マイリトルヒーロー本貴田少年物語「イザナギとイザナミ」/ 意識と無意識の制御不能 | 週刊ストーリーランド元作家&アドバイザー 本貴田英工 

 

パウロの後継(完全版): 悲しみの人はルカに問う (BI)読者の感想(ヤマ さん)

「狙撃の技術がない【悲しみの人】は、天才狙撃手の直樹に連続狙撃事件を起こさせながら、爆発物の準備を並行して行っていたんですね。爆発物を準備している伏線があったとは、やられました。一つは、パウロを始末するために、そしてもう一つは、瑠花と実の兄良輔を滅ぼすために、まさか用意されていたとは」

 

 

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「しかし、なんて神々しいいのだろう」筑波山くんは、目を細め、うっとりとした表情になった。「さすが、神様ってだけのことはある」

 

「おっ、どうやら、筑波山くん、知っているみたいだね」僕は、含みを持たせたような言い方をした。「イザナギが男性の始まり、イザナミといったら女性の始まりともいえる神様で、これから二人がどうなるかを見てほしいんだ」

 

イザナギとイザナミは、天浮橋(あめのうきはし)の上に現れたので、いよいよだ。

 

その神秘的な橋の上から、

二人は協力し、大きな矛で、何と、どろどろの大地をかきまぜたではないか。

 

そして、その矛の先からしずくがしたたり落ち、まさか、島になったんだ。

 

二人は、そのオンゴロ島という島に降り立つと、夫婦の契りを結び、早速、国造りにとりかかった。

 

まず、二人は淡路島を生み、四国、九州、ついで本州など様々な島を生んだ。さらに、この土地を守るために、二人は、八百万の神まで生み出した。

 

 

 

本当なら、

イザナギとイザナミによる、国産みと神産みには、とても長い時間がかかるのだろうが、僕らは、それを一瞬の出来事としてとらえることができた。

 

それもまた、想像の力が、時間すら圧縮させてしまうからだ。

 

うん、どうしたんだい? 筑波山くん。何か様子がおかしい。

 

何かが起こる──と思って、

 

僕は慌てて、筑波山くんの頭上に乗ったママを、巨人のキャップを被った僕の頭上へと移動させた。

 

大丈夫だ。ママは気絶した状態で、布団に深く潜ったまま。

 

けど、心配なのは、やっぱり──

 

今更説明するまでもないが、筑波山くんの頭は、二つに割れている。南の方角から見た時、左が男体山、右が女体山と呼ばれているわけだが、左も右も、どこからか飛んできたまぶしい光を、吸い込み始めたのだ。

 

この光源は、イザナギとイザナミのそれぞれの胸の辺りにあって、魂を感じさせるその二つの光が、イザナギからは男体山へ、イザナミからは女体山へと飛来したってことらしい。

 

やがて、筑波山くんのふもとの辺りに、古い家のようなものができた。よく見ると、それは鳥居を伴った神社ということらしい。

 

そうさ、筑波神社だ

 

すると、筑波山くんがさらに、おかしな状況になった。筑波山くんの周りに厚い雲が立ち込め、にわか雨が降り出したのだ。スコールのようなひどい大雨だ。

 

もしかして──

 

筑波山くんは、大粒の涙を流して、わんわん泣き出したんだ。

 

ちょっと、もう収まりがつきそうにないので、また明日ってことで、よろしくね。

 

ただ一つだけ、言っておかないとならないかな。う~ん、そうだね。僕の隠し事について、筑波山くんはやっと理解に至ったから、泣いたってことかもしれない。


さて、今回も最後に、わが著作

「パウロの後継~悲しみの人はルカに問う~」の世界へ入りましょう。

 

 

 

仮に、過去に壮絶な苦しみを受けたとしましょう。

 

そして、それが痛恨のトラウマとなり、PTSDに罹患します。

 

かなり重度の症状ですから、何か忌むべき過去を連想させるものを見ますと、フラッシュバックを起こします。

 

果たして、フラッシュバック状態に入った時、その人に見える世界はどのように変化するのか──その肉体と精神に何が生じるのか──

 

この作品の、大きな課題でもありました。

 

ヒロイン坂本瑠花の実の兄である、滝崎良輔のケースのことを申し上げております。

 

さらに作者としては、本作で、PTSDに苦しむ滝崎良輔に対して、もうひと試練を与えることにしました。

 

これを描くにあたって、作者からすれば、創作の技術レベルにおいて、よりハードルを上げたことになりますし、いえ、それよりも、その本人である良輔にはたまりませんよね。何とも、憐みの心を知らない、ひどい作者です。

 

それで、どんな試練なのかというと、

フラッシュバックを起こしてしまう際、目の前に、恋人の四宮雪絵がいるんですね。

 

そもそも結婚する気が大ありってくらいに旺盛にあって、愛する養父母に、雪絵を紹介する段取りまで整えたわけです。

 

未来は希望に満ちていた──はずでした。

 

もう結婚までまっしぐらの幸福状態であるはずなのに、彼女の前で、精神が破裂するような状態となり、意識が飛びます。

 

この現実世界では、無意識が主導しているような状態で、何やら雪絵と語り合っていますが、この感覚は、水中で泳ぎながら、辺りを見ている感覚に近いかもしれません。

 

そして、これと並行する形で、もう一つの意識下にある自分の方が現実世界から飛び出して、過去のトラウマの世界に入っていきます。

 

いわば、一人でありながら、無意識と意識が分離し、同時に二つの世界を体感するといった具合が、良輔のフラッシュバック状況下で起きているってことでしょうか。


最も起きてほしくないひどい症状が、一番心配させたくない人の前で起こったわけです。

 

あまりに残酷な試練は、何度も良輔の精神を脅かし、恋人の雪絵もまた選択に迫られます。

 

しかも、この後、「悲しみの人」の登場によって、ますます良輔の運命は翻弄されていきます──

 

 

ということで、おしまいです。

 

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

また明日も、ぜひ、よろしくお願いいたします。