踊り子さんは自分の魅力をステージで表現するために日夜踊りの練習に励んでいることと思います。ハイテンポな振り付けにも頑張って取組んでいる人がたくさんいます。
踊り子さんのステージの動きでちょっと気になる点をお話させてください。
最近の若手の中で、MSさんのダンスは見ごたえがあります。ラップ調のダンスでは彼女の右に出る者は今のこの業界にはいないでしょう。ダンスが好きでこの世界に入ってきたというのがよく分かります。
ハイテンポな動きが彼女の特徴であり、オープンまでM字開脚のまま小刻みに腰を振るのが彼女の決めポーズになっています。ところが意に反して、このバイブレーション・オープンだと視点が定まらず、残念ながらよく見えない。彼女はお客に十分にサービスしているつもりでしょうが、見ているお客としてはよく見た気がせず、満足感が残らない。そこには踊り子さんとお客のミスマッチがあって、すごく残念な感じがします。
オープンでお客にじっくり見せようとするなら、動きを一瞬止める必要があります。
音楽でも、ハイテンポなリズムはスローなメロディ(バラード)を引き立てるためにあります。大切なのは動と静のバランスです。うまく踊るということは決して激しく動き回ることではありません。MSさんの最近のステージは、ダンスとベッドで動と静のコントラストをうまく表現しようという試みが感じられます。残るはオープンかな、と思い、お手紙で話したら、すぐに受け入れてくれました。彼女の良さは素直な柔軟性にもあります。
踊り子さんのもつ美しさが引き立つのは、むしろ静かな動きの中にあります。
あえて言いますが、「美しさを表現するのに動きはいらない」と思うことがあります。
本当に美しい人はただそこに立っているだけで美しい。昔から美人を表現するのに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」といいますが、とくに動きそのものを感じさせているわけではなく、これは一瞬の静止画を描写しています。
初めて若松劇場に通い出した当時、最初に気に入った踊り子さんは早見聖子さんでした。彼女のステージは「一服の絵」のように感じました。ゆっくりした動きが彼女のもつ美しさを最大限に引き立てていました。
相沢かれんさんも美人の典型ですが、ベッドのときにお盆の上にうつ伏せになり、顔を少しあげて客席を見回す。盆の動きに合わせて、かれんさんのお顔がじっくりと拝める。そこには動きがなく、ファンとしては「なんて綺麗なんだろう」とひたすら見入ってしまう。ルックスに自信のある方にはこういう見せ方はファンの心をつかむのに効果的。
二人ともベテランであるがゆえ、自分の美しさを引き出すポイントをよく知っているのだと思います。
若手の踊り子さんでは灘ジュンさんの「オルゴール人形」が最高でした。人形のように静止しているからこそ、灘さんの美しさが眩いばかりに引き立っていました。
最近、私は成瀬美穂さんのステージがお気に入りです。白い羽を使った日舞は完成度が高かったし、最近の出し物も四年目を迎えた円熟期を感じずにいられません。全体としてゆっくりと落ち着いた雰囲気を感じます。美穂さんが、ビデオで自分の昔のベッドショーを見ると、ずいぶんバタバタ動いてたなぁと言ってました。つまりそれだけ今のベッドは無駄な動きをなくしているということ。このベッドのゆっくりした動きがこそが「ステージ全体の動と静のバランス」の良さを醸し出しているのだと思います。メリハリが利いた動きの中で、一瞬の静けさが美穂さんの美しさを不動のものにしています。
「忙中閑あり」という言葉がありますね。忙しさの中にも冷静な心を持って対処するというビジネスマンの理想像です。忙しい人ほど多くの仕事が集中し、それをさばいていけるというのは「忙中閑あり」だからです。私の好きな言葉です。
同じように、ストリップも「動中静あり」と云えそうな気がします。激しい動きがあるからこそ静が引き立つというか、いや、静を引き立たせるために動を練習すると云えるのではないでしょうか。
「動中静あり」には、精神的余裕が大切です。余裕がないと、ただバタバタ動いているだけに映ります。余裕をもつためにも練習が必要なのです。
私の個人的な好みから言えば、ステージ全体の一番の盛り上がりはベッドショーであり、ここがしっとりいくと余韻が残ります。まずはひとつの心持ちとして、ゆっくり、ゆったり動くこと、そして見せるところはピシッと止めて見せるということを意識してみてはいかがでしょうか。