(前回までのあらすじ:俺、半沢一樹は別居親。赤ちゃんに転生し、妻、香織と再会、しかし香織は離婚弁護士と連絡を取り、俺は絶望する)
「本当にね、ミナトくんのパパは、評判のイクメンなのにね…」
――なのに…? なになに、及川先生、意味ありげな…
俺は、先に着いていたリカちゃんのそばにゴロンとおかれると、
去っていく及川先生の背中を見つめた。
***
――どうしたの? 何かあった?
気付くと、リカちゃんこと麻子先輩が俺の顔を覗き込んでいた。
――あ、うん、そうそう、とうとう離婚弁護士と電話で話し合い、
〇日に会うことになったようなんだ
俺はまだ、ショックから立ち直れずに、どもりながら話した。
リカちゃんの表情が曇る。
――そう、そうなんだ、進展が早いね…
俺は、俺の世界で経験したことを思い出していた。
俺は、香織がミナトを連れて家を出たあと、絶望のなかで、
いろいろな情報を集め、本を読み、ZOOMで専門家や同じ境遇の人と会い、
立ち直ろうとした。
――麻子さん、日本のね、システムっておかしいんだよ。
夫婦がトラブルだろ、トラブルにもいろんな段階がある、軽いのから重いものまで。それがね、日本だと、すぐに弁護士に行っちゃう。
――離婚弁護士ね…
――そう。日本の家庭裁判所は母親の単独親権を認める傾向が強い、と言うか、よっぽどのことがないと男親の親権は認められない。
だから離婚弁護士は、母親が相談に来れば、たいてい、別居や離婚を勧める。調停や審判で必ず勝てるから。
――そ、そうらしいね…
麻子先輩は言いよどむ
――調停や審判で勝てば、着手金のほかに成功報酬も手に入る…
つまり、そういうことなんだよ。
―― … …
――そこには、夫に取り残された子どもの幸福についての配慮は、なにもない!
夫婦に仲たがいがあっても、子どもには、子どもの幸福が必要だ。
つまり、子どもにはパパもママも必要だという当たり前の環境が。
自分の意思をちゃんと表現できない子どもの幸福を、誰も守ろうとしない。
特に離婚弁護士は。
――子どもの幸福…
――そう、子どもの幸福を、子どもの人権を守ろうとしないのが、
この日本のシステムなんだよ!
俺は、ミナトは涙を流していた。
そうなのだ、弁護士が間に入り、別居してしまうと、別居親と子どもは完全に
断絶される、日本の社会に絶望したのだった。
――私には… わからないわ
――そう、俺もわからなかった。別居してはじめてわかる。
別居親はもちろん、辛い。でも一番、苦しいのは一方の親と引き離される子どもなんだよ!
うぎゃ うぎゃ うぎゃー
とミナトは泣き叫んでいた。
――そう、でも今は、わかる、葛藤が高くなって、いっとき別居するのは仕方ない。本当にDVみたいな精神的な、あるいは肉体的な暴力が、あるケースもあると思う。
それは、本当に女性に辛いことだろう。
でも全部が全部、別居親の全員が子どもと会えなくなるのはおかしい!
園長先生と及川先生が慌ててやってきた。
「ミナトくん どうしたの? さっきまで、ご機嫌だったのに」
「でも、ちょっとクシャミしてましたね」
「じゃ、検温してみて」
俺は、及川先生に抱っこされると、体温計を差し込まれた。
――検温している場合じゃない!
こうしている間にも、香織が離婚への準備を進めているのだ…
(つづく)
※次回#15は 2月28日(土)投稿予定