BLUE SKY COMPLEX -7ページ目

BLUE SKY COMPLEX

オンラインゲーム「kingdom of chaos」の住人、STRARFの個人ブログです。何の事かわからない方はお手数をおかけしますがブラウザバックかタブを閉じる事をお奨めします。

「まぁ、誓ったからって何かがすぐに変わるわけじゃないですけどね。」

今日も今日とて相も変わらず。
立入禁止のガッコの屋上を占拠する。
実は持ち込んである私物も多々在る勝手知ったるなんとやらだ。

陶器製の植木鉢に植えられた花が揺れる。
これも実は持ち込んだ私物で、自分が居る時以外は屋上に設置された高置水槽の裏に隠してある。
見回りに来た教師に私物が見つかると面倒な事になるからだ。

そんな訳でガッコ指定のカバンの中、今朝登校前に家のリビングから拝借したクッションを取り出すと枕代わりにして寝転がる。

「はぁー・・・太陽キッツ・・・」

仰向けに寝転がった時、視界に入ってきた太陽が網膜を焼く。
「マジで滅びてくれ太陽・・・」と感情任せの毒を吐き捨てると、合唱部の課題曲の楽譜を開いて太陽を隠す。

「・・・~♪ ♪~♪・・・は星で~・・・♪♪~・・だけ~・・・♪」

音の端を掴めば、あとは心の中で流れるメロディーラインを追えば良い。
何も難しいことじゃない。
個人レッスンの先生が出す課題曲に比べれば簡単過ぎる位だし。

あぁー・・・これもセンセの言ってた「見下してる」ことになっちゃうんだろうか?
私は鍵盤に触れて音を奏でる事が自体が好きだから、簡単な曲だから頑張らない!とかは言わないけど。

むぅ、やっぱり言葉を紡ぐのは音を奏でるよりずっと難しいなぁ。

小さくため息を吐くと、傍に置いてあるレモンフレーバーの炭酸水を手に取る。
しばらく置いていただけなのに、ペットボトルはしっとり汗をかいていて、「もうすっかり夏だなぁ」と実感しながら一口煽る。

頭の中で結露の原理を考えてたら楽しくなってきた・・・けどそろそろ止めよう。
「馬鹿になれ」って言われたばっかだし。

そう言えば前の合唱部の練習の時、ピアノの調律が狂っていた。
最初は「皆で集まって練習を出来る時間も限られているから」と我慢して弾いていたのだけどどうにも気持ち悪い。
私の演奏が多少狂っている分には良い、まだ我慢できる。
だけど、合唱部の皆が狂った調律に釣られて唄うのだ。
そこで我慢の限界だった。

おもむろに演奏を止めると、鍵盤蓋を強く閉じてそのまま無言で帰ってしまった。

この学校で私は所謂「アウトロー」で「不良」と呼ばれる人間だ。
唯でさえ同じ空間に居るだけで怯えさせているのだから、その時の彼女たちのストレスは尋常なモノでは無かったと思う。

申し訳ないなぁ、と思いながらも私がイキナリ話しかければそれだけで驚いてしまうだろう。
私が自ら築いてしまった壁とは言え、どうしたら良いのか。

やめやめ。考えても良い案なんて出る訳がない。
ここで自己解決できるような人間ならそもそもこんな問題起こさないだろうし。

楽譜が風で飛んでったりしないよう、カバンの中に戻す。
ついでにブサイクな目の描かれたアイピローを取り出すと、イヤーウィスパー代わりのヘッドホン(無音)と一緒に装着してもう一度横になる。

考えるとクサクサしちゃうし、さっさと寝よう。
これさえ着けていれば眩しい太陽も敵ではない。

良い具合にふかふかのクッションに頭を預け、闇に身を委ねる。
さっきまで読んでいた楽譜のメロディーラインがもう一度流れ始めた。
それに乗ると自然と口を突いてメロディーが零れる。

「~♪ 私は・・・で~♪ ♪~♪・・るのをやめ♪~・・・」

しっかり歌詞まで頭に入っているのは、合唱部で何度も繰り返し反復練習するせいなんだろうなぁ。
余計な事考えずに寝る寝る!そして音に没入。

「♪~♪・・・祈り~♪ ♪♪~」

「まぁ、スフィランシャ。貴女も本当は一緒に唄いたかったんですの?」

「!!!?!??」

ガバァッ!!と、効果音が付きそうな勢いで起き上がる。
そして毟り取るようにアイピローとヘッドホンを外した私はさぞかし間の抜けた顔をしている事だろう。
まだ微妙にピントの合わない視線の先には、間違いなく姉が居る。
多分、私の反応に驚いて丸い目をしているのだろうな。

「ね、姉様、何でココに・・・?!それにまだ、授業中ですよね?!」

捲し立てるように言う私の唇を人差し指で軽く押さえながら姉は言う。

「はい、その通りなのですが先ずは『静かに』お話しましょうね?先生方に見つかってしまうと二人で𠮟られてしまいますわよ?」

何故か楽しげに微笑んでいる。

「ぁ・・・ご、ごめんなさい姉様・・・って、それはともかく、何で姉様がこんな所に・・・?」

「妾もスフィランシャの先生から屋上のお話だけは聞いていて、実はずっと来てみたかったんですの」

「でも姉様、何も授業中じゃなくても、言ってくだされば私がお昼休みにでも迎えに行きましたのに。」

そこまで言って、姉が拗ねるように口を尖らせているのに気がつく。

「ごめんなさい、姉様。でも、心配だったんです。」

「分かっておりますわ。・・・それにしても本当に良い所ですわね。日差しはありますけれど、良い風が吹いてますわ。」

吹く風に髪をおさえながら微笑んでいる。

「はい。でも姉様、バレたら本当に叱られてしまうので余りここは足を踏み入れては駄目ですよ?」

「まぁ。でもスフィランシャは毎日の様に来て居るのでしょう?」

「た、たしかに来てはいますが姉様、私は出席日数を計算して出なくても大丈夫な時だけ来てるのです。」

「大丈夫ですわ、妾も出席日数はバッチリ足りておりますわよ!」

グッと親指を立てながら自信満々に言う。

駄目だ。何を言ってもこの姉相手では勝ちの目が見えない。
大人しく諦めて(ガッコ内では珍しい)姉と二人だけの時間を楽しもう。

「ここは本当に授業中だと静かですのね。でも、日差しを遮る物が無いですし、次からは日傘が必須ですわね。」

「ありますよ、姉様。あの水槽の裏には、私の私物が隠してるんです。」

「まぁ、それは助かりますわね。 ・・・何があるのか見ても良いかしら?」

「はい、姉様。大したものは無いのですが、どうぞです。」

テテテ、と水槽の裏まで行くと姉は興味深げに出てくるモノに一々反応しながら漁っている。

「ビーチパラソルにビーチチェア。チェアとセットのサイドテーブル?なんだか充実の屋上ライフですわね・・・」

「そのパラソル、ベースに水を入れてあげるだけでしっかり立つので結構便利なんです。
屋上はこの高置水槽が在りますし、ココのバルブを捻ると水には不自由しません。」

言いながら設置して見せると、陽を照り返す白い傘が広がった。
姉はパラソルが作った日陰に向かってチェアを引き摺って来る。

私は苦笑いを浮かべながらチェアを持ち上げ、パラソルの脇に設置してから

「どうぞ姉様、貴女の為の特等席です。」

と、紳士を気取ってエスコートする。

姉は「まぁ」とクスクス笑うと私の手を取って、上品にチェアへ腰をかける。
私も隣のチェアにかけると、日陰で和らいだ日差しに一息吐く。

「ここでお茶会を開けば快適な時間を過ごせそうですわね。」

「ね、姉様、一応立ち入り禁止なので人を呼ぶのは・・・」

私は不穏な事を言う姉に釘を刺しながら、アイピローなんかをカバンへ突っ込む。
姉は屋上の向こうに広がる街並みを静かに眺めていた。

「スフィランシャ、今日はここで何をしておりましたの?」

「お昼寝・・・と、言いたい所ですが、今日は合唱部の次の課題曲を頭に入れていました。
夏休み中の8月頭には大きなコンクールが在りますし、皆で頑張ってます。」

「それは素敵ですわね!妾も絶対応援に行かせてもらいますわね」

「ありがとうございます」と返していると、さっきの悩みがまた頭をよぎってため息が漏れた。

「どうしましたの・・・?」

姉は心配そうな目を向ける。
嘘を吐いても仕方が無い。それに姉の性格を考えるとここで素直に言わない方が後々悩んでしまうだろう。

「実は・・・」と、前の練習の時に起こった出来事を説明する。

最後まで聞き終わると、姉はキッパリとこう言った。

「それは、きちんと事情を説明して謝るしかありませんわ。」

分かってはいた事だけど、胸がズーンと重くなる。

「姉様。よくご存知だとは思いますが、私はガッコでは浮いた存在で、勿論誰かに対して暴力を振るうような事は誓ってしてませんが、不良のイメージが付いてます。
目を合わせてもくれない人は、たくさんいるんです。
そんな私がいきなり謝って事情を説明したとしても、本当に信じてもらえるのでしょうか?
いくら私が言葉で取り繕っても、結局は相手の受け取り方次第ですよね?」

「そうですわね。でも、だからと言って相互理解の努力を怠ってしまっては、すべてそこで終わってしまうでしょう?」

「はい・・・」

「例えば何度も意見がぶつかり合ったとしても、伝えたい意思があるのなら諦めずに伝え続けるべきですわ。
貴女がいくら先回りの後悔をしていても、胸の内で思い続けていたとしても、言葉にして相手にぶつけないなら何時までも伝わらないままですわよ?」

むぅ。確かにその通りだ。
私は伝える努力をしなくても私の事を理解しようとしてくれる人に甘えすぎている。
「伝える努力」かぁ・・・なんだか難しいなぁ。
あ、ダメだ、考える前にまず行動。馬鹿に見られるのを嫌がらない。周りを見下さない。

スローガンにして掲げておこうかと思う程すぐ忘れちゃうんだよね。
気をつけなくちゃいけない。

「それで、そのピアノの調律は先生にお願いしてありますの?」

「はい姉様。合唱部から出てその足ですぐセンセに報告したので、今頃調律は済んでいるはずです。」

「それでは頑張るのですよ、スフィランシャ・・・案外、すんなりと行くかも知れませんしね。」

姉がそう言うと、ちょうど授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

「あら。そろそろ戻らないと心配させてしまいますわね。」

「はい! 姉様、相談に乗ってもらってありがとうでした。」

「これくらいならお安いご用ですわ」と微笑むと、姉は教室に戻って行った。

よし、悩んだり先の事を考えたりする前に先ずは行動だ。
心の中で決意をすると、楽譜を取り出しもう一度音を追いかけ始めた。


放課後。
屋上から出ると合唱部が練習する講堂へと向かう。

あぁ、やっぱり結構緊張しちゃうモノだなぁ。
でも伝えない事には伝わらない! 思ってるだけで伝わり合うなら言葉なんかいらないもんね!
講堂の扉の前で「よし!」と気合を入れる。

中に入ると、私以外の合唱部員は既に集まっていた。

「あ、あの・・・!」と部長に話しかけると「ひゃ、ひゃいっ!?」と上擦った返事が返って来る。
周りの部員たちは何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている・・・様子が見て取れる・・・。
この空気を作ってしまったのが今までの自分の行動の所為なのだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「あ、あの、前回の練習の時の事、ごめんなさいっ!」

深々と頭を下げて伝える。
怒られるのも、罵られるのも覚悟の上だ。

だけど、部長の反応は意外なモノだった。

「あぁ、うん・・・あの時、急にどうしたの?
実はあの後皆で、私達があまりに酷くて怒っちゃったのかな?って話してたの・・・」

あぁ・・・ちゃんと理解してようとしているんだ。
頭を下げた態勢のまま、それが胸に沁みて泣きそうになる。
違う、ちゃんと事情を説明しないとここで私が泣いてしまったら皆が困ってしまう。

「実は・・・」と、一からちゃんと伝わるように説明する。

説明し終えてから「本当にごめんなさい」ともう一度頭を下げて謝った。

暫く部員皆、口を閉ざしていたけど、部長が私の肩に手を置くと

「私達も、気付けなくてごめんね。でも、これからはそういう事が在ったらその時に伝え合おうね。」

と、言った。

そして皆に向かって「よーし!コンクールに向かって練習頑張ろう!」と声を掛けた。


少しは分かり合えた、のかな?
でも、考え過ぎて何も出来ないで居るよりは、絶対に良かった、と、思う。

部長や他の三年生にとっては、最後の大きなコンクールだ。
私の所為で悔いが残るモノにならないように、一生懸命練習しよう。



練習が終わって下校時間。
もうすっかり日が暮れている。
今日の練習は熱が入りすぎたなぁ。

上履きから靴へと履き替えて、校庭に出ると想像以上に真っ暗だ。
「こ、この中を独りで帰るのかぁ・・・」と不安に襲われていると、校門の柱の陰に見知った小さな肩が見える。

猛ダッシュで駆けていく。

「姉様ーーーー!」

私の声に気付いて振り返る姉に、勢い良く抱き付く。

「姉様、ずっとここで待っててくれたんですか?」

「妾も少し前に終わった所なのですわ。それで講堂の前を通りがかったら、まだ練習していらした様子でしたので。」

「うぅぅー!この闇の中を一人で帰るのが結構不安だったのです!良かったです!」

もう一度抱きしめながら云うと、姉は「実は妾もですわ」と微笑んだ。

手を繋いで帰る。
今日あった出来事を、報告したりしながら。
姉は私の言葉に相槌を返して「明日は今日よりもっと楽しくなると良いですわね」と言った。