童話『王子とサボテン娘

 

 ある国に冒険好きの王子がいました。王子は飛行機を自分で操縦して遠くまで冒険することができました。

 

 ある日のこと。

 王子は広い砂漠の上を飛行機で飛んでいるときに、飛行機の調子が悪くなり、砂漠の真ん中に不時着してしまいました。

 見渡す限り、砂ばかり。王子は海の方角は概ね見当がつきましたが、歩いていくには何日もかかります。途方にくれましたが、とにかく海の方向に向かって歩き出すしかありませんでした。飛行機に積んでいた非常用道具をかつぎ、一人で歩き出しました。

 

 四五日歩き続け、水や食料が底をつきました。

 日が暮れかかったとき、王子は体力の限界を感じ、その場に蹲(うずくま)りました。

 目の前に、一本の小さな小さなサボテンの木がありました。

「サボテンの木を切って、内の水分を頂こう」と思って、ナイフを取り出しました。

 ふと、小さな小さな一輪のサボテンの花が、王子の目に止まりました。花はまるで王子に向かって微笑んでいるようでした。

「なんてキレイなんだろう。。。こんな美しい花を咲かすサボテンの木を切るわけにはいかないな。。。」と思いとどめると、王子は急に疲れを覚え、サボテンの木のそばに横たわり、そのまま眠ってしまいました。

 

 美しい娘が、大きな瞳をキラキラさせながら、愛くるしい笑顔で王子を見つめていました。妖しい美しさをもち、どこかコケティッシュな雰囲気を漂わせます。娘は、王子を見つめたまま優しく声をかけてきました。

「私は、あなたに助けられたサボテンの花です。助けて頂いたお礼に、私があなた様が無事に帰還できるようお助けいたします。」

そう言って、娘は身に着けていた衣装を脱ぎ始めました。上下続きのドレス、肩ひもを外すと、張りのあるバストが現れました。王子はドキドキして見つめていました。そのままドレスが流れるように下に落ちました。きれいにきゅっと引き締まっているウエスト、そのため形のいいヒップラインが妖しいまでに大きく見えました。下半身の草むらはまるでオアシスのようです。この世にこれだけ美しいものはあるだろうか、王子は思いました。娘は王子の目の前に美しい裸体を晒しながら、「あなた様が助かるためのエネルギーを差し上げます」と言って、大切な秘部を王子の口元に近づけ、雫を飛ばしました。

 王子は口の中に満たされた愛の雫を味わいました。温かく無味無臭の不思議な味でした。でも王子はたまらないほどの幸福な気分に満たされました。

 娘は、「これから毎日エネルギー補給してあげますから、サボテンを携えて旅を続けて下さいね」と話して、そして消えました。

 

 朝、目覚めたとき、王子は身体がほてってエネルギッシュになっているのに気づきました。王子は、小さなサボテンの木を根元からきれいに抜き取り、土のついた根本を布で包みました。そしてサボテンの木を携えて旅をつづけました。

 サボテン娘は毎晩、王子の夢の中に現れ、愛の雫を捧げました。お蔭で王子は歩き続ける元気を保持することができました。一方、サボテンの木は少しずつ細くなっていきました。

 

 サボテン娘と出会ってからちょうど十日目、王子は海辺に近い人里に辿り着きました。もう大丈夫です。

 すると王子の耳元に「さようなら」というサボテン娘の声が聞こえました。王子は、急いで携えていたサボテンの木を見たら、木はすでに枯れていました。

 王子はサボテンの木を抱きしめ、「ありがとう」と何度もつぶやきながら、枯れたサボテンの上に涙をこぼしました。

 王子はサボテン娘のことを一生忘れることができませんでした。

 

                                    おしまい

 

 

 

【解説】『王子とサボテン娘』・・・

 

 晃生の踊り子・羽音芽美さんが、ステージでサボテンの木の小道具を置き、メキシカンな踊りを披露していた。

 サボテンと花(芽美さんの衣装が華やかで、芽美さん自身が花のように映る)を材料にして、童話が浮かんできた。

 

 最初に、サボテンと花という二つのキーワードで考えて、すぐに浮かんだのが・・・

ひとつは、チューリップの名曲「サボテンの花」。甘いメロディにのせて、別れのつらさと新たな旅立ちを切々と歌っている。聴くたびにノスタルジックな懐かしさに駆られる。私は、この一部分でも童話に織り込めたらなと密かに思った。物語ラストの王子とサボテン娘の別れのシーンに少しでも反映していたら嬉しい。

余談ではあるが、私はこの唄が好きで諳んじて歌える。学生時代はチューリップの財津和夫さんとオフコースの小田和正さんに心酔していた。この二人は私の学生時代を思い出深く彩ってくれた。こんなエピソードがある。大学時代に、卓球同好会の宴会の場で、一人一人順番に歌う余興をやらされた。30人程を前に伴奏もなく歌うわけだが、私が歌いだすと皆シーンとなって聴いていた。いつも自転車に乗りながら歌っていたので、しっかりと心をこめて歌うことができた。拍手喝采をうけ、アンコールされた思い出がある。まだカラオケが流行る少し前のこと。こういうことに気を良くして、私はカラオケの道に真っ直ぐはまっていった。(笑)

 

 そして、もうひとつが、フランスの作家、飛行士でもあるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900-1944)の有名な童話「星の王子さま」(1934年出版)。サン=テグジュペリ自身、軍隊に入っていて、彼の最期は写真偵察のため地中海上空を飛んでいて、そのまま行方不明になっている。(ちなみに映画「紅の豚」で1920年代の飛行艇乗りを描いた宮崎駿監督はサン=テグジュペリの愛読者である。)

 

 サボテンというと砂漠がイメージされる。「星の王子さま」も操縦士の私(主人公)が、砂漠に不時着し、そこで星の王子さまに出逢う物語。王子さまは、家ほどの大きさの、小さな小惑星からやってきた。王子の星には、よその星からやってきた種から咲いた一輪のバラの花があり、王子はバラの花が美しいと思い、大切に世話をしていた。しかし、ある日バラの花と喧嘩したことがきっかけで、自分の星を離れて旅を始めたわけである。辿りついた地球で、たくさんのバラの花を見つけるが、いくらたくさんのバラがあろうと、自分が美しいと思い精一杯の世話をしたバラがやはり愛おしく、自分にとって一番のバラなのだと悟るシーンがある。

 

 このシチュエーションをうまく活かせればと考え、飛行機の操縦ができる王子さまを砂漠に不時着させる場面設定にした。

 花はバラの花ではなく、サボテンの花にした。ちなみに、私は真っ赤な色をイメージしていたが、インターネットで調べたら、サボテンにはたくさんの種類があり、同じくサボテンの花の色も赤や黄色などたくさんある。でも、私のイメージは赤だね。

 女性を登場させたかったので、夢の中に現れることにした。ここからはストリップ・ファンの私が描く得意のタッチ。

 芽美さんと同じ晃生所属の青山はるかさんの潮吹きショーに最近はまっているので、物語の中に潮吹きを組み込んだ。その結果、すごくエロティックな童話になった。

 

 この童話の主題は‘自己犠牲’。サボテンの花=妖精は、自分の美しさを認めてくれた王子を助けるために身を捧げた。女性というのは自分の美しさを認めてくれる男性を夫として一生を捧げるもの。

 自己犠牲というと、仏教に、自分の身を食べて下さいと炎に飛び込むウサギの寓話がある。手塚治虫の「ブッタ」の冒頭の出てくるシーンです。森の動物たちが、仏教の修行者をもてなそうと、熊は肴をとってあげ、狐は木の実をとってあげ、なにもとれないウサギは自ら焚火の中に飛び込んで差し出す。布施を求めたのは修行者でしたが、実は帝釈天の化身。ウサギを不憫におもった帝釈天はウサギを月に連れて行く。それ以後、月にウサギが棲むようになったという話です。(「前世説話(ジャータカ)」のうちの「ササジャータカ」に載っている)

 今回の童話に‘自己犠牲’のテーマを織り込むことで、王子とサボテン娘との悲恋ドラマが出来上がりました。

 さりげないストーリーですが、けっこう奥の深い童話に仕上げたつもりです。

 

 以上のことを、童話をプレゼントした後に、羽音さんに話したら、「私が思っていた以上に、内容が深いのに驚きました。」と感激してくれました。

 実は、上記の解説はすべて後付けです(笑)。実際のストーリーは、ステージを見ながら流れるように瞬間的に出来上がりました。ただ、上記のようなバックボーンがあるからこそ生み出されたストーリーであることは疑いないことです。

 羽音さんが、童話をプレゼントした直後に、ポラ裏に童話のイメージの絵を描いてくれました。すごく上手なのにビックリ! 本人から、以前、絵を勉強していたことを聞き驚きました。お互いの目に見えない才能が融合した一瞬でした。

 童話のお陰で、羽音さんと楽しい時間が過ごせ、ハッピー気分です。