『虹色のキャンディ』
~羽音芽美さん(晃生所属)の演目「キャンディ」を記念して~
雨上がりの空高く、大きな虹が掛かっていた。
キャンディの好きな少女は、くわえているキャンディを手にかざしながら、お父さんに向かって笑顔で囁いた。
「わたし、あの虹の麓まで行って、このキャンディを虹色に染めてみたいの。きっと美味しいキャンディになるわよね。」
お父さんは、少女の要望に応えるようにニコッと微笑んで、すぐに車で虹がかかっている麓まで少女を連れて行った。
ところが、麓に着いたはずなのに虹はなく、虹はまた遠く彼方の麓の方に見えた。
お父さんは、もう一度、その麓に向かって車を飛ばした。
ところが、やはりその麓にも虹はなかった。そして、また遠くの彼方に虹は掛かっていた。不思議そうに虹を眺める少女を、お父さんは黙って優しく見つめていた。
そのとき、少女は、虹は遠くから眺めるものであって、近くで自分の手に触れることのできないものであることを知った。現実の世界では摩訶不思議なことがたくさんあり、決して自分の思う通りにいかないことが多いということを、お父さんが示唆してくれたのかもしれない。自然に逆らって我儘を通そうとすれば、自然は反発し、生命を犠牲にすることにもなりかねない。それでも、少女は虹を追いたいと密かに思っていた。
しばらく後に、少女はある不思議な夢を見る。
少女の背中に羽根が生え、虹に向かって飛び立つ。
空の上では、少女のイメージ通り、虹はトンネル状になっていて、七色の空気が流れていた。少女はその七色の空気の渦の中に飛び込んだ。
トンネルの中は、空気というよりは液状に近く、七つの色が少女の身体に絡みついてきた。それは不快な感じではなく、むしろ美味しいキャンディの海に浮かんでいる気分だった。
最初に黄色い色が甘い香りを漂わせながら少女の頬を優しく撫でた。少女は軽くフレンチ・キッスを返した。
次に、赤い色が少女の唇に熱いキスを求めてきた。少女はそれに応えて激しく舌を絡ませた。とろけるような快感が走った。
橙色が少女のふくらみかけた胸とお尻を優しく包んだ。少女はうっとりと身をゆだねた。
緑の色が少女の下腹部の割れ目にご挨拶。いずれここを緑藻地帯にするからネと。
少女の身体が熱くほてってきた。すると、青と藍のコンビ色が少女のほてった身体に交互に冷たい刺激を与えた。激しいエクスタシーが全身を襲い、恍惚の渦の中に溶けだした。
最後に、紫の色が少女の中心を貫いた。少女は完全に官能の海と一体になった。
翌朝、目が覚めたとき、少女の身体は熱くほてり、甘いキャンディがシーツを広く濡らしていた。
少女は、大好きだったお父さんを、早くに亡くした。
虹の麓まで連れて行ってくれた思い出を決して忘れなかった。だからこそ、現実の世界で、どうやって虹をつかめるかとずっと思い悩んだ。合わせて、あのときの官能的な夢が少女の脳裏から離れることはなかった。
少女は、年頃になり、ストリッパーになった。
彼女はストリップの音と光の世界に虹を見つけたように感じた。なぜなら、七色のスポット・ライトが彼女の美しい裸体を照らし、白い肌はまるでスクリーンのように七色に映えた。
しかし、あのときの夢の快感に比べると物足りなかった。もう一度、あの夢のエクスタシーを味わいたいと切に願った。
悩んだ末、思いついたのは、自分自身が七色のキャンディになりきる事だった。その演目のために、まずは大きく精巧なペロペロキャンディを作り上げた。次に衣装にも凝り、胸にペロペロキャンディと同じ渦巻き模様を付け、スカートを七色の縞模様にした。
ステージの最初は、ペロペロキャンディを持って楽しく踊る。ベッドでは、スカートの渦巻きをすとんと落とし、上から見るとペロペロキャンディに。お客の熱い視線がまさにキャンディを舐めるようにベッドに注がれ、それに呼応するごとく踊り子は身悶え、客と踊り子は同じ桃源郷を彷徨いだした。すると驚いたことに、客の熱いラブ・ビームを浴びベッドの踊り子が溶け始めた。
そう、私が求めていたのはこの快感だわ!
あぁ~ようやく虹の夢が叶ったわ・・・
ふと、とろけるベッドの真上に、優しく微笑むお父さんの顔を見つけた。懐かしさに胸が溢れ、おもわず彼女はお父さんに向かって手を伸ばした。
すると、お父さんの後ろにストリップの神が降りてきているのに気付いた。彼女はストリップの神に向かって、私もお父さんと同じ虹の彼方に連れて行ってほしいとお願いした。神様は優しくうなずいた。
おしまい
【解説】『虹色のキャンディ』・・・
童話に解説なんて要らないし、読み人が感じるままでいいのだが、今回は私自身の思い入れが強い分、それをメモしておきたくなった。
H25(2013)年6月11日(火)、会社帰りにシアター上野に向かった。TSが警察ガサ入れ処分で5月31日から休館したため、TSの客が流れてきて混雑していた。というよりも、シアター上野では考えられないほど、今回の香盤メンバーが良かった。羽音芽美さんと青山はるかさんという晃生の看板娘が二人も出演、それに新人のルル希さんのデビュー、さらに永瀬ゆらさんやTSの愛さんと素敵な踊り子さんが勢揃い。
私は公演初日から観劇。
今回の一番のお目当ては、羽音芽美さんの新作「キャンディ」。初日は芽美さんの三回目ステージの途中から入場したので後ろの方で立ち見。そして、四回目はステージ正面のかぶり席で拝見。
うぅ~すごい作品だ!全身で感じるものがあった。
私はその翌日お休みをとって朝から観劇した。二個出しのため、1,3回目に新作「キャンディ」、残りの2,4回目に代表作「雅」。私は平日は会社帰りに寄るため四回目しか観れないことも多く、できれば四回目に新作「キャンディ」をもってきて欲しいと内心思ったほど。それほど、この新作をじっくり鑑賞したかった。
顔馴染の芽美ファンがたくさん来ていたので、いろいろ新作の情報を教えてもらった。
今回の新作は、上野の二つ前の岐阜まさご座で初披露。ファンの彼は、まさご座→広島第一劇場→シアター上野と芽美さんを追いかけているようだ。遠征も大変だね。
彼が、今回の作品は、芽美さんがかなり長く時間をかけて構想を練ってきた作品であること、小道具のペロペロキャンディを作るのにもかなり苦心したし、半端じゃないお金がかかっていることを教えてくれた。みんなが考えているのと金額が一桁違うようだ。
ペロペロキャンディの小道具をじっくり眺めてみると、表面が渦巻き模様になっているがゴールドの鋲(ピン)が渦巻きに沿って散りばめられている。しかも裏面はゴールドの鋲がびっしり敷き詰められている。またペロペロキャンディの棒はかなりしっかりと据えつけられている。非常に精巧に製作されており、そもそもこれを製作してくれる会社を見つけるだけでも大変だったろう。製作時間も何カ月単位でかかっているはず。改めて、とても万の一桁単位で製作できるシロモノではないことが判る。
もちろん衣装は、芽美さんがデザインしたオーダーメイド。かなり凝って製作されており、衣装ひとつとっても沢山楽しめるように工夫されている。
胸元に、ペロペロキャンディをイメージした渦巻き模様をボタン状に縫い付けてあり豪華。スカートには、縦方向にたくさんの薄い七色の布が重なり合い、全体的にふわっとしている。まるでお姫様のよう。
そのステートを脱ぐと、その下に虹状に横縞模様のスカートが現れる。ベッドでこの下のスカートをすとんと落とすと、それがペロペロキャンディになるのが流石の演出である。
一曲目は、ペロペロキャンディを持って楽しく踊る。圧巻はベッドショー。芽美さんから頂いた手紙の解説をそのまま付記する。「一曲目は実物の分かりやすい形のキャンディ。二曲目はスカートの渦巻き。ベッドではそれをすとんと落として上から見るとペロペロキャンディに。そして自分自身にも三色の渦を巻き付けてキャンディに。それを少しずつ溶かす感じに・・・ほどいていくの。実際にレッスンをしてみると、とんでもなく難しかったのです。うまくほどけない。絡まる。自分と紐が一体化しない。すごくすごく考えました。なので今もまだ、少しぎこちないのですが。気に入ってもらえるように・・・もっともっと努力してみます。」
最初に観たときに感動の溜息が出た。芽美さんの強い思い入れを感じて、身体が震えた。
二日目に頂いた手紙に、彼女の想いが丁寧に記されてあった。「この作品についてたくさん悩み、キャンディを持ってただ踊ってるだけの作品にはしたくなくて、お客さんをキャンディの世界に(私の世界に)連れて行きたいな!と思って頭をフル回転させて考えました。一カ月くらいずっと悩みました。そして思いついたのが、自分自身がキャンディになりきる事。ベッドでは少しずつ自分が溶けていく感じにしたい。そう想ってできたのがこの作品です。ペロペロキャンディの『うず』に重点を置いて考えてみました。」
私は手書きで感想を書いて芽美さんに渡した。この作品を作り上げるのに相当な時間と労力がかかったろう。小道具や衣装を製作するのにも二三ヵ月は要りそうだし、最初の構想から数えたら半年くらいかかっているんじゃないか、と感じた。すると「太郎ちゃんが、半年ぐらい悩んだんだろうなっと言ってくれたのが何よりも嬉しかったの♡」
私はすぐに、この作品を童話にしようと構想を練り始めていた。ただ、芽美さんの強い思い入れに触れ、私自身も真剣に童話創作に取り組む気持ちになっていった。
私は以前、同じ晃生メンバーの吉田蓮さんの演目「キャンディキャンディ」を拝見して童話「キャンディの願い」を書いていた。私のストリップ童話の中でも評判がよく、傑作のひとつと自負している作品である。今回、これを改めて芽美さんに渡したら感激してくれた。「(私も)王子様になめられているように・・・表現していきたいです!」 私はこの作品に勝るとも劣らない童話を書き上げたい!と気持ちを高揚させた。
最初に、衣装やペロペロキャンディの色から虹がイメージされたので「虹色のキャンディ」というタイトルで構想を練ようと考え付いた。
最近、私は虹に不思議な魅力を覚えていた。虹というのは遠くから眺めると見えるのに近くで観ようとしても実態がない。美しいものは神聖であるがゆえに、遠くから眺めるものであり、決して穢れている人間の手で触れてはいけないもの。この考え方はストリップそのものなのだ。
人間が決して侵してはならない自然の領域があり、虹はそのシンボルではないかと感じる。だから、人間が近づいて観ようとしても手につかめないようにして、人間をあざ笑っているのだ。
虹というのは浮世の象徴であり、現実のものとして手にいれようとすれば大変な犠牲をはらわなければならないもののような気がしてならない。人間が自然を破壊すると大変なしっぺ返しを食らうのと同じだ。そこで、物語の設定として、虹に魅了された少女が現実の世界で虹をつかめた瞬間に、死という犠牲を伴うようにした。
虹のもつ美しさと儚さ・・・その中に無常観を漂わせたいというのが私の主題(テーマ)であった。
夢というのが、現実の世界で唯一「虹」を体験できる世界。
そもそもメルヘンというのは夢の描写。だから童話の場面設定にも積極的に夢を使用する。今回の童話にも、夢の中で虹を体験させることにした。
そして、虹とキャンディを絡ませることにした。虹色をエロティックに表現してみた。まさに、私のラブ・ビームが盆の上の踊り子に熱く注がれる如く。
考えてみれば、男は誰しもハーレムを夢見る。しかし現実はなかなか女性にモテない。ところが、唯一そうした夢を現実の世界で体験できる(=勘違いでもかまわない)のがストリップ劇場とも云えそう。
「お父さんは太郎さんでしょ!?」と第一声に芽美さんが感想を言ってくれた。私が踊り子に抱く愛情は、まさに「見守る愛」。決して触れてはいけない愛のひとつの形。
「そうだよ。でも、お父さんはすぐに死んじゃうんだよ。」と私が答えると「だめー! 死んじゃヤダーっ!!」と言ってくれる芽美さんはかわいい♡
以上、解説というほどのことではないが、私がこの童話に託した想いである。どこまで表現できたか分からないが、ひとつの形にできたことに満足している。
芽美さんのように、強くて熱い想いで、時間と労力を惜しまずに真摯にステージに取り組んでくれる踊り子がいることはストリップ・ファンとしてこの上ない幸せである。だからこそ、私もこうして童話やポエムを創作できる。私のストリップ童話やポエムは踊り子さんとの共作なのである。
この作品「虹色のキャンディ」を私にプレゼントしてくれた芽美さんに心から感謝する。
H25年6月 シアター上野にて