こいつは勘違いをしているようだな。「俺が言いたいのは、そう言う事じゃなくてだな」
「なら何です?」
「……いや、いい。もうお前には何も言わんよ……」
「? 変な先輩ですね」
こいつには何を言ったところで無駄だろう。俺は諦めて、肩をすくめるとため息を吐いた。
「あ、そうだ。今度、皆で遊びに行く計画があるんですけど、先輩も来ますか?」
「……皆って誰だよ」
「えっと、私達四人と先輩と会長さんとウコンちゃんですよ」
「……行かない」
「どうしてですか?」
「どうしてもこうしてもない。行くわけないだろ」
「まあまあ、そんなこと言わずに。きっと楽しいと思いますよ」
「だからなんで俺まで行かなきゃいけないんだよ!」
思わず声を上げてしまった。
だが天災は特に気にした様子もなく、平然としている。
「それは私が行きたいからですよ」
「はぁっ?」
「だってせっかく友達になったんだし、もっと仲良くなりたいじゃないですか。それに皆で行った方が絶対に楽しいと思うんですよね」
屈託のない笑顔を見せる後輩を前にして、なぜか胸の奥がズキリとした。
「……お前、バカなのか?」
「はい、よく言われます」
「自覚あるのかよ! というより、お前さっき俺のこと嫌いとか言ってなかったか?」
「はい、言いましたよ」
「……だったら、なんでそういうことを言えるんだよ」
「あれ? おかしいですか? 私は思ったままのことを言っているだけですけど」
「お前な……」
「でも、私の本音ですから。嘘偽りなく、ありのままの気持ちを伝えたつもりです」
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳を見て、俺は理解する。こいつはただ単純に、素直すぎるだけなのだ。そこに裏表なんてものはない。ただ自分の心に従って生きているだけだ。
「……」
「どうしました、先輩?」
「いや、なんでもない……。とりあえず、その件についてはパスさせてもらうわ……」
「分かりました。気が向いたらいつでも来て下さいね」
「ああ……」
そしてこの日を境に、俺の中で何かが変わったような気がした。

* * *
それから二週間ほど経ったある日のことだった。
その日の授業を終え、帰り支度をしていた時のことである。
教室の外が何やら騒がしいことに気づいた。廊下の方を見ると、何やら人集りができていた。
(なんだ?)
気になって、扉の窓から外の様子を窺う。するとそこには一人の女子生徒がいた。
(あの子は確か……)
彼女は以前、俺が校内新聞の取材を受けた時に取材してくれた女の子だ。名前はたしか一ノ瀬(いちのせ)花梨(かおり)さんといったはずだ。
彼女の周りでは男子生徒が群がり、黄色い歓声を上げている。(へぇー、意外と人気者なんだな)
そんな風に思っていると、彼女と目が合った。一瞬ドキッとしたが、すぐに視線を逸らす。だがその時、彼女がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。まさかとは思うが……
恐る恐る振り返ると、やはり彼女だった。
「こんにちは、ダリアくん」
「ど、ども……」
突然の出来事に戸惑いながらもなんとか返事をする。しかしそれ以上言葉が出てこなかった。
「今日はちょっとお話があってきたんだけど……」
「そ、そうなんですか……」
ダメだ。緊張してうまく喋れない。
「えっと……ここでは話しづらいから、場所を変えてもいいかな?」
そう言うと、彼女は少し恥ずかしげな表情を浮かべながら、上目遣いで訊いてきた。
「えっ!?」
その仕草を見た瞬間、心臓が高鳴った。思わず見惚れてしまうほどの可愛さだ。
「あ、やっぱり嫌だよね。ごめんなさい」
俺の反応を拒絶と勘違いしたのか、申し訳なさそうにしている彼女に慌てて答える。
「いっ、いえ、全然大丈夫ですよ!」
「ホント? ありがとう!」
満面の笑みを見せた後、「それじゃあ、行こう!」と言って歩き出した。
「ちょっ、待ってください!」
その後を慌てて追いかけていく。
「ねえ、どこに行くの?」
「ん~、そうだね。あそこなら静かだし、いいかも」
「あそこ?」
「うん。着いてからのお楽しみだよ」
「はぁ」
一体どこに連れて行かれるのだろうか。不安を感じつつも、今は黙ってついていくことにする。
「ここだよ」
「ここは……」
連れてこられた場所は、校舎の裏手にある小さな公園だった。「こんなところがあったんだ」
「ふふん、なかなかの穴場スポットでしょう」
「確かにそうだね。ところで、ここで何をするの?」
「それはね……」
彼女は一度深呼吸をしてから、こちらを向いて言った。
「私と友達になってくれませんか?」
「……はぁ?」
予想もしていなかった展開に頭が追いつかない。今、目の前にいるこの子はなんと言った? 友達になってほしいだと……
「あれ、聞こえなかった?」
「いや、ちゃんと聞こえてるよ。ただ、あまりにも唐突すぎて……」
「あはは、それはごめんね。でも、私は前からずっと思ってたんだよ」
「前から?」
「うん。ダリアくんは私の憧れだから」
「憧れ?」
「だって、君はいつも堂々としていてカッコイイから」
「いやいや、そんなことないよ」
「うぅん、そんなことはあるよ。それに……」
「それに?」
「初めて会った時から、なんとなくだけど君は他の人と違う気がしてたんだ」
「どういう意味だ?」
「上手く言えないけど、ダリアくんには不思議な魅力があると思う」
「……俺には全く自覚がないけどな」
「きっとこれからもっと分かると思うよ」
「……」
正直言ってよく分からない。俺なんかのいったい何に惹かれたというのだろう。ただ、悪い気はしなかった。むしろ嬉しかった。自分を認めてくれたことが。
「それでどう? 私のお願い聞いてくれる?」
再び問われてハッとする。そうだ、まだ答えていないじゃないか。
「もちろん喜んで」
笑顔で返すと、彼女は安心したように息をつく。
「よかった!断られたらどうしようかと思ったよ」
「断るわけないだろ。俺の方こそよろしく」
こうして俺たちは晴れて友人になった。

* * *
それからというもの、俺は彼女と頻繁に話すようになった。
彼女は校内でもトップクラスの美少女として名が知れ渡っており、男女問わず人気が高いらしい。
彼女と話をしているだけで周りからの視線を感じるし、中には嫉妬の眼差しを向けてくる輩もいる。だが不思議と嫌な感じはしない。なぜなら、彼女が俺のことを特別視していないからだ。
「ダリアくん、今日の放課後空いてる?」
「ああ、特に予定はないぞ」
「ほんと!?じゃあさ、一緒に遊びに行ってもいいかな?」
「別に構わないが……どこか行きたい場所でもあるのか?」
「えへへ……実は新しくできたショッピングモールに行きたくてさ」
「なるほど。そういうことなら付き合うよ」
「やったー!ありがとー!」
こんな風に、彼女と過ごす時間は楽しくて仕方がなかった。