京はるなさん(フリー)について、2019年7月頭の池袋ミカド劇場での公演模様を、13周年作「クドリヤフカ」を題材にして、「初めて宇宙を旅した生き物、天文学史に輝くライカ犬の物語」という題名で語りたい。

 

 

2019年7月頭の池袋ミカドに顔を出す。

今週の香盤は次の通り。①榎本らん(東洋)、②天羽夏月(フリー)、③さくら(TS)、④愛沢真実(晃生)、⑤箱館エリィ(TS)、⑥京はるな(フリー)〔敬称略〕。今週は愛沢真実さんと箱館エリィさんのBD週、ラストの京はるなさんが周年週にあたる。

 

今週は、京はるなさんの13周年週。

初日に、周年作を拝見したが、正直ピンと来なかった。よく理解できなかったからだ。ところが、楽日前に二度目に拝見したら、めちゃくちゃ感動した。細かいところに手が入れられていて、初日に比べてかなり分かりやすくなっていたのだ。内容が分かり出すと、観るたびに感動が増幅された。細かいところまで工夫された素晴らしい作品だと思った。

まず、なにが良いかを列記してみる。

ひとつは、モチーフの選定がいい。単に犬を演ずるのではなく、宇宙を初めて旅した犬という、天文学史に名を残した犬に光を当てた点が非常に意義深い。

宇宙モチーフであるのがいいね。天文学史はとても興味深い。冷戦時代、アメリカ合衆国とソビエト連邦は覇権を争って宇宙開発に凌ぎを削った。最終的には、1969年7月20日、アポロ11号が最初に月に着陸し、アメリカのアポロ計画が宇宙開発戦争に勝利した。しかし、初期段階ではソビエト連邦の方が優位に立っていた。1961年、ソ連のガガーリンがボストーク1号に単身搭乗して初めて有人飛行に成功し「地球は青かった」という台詞を残したのはあまりにも有名である。

この宇宙開発戦争には莫大の費用が投じられた。この金を鉱山や海など地球内部に投じたら、もっと地球は良くなったのではと語る科学者もいる。しかし、宇宙のロマンは計り知れない。アポロが月に降り立ったことでどれだけ多くの子どもたちの心に火をつけただろうか。お陰でたくさんの科学者を輩出できたことは疑いない。

今回の演目では、米ソの宇宙開発戦争の中で、ソ連がガガーリンの有人宇宙飛行に先行して犬を実験台に使っていたことを教えてくれた。演目中のナレーションで丁寧に解説している。私も宇宙犬のことはなんとなく耳にはさんでいたが今回改めて再確認できた。その内容を紹介する。

ソ連は1950年代から1960年代にかけて、人間の宇宙飛行は可能かどうかを決定するために、少なくとも57回、犬を宇宙空間に送った。宇宙開発の実験のため、ソビエト連邦の宇宙船に乗って地球外へ行った犬たちのことを「ソ連の宇宙犬」と呼ぶ。

 今回の演目に登場するライカ犬は、1957年11月3日、スプートニク2に乗って、地球で生まれた生物として初めて軌道飛行を行った犬である。しかし、スプートニク2号には大気圏への再突入装置はなく、はじめから帰り道の無い旅だった。演目中のナレーションでは162日間軌道飛行した後に大気圏に突入して燃え尽きたと説明されていたが、ネットで調べると、ライカ犬は打ち上げの数時間後に過熱とストレスにより死んでいた、という事実が有力なようだ。ライカの棺となったスプートニク2号は、彼女の死後も地球の軌道を5ヶ月間2570回周り続けた。そして1958年の4月14日に地球の大気圏に入り燃え尽きたという。ともあれ演目としては、宇宙空間の淋しい時間を描いているので、長時間ライカも生きて軌道飛行したとしておきたい。

 なお、ソ連の宇宙犬については、生還のおぼつかない段階で宇宙に犬を送ることに対して西側の動物保護団体からの厳しい批判があったようだ。この点については、最後の感想のところで再度述べたい。

 

 もうひとつ言及したいのが、作品構成の素晴らしさ。

 題名が『クドリヤフカ』となっている。「クドリヤフカ」はライカ犬の名前。

 本作品の構成は次のように展開する。

 最初に、ソ連の科学者が登場。主役は犬であるが、この科学者と犬との交流・愛情が今回の作品のメインテーマになっている。ここで、バックミュージックがポルノグラフィティ『アポロ』というのがユニークだね。ソ連の宇宙開発なのにアメリカのアポロ計画が出てくる。それにしても、今回の作品ではすべての選曲の歌詞がうまく活かされて光る。

 次の場面は、発射寸前のロケット内の犬の状況をうまく表現している。

 そして次の場面では、軌道飛行に入り、安定したロケット内で、ひとり寂しくしている犬の状況を描く。優しくしてくれた科学者のことを想い出し、なぜか犬がひとりで淋しくオナニーしている笑。

 最後にロケットは爆発する。これで終わりかと思い気や、最後の最後に、死後の世界で、科学者とライカ犬が戯れる場面で終わる。このハッピーエンドが最高にGOOD!!!

  なんか、ひとつの映画というか、ドラマを観ている気分にさせられた。

 

 

 ここまで前置きしたので理解が早いだろう。ステージ内容をざっとおさらいする。

 最初に、白い白衣を着た科学者が登場。メガネをしている。Yシャツに緑のネクタイを締める。黒いズボンに黒い靴。

  ロケットの設計図を持っている。

 音楽に合わせ踊る。一曲目は、ポルノグラフィティの『アポロ』。

 白衣を脱いで、ロケットの中に入れる。(丸いガラスの付いた茶色のカバンに入れる)

 ここで一旦、暗転。

 音楽が変わって、着替える。

 犬の恰好で登場。犬の耳と尻尾を付けている。

 鎧っぽい茶色の服。腕に黒いタイツを巻く。脚にも長い黒い脚絆。犬の宇宙服ってところか。後から上着を羽織り、それに付いているフードを被る。後でライカ犬の写真を見ると、この宇宙服なかなか上手にイメージされてるねぇ~♪

 ロケット発射の段階、犬が操作室をうろうろ。大きな爆発音とともに発射。

 二曲目は、「ライカ」(feat.初音ミク)。軽快なリズム。この曲はたまたま犬と名前が同じということで使用したのかな。(笑)

 ここでまた暗転。

音楽がピアノのインスト曲に変わる。

ロケットが軌道飛行になり安定したのだろう。外は真っ暗な宇宙空間。犬だって退屈だし淋しくなる。その気持ちが伝わってくる。

ロケットにあった科学者の白衣とじゃれる。ふと、肩から下げたポチ袋に科学者のしていたネクタイが入っているのを思い出し取り出す。鼻を近づけ科学者の匂いを思い出し、緑のネクタイを舐める。そして、激しくオナニーを始める。

ここがベッドショーになる。徐々に服を脱いでいく。上着を着たままのオナニーショー。

ベッド曲は、ハンバートハンバートの「みじかいお別れ」。作詞:佐藤良成/佐野遊穂、作曲:佐藤良成。ハンバート ハンバート(HUMBERT HUMBERT)は、佐藤良成と佐野遊穂の男女二人組デュオである。1998年結成。二人は夫婦であり、三人の男の子の両親である。

この曲を聴いているとなんかしんみりと泣けてくるなぁ~ (東日本大震災のとき二人は、仕事で仙台におり、その後に作られた歌のようです。泣けるはずですね。)

最後に、「このスプートニク2号には大気圏への再突入装置はなく、はじめから帰り道の無い旅だった。」というナレーション。この飛行がまさに犬の特攻隊だったことが語られる。ますます泣けてくる。

ここで終わりかと思い気や、最後の最後にセカオワの名曲「スターライトパレード」(ジェニファーのカバーver.) が流れる。

♪Welcome to the “STARLIGHT PARADE”

星が降る眠れない夜に

もう一度連れて行ってあの世界へ♪

 最高の選曲だね。「スターライトパレード」は、SEKAI NO OWARIのメジャー2枚目のシングルとして2011年11月23日に発売された。これは、文明が発達するたびに奪われていくものを「夜空の星の光」に例え歌った曲である。まさしく今回の演目にぴったり重なるなぁ!ライカ犬は宇宙開発という名目で夜空の星になったんだな。それがスターライトパレードになるんだ。

既にロケットは破壊している。これは死後の世界である。ライカ犬は白衣の科学者と楽しく戯れている。このシーンに救われる。

ライカ犬の冥福を祈る。ちなみに、打ち上げから40年後、宇宙犬たちが訓練を受けた、モスクワのペトロフスキー公園の南西にある航空宇宙医学研究所にライカの記念碑が建てられている。

 

 

 最後に、余談になるかもしれないが、私の感想を書いておきたい。

 私は最初に本ステージの内容がつかめた時、犬を実験台にして宇宙開発してきたソ連のやり方、まさしく「科学のエゴ」に激しい憤りを感じた。後からネットでライカ犬の悲劇の記事を読んで更に怒りが高まった。

 その怒りを宥めてくれたのが、京はるなさんの演目構成に示される「科学者と犬の愛情」だった。ちなみに、ライカ犬はメスが選ばれた。メスの従順な性格や排泄姿勢などが選定のポイントだった。メスだから踊り子さんが演ずるのにぴったりか。

 ネットの記事を読むと、科学者の中にはライカ犬と心の交流を持っていた人がいるのに救われる。チームの科学者の1人である“オレグ・ガゼンコ氏”は、「ライカは確かに宇宙旅行の世界を広げてくれた科学の象徴的存在だった。しかし、2度とこんなことを繰り返してはいけない。この失敗から人間は学ばなくてはならない。」と世界に伝えている。

 

 ストリップファンの私は、ふと、実際に宇宙空間ではオナニー処理はどうするのかな、と気になった。暗くて広大な宇宙空間でのオナニーは気持ちいいかも。しかし、やはり宇宙にいる間は禁欲なんだろうね。宇宙は神の領域だからね。

今では複数の飛行士が一緒にいるわけだからそんなことは許されないか。でも一人だったら思いっきりオナニーできるかな笑。とくに今回のライカ犬の場合は他に誰もいないから好きにオナニーしてもいいかと勝手に思う。まぁ実際には、映像も撮られているだろうし、心拍数と呼吸の速度も測定されているので、オナニーなんかするとすぐに地上にバレるはず。あはっ、そういうことを考えたらドラマになりませんね。(笑)

 

 

2019年7月                            池袋ミカドにて

 

 

 

 

 

 

 

                                    2019.9

エロ童話『宇宙でオナニーしたら』  

~京はるなさんの13周年作「クドリヤフカ」を記念して~

 

 

 新聞を見ていたら、「億万長者になった創業者がパッと経営を辞めて、次は宇宙に関心を向けている」という記事が目に飛び込んできた。

 その一人、イーロン・マスク氏。彼はネット決済事業などで成功した後、ロケットや宇宙船の開発を手掛け、火星旅行を目指している。

 そのマスク氏が準備中の月旅行に参加の手を挙げたのが前沢友作氏。21年前に創業した衣料通販サイトの経営から退き、情熱と蓄積した富を今度は月に注ぐらしい。

 他にも、アマゾンのジェフ・ベゾス氏もいる。

 こうした若き億万長者たちは、事業の成功が最終目標ではなく、子供のころに夢だった宇宙に人生の最後を掛けてみたいという情熱にあふれている。まさに男のロマンである。

 不謹慎ながら、彼らの夢をちょっといじって童話を書いてみた。

 

 ある若き億万長者が宇宙旅行に挑戦した。

 彼は若いころから事業を創業し、その成功に全力を費やしたために、結婚することもなく今に至った。残った人生を、子供のころからの夢だった宇宙旅行に挑戦したいと考えた。宇宙に旅立つには体力も要るので、年齢的にもこれが最後の挑戦でもあった。

 彼は何を考えていたか? なんと、彼は広大な宇宙空間で、青い地球を眺めながら、思いっきりオナニーしたい!というものだった。いままで結婚しなかったこともあり、いまではSEXにも興味を失い、ただただ自慰だけで満足できる身体になっていた。

おいおい、せっかくの宇宙旅行なのだから、もう少しカッコよくできないものか。たとえば、人類史上初の大気圏外セックスをして、さらにはこれまた人類史上初の地球外妊娠ときて、無事元気な男の子を出産し、マスコミに宇宙ベイビーだの無重力ベイビーだとか騒がれてほしいよな。

そういえば、「宇宙飛行士は宇宙でオナニーはしない」という話を聞いたことがある。宇宙飛行士は若くても30代で大抵40~50代です。もうかなり大きな子供がいる世代だから、その辺のコントロールは効く人たちとのこと。

まぁ~いずれにせよ、宇宙でオナニーしたい!という彼の夢をけなすこともできない。好きなことに金や時間を使うのは彼の勝手である。

 

 さて、彼は単身宇宙に旅立ちました。真っ暗い宇宙空間。地球が青く見えます。神秘的な空間。まさに地球を独り占めしたような爽快な気分になります。そんな中で、いよいよ念願のオナニーを始めました。

 特殊な環境でのオナニー自体に興奮も最高潮。地上では味わえない浮遊感が得られます。無重力なので、手こきしながら、クルクル回転しました。ディズニーのアトラクションみたいで実に面白い。凄い快感です!

 彼はひとつ大切なことを忘れていました。宇宙飛行船にはモニターが設置されていて地上から監視されていました。しかも、心拍数と呼吸の速度も測定されているので、オナニーなんかするとすぐに地上にバレました。地上の管制室は大騒ぎ。

しかし、今の彼にはそんなことは馬耳東風。彼は思いっきり「射精」しました。

すると、彼は自分の射精の勢いで吹き飛び、船体の壁に激しく身体を打ち付けました。

射精の瞬間、彼は「宇宙の神」を見た気がしました。最後に、彼が出した白い精液が浮遊したと思い気や、そのタネはエイリアンのごとく一斉に彼の身体を覆いました。彼の目や耳や口も塞ぎ、そのため彼は窒息死しました。

彼は神聖な宇宙でやってはいけない冒涜を犯しました。そのことを宇宙の神が許してくれませんでした。こうして彼と彼の夢は宇宙の藻屑となったのでした。

 

 

                                   おしまい

 

 

 

                                    2019.10

ファンタジー童話『宇宙犬ライカの物語』  

~京はるなさんの13周年作「クドリヤフカ」を記念して~

 

 

 1945年に第二次世界大戦が終わり、次は米ソの冷戦が始まった。二つのイデオロギーの対立。資本主義のリーダーはアメリカ合衆国で、共産主義のリーダーはソビエト連邦。この超大国が国家の威信をかけて争ったわけだが、その覇権争いにおいて彼らの目は宇宙に向かった。このことにより第三次世界大戦を回避できたことは人類史において大変幸運なことであった。

 1950年代から1960年代にわたり、この二国は宇宙開発で凌ぎを削った。最終的には、1969年7月20日、アポロ11号が最初に月に着陸し、アメリカのアポロ計画が宇宙開発戦争に勝利した。しかし、初期段階ではソビエト連邦の方が優位に立っていた。1961年、ソ連のガガーリンがボストーク1号に単身搭乗して初めて有人飛行に成功し「地球は青かった」という台詞を残したのはあまりにも有名である。

 ソビエト連邦は人間の宇宙飛行が可能かどうかを決定するために、少なくとも57回、犬を宇宙空間に送った。宇宙開発の実験のため、ソビエト連邦の宇宙船に乗って地球外へ行った犬たちのことを「ソ連の宇宙犬」と呼ぶ。

 これから話すライカ犬は、1957年11月3日、スプートニク2号に乗って、地球で生まれた生物として初めて軌道飛行を行った犬である。しかし、スプートニク2号には大気圏への再突入装置はなく、はじめから帰り道の無い旅だった。まさに犬の特攻隊だった。

 

 

1.   科学者オレグの苦悩

 

オレグは航空宇宙医学研究所の中を白衣を着て忙しく動き回っていた。彼のトレードマークは白衣の下に付けているカラフルなネクタイ。今日は緑のストライプだった。

オレグはソビエト連邦の宇宙開発を担う科学者たちの総責任者だった。

 今日の会議で「人間の宇宙飛行を成功させるために、先行的に犬を実験台にする」ことが決まった。しかし、費用がかかることから、大気圏への再突入装置は付けないことになった。最初から帰り道の無い旅だった。そんな非人道的な話はないと意見する科学者もいたが、国家命令として退けられた。しかも、時間の制約もあった。たった二年という短期間で実施するという。どうしてもアメリカ合衆国に負けたくないからであった。

 

 そのため、実験用にたくさんの候補犬をあてがわれた。この犬たちを短期間で訓練しないといけない。まずは人間の命令に的確に従わせなければならない。宇宙飛行に耐えられる基礎体力も付けなければならない。そこまではどうにかなるものの、最も過酷なのは宇宙酔い対策のため、遠心シミュレーター装置を使った訓練。高速で回る上に、座っている座席そのものも上下左右にくるくる回転した。これには全ての犬が嘔吐してしまう。それを毎日毎日何度も何度も繰り返すことになる。殆どの犬がこれに付いてこれなくなる。

 こうした過酷な訓練に耐えられるポイントは科学者と犬との信頼関係にあった。飼い主である科学者がいかに愛情を持って犬と接することができ、犬がそれに応えられるか。

責任者であるオレグは、宇宙に飛べるのは、自分が飼っていた愛犬ライカしかいないと確信していた。ライカはオレグのためなら訓練に従順だった。遠心シミュレーター装置から降りてふらつくライカをオレグはしっかり抱きしめた。「ライカ、えらいぞ!よく頑張ったな!」オレグに頭を撫でられ褒められればライカは満足し、どんな苦難にも耐えられた。

 

ライカはオレグの自宅で生まれた雌犬。もうすぐ二歳になる。人間でいえぱ二十歳位か。生まれた時はたくさんの子犬たちに混ざっていたが、その中でもライカはやんちゃな元気者で、すぐにオレグに懐いた。ライカはオレグといっぱい遊んでもらった。ライカはオレグのトレードマークであるネクタイにじゃれつく。ゆらゆら揺れるネクタイがライカの気を引いたのだった。ライカが噛みついてダメになったネクタイは何本もあった笑。

 

 オレグは、ライカとの楽しい日々を思い出すと、帰り道の無い宇宙にライカを送り出すことに気が引けた。しかし、訓練犬の中ではライカしかいなかった。オレグは心を鬼にしてライカを鍛えた。自分の命令に素直に従うライカを見るたびに、オレグは心の中で泣いていた。一方のライカは大好きなオレグと一緒にいる時間が長い分だけ幸せな気持ちで訓練に耐えられた。

 あっという間に訓練の期限が過ぎていった。

 

2.   ロケット発射の日

 

1957年11月3日、スプートニク2号にライカは乗せられた。

発射の前日、オレグはライカに大好きなお肉を与え、じっくり時間をかけてライカを抱きしめた。ライカにはオレグの気持ちが伝わっていた。ライカはオレグが喜んでくれるなら、どんなことにも従う決意ができていた。

 

オレグはライカに宇宙服を着せた。ライカ用に特別にオレグが設計した宇宙服だった。ライカの目を見たら、ワンとひとつ吠えた。もう覚悟ができていた。

 

スプートニク2号は大きな爆発音とともに発射された。大気圏を通るときの振動と騒音は想像以上だった。

ライカは失神していた。

宇宙空間に出たと同時に、ライカの生存を確認しようと、オレグは地上の管制塔からマイクに向かって何度も「ライカ、ライカ」と叫んだ。しかし、オレグの懸命な声が飛行船の操縦室にいるライカに届かない。

 

ライカは漸く目を開けた。宇宙酔いで頭の中がぼーっとしていた。宇宙船の窓から見える宇宙空間は真っ暗で、船内は静まり返っていた。

ふと、目の前に、大好きなオレグのネクタイが揺れていた。たくさんのカラフルなネクタイが天井からぶら下がる。オレグお気に入りの緑のネクタイもあった。また、その中にはライカがじゃれついてダメにしたネクタイも混じっていた。

オレグはライカのために天井から自分のネクタイを出す装置を付けていたのだ。そのために、オレグは自分のもっているネクタイ全てを取り付けた。それは、ライカの長い宇宙空間での生活に少しでも慰めになればと考えたオレグの粋な計らいだった。しかし、今は緊急事態。ライカに気づいてもらえるなら何でもしようとした。

ライカはネクタイから僅かなオレグの体臭を嗅ぎ付けた。

同時に、「ライカ、ライカ」と叫ぶオレグの声が耳に届いた。

ライカは嬉しくて涙をこぼし、小さな声でワンとひとつ叫んだ。

オレグもライカの声を確かに聴き分け、涙を流した。「ライカ、えらいぞ!よく頑張ったぞ!」とオレグはマイクに向かって叫んだ。しかし、その一声だけで、ライカは息を引き取った。その後のオレグの「ライカ、ライカ」と叫ぶ声には応えることがなかった。

 

3.   ライカ、星になる

 

宇宙の神さまが現れ、ライカの涙を手に取った。「よく頑張ったね!」

ライカの魂は揺れるネクタイの間を漂いながら、「オレグとの楽しい日々」を思い出していた。

神さまは、ライカの涙と魂をもって、ひとつの星にした。

 

後に、オレグは「ライカは確かに宇宙旅行の世界を広げてくれた科学の象徴的存在だった。しかし、2度とこんなことを繰り返してはいけない。この失敗から人間は学ばなくてはならない。」と世界に伝えている。

 また、打ち上げから40年後、宇宙犬たちが訓練を受けた、モスクワのペトロフスキー公園の南西にある航空宇宙医学研究所にライカの記念碑が建てられている。

 

 宇宙の神さまは呟いた。

「ライカには本当に申し訳ないことをしたと思う。その後に続く、たくさんの宇宙犬の犠牲をおもうと本当に心が痛む。

でも、あの超大国二つの目を宇宙に向けさせたことは大正解であった。二国は大量の原爆を持っているから、あのまま第三次世界大戦にでもなったら地球は終わっていた。

 また、宇宙に人間の成果を出せたことで、多くの子供たちに夢とロマンを与えることができた。お陰で多くの優秀な科学者を輩出できた。彼らはきっと素晴らしい地球の未来を築いてくれることだろう。

 ライカの死は決して無駄ではなかった。」と。

 

 夜空を見上げると、ライカ星は今でも燦然と輝いている。

                                   おしまい