灘ジュンさんは、ロックが誇る最高のスーパースターであった。2004年7月1日に川崎ロックでデビューして、2017年6月25日に浅草ロックで引退した。後にも先にも彼女ほどのストリッパーはもう出てこないと思う。ポラの売り上げでも断トツの記録を持つ。
私のストリップ日記から、この13年間での灘ジュンさんの記憶をめくってみたい。なお、灘ジュンさんのことは、既に別の記事で取り上げているが、今回はそれ以外の話をする。
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完成度の高いステージを見せてくれる踊り子さんの1人として、灘ジュンさんの新作はいつも楽しみにしている。
2008(H20)年10月に新宿ニューアートで1回だけ新作を拝見し、不思議な印象が後をひいた。ポラ時にジュンさんに「さすがだね!」と話した。しかしながら、直感的にすごい作品と思うも、その時には何がすごいのか頭の整理ができなかった。だから次に見る機会があったら、じっくり拝見しようと思っていた。11月中の川崎ロックで待ちに待ったその機会が訪れた。1回目と3回目が新作だった。
1回目のステージを見終わったときに、頭の中にいろんなイメージが交錯し出した。ポラ・タイムの時、ジュンさんに新作の感想を次の手紙で書くねと約束した。そしてラウンジで新作の内容を自分なりに復習してみた。
最初の出だしは、袴姿の天狗が登場。天狗の面は男性性器の象徴、漲る性のエネルギーを感じる。
次は一転、阿波踊り。笠をかぶった女性が阿波踊り特有の手振り・腰振りで軽快に踊る。私も若い頃、徳島で阿波踊りを教えてもらったことがある。学生時代の友人が徳島市出身だったので他の友人と2人で遊びに行った。彼の実家は徳島市の名家。徳島の友人はもちろん阿波踊りができる。友人3人で阿波踊りの衣装を着て、その晩、両脇が高く段差になっていて観光客がたくさん座っている桟敷席の間を阿波踊りの一団に混じって一緒に踊るという体験をさせてもらった。二度目に、その友人の結婚式で徳島市に行ったときも、前日宿泊した旅館に阿波踊りの一団を呼んでもらい部屋の周りを一緒に踊り回るという最高の歓待をしてもらった。
徳島の友人が言うには、この阿波踊りの期間は昔から性の解放が認められたらしい。男女が思いのままに性を楽しむ。阿波踊りにはそんな性のエネルギーが満ちている。だからこそ、天狗に扮した男性(神そのものかもしれない)と阿波踊りの女性が結ばれて、赤ん坊を身ごもるのは自然な流れと云える。
舞台は、赤ん坊を抱いた女性が赤ん坊を捨てる場面に移る。どんな事情か分からないが、赤ん坊の上に簪(カンザシ)をのせて立ち去っていくところに母親としての惜別の情を感じる。
母親が去った後、赤ん坊の泣き声に誘われるように、一人の女性が現れ、赤ん坊を連れ去っていく。その女性は着物の下半身を真っ赤に血で染めているから、きっと流産したばかり。命を失って、そして別の命を拾う。不思議なさだめを覚える。その女性が髪の毛を前に垂らし、おどろおどろしい風貌なのが気になる。
さて、場面は、それから十数年経ち、その赤ん坊が立派な女の子に成長して現れる。黄色の半纏が命の輝きを放つ。神社の中でいたずらっぽくお神酒を飲み干す。ところが、その神社は父と母が結ばれた場所、そして自分が母親に捨てられた場所。その子は何かを感じ、母の形見の簪を取り出して母を想う。
その子にとって、母親に捨てられ、別の女性に育てられることは運命(さだめ)だったのだろう。命が運ばれる様が、まさに字のごとく「運命」そのもの。どんなに悲哀な環境にあろうと、与えられた命はまっとうしなければならない。生きることが運命(さだめ)なのである。その子は素敵な女性に育ち、そして母親と同じように恋をして子供を身ごもることだろう。それが輪廻転生なのか。
以上のストーリーを自分なりに組み立てた。キーワードは「阿波踊り」「性」「命」「生きる」「運命」「母」・・・この中で選ぶとすればテーマは「運命」か。それにしても随分難しいテーマに挑戦したものだと感心させられた。
この内容・感想を手書きでA4用紙1枚にびっしり書いて、2回目のポラ・タイムでジュンさんに渡した。3回目のポラタイムに、「どう? 私の感想、少しは当たっていたかな?」と聞いたら、「あんなにたくさん感想を書いてくれて感激しちゃったわ。内容の解釈、98%当たっていたわよ!」とジュンさんが嬉しそうに言ってくれた。
そのときジュンさんから手渡されたお返事にこう記されてあった。「作品の感想たくさん書いて頂いてすごく嬉しかったです。細かいところまで(簪のことなど)理解してくれていて感激しました。流産をした、子さらい妖怪『産女(うぶめ)』という妖怪にヒントを得てこの作品を作りました。人に捨てられ妖怪に拾われて育った子供のお話です。自分の中にストーリーや気持ちはあったものの、ここまで太郎さんが私の思いどおりのことを当てていて驚きました。」
演目は『産女』か。なるほど、あの女性、妖怪っぽい雰囲気があったなぁ~。これを知らないと正解にはならないな。ジュンさんが98点というのは随分あまい採点だなと思ったものの、それだけ私に対するジュンさんの感謝の気持ちが伝わってきて心が満たされた。
産女をインターネットで検索してみた。次のような解説があった。
「産女、姑獲鳥(うぶめ)は日本の妖怪の一つで、妊婦の妖怪。憂婦女鳥とも表記する。死んだ妊婦をそのまま埋葬すると、『産女』になるという概念は古くから存在し、多くの地方で子供が産まれないまま妊婦が産褥で死亡した際は、腹を裂いて胎児を取り出し、母親に抱かせたり負わせたりして葬るべきと伝えられている。胎児を取り出せない場合には、人形を添えて棺に入れる地方もある。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)」
どうして、ジュンさんが産女に関心を持ったのか、不思議。。。
ジュンさんのこれまでの出し物は、いつも優雅で華麗で、誰が観てもロックを代表する踊り子に相応しい演目だった。ところが今回の産女は非常に異色である。
あるストリップ仲間がジュンさんの新作を見て「ちょっと凝りすぎてないか。内容がよく分からないよ」と言っていた。彼は本当のジュンさんファンではない。踊り子さんの中には、ステージに懲りすぎてファン対応がおざなりになり、ファンが離れていくケースもこれまで何度か見てきたが、ジュンさんの場合はそんなことはないだろう。
そんなことより、ジュンさんは今回の産女にチャレンジすることで、新たな境地を求めているのではないか。ジュンさんは単にこの業界の美人№1ストリッパーというだけではなく、本物の表現者(アーティスト)なんだと強く感じた。であれば、キレイな作品だけでなく、汚れ役にも挑戦し新たな自分を発見したくなる。それが表現者としての心意気というもの。
私は今回新作を拝見して、ジュンさんが産女を演じるとこんな素敵なステージになるんだと驚愕させられた。これまでの演目も、いつもジュンさんなりの味をもつ素晴らしい作品に昇華されている。その作品水準の高さから、実は、私はこれまでジュンさんのステージは最高の演出家がロックの看板に相応しい演出をしてくれているのだろう、そしてジュンさんはそれを忠実に演じているのだろう、と勝手に思っていた。しかし、それなら今回の『産女』を演目に選ぶはずがない。きっと、これまでも自分で演目、構成、選曲などを創作しているのだろう。衣裳、舞台構成、振付なども、かなりの部分を自分主体でやっているのではないだろうか。今度本人に確認してみたい。
今回の産女は、従来のストリップの演目を超えている。ジュンさんが放つ、新しい領域に挑戦する意気込みや創造の喜びが心に響いてきた。これからもジュンさんがどんな演目を演じていくのか目が離せない。
最後に、こんな童話が浮かんだので書き留めてみた。
題名は『命が運ばれる』・・・
山奥の木立に、ひとつの小さな小さな鳥の巣がありました。その中には、産まれたばかりの数匹のひなたちがおなかを空かせて鳴いていました。彼らは、母鳥がえさを持って帰ってくるのを待っているのです。
そこに、全く種類の違う鳥がやってきて、巣の中の、まだ孵らない卵を漁り始めました。
その拍子に一匹のひなが巣の外に放り出されました。
木立の下は藪になっているので、そのひなは怪我をせずにすみました。が、もう自力で巣に戻ることはできません。
産まれたばかりでまだ目も開けないひなはただ身をくねらせながら、泣きながら必死で母鳥を求めました。
ある別の母鳥が、そのひなを見つけました。その母鳥は、獣に巣ごと蹴散らされて子供を失ったばかりの鳥でした。迷わずに、ひなを助けることにしました。
ひなはその母鳥が本当の母親と思っていっぱい甘えました。子供を失ったばかりの母親にとっても、そのひなはわが子そのものでした。
母鳥の愛情をたっぷり与えられ大事に育てられたひなは、とても綺麗なメスの小鳥に成長しました。小鳥の名前をジュンと呼びます。ジュンはキレイなイエロー色で全身がおおわれていました。母鳥が茶色なので違う種類の鳥であることは一目ですね。でも、その親子にとって色の違いなんて関係ありません。
ある年、大きな台風が山を襲いました。
突風が2匹の親子鳥を引き裂きました。風はジュンをはるか遠くの山へと連れ去りました。
風が止んでから、ジュンは母鳥を必死で探しました。涙ながらに鳴き続けました。が、見つけることができません。涙はもう枯れ、途方に暮れました。しかし、ジュンはこれから1人で生きていかなければなりません。
山にはもうすぐ雪が降り始めます。ジュンは一人ぼっちの寂しさを感じながら空を見つめました。真っ赤に染まる夕日の中を渡り鳥の群れが飛んでいます。
「仲間がいるって、いいなぁ~。」ジュンはまた泣きそうになりました。
そこへ、一匹のオス鳥がジュンの姿を見つけて近づいてきました。綺麗なイエローは目立ちますからね。
「よかったら、僕と一緒に北の国に行かないか?」とオス鳥はジュンに声をかけました。
ジュンは喜びました。二匹の鳥は北の楽園を目指して飛び立ちました。
おしまい
風もオス鳥も、ジュンにとっては縁なのです。ジュンの命は縁によって運ばれていきます。運命とは縁によって命が運ばれる様をいうのです。
平成20年11月 川崎ロックにて
【おまけ】
童話『命が運ばれる』は、FC2ブログ「ストリップ童話館」に収録しました。