童話『女王蜂と呼ばれた踊り子』
~羽音芽美さん(晃生所属)の8周年作「はち」を記念して~
新宿歌舞伎町に昆虫クラブと呼ばれる高級な秘密クラブがありました。そこは虫たちにとって会員制の社交の場であり、選ばれた虫だけが入ることを許されていました。
昆虫クラブには、たくさんの種類の虫、しかもそれぞれの虫たちの看板と呼ばれる女性達が働いていました。カブトムシ、クワガタムシ、カマキリ、蝶々、蜂、白アリなどなど。
虫の世界では、常に捕食者と被食者の関係を意識しておかなければなりません。鳥やカエルのように昆虫を主食にしている上位の捕食者を外部から完全にシャットアウトするのは当然です。ただ昆虫クラブではそれだけでは済みません。カマキリのような大昆虫が小昆虫を捕えて食べることは日常茶飯事なのです。昆虫は他から食べられることが当たり前なので、その分子孫を残すための戦略として沢山のタマゴを産みます。個々で見ると、生命が極めて薄い世界でもあります。そのため人間の目から見たら残酷なことも当たり前に起こります。
例えばこんな具合です。
虫の王者とされるカブトムシとクワガタムシの争いは凄惨なものです。人間の目から見ると、どちらも黒光りをした似たような体型の仲間に見えます。先端部分が違うだけです。だから仲良くやればいいと思われます。ところが似ているからこそお互いに譲らず骨肉の争いになるのです。どちらかが死ぬまで争いは続きます。
彼らの先端部分について少し説明をしましょう。実は、カブトムシの角は身体の皮膚が変形してできたもので角だけ動かすことはできません。それに対し、クワガタムシのハサミ(大顎)は歯(骨)が変形してできたものでハサミを自在に動かせます。この点が左右してか、実際に喧嘩するとクワガタムシが強いことが多い。しかもクワガタムシは喧嘩の相手を殺すまで止めない気性の荒さを持ってます。
この昆虫クラブでもミヤマクワガタ魔王が君臨していて、一番テーブルはいつもクワガタムシが陣取っています。もちろん、カブトムシはそれを不満に感じていて、いつかクワガタムシを出し抜こうと虎視眈々と狙っているのでした。ここには争いの火種がいつも燻っています。だから近寄らないことです。
二番テーブルには体の大きなカマキリがよくいます。カマキリの雌は、求愛してきた雄を食べてしまいます。交尾しながら、パートナーの頭を嚙みちぎり下の方へと食べていくんです。なんと残酷なと思われるでしょうが、カマキリの雄は大好きな雌に食べられることが最大の歓びなのですね。自己犠牲という究極の愛の表現です。雄は自分の身体を雌に捧げることでより多くの卵を産んでもらい子孫を残せるのです。
そのためか、カマキリは他の虫を片っ端から襲って食べてしまうから気を付けないといけません。自然界は自分の命を捧げるに見合う分を他からたくさん命を奪うことでバランスを保っています。時に、このお店の上客であるバッタからは、手足の長いカマキリは最高のプロポーションに見えます。しかし近づくと食べられてしまうのです。ですからカマキリがいるテーブルには近づかないことです。
そうそう、可愛い蝶々が入店してきた時は大変です。全ての虫の視線がその蝶々に注がれます。夜の街・歌舞伎町では、やはり夜の蝶が華やかさを持っていて、もてはやされます。蝶々はいろんな虫に指名され沢山のテーブルをひらひらと飛び回ります。ここ昆虫クラブでは同じ種同士が必ずしも結ばれるわけではなく、蝶にカブトムシが求愛することもできます。歌舞伎町ですからオカマもオナベも何でもありなんですね。そのため、蝶々はいろんな虫に寄ってたかって羽根を剥がされ最後は食べられてしまいます。
蝶がなぜ他の昆虫を欲情させるか知っていますか? この世で一番大切なものは太陽の光なのです。光を受けて植物は光合成をしてエネルギーを蓄え、そのエネルギーを昆虫も生きるエネルギーとして頂きます。だから太陽の光が一番大切なことを本能的によく知っているのです。その点、蝶は効率のよい太陽電池パネルの役目を果たす羽を持っていて、日光が当たりやすいように広げたり傾けたりして、その太陽の光を上手に吸収しています。だから身体が暖房装置になっており、なんとも抱き心地がいいのです。
こうした結末が見えているわけですから蝶々はもう入店して来ないかというと、そうでもないんです。ちやほやされたいと思っている若い蝶々が次々と昆虫クラブに入店してきます。これは蝶々の本能なのか、摩訶不思議なところです。
女郎蜘蛛もいました。この虫は底意地が悪い。自分のところに客がやってこないと思うと蜘蛛の糸で罠を仕掛けておいて、他のところにやってきた虫が座っている椅子をどんとん自分の方に引っ張っていくのです。気付いたときには女郎蜘蛛の餌食にされているのです。こわい、こわ~い!!
このように昆虫クラブは、表向きは虫たちの社交の場とされていましたが、実際は虫たちの命を懸けた蠢(うごめ)くドラマの場なのでした。それでも、虫たちは昆虫界における自分たちの種族の地位を上げるため、すなわちより上位のテーブルに付くために、日夜、自分たちの代表である看板娘の応援に駆けつけているのでした。
もちろん、昆虫クラブには蜂の仲間もいました。スズメバチ、クマ蜂、ミツバチなど。ところが昆虫の中では蜂は粒が小さいのでメインテーブルを張れません。どうしても末席に追いやられます。
蜂は小さいが多くの誠実な働き蜂がいるため、いつもたくさんの客で賑わっている。すると、近くのテーブルにいるミツバチとスズメバチは客同士で小競り合いを起こす。彼らはブンブンブンと文句を言う。ただ広い昆虫クラブの中では大勢に影響はない。
蜂を代表して昆虫クラブに勤めている女性は女王蜂が多かった。彼女たちは当然に気位が高い。そのため、いくら沢山の客が来てくれても、他の昆虫たちの末席に位置づけられること自体に納得がいきません。彼女もブンブンブンと文句を言ってました。
蜂は他の昆虫と闘うことはしなかったので、結局それぞれの女王蜂たちは昆虫クラブという店から独立することにしました。
さて、ここから話は別の展開となります。
ミツバチの女王蜂メイミンは、新宿歌舞伎町内にストリップ劇場を立ち上げました。
そのときに、一緒に働いていた仲良しの昆虫も誘いました。ミツバチのマーヤ、シマコハナバチのお姐さん、アブのペチャクチャお姐さん等々。
女王蜂のメイミンが店を離れたため、お客として来ていた働き蜂たちは一斉にストリップ劇場の客になりました。中には蜂以外でもメイミン客であったてんとう虫のテンテンやゴキブリのアンディもいました。
さて、ストリップ劇場における、女王蜂メイミンのステージ模様を紹介しましょう。
ステージの上はお花畑。赤、青、黄色の花々が、緑の草原に咲き乱れています。そのお花畑の中に一本の大きな木が立ち、その木の上に大きなハチの巣があります。六角形の部屋が整然と並んでいます。働き蜂たちはその巣を見ると郷愁に誘われうずうずします。
メイミンがハチの巣から現れると大喝采。
大きな羽根をひらひらさせて舞い踊ります。
キリギリス、鈴虫、コオロギたち声楽隊がタンバリンを叩き鳴らします。ステージの前後左右から小蜘蛛たちが小さな蜘蛛の巣をリボンのように投げます。
メイミンが大きなバストをプルリン。大きなヒップをプルプルと振ります。
働き蜂たちは我先とチップを差し出します。するとメイミンはお礼にロイヤルゼリーを振る舞います。働き蜂たちはメイミンの甘い匂いに卒倒しました。
メイミン人気でストリップ劇場はブンブンブンと大盛況でした。
ミツバチと同じような時期に昆虫クラブを離れたスズメバチも、ミツバチの成功を見てストリップ劇場を立ち上げました。
その際、スズメバチの王子アべッチが女王蜂を盛り立てました。アパッチは陰で人の悪口を吹聴する嫌なやつでした。後発であったにもかかわらず、彼の陰口がたたって、スズメバチの勢いはミツバチを凌駕するようになりました。それを見たミツバチも黙っているわけにはいきません。
こうして今まさに、新宿歌舞伎町の中で蜂たちによるストリップ戦争が勃発しようとしていました。
戦争対策としてメイミンは考えました。メイミンを女王蜂とするミツバチ劇場にも、スズメバチの王子アパッチに対抗できるような王子を擁立するしかありません。
ストリップにおける一番客を決めて、彼を王子することにしました。もともとミツバチの世界でも女王蜂と交尾できるのはたった一匹のオス蜂だけです。同じ要領になります。一番客は女王蜂であるメイミンが最終的に指名します。ルックス(男前かどうか)で決めるのか、お金持ちかどうかで決めるのか、それともハート(気持ち)で決めるのか、全てはメイミンの好み・考え方が決め手になります。
男前のオス蜂は積極的に自分をアピールしました。また資産家のオス蜂も自信たっぷりに求愛しました。ところがメイミンは相手にしません。
そんな中、毎日のようにメイミンに会いに来る一人の青年がいました。彼は男前でもなく、お金も持ってません。ただメイミンを想う気持ちだけは誰にも負けないものを持っていました。
ある日、彼は一枚の絵を持ってきてメイミンに見せました。そこには気品ある美しさを漂わせる、優しい顔立ちの女王蜂と、凛々しいオス蜂のツーショットが描かれていました。
「これは誰なの?」とメイミンは尋ねました。
「ここに描かれているオス蜂は『みなしごハッチ』といい、私の祖父にあたります。その横にいる女王蜂は彼の母親です。」
彼はハッチの昔話を始めました。スズメバチに襲われて離れ離れになったハッチが母親を探す旅に出かけます。たくさんの苦難を乗り越えて母親と再会したハッチは、多くの仲間の協力を得てスズメバチを逆襲することに成功します。
「私はハッチの孫、名前をサワッチと言います。是非ともメイミン女王様のために働かせて下さい。」と申し出た。
メイミンは彼の心意気に打たれ、サワッチをミツバチ王国の王子とした。
それから、強敵のスズメバチとの勝負に出た。
サワッチは知恵者のオサムシ爺さんの意見もよく聞いて戦略を練った。
サワッチはスズメバチの王子アパッチによる悪口の挑発にはのらなかった。武力で勝負するには体格差があり過ぎて負けてしまう。そこでサワッチはミツバチ№1戦略を考えた。これはミツバチがいかに優秀であるかを周知させる作戦であった。相手の悪口攻撃に対し、こちらは堂々と正論で望むという平和的なやり方だった。
ミツバチ№1戦略の内容は次の通り。先に、この世で一番大切なのは太陽の光だと話した。太陽の光により植物が光合成をしてエネルギーを作る。ただ、その前提として植物は受粉しなければならない。その受粉の仕事の大半をミツバチ,それもほとんどの場合野生のミツバチが行っている。このミツバチの受粉に我々人間の食物も三割は依存しているのです。
昆虫にとっての絶対神である太陽が、ミツバチの言い分を正当化すると言ってくれます。
サワッチにはたくさんの仲間がいた。かまきりのカマ吉おじさんの孫カマちゃん。カブトムシのカブトン王子。白アリのアリータ王子。バッタのリーダーであるバッタバタ。等々彼らの協力を得て、サワッチの主張を宣伝した。お陰でスズメバチのデマを蹴散らした。
サワッチ王子はメイミン女王とめでたく結ばれる。ロイヤルゼリーをたくさん浴びサワッチは元気になる。そして交尾してたくさんの子孫を残した。
めでたしめでたし