今回は「水辺の馬たち」という題名で、TSの神谷もえさんの引退についてお話します。

 

 

H24年6月中、TSに通っていたら、常連さんに「神谷もえさんのブログ見ましたか? もえさん、引退すると書いてましたよ。体力的にもたないとの理由でしたが。」と言われ、ブログを見ない私がえっ!と驚くのに対して「太郎さんは、もえさんのファン一号なんだから、ちゃんとブログを見てあげなきゃ。」と付け加えられた。

親切な彼の言葉に驚きもあったが、不思議に、私はもえさんの引退を冷静に受け止めていた。

 

先月結のミカドで、私は11日間皆勤して、もえさんの応援に通った。

個人的な手紙で、ストリップを続けてほしいと何度も懇願した。本公演前に準備していた手紙を、初日に渡して「私のことをこれだけ真剣に心配してくれるのは太郎さんだけです」と言ってくれる。デビュー週の楽屋で嫌なことがありトラウマになっていたが、二週目からは優しいお姐さんに恵まれ落ち着いてきていた。もともと人にヌードを見られるのが好きで、自分から望んでこの業界に入ってきた。ステージは楽しいと言うし、私のようなファンがついて喜んでいた。私は彼女との手紙交換を通じて、この子は賢くて考え過ぎるんだなと感じた。どんな仕事にも、いい面と悪い面がある。悪い面だけ見て辞めて、別の仕事に就いたとしても同じことを繰り返してしまう。とりあえず自分から望んで始めた仕事なんだから、今は我慢の時期なんだよ。あまり考えずに、いい面だけを見るようにして、とにかく一年頑張ってみたら! と話した。

段々と彼女の気持ちが前向きに変わっていくのが手に取るように感じられた。表情も明るく楽しそうだった。お姐さん方にも恵まれ、楽屋が楽しいと言っていた。

中日から新作を披露。私にはAKBのようなアイドル系のコンサートに見えたが(失礼!)、アーミー・ルックでかっこいいロック系コンサートを演じていた。踊り子を辞めるつもりなら新作なんか出さないだろうから、この時点で引退はないなと踏んだ。

今回の5結ミカド公演で、たまたま晃生のRinさんが一緒だった。もえさんは4頭のTSでもRinさんとご一緒していた。だから私は、5頭の大阪晃生でRinさんに、私がもえさんの引退を心配している話をさせてもらった。それもあってか、Rinさんは今回の公演中もえさんのことを優しくサポートしてくれた。もえさんも「Rin姐さんが優しくしてくれて、とても心強い」と話していた。Rinさんはもえさんと何度か食事に行ったらしく、もえさんが踊り子を続ける気になっていることを私に知らせてくれた。ミカド公演が終わる頃には、私自身ももう大丈夫だなと感じていた。

だから、もえさんの引退を聞いたとき、確かに唖然とした。

しかし、それもありえることと受けとめた。続けるつもりじゃなかったの!と責める気持ちは全くなく、彼女が出した結論を粛々と受け入れたいと思う。すでに、4頭のTS公演が終わった時点で、神谷もえさんは次のミカドで引退するかもと仄めかしていたので、彼女をモチーフに「ストリップは心の避難場所」というエッセイを書いた。これで、私は心の準備を行っていた。

 

振り返れば、神谷もえさんとはH23年11月21日のデビュー日にTSで出逢う。それから、半年と一週の間に、関東の劇場に五回(TS三回、ミカド二回)、芦原に一回の計六回の公演。私は、芦原には行かなかったが、関東の五回公演51日のうち45日を通っている。新人LOVEの私ではあるが、最初にこれだけ通ったのは初めて。それだけ彼女の魅力が私を惹きつけた。容姿のかわいさはもちろん、これだけ文通が楽しい方はいない。こんなにプライベートなことを書いていいの?と私が言うほど、彼女は私に心を開いてくれた。私のことを信じ切って赤裸々に自分のことを語ってくれた。私は踊り子さんとは適度な距離を保ってお付き合いするのがいいと思っているが、彼女の気持ちは正直嬉しかった。

いつも私がいるのが当たり前になった彼女にとって、私が客席にいないと凄く淋しがってくれた。

最後のミカドの週、ある姐さんから聞いたらしく「太郎さんは新人好きと聞きましたが、私が新人でなくなっても応援してくれますか? 私、太郎さんにはずっと応援してほしいんです。」と手紙に書いてきた。私は(一瞬焦りつつ)「もちろん、これまで通り応援させて頂くよ」と即答した。(誰だっ!  変なことを吹き込んだのは?  まあ、いずれ分かるか・・笑)

 

 

‘水辺の馬’という寓話がある。人は馬を水辺まで導いていくことができても、最後に水を飲むかどうかは馬自身が決めることで、人にはどうしようもない、という喩え。

私は必死で、もえさんをストリップの場にとどめようとしたが、結局もえさんはストリップという水を飲み続けてはくれなかった。それだけのことかもしれない。それ以上、私にはどうしようもない。

 

  競馬の好きな友人が「馬って本当にきれいなんだよなぁ」としみじみ語ってくれたことがある。競馬はギャンブルではなく、馬を愛する動物愛の世界なんだと。実際に競馬場に行って、間近で馬を見ると、肌艶や肢体の筋肉美にうっとりすると言う。

 もう会えなくなると思うと、もえさんのかわいい笑顔と美しいヌードがまさに走馬燈のごとく浮かび上がってくる。私はエロポラは撮らないが、その分しっかりと目に焼き付けている。白い肌、艶めかしい肢体、踊りはまだぎこちなかったが、全てが愛おしく、全てが美しく、そして全てが懐かしい。

1月中にもえさんと一緒にTS公演にのっていて、それを最後に引退した東洋の涼川ゆきのさんも、手足が長く、まるで美しい女神馬だったなぁと思い出される。彼女にも熱をあげ必死に応援したが私には引退を止められなかった。

 美しい水辺の馬たちが、私のもとから去っていく。自分の非力を嘆きつつ、虚しや悲しみや淋しさが胸を締め付けてくる。涙が込み上げてくる。

 水辺の馬たちは私のことを嫌いになって去って行ったわけではないだろう。最後に私の方をちらっと振り返り、笑みを浮かべ、「さよなら」と声をかけてくれたような気がしている。短い期間ではあるが、私と縁があり、楽しいストリップの時間を過ごすことができた。私はそれだけで十分幸せである。

 彼女たちのこれからの人生に幸あれと念ずるだけである。

 

平成24年6月