ボラQ87:教科書に「電子辞書を持っています。」という例文があったので、私の電子辞書を手に持って見せてあげたのですが、そのあとのほうに「車を持っていますか。」という文が出てきて困ってしまいました。「車」は手で持てないので、この「持っています」は熟語で「所有する」という意味だと説明したのですが、それでよかったのでしょうか。
ボラとも先生A87:「慣用句」として説明してもいいと思います。ただし、正確に言えば、「持つ」の基本的な意味「何かを手に持つ」から派生した意味ということになります。「持つ」には次のような意味があります。
①A)「本を手に持つ。」(保持する)
B)「本を手に持っている。」(保持している)
②A)「自分の家を持つ。」(所有する)
B)「自分の家を持っている。」(所有している)
③A)「この料理はどのくらい持ちますか。」(持続する)
B)「この料理は三日ほど持っています。」(持続している)
④A)「傘を持って行く。」(運ぶ)
B)「傘を持って来る。」(運ぶ)
⑤A)「ここは私が持ちます。」(負担する)
B)「ここは私が持っています。」(×)
①~③の意味の場合は、「持つ」が「保持」、「所有」、「持続」が始まる時点(瞬間)を表すのに対して、「持っている」はその(出来事の結果としての)状態を表します。詳しくは以前の記事(No.85)をご参照ください。
④A)と④B)の違いは「行く」と「来る」の違いと同じです。④A)は話し手から離れる移動で、④B)は話し手に向かう移動を表します。詳しくは以前の記事(No.43とNo.85)をご参照ください。また、「行く」と「来る」に「~ている」を付けると、(主語が移動した)結果の継続を表します。
ちなみに、英語では④A)はtake、④B)はbringを使いますが、日本語では「人」や「犬」のように自分で動くものが目的語になると、「ある」と「いる」の違いと同じように、「持って」ではなく「連れて」を使わなければならないことも知っておくと便利です。
さらに、⑤B)の「負担する」という意味のときは「~ている」を付けられませんが、「担当する」という意味のときは「山田先生はAクラスを持っている。」のように「~ている」を付けることができます。
また、「知る」や「住む」や「結婚する」なども「持つ」と同じようにその動作や出来事が始まる瞬間を表すため、結果としての(継続)状態を表す場合は「知っている」、「住んでいる」、「結婚している」などのようには「~ている」を付けて使います。
⑥A)「いつそれを知りましたか。」
B)「はい、知っています。」
⑦A)「どこに住みたいですか。」
B)「日本に住んでいます。」
⑧A)「いつ結婚しましたか。」
B)「山田先生は結婚しています。」
こうした表現は言語によって違うので、説明が難しい文型です。たとえば、英語では「知る」=get to know、「知っている」=know、「住む」=「住んでいる」=live、「結婚する」=marry (get married to)、「結婚している」=be married となります。また、韓国語では「結婚した」=「結婚している」=결혼했나と言うそうです。
「~ている」には上記以外に「習慣」や職業」を表す働きや「経験」や「繰り返し」を表す働きがありますが、機会があればいつか触れてみたいと思っています。
『はなちゃんがいる風景』p.32