渋谷道劇の水鳥藍さんの一周年記念に、新作「ボレロ」の観劇レポートを贈ります。

 

 

  H27年4月4日、渋谷道劇にて水鳥藍さんの周年作「ボレロ」を拝見。藍さんの専売特許であるバレエをベースにした演目「ボレロ」は素晴らしい作品に仕上がっていた。

  斬新な衣装で登場。金髪に黒と白の羽根を立てて飾る。緑を基調色にした衣装で、小さな葉の模様が点在しており、更に胸元と袖口に黄色い毛が付いている。スカートは金色で、緑の葉が流れるようにたくさん付着している。上着を脱ぐと、緑の紐に吊るされた黄色い毛皮のブラが現れる。

  オーケストラ演奏のボレロが流れ、客に近い盆の上で曲にのって裸足でバレエを踊る。さすがの出来栄えである。

 

 『ボレロ』は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ音楽。同一のリズムが保持されるなかで2種類のメロディーが繰り返されるという特徴的な構成を有している。こう云うと極めて単調なように思われるが、実際の演奏は非常に豊かな色彩と盛り上がりをみせる。

  私が初めてこの曲に触れたのはクロード・ルルーシュ監督の映画『愛と悲しみのボレロ』だった。ラストで踊るジョルジュ・ドンの踊りは圧巻。この演舞とともに、ボレロの曲調がずっと脳裏に残った。

 ボレロにはもともと次のようなあらすじがある。・・・セビリアのとある酒場。一人の踊り子が、舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。

 映画では、舞台に置かれた赤い円卓の上で、一人のダンサーが何かに憑りつかれたかのように踊り、さらに、その彼に魅入られたかのごとく周りのダンサーが一人、二人と踊り始める。ボレロの音楽と同様に、同じような振付の繰り返しで、微妙に変化していくダンスが、音楽とともに次第に激しさを増し、音楽とダンスが見事に一体化される。

  今回の藍さんの演目も、同じような展開で進んでいく。

 最後に、藍さんは斬新な衣装で登場。股下までの短い豹柄の衣装で、襟元には動物の毛皮、その下に楓の紅葉や木の実が散りばめられている。足には黒い網タイツ。白い椅子に絡んで演ずる。ちなみに、この場面が、全体構成の中でどういう位置づけ・意味になるのか、一回ステージを観ただけではよく理解できなかった。ただ、ボレロのギター演奏が物悲しく流れ、動物も植物も、この世に生きる全てがボレロなんだと訴えているようだ。

 

 今回の作品のクライマックスは最後の最後にあった。それはリング演技。これには度胆を抜かされた。ボレロにリングを組み合わせてくるとは・・・!?

 盆の上に据え付けられたリング、藍さんは軽々とアクロバテックに演ずる。というか軽々と演じているように見える。運動神経の良さが際立っている。

 正直、この演目において、何故ここでリングなのか!?という疑問が生じた。が、繰り返し演目を拝見しているうちに納得してきた。リングもボレロ演奏に溶け込んでいる。「すべてはボレロなんだ! リングも、その前曲の演技も、ボレロの変化形なんだ。」と思えた。

 先ほどの映画『愛と悲しみのボレロ』では、二世代四家族が登場する。1930年代から1960年代にわたり、パリ、ニューヨーク、ベルリン、モスクワを中心に話は展開し、それぞれの家族は散発的に交錯することもあるが全く別々の生活で、正直、内容が分かりにくく、引き込まれるような面白い展開はない。ところがこの四家族がフランスのチャリティ公演でたまたま一同に集結する。そして、ボレロを体感することになる。

 ボレロはそれぞれの家族一人一人の人生である。というか、人生だけでなく、この世の神羅万象全てのものがボレロではないかと思わせられる。日本でいう「もののあわれ」に通じる気がしてきた。そう理解すれば、今回の藍さんの演目「ボレロ」はリングを含め全てがボレロなんだ!と納得できた。

 

 最後に、ひとつ付け加えておく。

 現在のストリップ界では、リングがひとつの流行りになっている。第一人者の浅葱アゲハさん、天羽夏月さんの他、ロックのMIKAさん、藍さんと同じ渋谷道劇の川中理紗子さんがリングを演ずる。少し前の3月末に引退した東洋の木城レナさんも演じていた。同じリングでもそれぞれの個性が光る。アゲハさんの芸術性、天羽さんのパワーとスピード、MIKAさんの直線的な美しさ、川中さんの丸っこい曲線美、木城さんにはかわいい小鳥の止まり木感があった。藍さんの場合は重力を感じさせない身軽さが特徴かな。

  演技が終わり、藍さんが盆の上のリングを外して肩に担いで持ち帰るときに、ずいぶん重そうに感じた。リングの上では藍さんは体重を感じさせないにもかかわらず、逆に藍さんがリングを重そうに担ぐのが愛嬌があって面白い。

  リング等の空中ショーはステージを三次元化する。平面だけの演技に比べスケールの大きさやダイナミックさで優る。藍さんファンの一人が「藍さんは誰よりも平面で上手にダンスができるのだから、空中ショーなんかやらずに、もっとダンスで魅せてほしいな」と話していた。この点は私と意見が異なる。空中ショーに挑戦する藍さんの意欲を高く評価したい。少なくとも今は色んなことに挑戦する時期でもあると感ずる。幅を広げたうえで、これはと思うものを深化させていければいいと思う。ちなみに軽々と演じていたリングも「この日の為に二カ月間ずっと筋肉痛が抜けないまま練習してきました」という苦労話を教えてくれた。

  藍さんは今のストリップに新しい風を起こしている。これからのストリップに変革が起こるのではと期待させる。H27年GWには、同じ道劇メンバーで仲良しの小町れのさんとチーム・ショーをやる。ダンスに卓越した若手二人の組合せが楽しみ。

  とにかく、今の藍さんから目が離せない。

 

 

平成27年4月                          渋谷道頓堀劇場にて 

 

 

童話『鏡の中のアイ』 
                                  ~水鳥藍さん(eyeに改名)の演目「The Mirrors」を記念して~


 アイは「鏡の間」にいた。
 上下前後左右が鏡に覆われていて、自分の姿が映し出されていた。
 そして鏡の中の自分が、アイのことを非難していた。
「もっと化粧を濃くしないと綺麗にならないわよ」と正面の鏡の私が言う。
「もっと痩せなければ美しくなれないわよ」と左側の鏡の私が言う。
 一方、その対称にある右側の鏡の私は「もっと肉付きをよくしないと女性らしいふくよかさは表現できないわよ」と言う。
 いやーっ!!!! アイは思わず両手で耳を覆う。・・・
 アイは目が覚めた。いつからかアイはこんな夢ばかり見るようになった。

 アイは小さい頃からプリマドンナを目指していた。
「ふとるから甘いものを食べちゃダメって言ったでしょ!」
「もっと背筋をピンと伸ばして!」
「もっと笑顔を作るの!」
「明るい顔を作るために口紅はもっと赤い色にしなさい!」
 いつもバレエ団の先生が話していた。

 練習は鏡が相手。鏡は嘘をつかない。ありのままの姿を映した。
 けっして可愛くない、けっしてスタイルがよくない、けっして踊りが上手くない、そんな自分の姿をありのままに晒した。
 アイはそんな姿を見るのが嫌で、より美しく、より華麗に踊れるようにと、来る日も来る日も練習に励んだ。

 いつのころからか、先生が鏡に変わっていた。鏡の中の私が自分に向かって先生と同じことを何度も何度も繰り返し注意する。
 幼くもおとなしい顔つきをしていた私の口紅は赤々と変化し出した。

 鏡の中の私の口元がますます辛辣に自分に向かって言葉を発し続けた。
 私は知らず知らずのうちに鏡の中の自分を必死で追うようになっていった。
 まだ子供だったから逆らう術を知らなかったし、逆らおうとも思わなかった。
 しかし、いつしか先ほどの「鏡の間」の夢を見るようになっていった。

 一人の少年がバレエ団に入ってきた。名前をロミオと言った。
 彼も小さい頃からバレエを習っていて、その素質が認められ、この有名バレエ団にスカウトされたのだった。
 少年は年の近い少女アイに関心を抱く。最初はもちろん可愛い容姿に目が行く。
 しかし、一心不乱に鏡に向かって練習しているアイの姿を見ていて段々に不自然さを感じた。

 彼はアイに近づき、気さくに声をかけた。ところが返事がない。アイは鏡ばかり見ていて彼の言葉が聞こえていなかった。
 ロミオは、アイと鏡の間に割り込み、アイの目をのぞき込んだ。
 彼ははっと思った。
「彼女の目は死んでいる」と感じたのだった。
 ロミオはアイの手をとって優しく微笑んでこう囁いた。
「これからは僕が君の鏡になる。僕の瞳に映った自分の姿を見つめながら踊ったらいいよ」
 彼の瞳はきらきら輝いていた。アイにはそれがとても眩しく感じられた。
 そして彼の言葉に素直に頷いた。

 その日から、練習が楽しくなった。彼の指導は適切だった。なによりも彼はアイの資質を見抜き褒め讃えた。
 彼に褒められると全身が震えた。アイはバレエがこんなに楽しいものだと初めて知った。
 ロミオとアイの二人の息はぴったり合った。相性も良かったのだろう。
 なにより二人は愛し合っていた。

 ある日のこと、二人の評判を聞きつけた人物がバレエ団に現れた。
 彼はフィギュアスケート界の巨匠と呼ばれる人物だった。
 来るべき自国開催のオリンピックで優勝できる資質をもったペアを探していた。
 その候補として二人の名前が挙がっていたのだった。
 彼は一目で、自分が求めていたペアはこの二人だ!と直感した。
 彼は二人を口説いてフィギュアスケート界にスカウトした。

 生まれつき類い希な運動神経をもった二人はめきめきと頭角を現した。
 アイは不思議な気持ちになった。スケートリンクはまるで鏡のようだった。
 たくさんの観客も鏡に見えた。
 あれだけ怖がっていた鏡なのだが、自分の姿を映す鏡がとても心地よかった。
 それはロミオの瞳が優しいから。
 ロミオの瞳に映っている自分を信じていれば何も怖くなかった。まさに鏡が彼女のパワーになっていた。

 オリンピックの檜舞台で二人は金メダルに輝いた。
 完璧な演技が終った瞬間に、感極まってロミオはアイを抱きしめた。
 アイもロミオに軽くキスをした。アイの口紅はもう赤くなかった。
 
                                    おしまい  

 

【おまけ】

この童話は、FC2ブログ「ストリップ童話館」小説投稿サイト「ハーメルン」の「オリジナルなエロ童話」にも収録されています。