「危なそう」と「危なさそう」について | ボラとも先生のブログ

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このブログは日本語ボランティアを始めた人、やっている人が疑問に感じたこと(特に文法など)について説明するために作りました。

ボラQ197:学生から「危なそう」と「危なさそう」の違いを聞かれたので、「危なさそう」は「危なそう」の否定形だと答えたら、今度は「危なくなさそう」との違いを聞かれて困ってしまいました。よろしくお願いします。

 

ボラとも先生A197:ボラQ197さんは「危なさそう」は「危なそう」の否定形だと思っているようですが、両方とも「危ない」に「そう」が付いた語形であって、否定形ではありません。

 

「危なそう」の否定形は①A)B)のように2通りの言い方があり、①A)は「危ない」の否定形「危なくない」に「そう」が付いた形で、①B)は「危なそう」全体に否定の「ない」が付いた形になっています。

 

①A)「危なくなさそう」(=「危なくない」+「そう」)

B)「危なそうでは(じゃ)ない」(=「危なそう」+「ない」)

 

問題は、「危ない」に「そう」が付いた形が➁A)B)のように2通りの言い方があることです。

 

➁A)「危なそう」

B)「危なさそう」

 

この「そう」は文法的には≪様態≫と言って、「そのように見える」とか「見た目からたぶんそうらしい」という意味を表し、③のような≪伝聞≫の「そう」とは意味が違います。②の≪様態≫の「そう」は“語幹”に付くのに対して、≪伝聞≫の「そう」は“普通体”に付くことで区別することができます。

 

③A)「危ないそうです。」

B)「危なくないそうです。」

C)「危なかったそうです。」

D)「危なくなかったそうです。」

 

この問題は、以前の記事No.141(「かわいい子なのにかわいそう」について)で説明した「降らない」のような動詞のナイ形に「そう」が付く場合と関係があるようです。

 

No.141では以下のNHKのサイト(NHK放送文化研究所:最近気になる放送用語)の記事、≪「降らなそうだ」?「降らなさそうだ」?≫(2011.02.01)を紹介しました。

 

https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/141.html

 

以下にこの記事の全文を引用しておきます。ただし、2008年10-11月NHK放送文化研究所実施のウェブ調査の結果は省略(興味のある方はNo.141か上記のサイトをご覧ください)。

 

【以下引用

Q:「降りそうだ」を否定の形にした言い方は、「降らなそうだ」と「降らなさそうだ」のどちらが正しいのでしょうか。

 

A:伝統的には、「降りそうにない」という言い方をするか、あるいは「降らなそうだ」のように「さ」の入らない形のほうがふつうだとされてきました。しかし実際には「降らなさそうだ」のほうがふさわしいと考える人も多く、両方とも正しいと考えるのが現状に合っているように思います。

 

解説:「~なそうだ」と「~なさそうだ」のどちらがふさわしい形なのかについては、用法によって異なります。だいたい、次のような傾向があります。

 

⑴「ありなし【存在・非存在】」に関する場合

⇒「(問題は)なさそうだ」のように「さ」が入る

⑵形容詞の否定の場合

⇒「(寒く)なさそうだ」のように「さ」が入る

⑶動詞の否定の場合

⇒「(降ら)なそうだ」のように「さ」が入らない

⑷外見上「ない」の形だが否定の用法ではないもの(「危ない、少ない、汚い」など)

「(あぶ)なそうだ」のように「さ」が入らない

 

ただし、⑶と⑷については以前から「~なさそうだ」の形もある程度併用されていました。

 

「降らなそうだ」と「降らなさそうだ」について、インターネット上でアンケートをしてみました。すると特に西日本を中心として、伝統的な形である「降らなそうだ」よりも「降らなさそうだ」のほうを支持する意見が多く見られました。この結果からみても、動詞の否定の場合に、「~なそうだ」だけでなく「~なさそうだ」を用いてもかまわないように考えられます。

 

なお、「(本が)つまらない」は語源としては「動詞の否定」なのですが、「本がつまる」という言い方はふつうしません。つまり「つまらない」で一語であると考えられ、分類としては⑷に近いものです。この場合、「さ」の入った「つまらなさそうだ」の支持率がかなり下がることも、同じアンケートの結果からわかっています。言い方のふさわしさは語によって異なり、まだまだ問題は尽きな(さ)そうです。

【引用終わり】

 

ボラQ197さんの質問にあった「危なそう」は上記の⑷に含まれています。

 

つまり、「(あぶ)なそうだ」のように「さ」が入らないのがふつうであり、「つまらなさそうだ」の支持率がかなり下がるというアンケートの結果から見れば、「さ」が入った「危なさそう」も使われるとしても、あまり使われていないように考えられます。少なくとも否定形ではないことは確かです。

 

こうしたことから、最初に①で「危なそう」の否定形は①A)B)の2通りの言い方があると書きましたが、実は以下のように、3通りの言い方があることになります。

 

①A)「危なくなさそう」(=「危なくない」+「そう」)

B)「危なそうでは(じゃ)ない」(=「危なそう」+「ない」)

C)「危なさそうでは(じゃ)ない」(=「危なさそう」+「ない」)

 

これを見ると、ボラQ197さんがなぜ「危なさそう」は「危なそう」の否定形だと勘違いしたのかよくわかります。つまり、①A)も①C)も「なさそう」が含まれているために、本当は肯定形である「危なさそう」が、否定形だと勘違いしてしまったのだと思われます。

 

ちなみに、≪様態≫の「そう」には否定形がありますが、≪伝聞≫の「そう」には否定形がないことにもご注意ください。

 

④A)「危ないそうでは(じゃ)ありません。」(×)

B)「危なかったそうでは(じゃ)ありません。」(×)

C)「危なくないそうでは(じゃ)ありません。」(×)

D)「危なくなかったそうでは(じゃ)ありません。」(×)

 

≪伝聞≫の「そう」はそもそも人から聞いたことを伝えるための表現(文型)なのに、それを否定することは人から聞いたというそのこと自体を否定することになり、「人から聞かなかった」という意味になってしまうからです。