今回は、DX歌舞伎の踊り子・葉月凛さんについて、H30年2月中のDX歌舞伎公演の模様を、新作「黒雪姫」を題材に語ります。
H30年2月中のDX歌舞伎に顔を出す。
今週の香盤は次の通り。①美月春(道劇)、②葉月凛(DX歌舞伎)、③mei(ロック)、④木村彩(ロック)、⑤赤西涼(ロック)、⑥武藤つぐみ(ロック)〔敬称略〕。ロックのmeiさん、武藤つぐみさんがDX歌舞伎に初乗り。
2月17日は葉月凛さんの誕生日。前回拝見した演目「釣りキチ凜平」の観劇レポートと童話を誕生日プレゼントとして届けに来た。
そうしたら、新作「黒雪姫」にはまってしまった。内容は、最初に白雪姫が登場し、鏡に映る。次の場面で、魔女が鏡に映った白雪姫の顔を踏みつける。そして毒林檎を作って白雪姫を毒殺する。まさしく白雪姫のストーリーを凜さんは魔女主体で演ずる。
まず、演目「黒雪姫」の面白さは、このネーミングにある。白鳥に対しての黒鳥(ブラック・スワン)は映画等で聞いたことがあるが、白雪姫(スノウ・ホワイ)に対する黒雪姫(スノウ・ブラック)があるなんて知らなかった。ネットで検索したら「黒雪姫 - 2002年にすたじお実験室より発売されたアダルトゲーム」「黒雪姫〜スノウ・ブラック〜 - 2014年にQuinRoseより発売されたPlayStation Portable用恋愛アドベンチャーゲーム」「黒雪姫 - アクセル・ワールドの登場人物」と出てくる。ゲームキャラにあるんだね。
今回の葉月凛さんの演目では、白雪姫における魔女のことを黒雪姫と称していると思えた。だからこそ強く興味を惹かれた。
魔女は白雪姫と敵対的な存在として扱われる。だから白に対して黒でもいいだろう。一方で、白雪姫には魔女の心があったという説もある。「本当は怖いグリム童話」にはこの点が詳しく解説されている。
我々が知っている白雪姫はかなりディズニーナイズされている。本当のグリム童話の白雪姫は、かなり残酷で猟奇的な内容である。以下に、相違点を列記してみる。
◆原作ではまず、継母ではなく、「実のお母さん」。
物語の設定は白雪姫がほんの7歳。だから、ディズニーの白雪姫では「継母」はけっこうな年増に描かれていますが、白雪姫の年齢を考えると、ヘタすると20歳代です。
なんと白雪姫は7歳にして実父と関係を持ってしまったのだ。近親者による性的虐待が物語の始まり。それを知った母(継母ではない)は白雪姫に嫉妬し猟師に殺すよう命ずるのである。
昔の人は、女性の嫉妬心がいかに恐ろしいかをこうした物語にしていたんだなー。
◆女王の狂気性。
原作では女王は白雪姫を殺し肝臓をとってくるように命じます。白雪姫を不憫に思った猟師は彼女を殺せず、代わりに森の中に置き去りにしイノシシの肝臓を代わりします。一般の白雪姫ではイノシシの肝臓ではなく豚の心臓になっています。
すると王妃はその肝臓を塩茹にして食べたのです!自分の娘のものを。白雪姫の美しさを自分のものにするためである。
◆7人の小人について
初版は白雪姫を助けるのは7人の人殺しだったが、二版以降は7人の小人に変わった。人を殺した…というよりそもそもいわゆる「ならず者」で、そのため街中に住めず森に住むようになった人たちなんだとか。森に住む人たちというのはヨーロッパの社会になじめずに差別されたという人が多い。
◆女王の執拗性。
白雪姫は、最初は黄と赤と青の絹で編まれた紐で絞殺されそうになり、次は毒の櫛を髪にさされて毒殺されそうになり、最後は毒りんごでやはり毒殺されそうになります。こうした度重なる殺人計画を鑑みると、女王の執拗性がよく分かりますね。
◆王子は死体愛好者。
初版のグリム童話では、なんでも「ネクロフィリア」(死体愛好)の性癖があったと書かれている。
白雪姫は10歳のときに毒りんごで死んでしまいます。王子様は10歳の少女の死体を見て一目ぼれをします。死体でもいいからと白雪姫をもらい受け、10歳の少女の死体にキスをします・・・・・ガラスの棺の白雪姫を王子が城に運んでも、ずっと眠ったままで、王子は四六時中、白雪姫を見つめていた期間があり、彼女が目覚めるまで時間がかかっている。
◆空恐ろしい原作のエンディング。
白雪姫は王子と結婚します。その結婚式場に招待した母に復讐として焼けた鉄の靴をはかせて死ぬまで踊らせ、さらに死体を骨まで粉々にする。「鉄でつくったうわぐつをのせておきましたのが、まっ赤にやけてきましたので、それを火ばしでへやの中に持ってきて、わるい女王さまの前におきました。そして、むりやり女王さまに、そのまっ赤にやけたくつをはかせて、たおれて死ぬまでおどらせました。」
このエンディングに白雪姫がもつ本来の残酷さが窺えます。黒雪姫としての正体です。
原作に触れると、表現者であればあるほどに、白雪姫よりも魔女を演じたくなる凜さんの気持ちが伝わってくる。これが演目「黒雪姫」の本質なのだと。
平成30年2月 DX歌舞伎にて