
エレベーターガールは一糸まとわぬ全裸になった。ビーナスの裸体。もともと彼女のストリップを観たいと思っていたわけで、彼女のヌードを見たら勝手に心がときめいた。
「ここは天国ですから、あなたの好きなようにして下さいね。」
そう言って、彼女はボクの服を脱がせた。動揺のあまり身体が金縛りにあったよう。ただボクの身体は素直に反応していた。彼女は恥ずかしがるボクをなだめて、ボクのものを口に咥えた。思わず彼女を抱きしめた。
「前から後ろから、お好きなようにどうぞ!」
ボクはそのまま、まさしく天国を彷徨った。
一体どれくらいの時間が経ったのだろうか?
気付いたら、エレベーターガールはそこに居なかった。ボクは慌てて服を着た。
そして、階下に戻るためのエレベーターの操作盤を探した。エレベーターの押しボタンを見て、ボクはギョッとした。地上一階の次は「天国」になっていたのだ。
ボクは今まで地上のエレベーターには細かい階数表示されているのが当たり前だと思っていた。人生にはいくつもの段階がある。進学、就職、結婚、出世などなど。しかし人生は上るだけでなく下ることもある。上がり下がりをひとまとめにして「地上一階」があるべきなのかもしれない。あまりにも細分化しすぎるから、その上下に一喜一憂しながら人はストレスをためてしまうのだ。ふと、そんなふうに思えた。
このまま天国にいれば、地上ではボクは死んだことになってしまうだろう。早く地上に戻らなくては・・・
ボクは急いで地上一階のボタンを押した。
なかなか地上一階に着かない。
天国に来たときよりはるかに時間がかかっている。
エレベーターの押しボタンをよく見てみたら、地上一階の下に「地獄」とある。
ボクは青ざめた。きっと間違えて「地獄」行きのボタンを押してしまったのだ。<踊り子に手を出してはいけない>というストリップの掟を破ったボクに一体どんな地獄が待っているというのだろうか。
地獄の扉が開いた。
なんと、そこにはお気に入りの踊り子である黒井ひとみさんがエレベーターガールに扮して立っていた。地獄は怖いところと思ってドギマギしていたが、あぁ~彼女が一緒なら地獄でも耐えられるよ。まさしく彼女こそ地獄に救いだ! 一瞬そう思った。
いや、ストリップは天国かと思っていたが、地獄なのかもしれないな。現実逃避としての異次元トランスと考えれば、天国も地獄も同じようなものか。我々は地上だけでなく、度々天国や地獄を行き来しているのかもしれない。ストリップはその入口のひとつなんだ。改めてそう思えた。
ともあれ、さっそく地獄のストリップ観劇としようか!私は気分が良くなった。
ところが、エレベーターから出ようとするボクを黒井ひとみさんが押しとどめる。彼女は言葉を発しない。しかし、彼女の目が「あなたはここに来るべき人ではありません。地上に戻られた方がよろしいですよ。」と言っているように見えた。
そんな!せっかくストリップを観に来たのにー↓ もしかしたらエレベーターガールに手を出してしまった罪から、私はストリップ出禁になったのかなぁ~。
いや、彼女が地獄で舌を抜かれてしまっている現実を今こうして目にしたわけだ。彼女はエレベーターガールに扮してボクと性関係をもってしまった。踊り子と客の関係を越えてしまったことに対するストリップの掟が彼女を地獄に落としたのだろう。
しかし、先ほど述べたように、誰もが地上と天国と地獄を行き来していると考えれば、元通りになってすぐに地獄から抜け出せることだろう。
彼女はエレベーターの押しボタンを「地上一階」に押し直してから黙って扉を閉めた。
ボクは今、こうして地上一階に戻るべくエレベーターの中にいる。
地上には、また誰かエレベーターガールが待っているのかな。思えば、これまでの人生の節々に誰かしらエレベーターガールが待っていたような気がしてきた。ボクはそのエレベーターガールの指示に従って人生を送ってきた。そんな気がした。
エレベーターガールは、地上の世界ではエレベーターガール職という働く女性でありながら、天国では天女にもなりうるし、一転して地獄の使者になる。同様に、黒井ひとみさんは踊り子という現実の仕事をしていながら、我々男性からは天女的な存在であり、一転して我々を惑わす小悪魔になりうる。女房は現実に大切な存在であるがゆえ、時に天女にもなり地獄の閻魔にもなりうる。確かに、女房は唯一無二のエレベーターガールだろう。初めて女房に出会ったときボクは彼女を天女だと思い、彼女と結ばれたときは天国を彷徨った。しかし結婚したら地獄の閻魔様になることも度々ある(笑)。
そう考えれば、彼女たちをあえて地上だの天国・地獄だのと区割りせず、彼女たちは現実と天国と地獄を流動的に動き回る存在と捉えるのが正しいように思える。
少しして地上一階の扉が開いた。
そこには女房が閻魔様のような怒った顔で待っていた。ボクはびくっとした。
「しばらく大好きなストリップにも行けないなぁ~。こっちの方が地獄だよぉ~」
ボクはうなだれて現実の世界に戻っていった。
おしまい
【参考】本童話作成における推敲課程
本童話を推敲するに当たって、次のようなことがテーマとして頭を過ぎる。
・まずは、現実という地上と、現実ではない天国と地獄という三つの区分をつけて、それぞれの位置付けをしてみる。
・最初のエレベーターガール、踊り子としての黒井ひとみさん、女房、それぞれの女性の位置づけをはっきり分かるようにする。
例えば、最初のエレベーターガールは現実の世界ではエレベーターガール職という働く女性でありながら、天国では天女になる。黒井ひとみさんは踊り子という現実の仕事をしていながら、我々男性からは天女的な存在であり、我々を惑わす小悪魔や地獄の使者にもなりうる。女房は現実に大切な存在であるがゆえ、時に天女にもなり地獄の閻魔にもなりうる。
そう考えれば、あえてどこそこの存在と区割りせず、彼女たちは現実と天国と地獄を流動的に動き回る存在と捉えたくなった。
・一般的に、エレベーターには細かい階数表示がなされると思いがち。しかし、現世の今を「地上」一つにまとめてみることも出来そう。人生というのは、生まれてから、小学校、中学校、高校、そして大学と進学する。就職して、家庭をもって、子供たちを社会に送り出し、老後を迎え、死を待つ。そうした段階をひとまとめにしてしまうわけだ。
最初のうちは常に成長していると思うかもしれないが、途中から後退してくる。高齢化した私も実感する。いや、一方的に上ったり下ったりするのではなく、ちょこちょこと上ったり下りたりしているのかもしれない。そう考えれば、地上での細かい階数表示にどれだけの意味があるのだろうとも考えられる。
そうした、細分化された上下のために人はストレスを抱えるのだ。
・ストリップというのは現実逃避である。
男は仕事や家庭など現実生活の中でストレスを抱える。それを女の裸を見ることで一時的にストレスを忘れられる。
男が女を求めるのは本能。ストリップはお小遣い程度のお金を払えば、絶世の美女のヌードを心置きなく観れる。朝から晩まで入場料だけで観ることができる。まさに竜宮城である。しかし、劇場から一歩外に出ると何も変わらない厳しい現実が待っている。
・ストリップ劇場は、男を現実逃避から、竜宮城に連れていく。それは異次元トランスであり、そこはきっと天国でもあり地獄でもある。ストリップ劇場は異次元世界への入り口である。
今回の話は、ストリップ劇場を求めて行くわけであるが、その移動手段としてのエレベーターがあり、エレベーターガールが登場する。
などなど