童話『めいみんsea  

~羽音芽美さん(晃生所属)の演目「めいみんsea」を記念して~

 

 

 ぼくは今、深い水の中にいる。

 太陽の光が差し込み、水の中の細かい水泡やプランクトンに光が絡み青白く拡散しているのが見える。それがむしろ水の中の暗さを強調しているかのごとく、幻想的な漆黒の世界になっていた。

ぼくがどこまで深く沈んでいくのか、ぼく自身も分からない。いや、このまま沈んでいくのをぼくは望んでいるのだ。もう、生きて水の上に戻るつもりはない。

 どうして、ぼくがこういう運命を選んだか、いま思い返している。・・・

 

 

  そこは広い湖だった。

 冬になるとたくさんの白鳥が訪れてくる。

 ぼくはその白鳥たちにエサ遣りをしていた。ぼくの仕事は大学の研究室で鳥類の生態系を観察することだった。

 趣味といえば、少し離れた街場にあるストリップ小屋に行くこと。あまり自慢できる趣味じゃないけど、なにせぼくは女性に縁のない生活をしているからね。

 

 ある冬のこと、一匹の若い白鳥が翼を怪我していた。このままでは春になっても他の白鳥と一緒に旅立つことができない。ぼくはその白鳥のことがすごく気になって、親身に介抱した。しかし、翼の傷は深く、簡単には治りそうにない。もしかしたら、その白鳥は二度と飛べずに、この湖にずっと居るしかなかった。次第に痩せ細っていくのを見て、哀れに想えてどうしようもなかった。

 その白鳥が突然姿を消す。怪我をしているので飛び立つことはできないはずなのに・・・一体どこに行ったのか・・・

 怪我をした白鳥がいなくなった日、ぼくはいつものようにストリップ小屋に顔を出す。

 今日から若い新人が入ったと言う。名前はメイミン。すごく綺麗な子だから気に入ると思うよ!と受付のスタッフがぼくの顔を覗き込んで話しかけてくる。

 入場したら、丁度その新人さんが踊っていた。白い羽根の衣装に身をくるみ、たどたどしくもあるが一生懸命に演技している。吸い込まれるほどの美しい瞳をしていた。ぼくは一目でメイミンに魅了された。

 ぼくはその日から毎日、メイミンに会いに劇場通いを始めた。

 メイミンも毎日自分に会いに来てくれるぼくに次第に心を開いてくれるようになる。まるで毎日デートをしている気分で、ぼくはうきうきしていた。

 

 ところが、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。

 突然、メイミンの香盤が消えた。メイミンには不治の病があった。天職と思えたストリップの仕事も、メイミンには無理があったのだった。

 ぼくにはメイミンのいない現実を受け入れられなかった。

 

 どうしてもメイミンを助けたいぼくは、湖のきわに佇み、湖の神に必死でお願いした。

「メイミンのことを助けて下さい。メイミンを救って頂ければ、代わりにぼくの命を捧げますから・・・」

 神の声が聞こえたように思えた。ぼくは迷わずに湖の中に入って行った。

 

 

「きみほど素敵な女性には二度と巡り合えないね」

水の中で、ぼくはメイミンの顔を思い出していた。

 いきなり、ぼくの手を掴むものがあった。一匹の白鳥だった。

 白鳥は泣いていた。白鳥の顔がメイミンに変わった。

「私の代わりに死ぬなんダメ!あなたは私の代わりに生きるの!」

 ぼくは「メイミンのいない世で生きていけない・・もう湖の神様にお願いしたんだ・・」と声が小さくなる。

「神様には私から話したわ。私はあなたにお世話になった白鳥なの。命が尽きるのを感じて、死ぬ前にあなたに恩返しがしたかったの。あなたが好きなストリップを一緒に楽しめてとても幸せだったわ。私はそれだけで十分なの。

だからあなたは生きて!あなたには生きていてほしいの!」

 白鳥は最後の力を振り絞って、ぼくを水面まで引き上げた。太陽の光が眩しかった。

 そばに白鳥が息絶えて浮かんでいた。ぼくは白鳥を抱きしめた。白鳥の身体から青白い魂がまるで翼を広げるように空に舞い上がっていった。

 ぼくはその光景を仰ぎ見ながら、水面で泣き続けた。

 

 その後も、ぼくはたくさんの白鳥のエサ遣りを続けた。

 いつしか、その湖は‘めいみんsea’と呼ばれるようになる。

 

                                    おしまい 

 

 

【解説】『めいみんsea』・・・

 

 

 H27(2015)年11月頭のシアター上野公演で、童話『めいみんsea』を渡した。

 この演目『めいみんsea』は、メイミンが今年H27年1月結に二年という長い療養から復帰して初めての新作になる。9月の大阪晃生で初披露。私は大阪に遠征するつもりで夜行バスを予約していたが運悪く膝を骨折して松葉杖状態だったので遠征を断念せざるを得なかった。

 その後、10月中のTSで初めて新作『めいみんsea』を拝見した。トップだったのでゆっくり拝見できなかったこともあり、今回の10月結~11月頭のシアター上野公演でじっくり作品を鑑賞できた。シアター上野公演では天上くるみさんの穴埋めもあり16日間のロング公演になったのがタイミング的にも良かった。「ロングはけっこう辛かったよ。何とか乗り切れるのかな・・・」メイミンの身体にはきつそうだったが・・・。

 

 満を持しての自信作であることはメイミンの気合から窺われる。

 さっそく内容を紹介しよう。

 華やかな着物姿で登場。斬新なデザインで、相変わらず衣装に凝っている。

 銀色のクロス生地に濃いブルーの飾りが、襟元、袖口、裾などにポイントとして置かれる。頭にもブルーのリボン飾りがあり、後頭部にブルーの布が垂れていて華やか。

裸足で舞う。

 着物を脱いで、一転してラフな格好に変身。へそ出しのセパレート・ルック。上半身は襟元が立っているダークブルーな大きなブラ衣装。下半身は同じくダークブルーに色合せした腰回りに黄・緑・青・白といった色彩の布がザンバラに垂れ下がる。上腕部にも布を巻き付け、スカートと同じ色彩の布を垂らす。

 髪をポニーテールのように後ろにひとつ結び、軽快に踊る。場内のライトが暗くなり、スカート部にライトが浮かび上がる。とても幻想的なステージ。

 場面が変わり、暗い静けさの中、波の音が聞こえる。

 水の中に佇む少女。長い髪をかき上げながら水浴びをしている。

 少女はライトアップされた大きな花輪に囲まれている。花輪には青いLEDが組み込まれている。そして花輪には沢山の青と白の布きれが巻かれている。少女は立ち上がり、その花輪を持ってベッド・ショーへ。パイパンが眩しい。

 盆の近くに来ると、メイミンの華やかなアクセサリーが目に入る。まず臍ピアスの宝石が目につく。首には白いガラスのネックレス。指輪と足のブレスレットが純金に輝く。

 

 全体的に、ダークブルーな色彩で、幻想的な海の世界を描いている。

ディズニー・シーに対抗した「めいみんsea」であるならば、明るくメルヘンちっくな童話でも書いてあげればいいかなと最初は思った。

ところが、この作品を観ていて、暗い海の底に沈んでいく自分の姿が見えた。童話というのは、そのときの自分の心境を必ず反映する。今の自分はとても明るくなれない。正直、死にたいような気分になっていた。だから悲しいストーリーが勝手に流れていった。

最初に、暗い海の底に沈むシーンをそのまま描いた。その方が物語としてインパクトが強い。そして、そういう運命になってしまった成り行きを展開させた。

メイミンが美しい白鳥に見えた。悲しいかな、痩せ細っていく白鳥に。

強く抱きしめてあげたい・・・

優しく愛してあげたい・・・

その気持ちが白鳥の死で昇華される。主人公は白鳥の身代わりになろうと決意するも、最後は白鳥によって生かされる。

 

 メイミンを死なせちゃうストーリーはどうかなと気になったが・・・

 メイミンは童話を喜んでくれた。「見たよー!! めいみんsea♡ ありがとう。すごく嬉しい~♡ やっぱり自分のことを書いてくれてると幸せな気持ちになるね。白鳥がんばるわよ。」とのポラ・コメント。

ただ、ポラ返却のとき、「私だけ死ぬんじゃなくて、太郎ちゃん、一緒に死のう。二人で心中しよう。」と話しかけてきた。ドキッとした。私もそういうくだりの方が良かったかなとも思えた。それにしても、我々の会話を聞いていた周りの客はなんと思ったかなとついつい気になった。

 

死にたい気分なんだ・・・ついついメイミンへの手紙に書いちゃった。気にしているだろうなと後悔している。書いたからにはメイミンに正直に打ち明ける。受け止めてほしい。

実は、社長に呼び出され、ストリップ通いを指摘された。爆サイを見つけた社員から通報があったらしい。今すぐストリップ通いを止めなければ、しかるべき処分をすると言われた。ストリップをとるか、会社をとるか、選択を迫られた。

メイミンにも話したと思うが、二年程前、会社のホームページにたれこまれ、前社長のときにも役員から呼び出されて、同じように迫られた。一時、これでストリップから足を洗おうかと観念したが、結果的に止めれなかった。私は爆サイに何度も連絡し、自分の名前と会社名を消してもらった。それでも、私はあまりにも目立つ存在のため誹謗中傷は絶えず書き込まれ続けた。

インターネットの検索機能が働いて、会社名を検索すると私の爆サイ記事が出るようになり、社員が気づいた。私は社内でそれなりの地位についているため見過ごすわけにはいかず社長まで動くことになった。内部統制が厳しくなっている昨今、会社は体面を重視するので、一切の言い訳はきかない。「ストリップのなにが悪いというのだ!」と叫びたい気持ちはあるが、会社の置かれた状況を私自身が一番よく理解している。もう万事休すだ。

考える時間をもらったが、今の私にはストリップのない生活は考えられない。二年前と同じようにストリップ通いを止めますと答えておいて、今また再発してしまったわけだから、以前と状況が違う。ストリップを止める自信がない。ストリップと完全に縁を切ることは出来ない。そう判断して、上司に伝えた。依願退職を決意した。私がすぐにいなくなれば会社が困るので後任を探すことになるだろう。それまでの猶予になる。

 

実はもうひとつ話しておかなければならないことがある。情けない話ではあるが・・・

二年前に、ストリップ通いが会社にばれたときに、女房の耳に入り、離婚を迫られた。女房の母親が癌末期になっていたことも重なり、けじめをつけるようにご両親からも迫られた。あのときに、ストリップから完全に手を切るチャンスだった。そうすれば、家族も仕事も健全に維持できた。しかし私はストリップと縁を切れなかった。女房と離婚し、ストリップと再婚した。子供たち三人が既に社会人になっていたのが離婚のタイミング的にもよかった。

そして、私はストリップな生活に没頭して行った。私自身、後悔するものはなかった。むしろ、家族に後ろめたさを感じない、ストリップ漬けな毎日が楽しい。ただ、家族には私のわがままを通してしまい誠に申し訳ないと思っている。たった一人の女性も幸せにできなかったという後悔の念を引きずっており、二度と結婚しないつもりで結婚指輪を外していない。田舎の母親が心配して再婚の話をするも全くその気がない。

ちなみに、今は、上の娘が勤務先に近いこともあり同居している。家の中の掃除や私の洗濯物などの世話をしてくれて助かっている。生活に不便なことは何もない。

 

 それに対して、今回の退職問題は大きい。一千万円超の収入減が断ち切られる。これまでストリップにかかる費用、遠征代も含め、お金には全く困らなかった。無職となるとそうはいかない。これからの経済的不安は大きい。

 ただ離婚しているため、家族への負担はないのが幸いしている。自分ひとりならなんとかなるさ!と考えていくしかない。人生最大のピンチであるがチャンスととらえたいところ。

 私はいま56歳なので、この年収も残り四年だけで、その後65歳まで雇用延長しても年収は六割に落ちる。それでも安定収入なので65歳まで会社を辞めるつもりはなかった。その中でストリップ通いを楽しみたいと考えていた。

 また、ご存知のように私は執筆を趣味にしている。退職したら、これまで書き溜めたものを材料に、ストリップ小説を書きたいと密かに考えている。これまで書き散らしてきたストリップ童話、ポエム、エッセイ、レポートもまとめ直したい。ストリップ観劇は続けるものの、他にもやりたいことはある。

 私がそれらを世に問うことで、衰退したストリップ産業に一石を投じたい。それが東京オリンピックを迎え危機的になりつつあるストリップの命運の一助になるのではないか。執筆を通してストリップに恩返ししたい。そう願っているんだ。私はこの夢を実現させたい。

 だから、今回の退職を機にして、夢の実現に走りたいと思っているんだ。

 当面、失業保険がある間、いろいろ検討してみて、それで収入にならなければ、最後はこれまでの経理経験を活かした再就職を考えてみようと思う。人間ひとり生きていく分はなんとかなるさ。マイナス思考にならないよう、ストリップで元気をもらいつつ、前向きに進んでみたい。

 

 時間ができたら、手始めに、以前話したメイミンとの写真集に取り組みたい。メイミン、協力してくれないかな。

 自分勝手なことばかり言ってごめんね。まずはメイミンに話してみたよ。

 

H27年11月                          シアター上野にて