今回は、水鳥藍さん(渋谷道劇所属)の作品「The Mirrors」について語りたい。

 

 

この作品「The Mirrors」は今年H28年のお正月に発表した作品。

発表からレポートするまで時間が経ってしまった。私が初めてこの演目を拝見したのは3月中の道劇。2,4回目に披露していた。このときには翌4月頭の周年作「This time has come」が気になっていて、周年祝いにこちらのレポートをプレゼントしたらと考えていた。しかし周年作には解説書があるとの話しで、そのコピーを待っているうちに日が経ってしまった。(ごめん!)

4月結には初東洋。このときに周年作「This time has come」のポール演技で負傷し、しばらくポール演技ができなくなったようだ。

その後、6月頭の渋谷道劇に前半五日間のみ出演した時にお会いして、翌週6月中の大阪晃生に行くことをお約束した。6月頭のときは、ポール演技は封印していたが、演目「The Mirrors」ではリング演技は行っていた。しかし、今回の晃生では舞台装置の関係からかリング演技は行わない。そのため、演目「The Mirrors」の作品構成を変えてきている。そのお陰もあって、童話化のインスピレーション⇒鏡の中に閉じ込められたお姫様のイメージが湧いた(笑)。

 

さっそく、演目「The Mirrors」の内容を私なりに紹介しよう。

最初は、渋谷道劇で観たバージョン。

白い洋服に赤い水玉模様のスカート、ベルト部分を白いリボン結び。白いブーツを履いて、くるくる回る。

舞台にスタンド・ミラーがあり、その影に隠れたかと思うと、銀のブラとバレリーナのようなふわふわの白いスカートを付けて現れ、くるくる回る。

小さな丸い鏡が盆の上にある。その鏡に向かって飛び込み消える。場面が一瞬暗くなる。

明るくなったと思ったら、盆の上にリングが吊してあり、藍さんがリングの上に全裸で現れる。そこからリング演技が始まる。以前より技が上達しているね。

 

今回の晃生バージョンは、スタンド・ミラーや丸い鏡がなく、リングもない。小道具を一切使わずに、演技だけで鏡を連想させる。

最初にお姫様ドレスで現れ、手で壁を伝わるようなパントマイムの振付けを行う。必死の形相。私はここから鏡の部屋に閉じ込められたお姫様がイメージできた。

私の中で童話「鏡の中のアイ」のストーリーが流れだした。テーマは鏡の呪縛からの解放。ストーリー展開として、それを可能にしたのが少年の愛。「これからは僕が君の鏡になってあげる」という台詞が出てきた瞬間にこの童話はほぼ完成した。

いいタイミングで、藍さんから演目「The Mirrors」の解説コメントを頂く。「『The Mirrors』はコンプレックスを抱えた自分との対話がテーマです。口紅を塗りたくるところからスタートして、ラストには口紅をおとしてゆく。鏡を踏みつけて終わるのはありのままの自分を愛するって意味だよー。」このコメントは童話の構成を考える上でとても役立った。また童話に口紅の赤を取り込むことで、強い色彩感覚を描くことができた。

藍さんのコメントは、私のイメージが間違っていないことを教えてくれた。「さすが太郎さん!  The Mirrorsをちゃんと感じてくれて嬉しい!」 藍さんとのこういう片言のやりとりの中で童話化が進んでいった。「『The Mirrors』の童話、すっごく楽しみです!! あれは本当に思い入れの強い作品なので!!」のコメントはとても励みになったよ。ありがとうね。期待に沿えたかどうか分からないけど書き上げたよ。もう少し推敲してみるね。

一旦、童話「鏡の中のアイ」を書き上げた時点で、藍さんからのもうひとつのヒントのコメント「ビョークのAll is full of Love とゆー曲がこの作品のキモです。」をネットで検索してみた。私は藍さんに言われるまで歌手も曲も知らなかった。

独特な歌声とリズムにはまった。不思議だ。藍さんのステージを観ているときには聴き流していたのに、何度も聴きたくなり、そして彼女のワールドにどっぷりはまってしまった。昔、ビートルズサウンド全盛の頃に、全く違った曲調のアルバム「クリムゾンキングの宮殿」にはまった感覚に似ている。すごいアーティストを紹介してもらったなぁ~感激&感謝!

この曲の主題である「すべては愛で満ちている」という観点から、もう一度、童話を推敲してみようと思ったけど、ある意味で、この童話は既にこの主題から外れていない。感性のまま一気に書き上げたが、これはこれでひとつの形となっていると感じた。このまま藍さんに提供することにしたよ。どうかな?

 

今回の童話「鏡の中のアイ」はまさに藍さんとの共作だよ。最初は有名な童話「鏡の国のアリス」にかけて「鏡の国のお姫様アイ」という話を書こうと思っていたのだけれど、ステージを拝見する毎にどんどん藍さんの心に近づいていきました。そして、より藍イズムの強い作品に仕上げることができました。題名もそうしました。また、この作品は今の私自身の投影にもなっています。すごく嬉しいです。

藍さんのお陰で今回の大阪遠征が最高に思い出深いものになったよ。改めて藍さんに感謝です。ありがとうね。

 

 

平成28年6月                           大阪晃生にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡の中のアイ』  

~水鳥藍さん(道劇所属)の演目「The Mirrors」を記念して~

 

 

 

 アイは「鏡の間」にいた。上下前後左右が鏡に覆われていて、自分の姿が映し出されていた。そして鏡の中の自分が、アイのことを非難していた。

「もっと化粧を濃くしないと綺麗にならないわよ」と正面の鏡の私が言う。

「もっと痩せなければ美しくなれないわよ」と左側の鏡の私が言う。一方、その対称にある右側の鏡の私は「もっと肉付きをよくしないと女性らしいふくよかさは表現できないわよ」と言う。

 いやーっ!!!! アイは思わず両手で耳を覆う。・・・

 アイは目が覚めた。いつからかアイはこんな夢ばかり見るようになった。

 

 アイは小さい頃からプリマドンナを目指していた。

「ふとるから甘いものを食べちゃダメって言ったでしょ!」

「もっと背筋をピンと伸ばして!」

「もっと笑顔を作るの!」

「明るい顔を作るために口紅はもっと赤い色にしなさい!」

 いつもバレエ団の先生が話していた。

 練習は鏡が相手。鏡は嘘をつかない。ありのままの姿を映した。けっして可愛くない、けっしてスタイルがよくない、けっして踊りが上手くない、そんな自分の姿をありのままに晒した。アイはそんな姿を見るのが嫌で、より美しく、より華麗に踊れるようにと、来る日も来る日も練習に励んだ。

 いつのころからか、先生が鏡に変わっていた。鏡の中の私が自分に向かって先生と同じことを何度も何度も繰り返し注意する。

 幼くもおとなしい顔つきをしていた私の口紅は赤々と変化し出した。鏡の中の私の口元がますます辛辣に自分に向かって言葉を発し続けた。

 私は知らず知らずのうちに鏡の中の自分を必死で追うようになっていった。まだ子供だったから逆らう術を知らなかったし、逆らおうとも思わなかった。

しかし、いつしか先ほどの「鏡の間」の夢を見るようになっていった。

 

 一人の少年がバレエ団に入ってきた。名前をサワテと言った。彼も小さい頃からバレエを習っていて、その素質が認められ、この有名バレエ団にスカウトされたのだった。

 少年は年の近い少女アイに関心を抱く。最初はもちろん可愛い容姿に目が行く。しかし、一心不乱に鏡に向かって練習しているアイの姿を見ていて段々に不自然さを感じた。

 彼はアイに近づき、気さくに声をかけた。ところが返事がない。アイは鏡ばかり見ていて彼の言葉が聞こえていなかった。

 サワテは、アイと鏡の間に割り込み、アイの目をのぞき込んだ。彼ははっと思った。「彼女の目は死んでいる」と感じたのだった。

 サワテはアイの手をとって優しく微笑んでこう囁いた。

これからは僕が君の鏡になる。僕の瞳に映った自分の姿を見つめながら踊ったらいいよ」

 彼の瞳はきらきら輝いていた。アイにはそれがとても眩しく感じられた。

 そして彼の言葉に素直に頷いた。

 その日から、練習が楽しくなった。彼の指導は適切だった。なによりも彼はアイの資質を見抜き褒め讃えた。彼に褒められると全身が震えた。アイはバレエがこんなに楽しいものだと初めて知った。

 

 サワテとアイの二人の息はぴったり合った。相性も良かったのだろう。なにより二人は愛し合っていた。

 ある日のこと、二人の評判を聞きつけた人物がバレエ団に現れた。彼はフィギュアスケート界の巨匠と呼ばれる人物だった。来るべき自国開催のオリンピックで優勝できる資質をもったペアを探していた。その候補として二人の名前が挙がっていたのだった。

 彼は一目で、自分が求めていたペアはこの二人だ!と直感した。彼は二人を口説いてフィギュアスケート界にスカウトした。生まれつき類い希な運動神経をもった二人はめきめきと頭角を現した。

 アイは不思議な気持ちになった。スケートリンクはまるで鏡のようだった。たくさんの観客も鏡に見えた。あれだけ怖がっていた鏡なのだが、自分の姿を映す鏡がとても心地よかった。それはサワテの瞳が優しいから。サワテの瞳に映っている自分を信じていれば何も怖くなかった。まさに鏡が彼女のパワーになっていた。

 

 オリンピックの檜舞台で二人は金メダルに輝いた。

 完璧な演技が終った瞬間に、感極まってサワテはアイを抱きしめた。アイもサワテに軽くキスをした。アイの口紅はもう赤くなかった。

 

                                    おしまい