TSの鏡乃有栖さんのレポートを「ワンダー・ガール 鏡乃有栖」という題名で書いてみた。

 

 

 彼女の名前「鏡乃有栖」は言うまでもなくルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』から来ている。

 私は童話好きなので、最初に、ルイス・キャロルの『不思議な国のアリス』と『鏡の国のアリス』について言及してみたい。

 イギリスの数学者であり作家でもあるルイス・キャロル(1832.1.27-1898.1.14)は1865年に『不思議な国のアリス』を出版し人気を博した。この作品は、童話を従来の教訓物語から開放し、言語遊戯、論理学、夢(精神分析)などの要素を取り込み全く新しい童話の世界を切り開いたものとして、イギリス文学史上特筆すべき作品とされ、後世の童話に大きな影響を与えた。(この作品には多くの駄洒落、ナンセンス、パロディ、風刺などが散りばめられており、もちろん親父ギャグ好きの私の創作童話にも影響しているよん(笑))

『不思議な国のアリス』は、主人公のアリスが、白うさぎを追って、うさぎ穴に落ち、そこから人間の言語をしゃべる動物や人間のようなトランプの札の住むファンタジーの世界を冒険する物語である。

 一方、『鏡の国のアリス』は『不思議な国のアリス』の続編として1871年に出版される。この作品の中には、対称や時間の逆転なども含めた多くの鏡のテーマがある。

 前作が夏の日の物語なのに対して、この物語は冬の風物詩である「ガイ・フォークスの日」(11月5日、イギリスの祭日)の前日から始まる。・・・ガイ・フォークスの日の前の寒い日にアリスは暖炉の前で子猫と遊んでいました。いつものように子猫と空想遊びをしていたアリスは暖炉の上に掛けられた大きな鏡が通り抜けられるような気がしたかと思うと、次の瞬間には鏡を通り抜けて向こう側の世界に抜け出ていました。そこで、赤の女王と出会い、チェスの勝負をすることになる。『不思議な国のアリス』ではトランプがひとつのテーマになっていたが、『鏡の国のアリス』ではチェスの勝負に基づいて話が進む。作家ルイス・キャロルのゲーム感覚のユニークさに脱帽する。

 

 さて、前置きはこのくらいにし、鏡乃有栖さんの話に入る。

 有栖さんのブログ名はなんと「鏡乃有栖の穴」。ストリッパーらしいストレートな命名だが、これは物語のうさぎの穴に掛けている。かくいう私も鏡乃有栖さんの穴に落ちてしまった。(笑)

鏡乃有栖さんには不思議なところがいっぱいある。思いつくまま列記すると・・・

 今回彼女のレポートを書こうと思って、昔のポラを振り返ってみた。彼女のプロフィールによればデビューはH16(2004)年10月1日とあるが、私の持っている最初のポラには2004年8月1日とある。さて?と思って、本人に聞いてみたら、「お手紙にありました2004年の8月というのは私が初めてTSにのりましたピンク女優大会だと思います。踊り子としてステージに立つ前にピンク女優大会に出たのが私のTSの初めてですの。その後踊り子としてデビューしたのが2004年の10月になります。」

 また、デビューのときは鏡野有栖という名前だった。一体いつから鏡野から鏡乃に変わったのだろう。これについてはブログの記事を読んで分かった。芝居をやるときは鏡野有栖で、ストリップのときは鏡乃有栖と使い分けているとのこと。なるほど。。。

  有栖さんには二つの顔がある。有栖さんは「芝居を続けたかったから、、時間が自由になるストリップを選びました」と言っている。彼女にとって、第一は芝居なのかもしれない。芝居で食べて行くのは大変なのでストリップで生活費を稼ぐという感じか。しかし、ストリップに対しても「従来のセオリーにとらわれない、誰もやらないような~ギャグ漫画のようなあっと驚く出し物を作りたい」と言っている。たしかに彼女のステージは異色というか独特な雰囲気を醸す。彼女の演ずる大正ロマンは絶品。またポラ対応でも時に底抜けにユニークな面を見せて、観客を笑わす。おとぼけキャラはどうも地のようだ。そんなこんなで沢山の熱烈なファンを持つ。

 有栖さんは、本物のアーティスト(表現者)であり、ひとつの鏡に映る顔で役者を演じ、もうひとつの鏡に映る顔でストリップを演じている。自己表現する手段としては二つは同じもの。

 

 もしかして一番不思議なのは、新人好きの私が、デビュー時にはそれほど関心を示さなかったのに、8年目の今になって有栖さんに夢中になっていることか。(笑)

 私は有栖さんをH16年8月1日にTSで見かけ、H17年に二度ステージを拝見したが、その後は四年間仙台へ単身赴任していたこともあり会わなくなる。仙台から戻ってTSをホームにし出してから漸く再会。次の四回目はなんと五年後のH22年9月。それからH24年4月今時点まで、この一年七ヶ月間で30回お会いしている。最近は有栖さんと濃い時間を過ごしているせいか、非常に気になる存在として赤丸急上昇中。

 彼女の役者の顔にも興味が湧く。正直言って、有栖さんが「水族館劇場」に所属しているのを最近知った。私が以前住んでいた北九州小倉で劇団旗揚げしたのにも驚いた。そして毎年5月恒例公演のため、二ヶ月間のストリップ休業しているのも分かった。

 そもそも私が有栖さんに興味を示したのは、鏡乃有栖という名前からきっと童話好きだと思い、私の創作童話を渡したところからスタートする。予想通り反応が良く私を喜ばした。私の童話エッセイに対して「物語、ありがとう。ステキですね。いいお父さんだー」「日々を過ごしながら毎日起こる出来事の捉え方が、とてもロマンチックですてきだと思います。感性を大切になさって下さい!!」。 私の童話『みつばちの手紙』に対しては「太郎さんの童話も現代と重なる部分にひかれました。待っているだけのお姫様ではなくて、自分の心に響く事に純粋な行動力・・・思わず「二人が幸せになれますように」と願ってました。素敵な物語をありがとうございました。」。 童話『ライオンと乙女』に対しては「すてきなお話です。心あたためてもらいました。どうもありがとう」。 童話『お空のペンキ屋さん』に対しては「タイトルがとてもかわいくて読み始めたら悲しいお話でもあったんですね。現代の童話だと思いました。ありがとうございました。」。ひとつひとつの感想が私の琴線に触れてきた。

 私は同じ表現者として、有栖さんの言葉にすごく励まされた。「文章を書くのは太郎さんにとってどんな時間? 楽しいのかな? それとも喜び、集中、感性の豊かな文章を読ませていただくと勇気づけられます。どうもありがとうございます。」「すてきな物語を書いて下さってありがとうございました。太郎さんの文章はやさしげな感じが人柄にも表れていらっしゃいますね。いつも励まされます。」

 

 そして今回、H24年4月中の池袋ミカド、そして翌週のTSとたっぷりステージを拝見して、改めて有栖さんの美貌に感嘆。デビュー当時はまさにワンダーランドから来た妖精のようにかわいい面影をしていたが、ストリップ8年目を向かえ、いまでは匂い立つ妖艶な色香を覚える。

 いい女優というのは歳を重ねるとともに美しさを増すと言うが、役者としての効果がストリップに見事に活かされている。というか、有栖さんにとって、芝居もストリップも、すでにコインの裏表のごとく一体のものになっているのだと感じる。そして、本来の自分の顔も、ふたつの鏡に映る顔も、いまでは区別がつかないのではないだろうか。すべてが真剣で、すべてが本物で、すべてが有栖そのもの。そんな気がしてならない。

 

 彼女のステージはワンダーな魅力に満ち溢れ、そして我々にいろんな夢を見させてくれる。それは夢かな?現実かな?

 最後に、私が好きな『鏡の国のアリス』のラスト部分を紹介してレポートを閉めます。・・・夢から覚めたアリスは最後に自らに問いかけます。夢の中のすべては赤の王様の夢の作り出したもの。だけどその夢を見ていたのは私。それならどっちがどっちの夢の中にいたのかしら? 私? それとも赤の王様?と。

 

 

平成24年4月                                 TSにて  

 

 

 

 

 

 

 

 

童話『カガミ劇場』 ~鏡乃有栖物語~

 

 

 この世には不思議なものがあります。そのひとつが鏡です。

 

 

 アリスは鏡に向かってこう言いました。

「私はアリスよ。カガミに映っているあなたは誰なの?」

 カガミは答えます。「もちろん、私はあなたよ。そのままのあなたが映っているだけよ。」

 

 アリスはカガミに向かって化粧をし出しました。

「私は今の自分が嫌いなの。別の人に変身したいの。・・・だから、私は役者を志望している。役者になって全く別の人になりたいの。」

 アリスはそう言ってお化粧をした顔をカガミに近づける。

「どお? 少しは別の顔になったかしら?」

「前のアリスとは少し違って映っているけど、やはりアリスはアリスね。どんなに化粧してもアリスは変えられないわよ。」 カガミは答えます。そして、こう続けました。

 

「役者というのは自分を消し去らなければならないと云うわよね。演じるべく配役になり切るために今の自分は邪魔ということね。そのためにも自分の私生活は一切公表しないと徹底している有名な役者さんもいるわね。確かにそれはそれで理解できるけど、本当にそうかしら。

 自分を消すのじゃなくて、逆に自分を出す。・・・

 結局のところ、役者は決められた配役を通じて自分を演じているに過ぎないと考えるべきじゃないかしら。そのため、役者というのは、どんな配役もこなせるくらいに自分を高めないといけない。自分流の配役の味を出すのよ。所詮すべてのことは自分に帰すのよ。私はそう思う。」

 アリスは黙って聞いていました。カガミは続けます。

「そのためにも、アリスは、自分を好きにならないとダメ。今の自分が嫌なら、これからの自分を好きになるために、今の自分を磨くのよ。身体も心もね。

 役者というのは、そこに立っているだけでひとつのドラマを演じるという。そういう風にならなきゃ。常に高みを目指して頑張っていけば、気持ちは必ず観客に伝わるわよ。役者というのは、気持ちを演じるものなの。」

 

 アリスは自分がこれから進むべき道が見えてきたような気がした。

 カガミははっきり言いました。「アリス、あなたは今でもチャーミングよ。そしてこれからもっともっと魅力的になる。そんな素敵なあなたを探さないとね。カガミは新しい自分を見つけるためにあるのよ。これからもお付き合いするわよ。」

 アリスはカガミと話していて心がとても晴れやかになりました。

 

 

 それから数年経って、アリスは踊り子を演じていました。

 そこはカガミ張りの劇場。前後左右だけでなく、天井までカガミ張り。

 アリスの美しい裸体が劇場いっぱいに映し出されています。観客はその美しさにうっとり見とれています。

 アリスは役者と踊り子の二足のわらじを履いていました。役者の顔、踊り子の顔、この二つを演じていました。それぞれが相乗的に高め合い、より味わい深いアリス・ワールドを形作っていました。

 アリスはベッドショーで、天井のカガミに映る自分に向かって、片目をつぶって問いました。

「私はアリス。あなたは誰?」

 カガミは言いました。「私は私。あなたはあなた。」そして「新しいあなたに乾杯!」と付け加えました。

 

                                    おしまい

 

 

この童話は、FC2ブログ「ストリップ童話館」に収録してます。